ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
約半年間。
長いようで短かったですが、《Violet Knight》本編はこれにて最終回!
応援していただいた皆さん、ありがとうございましたぁ!(まだ終わんないけどね)
場所は《アルヴヘイム・オンライン》の中、
種族が
サラマンダーの領主にはあまりいい顔をされないが、そこはリアルで兄弟だというユージーンが顔を聞かせてくれたり、意外にもサラマンダーでトップランクのカタナ使いのクラインが色々言ってくれたり、定期的に狩りの手伝いをしたりすることで釣り合いをとっている。
そんな場所を俺が今訪れているのは、ある人物を迎えに来たからだ。
俺やキリトさんのような例外を除けば、初ログイン時は、プレイヤーは各々の種族領地の首都からゲームをスタートすることになる。
つまり俺は、今日初めてALOにログインしたサラマンダーを迎えに来た、というわけだ。
ALOは、キャラクターの顔はログイン時に自動生成されてしまうので、俺には目的の人物が誰なのかは分からない。
だから、事前に現実で、『最初の街で大きな剣を持った、紫がかった色の髪の毛のアバターを見つけたら、声をかけてくれ』と伝えてある。
俺はガタンの赤を基調とした道に降り立つと、周囲を見回した。
やはり、俺以外にサラマンダーではないプレイヤーは見当たらない。
「さて……大体この辺で待ってりゃいいかな」
「あの……結城あい…じゃなくて、ヴァイオレットさんですか……?」
SSOにコンバートしていたせいで、久しぶりの――――というか、二日ぶりのALOのヴァイオレットの感触を楽しんでいると、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは当然サラマンダー。
だが、ごつい体格の多いサラマンダーにしては珍しく、線は細く、“繊細”や“華奢”といった雰囲気を感じる。髪型と口調次第では、女性と勘違いしてもおかしくない。
身長は俺よりもやや低い。だいたい、現実の珪子と同じくらいか。目にかからない程度の赤い前髪。後ろ髪は肩まで伸ばし、頭のてっぺんの髪がちょんと立っている。
赤を基調にしたサラマンダー族の初期装備を身にまとった少年は、警戒しつつ、確認を取る。
「も、もしかして、違いました……?」
「あっ、いや、俺がヴァイオレットで正しいよ。君が、
「はいっ。ここでは、《カノン》といいますっ。お会いできて、うれしいですっ」
緊張でガチガチのカノンに、「落ち着いて」と声をかける。
都市はそんなに離れていないし、異常なかしこまりキャラはユウナだけで十分だ。
「行くぞ」と言ってから、カノンを連れて歩きだす。
俺一人ならこの場で跳びあがってもいいのだが、まだALOの飛行に不慣れなカノンにそれを強いるのは酷すぎる。人目のないところで、少し練習してからの方がいいだろう。
何も言わない俺に、カノンが不安げに尋ねてくる。
「あの……本当に、
「ああ、何の問題もねえよ。姿形は違っちゃいるが、絶対に分かる」
特に何か根拠があるわけじゃない。
分かりやすい現実的な理論があるわけでもない。
なのに俺は、問いかけるカノンに対して、絶対的な確信の笑みを見せた。
☆
「えーっと……ユウナちゃん?と、シリカちゃん?は、誰が来るか知ってるの?」
場所はインプ領の首都《コーディア》から、サラマンダー領方面へと山を抜けたところ。
紫の長い髪に黒い瞳。華奢ながら、見た目からは想像もできない力を秘めた肉体。前髪は両サイドに分けているが、てっぺんの髪がちょんと立っている。
インプとしてALOにコンバートしてきた美海――――テトは、その場にいたケット・シーのユウナとシリカと合流し、簡単な飛行の訓練を受けた後で、ここまで飛んできた。
二人とは現実でも仮想でも初対面だったが、シリカの「バカ藍人から話は聞いてるよ」の一言で、二人が藍人の仲間であること、藍人がやはり基本的にバカなのだということを理解した。
「私たちも聞いてないんです。『絶対びっくりする!』とは聞いてるんですけど……」
「まあ、藍人はバカだけど、それでも人を傷つけるようなことはしないから信用していいと思いますよ」
テトの質問に、二人はそう答えた。
本当に二人とも何も知らず、藍人に合流用の目印として利用されているだけのようだが、それでも今の一回の問答で彼がどれだけ信頼されているかはよく分かった。
同時に、羨ましくもなる。
和人だけでなく、この二人からも藍人に対する強い絆を感じる。きっとまだ、彼には多くの仲間がいるのだろう。
それがとても羨ましい。
自分にはどうやっても、手に入らないものだから……。
「ところで、テトさんってあの《五条美海》だっていうの、本当ですか?」
藍人の事を考えながら遠くを見つめていると、不意にシリカがそんなことを口走った。
本当に不意を突かれたので、思わずうんと頷いてから、後悔する。
というか、何故この二人がそんなことを知っているのか。
当然、あのバカが話したからに違いない。
「ち、ちょっと、シリカさん……あんまり根掘り葉掘り聞くなって、藍人さんに釘を刺されてるのに……」
「でも、あのバカがアイドル……しかもみうみうと人知れず関係を持ってたなんて……好きじゃなかったら殺してるレベルだよ!」
「そこまでですか!? 確かに藍人さんはバカだけど!」
詳しい関係は分からないが、確か二人は藍人と彼氏彼女の関係だったはずだ。
それなのに、バカバカ言われる藍人が少し不憫になってきた。
一応彼も釘を刺しておいてはくれたようだが、うわさ好きの乙女にそんなものが無意味であるのは、乙女であるテトが一番よく知っている。
幸い、辺りにはプレイヤーの気配はない。
「えっと……私はもう、引退するつもりだけどね」
「えー!? シングルもアルバムも全部買ってたのに!?」
「い、いや、シリカさん、色々あったんですし、それもしょうがないでしょう!?」
どうにも本気で号泣しかけているシリカを見て、思わずテトは苦笑いする。
アイドルをやめるつもり、という言葉に嘘はない。
厳密には、既に「やめたい」という意思は事務所には伝えてあるので、まだ公式に発表されていないだけにすぎない。
それでも、マネージャーが連続殺人事件に加担していたことはキッチリ世間に公表され、メディアでも美海のアイドル引退は時間の問題と報道されていた。
それでいい。
どうせ、もう限界だったのだから、ちょうどいい機会と思っておけばいいのだ。
気に食わないのは、小太りのおっさんが1970年代のアイドルと美海を比較して「可愛くない」「媚売り精神丸出し」と避難していたことか。
こっちは生活つなぐためにやってんだ媚売んのは当たり前だろテメェに言われたくねえバカヤローとテレビの前で叫んでしまったのは、今思いだせば恥ずかしいことこの上ない。
「むー……さすがにあたしじゃみうみうの引退は止められないし……」
「さすがにシリカさんにそんなアイドル業界を揺るがす能力はないですよ。……本当にないですよね?」
ユウナに羽交い絞めにされたシリカは、非常に悔しそうに呟く。その横では、よもやシリカが美海のファンを率いてデモでも起こすんじゃないかと顔をひきつらせているユウナ。
藍人は、こんなに賑やかで、魅力的な人たちに囲まれている。それが羨ましくて、テトはたまらなくなった。
同時に、ただ羨むだけでは駄目だとも思う。
ただ羨み、遠くから見つめるだけで終わっていたのは、過去の自分。
これからの自分は、自分から自分の味方を作っていかなければならない。
「あの…さ、アイドルはやめちゃうけど、普通に女の子同士の友達って、なれないかな……」
「え……?」
テトの言葉にシリカが固まり、ユウナが目を丸くする。
テトも、内心はバクバク。ここでもし二人に「嫌だ」などと言われようものなら、例え藍人がプロポーズしてこようとも一生幸せな気分にはなれないと断言できる。
けれど、二人の反応は、立ちあがったテトを突き崩す類のものではなかった。
どころか、テトの今までの人生の中でも、最高と呼んでいいほどの。
「も、勿論です! 全然!」
「し、シリカさん落ち着いて……えっと、私もこれからよろしくお願いしますね、テトさん」
ユウナはテトに向かって手を差し出した。
シリカはガッツポーズをしながら天に向かって「アイドルと友達アイドルと友達アイドルと友達」と連呼している。
二人の行動が何を意味するか理解した途端、テトは両目から大粒の涙をこぼしていた。
「て、テトさん!?」
「え? わ! ど、どうしたの!?」
それによって、二人が一気に動揺する。
自分たちの立ち振る舞いに何か原因があったのか。何しろ相手は今までが
「う……ううん、大丈夫。ただ、ただね……友達が出来たのって、初めてだったから……!」
火事にあった。
両親を失った。
弟を失った。
アイドルになった。
そして、信じていた人に裏切られた。
少なくとも、今までの彼女には、友達を作って遊ぶ余裕などなかったのだ。
それが今、やっと、同年代の同性の友達ができた。
それが、嬉しくてたまらないのだ。
「大丈夫ですよ! テトさんなら、きっともっとたくさんの友達を作れますよ!」
なきじゃくるテトに、ユウナがそう言う。
そう。この世界は繋がっている。
まだ、テトの知らない場所がたくさんある。
まだ、テトの知らないことがたくさんある。
まだ、テトの知らない人がたくさんいる。
それを探す過程で、きっとテトはたくさんの友達を、たくさんの仲間を作れるだろう。
「うん……うん、ありがとう、二人とも……」
「ほらほら、泣くのもやめにしてさ、ね?」
シリカがテトに、そう声をかけ、サラマンダー領の方角を指差した。
「藍人も来たみたいだし、さ?」
「あ、ほんとですね。一緒にいるのが合わせたい人なのかな……?」
シリカの指差す方向には、インプとサラマンダーがいた。
インプは背中に大剣を背負っていたが、サラマンダーは初期装備だった。
見たこともない顔だったが、テトには――――美海にはそれが誰なのか、一瞬で分かった。
「ゆ、優太……?」
テトは思わず、未だ火事のせいで眠り続けている
☆
「ゆ、優太……?」
俺達の姿がテト達の視界に入る頃、テトは確かにそう呟いていた。
そしてまた、カノンも同様に呟いていた。
「ね、姉ちゃん……?」
「な、分かるって言ったろ?」
俺達が地上に降り立つと同時に、カノンはテトのところへ、テトはカノンのところへ駆けだす。
カノンはここに来るまでにコントローラを用いて飛行していたが、それを放り投げていた。
二人はお互いの体手の届くところまで来ると、今までの空白を埋めるかのようにお互いを強く抱きしめた。
「優太……優太なんだよね……!!」
「姉ちゃんだ……本当に姉ちゃんだ……!!」
お互いの存在を、お互いのぬくもりを、自分の全てで確かめ合う姉弟は、見ていて微笑ましかった。
失われた――――そう思われていたテトの弟は、こうしてようやく会うことができた。
二人は、ようやく唯一の家族に会うことができた。
払った
「あの、藍人さん、全然状況が分からないんですけど……」
「そもそも、あのサラマンダーは誰なの?」
テトと一緒にいたユウナとシリカが、こちらにやってくる。
そう言えば、この二人にも何も話していなかったな。
「ああ、アイツは、昔火事にあってずっと意識を失っていたテトの弟だよ」
「お、弟……?」
シリカがよくわからないというふうに首をかしげる。まあ、当然の反応だな。
とりあえず満足したのであろう、まだお互いに抱きあったままで、五条姉弟が顔をこちらに向けた。
「藍人くん、だよね……一体どうして優太が……?」
「俺も詳しい話は知らないよ。《メディキュボイド》って言ってな、意識と言うか、自己はあるんだが、身体的障害などの理由で身体が動かせない奴をVRワールドで生活させるっつー機械を使った」
「結城さんと、あと偉い役人の人が来てくれて、僕の意識と会話してたんだよ、姉ちゃん!」
アミュスフィアは、意識さえあれば仮に体が動かなくても使うことができる。
それを、目覚めない患者に使って、VRワールドで家族や友人とコミュニケーションさせるというのが《メディキュボイド》の役割……らしい。
俺はあくまでこの場をセッティングしただけで、そう言う技術面の話にはあまり参加していなかったから、詳しい話は良く分からない。
「優太……! 優太……!!」
「うわ…姉ちゃん、ちょっと、恥ずかしいよ……」
今さらだろ、と突っ込もうかと思ったが、野暮ってもんだろう。
二人は何年という長い時間を経て、ようやく会えたのだ。ああはいうものの、カノンの顔だってめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「今はまだ、
俺はカノンを指差して、そう言った。
そんな日は、きっと来るだろう。
おそらくは、十年もしないくらいに――――。
「そう言えば藍人さん、どうしてそんな凄いものが用意できたんですか?」
「ん? ま、嫌な奴に借りを作っただけだよ」
「借り?」
「そ、借り」
首をかしげるユウナとシリカだったが、それでいい。
そこから先は、俺の問題だからな。
もう一度お互いを抱きしめあった姉弟は、今度は身体を離して、二人で俺の方を向いた。
「藍人くん……本当に、本当にありがとう……!! 私、凄い君に助けられてて……きっと君がいなかったら、今頃絶望するだけして死んでたから……!!」
「僕も……結城さん、本当に、姉ちゃんと会わせてくれてありがとうございました!!」
二人はそう言って、深くお辞儀をした。
身体の角度はほぼ90度。ここまで綺麗な姿勢のお辞儀は、見たことがないくらいだ。
だが、そんな素晴らしいお辞儀だからこそ、逆に俺の方がたじろいでしまった。
俺は特に何もしていないのだから、そこまでやられると、何というか、何というのだ。
「べ、別に俺は何もしてないよ。今そうやって二人が一緒にいられるのは、カノンが今まで頑張ってきたからだし、テトが今までカノンを支えてきたからだろ」
「あ、照れてるー」
「あ、照れてますー」
「うっせ!」
茶化してくる二人に怒鳴り返す。
まったく、人がカッコつけているのだから黙っていればいいのに。
「でもマジで、俺は何もしてないよ。今回のそれは、お前らが今まで頑張ってきたことに対する御褒美だって」
今まで人生、無駄じゃなかったろと、そう付け加える。
テトの努力は、頑張りは、想いは、何も無駄なんかじゃなかった、と。
「藍人くん……大ッッッ好きッ!!」
「う、うわっ!? ちょ!?」
「「!!?」」
感極まったテトが飛び上がり、俺にダイビングハグを繰り出してきた。
それはユウナとシリカにとっては看過できないものだったらしく、かなり怒った状態でまくしたてる。
そんな喧噪のなかで、俺は笑っていた。
だって、こんなに楽しい思いは、中々出来るものじゃなかったから……。
☆
横浜北港総合病院。
日本で唯一、《メディキュボイド》の臨床実験をしている病院。
そこから美海の弟のためにと無理をいい、たった一台余っていたメディキュボイドを移動させたのだ。
時刻は夜9時半過ぎ。
面会の受け付けはとっくに終わり、入院患者も寝静まった頃。
その少年は、ガラスの向こうで眠る仲間の弟を見つめていた。
「……やあ、藍人くん。やっぱりここだったね」
「……まあな」
やってきた白衣の男に、少年は答えた。
ガラスの向こうの少年と、その姉のため。
そのために、自分はここに来たのだから。
「さて、それじゃあ君のお願いは聞いたし、今度は僕……
「分かってるよ。……アンタ達の、仲間になればいいんだろ?」
少年――――結城藍人は、白衣の男、菊岡誠二郎に言った。
菊岡は不敵に微笑むと、静かにうなずく。
「その通りだよ、君はキリト君とは別の意味で有望な人材だ。ぜひとも僕らの計画に加わってほしくてね」
「その計画は……テトたちの笑顔と引き換えにするだけの価値があるんだな?」
「ああ。
そう言うと、菊岡は藍人に向かって、一つのパスケースを投げた。
それを藍人が、きっちりキャッチする。
「……これは?」
「僕らの、いわばアジトへの入場証だ」
間を置き、菊岡誠二郎はつづけた。
「ようこそラースへ、結城藍人くん。僕らは君を歓迎するよ」
と言うわけで、これにて《Violet Knight》の本編は終了です!
つまりまだ短編はやるということですだって本編じゃねーし。
あんまり主にSSO編以降の登場で出番の少ないオリキャラ達をたくさん書けたらいいなーとか思ってます。
アリシゼーション編は、一応、本当に一応やるつもりでいます。
原作次第ですけど、でもそのつもりがあるから最後の藍人と菊岡の描写があるわけですし。
せっかくキリトが予期せずしてアンダーワールドに行ってるので、逆に藍人には故意に行ってもらおうかなと。
あとはここいらで真ヒロインが誰なのかをはっきりさせてやるぜと豪語する幼女もとい少女とか?
どーせ何もできやしねえよ……人は、無力だよ……
まあつまり、アリシゼーションはやってもいいかなと言うわけです。
設定に無理を感じなくもないですが、割とユージオ好きなので。
藍人とユージオがコミュニケーションしてくれたらうれしい。
では、皆さん、次回もよろしくお願いします!