ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
2か月ぶりくらいに投稿ですかね。色々あったなぁ……WS参戦とかPSP発売とか。
べべ別に遊んでなんかなかったけどね!?
第1話 宮田咲月の日常 ①
これは、結城藍人が《スペルストリーム・オンライン》にコンバートし、宿敵との対決に臨む少し前のお話。
宮田咲月と、その《友達》の、平凡でありふれた、日常のお話。
☆
「あ、優奈ちゃーん!」
日曜の駅前。
社会人はともかくとして、学生共通の休日である今日は、平日以上に込み合うのが街というものである。
遠くに数少ない友達を見つけ、人目も気にせず手を振る宮田咲月も、そんな学生のうちの一人だ。
ベージュのセーターに長めの薄いピンクのスカートという服装で、スカートの端が少し乱れているが本人はそれに気づいていない。
「ち、ちょっと……声大きいよ」
咲月に気付いて、恥ずかしそうに顔を伏せながら近寄ってくる少女。名は星川優奈。
彼女は中学一年の間だけ、咲月と同じ学校の同じクラスに在籍していた。本来なら3年間何処にも転校することなくその中学に通い続けるはずだったのだが、1年ほど前に起きた《SAO事件》に巻き込まれたことが原因で、実際に登校出来たのはたった一日だけだった。現在は、SAO事件の被害者である学生を集めた学校の中等部に通っている。
二人の馴れ初めは、優奈が登校したその一日だった。
咲月は当時、いかにもお嬢様系の女子生徒にいじめられていた。ある程度の権力(と言っても、所詮は中学1年生のコミュニティの中だけの話だが)を持ったその女子には誰も意見できず、その日も当たり前のように咲月はいじめられていた。
唯一それまでと違ったのが、優奈の存在だったのだ。
優奈はSAO時代に鍛え上げられたソードスキル――――の物真似を定規で再現し、見事いじめっ子を追っ払ったのである。
その姿は、自分の世界に閉じこもることでしか逃げることの出来なかった咲月に大きな影響を与え、以降二人はこうして、時々ふたりきりで出かけているのである。
「えっと……今日はどうするんだっけ?」
「えー、優奈ちゃんが彼氏さんを紹介したいって言ったのに」
言いだしっぺでありながら完全に目的をロストしている優奈に咲月が突っ込む。優奈がこうしてボケるのは、「どんくさつき」というかつての不名誉な称号から連想される彼女の「ドジっ子」スキルを目立たなくさせるためなのだが、その配慮を知っているのは世界で優奈ただ一人だ。
待ち合わせ場所はここから電車で二つ隣の駅の前にある、最近有名なスイーツ店。
優奈は咲月のスカートの乱れを指摘してから、ロリでドジっ子とか藍人の好みド真ん中だやべぇと、今更ながらに少し後悔した。
☆
「ねぇ、財布」
「………よーし、冷静になろうか」
俺は人の名前を勝手に勘違いして間違える無礼な奴を目の前にして、自らに言い聞かせるように言った。
俺は断じて財布じゃない。
俺がこの場の代金を持っているのは、あくまで俺の善意であって珪子が後でALOのセクシーキャット装備を身につけてくれるとかそんなやましい理由は断じてない。
「あ、あれ優奈ちゃんじゃない? さあ財布、優奈ちゃんとそのお友達の分のスイーツ買ってきなさい」
「アミュスフィアが展開するバーチャル映像じゃ明らかに割に合ってねえ!!」
☆
「……珪子さん、それはちょっと酷いんじゃあ」
「いいよ、気にすんなって。その代わり、そこの女王様には後できっちり支払って貰うからさ」
「私だけって酷くない!?」
不機嫌そうに言う少年に、ツインテールの少女が反論する。
話を聞く限り、少年を財布扱いした少女に火があると思う咲月だが、何かを言って始まるわけでもないので黙っておく。
代金云々の話は、全て自分の負担でいいと少年が言ったことで、とりあえず決着した。
面倒な問題が片付いたところで、優奈が咲月に二人を紹介する。
「咲月ちゃん、この人が私の彼氏で、結城藍人さん。今は高校一年生」
「よろしく、宮田さん」
そう言って、咲月の目の前に座っている少年――――結城藍人は手を出した。
咲月も少し怯えながら、手を出して握手を交わす。
ジーンズに赤と黒のパーカー。前を開けたパーカーの下の黒いシャツには《I am knight》の文字がプリントされている。
首から下げた青のヘッドフォンと合わせても、現代の若者らしい服装だった。
「それで、こっちが綾野珪子さん。藍人さんと同じ、高校一年生だよ」
「よろしくね、咲月ちゃん」
藍人と同じように手を差し出してくる珪子と、咲月は特に怯えることもなく握手をかわす。
そこには同性だったり、藍人と違って明るい色の服装だったり、笑顔が優しそうだったりと言う理由があるのだが、藍人もそこは分かっているようで特に不機嫌そうにすることもなかった。
優奈に二人を紹介してもらったところで、今度は咲月の番だ。
「え、えっと、宮田咲月って言います……。優奈ちゃんと同じ中二で、えっと、えっと……」
えっとえっとを連呼する咲月は、すぐに頭から煙を出してショートする。
藍人と珪子が「落ち着いて」と咲月を諭し、優奈は新たに発覚した咲月の人見知りスキルに額に手を当ててしまう。
☆
「ねえ、藍人さん」
「ん、どした優奈?」
「あの、ドジっ子趣味のロリコンさん」
「俺お前らに恨まれるような事なんかした!?」
☆
とりあえず咲月たちが向かったのは、ゲームセンターだった。
この辺りにはあるゲームセンターでは最大級の規模を誇り、流行りのタイトルやプリクラ、クレーンゲームは勿論、ストリー○ファイ○ーが全シリーズ揃っていたり、イン○ーダーゲームがあったりするびっくり施設だ。レトゲー主義の藍人は、休みの日にここに来ると約3割の確率で会えるらしい。
「宮田さんは、何かゲームってやる?」
「えっと、アミュスフィアは持ってるんですけど、こういうところは来ないです」
「んじゃ、クレーンゲームとかそういう系の方が楽しいかな」
そう言うと、藍人は咲月をクレーンゲームやUFOキャッチャーのあるコーナーへと案内する。
ちなみに優奈と珪子は飲み物の調達に向かっている。
それも藍人がやるつもりでいたのだが、流石にさっきのスイーツ店で二千円近い金額を藍人に使わせているので、これ以上やるのはどうかと思ったようで、二人とも自分から行くと言っていた。
藍人としては、金云々よりもあまりお互いをよく知らない年下の女の子と二人きりになりたくなくて行きたいと言ったのだが。
「……結城さんは……きゃっ」
休日のゲーセンは、駅前以上に込み合う。
そのせいで、咲月は目の前を歩いていたガラの悪い男にぶつかってしまい、何かを言いかけるも言葉を切らざるを得なくなる。
「……あ?」
「ひっ……」
咲月はもともと、人見知りの上に臆病で怖がりだ。
それに加えて相手のガラが悪いとくれば、一歩後ずさってしまうのは仕方のないことだ。
運が悪かったのは、彼女がここの常連の《ルール》を知らなかったことと、男の方が負けっぱなしで苛立っていたことか。
「おい、お前、この俺にぶつかっといて逃げるとかあり得なくねェ?」
「え……ご、ごめんなさい……」
「ゴメンで済みゃあサツいらねェだろうがよォ!!」
大声で怒鳴られ、咲月は思わず目を閉じる。
周囲の人間は、遠巻きに二人を眺めながら、咲月を可哀そうなものを見る目で見つめるが、誰も助けに入ろうとはしない。
ただ一人を、除いては。
「オイコラ、何とか言えや!!」
「何とか」
あまりに唐突なボケに、男が一気に毒気を抜かれる。
声を発したのは、藍人だった。だが、言葉とは裏腹にその表情はあまり愉快そうなものではない。
「げっ……結城、さん……」
「悪いな、この子は今日初めてここに来たんだ。まだ《ルール》の事も知らないんだよ」
言いながら、藍人は咲月の肩に手を置いた。咲月が藍人の連れであることの証明だ。
その明確な証を見せつけられて、男が一歩後ずさる。
「分かるだろ? ぶつかったのは素直に謝るけど、俺達の上下関係はルールを知ってる奴同士でしか成立しない。『この俺』とか、勘違いされるようなことは言わない方がいいぞ」
「……はい、すいませんでした」
藍人が止めと言わんばかりに凄むと、男は一気に元気をなくし、とぼとぼと歩いて行った。
怖い目に合ったばかりだが、咲月はその姿に少し同情した。
「……ごめんな、ちゃんと説明しておけばよかった」
「あ、そ、そんなことないです。助けてくれてありがとうございました。それよりも、《ルール》って……?」
「ああ、ここの常連連中の間の上下関係だよ。より優秀な成績を残せる奴が、下の奴よりも偉いって言う。ま、実際喧嘩の仲裁くらいにしか使えないし、トップに逆らえば一生ここに出入りできなくなるどころか、周辺のゲーセン行けなくなるってのもあるんだけど」
話を聞く限り、とても平穏な内容ではなかった。
では、その話の通りなら、藍人のランクはあの男よりも高いということになるのだが……
「結城さんって、ゲーム強いんですか?」
「ん、まぁ……今の序列しっかり覚えてないけど、確かナンバースリーくらいだった気がすんなぁ……」
「ナンバースリーって……第三位……?」
うわこの人凄い!と素直に驚嘆する咲月。
それほどの腕前なら、《ルール》にのっとれば、この場所で彼に逆らえるのは二人しかいないことになる。
人は見かけによらないとは、このことか。
「ま、純粋に遊びに来てる奴には当てはまらないルールだから、宮田さんは気にしなくていいよ」
「は、はい、分かりました」
頷いて、先を行く藍人について行く。
この後、優奈と珪子と合流するのに苦労した時は、藍人が本物のバカだと実感した。