ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
番外編のネタ何にしようかなーと迷いながら本編を読み返していると、番外編もといスピンオフにもってこいな少女がいた。
「え、私の存在って、所詮番外編止まり……?」
スピンオフにもってこいの少女――――――――宮田咲月
「バカ」
「………」
「バカです」
「………」
「えっと、その……一応、バカ……?」
「うるさいよ! もう分かったよ俺が悪かったですよ畜生!! 宮田さんもノんなくていいからね!?」
ゲーセンでの合流に苦労したのを全て俺の責任にして(実際にそうなのだが)奴らはケーキバイキングを迫ってきた。
勿論、それもこれも、全てはこのあたりの施設に詳しい俺が悪い。いや、悪くはないけれども。
最近、俺と優奈たちの関係性が、彼氏彼女じゃなくて保護者と被保護者の関係になっている気がする。
「あ、あの、すいません……。また御馳走になっちゃって……」
「気にしなくていいよ。2人に奢るも3人に奢るも一緒さ……」
もっと言えば、3人分も4人分も一緒なのだが、だからと言って俺はケーキバイキングに自腹で参加するほど甘いモノ好きではない。菊岡の奢りなら死ぬほど食うんだけど。
「つーか、お前らこんな時間からそれだけ食って、まだ家で夕飯食べるのか? もう4時近いぞ」
携帯を取り出し、時刻を確認する。言った通り、俺が自作したアイコン(ALOでの俺のアバターを模している)は3時52分を告げている。
週一であのギガ盛りチャーシュー麺を食べる俺が言うことでもないが、あの小さい体のどこにそんな大質量が入るんだか……。
「それはあれだよ、ケーキは別腹!」
「黙ってろ大食い猫。それを言うなら甘いものだし、そもそも別腹は食後に使う言葉だ」
聞いておいてなんだが、答えに興味はないので膨れる珪子を黙らせる。
ちなみに別腹は本当にあるらしい。甘いものに限らず、美味しい物を見ると《オレキシン》なる物質が脳から分泌され、消化が早くなるらしい。すると、食べ物を食べるために胃にスペースが空くとか。甘いもの二特にその傾向が強いのは、高カロリーで栄養価が高いことを本能的に察知しているかららしい。
どうでもいい別腹談は放っておくとして、甘いものに頬を緩ませている優奈に目をやる。カワイイな畜生。
「で、これからどうすんだ? 言っちゃなんだがこの辺りはあのゲーセン以外には、あんまり一般人向けの場所なんてないぞ?」
コアな御趣味をお持ちの方向けの施設なら吐いて捨てるほどあるがな。
別にこの前偶然見つけたロリメイド喫茶になど興味はない。マジで。
「えっとですね、一応何処に行くかは決まってるんですけど、この後解散です」
「あっそ……ゴメン、もっかい言って?」
「解散です」
「………一度解散して、またどっかで集まるのか? けど俺、いい加減親を黙らせて出てくるの面倒なんだけど」
よく使っていた部屋から抜け出す手口は、庭が落とし穴だらけになっているのであまり得策ではない。
最近は玄関から堂々と抜け出しているが、あらかじめ録音しておいた破壊音であのババアを騙すのもせいぜい2、3回が限度(つまりもう使えない)。
さて、今度はどう抜け出したものか……。
「あたし、最近よく藍人の家から兵器でも作ってるんじゃないかって音を聞くんだけど」
「……帰りたくねぇ」
いやいや、平和大国ニッポンの一般住宅で何してんの、あのババア?
「まあ、そっち関連は我が家周辺が吹っ飛ばないうちに何とかしておくから……で、何だっけ? 解散してから?」
「ALOで集合ってことです」
「……ごめん、つかぬ事を聞くんだけど、もしかして宮田さんってALOのユーザー?」
「はっ、はいっ」
「あー……それで解散ね」
ALOで再集合となれば、全員一度帰宅して自室のアミュスフィアを被る必要がある。それならば解散も頷ける。
面倒なのは我が家の夕食は原則七時ルールだが、その時間だけ落ちれればまあ大丈夫だろう。
「それじゃ、解散してユグドラシルシティ集合……あ、宮田さん来れる?」
「はいっ、大丈夫です」
「んじゃ、そういうことで……何してんだ?」
宮田さんもユグシティまで来られるレベルのようなので立ち上がり、さっさと帰ろうとすると、アホ二人がまたケーキを取ってきた。
……解散つったろ。
「だって、食べれるだけ食べた方がお得じゃないですか」
「節約、大事!」
「払うのどーせ俺だけどな」
コイツラマジで一回シメたろか。
☆
一度家に帰って、そこから女の子たちにはダイブ前にやることがあるらしい(男である俺でも、軽くシャワーを浴びたり、水分補給をする必要がある)ので、午後五時にユグドラシルシティの北端テラスに集合になった。
マップを開いて現在位置を確認する。今いるのはユグシティの南端だが、東西南北の端に位置するテラスには、他のテラスに移動するためのポートがあるので問題ない。
いつもとは違い、せっかく宮田さんがいるのだから、たまには俺もお洒落をしてみるべきだろうか。
「とは言ったものの、そんなに装飾アイテムの類なんて持ってないんだけどな……」
敵の行う属性攻撃に合わせて変更できるよう、鎧アイテムは数種類持っているが、逆にいえばそれだけ。
武器は基本的にリズベット作の《フィジカルブレイカー》で十分。藍色だとかそういうこだわりポイントこそないものの、敵のガードモーションを吹き飛ばしてなおダメージを通す威力と重さがあるので武器としては非常に優秀だ。
特にこれと言ってお洒落する要素が見当たらなかったので、結局いつもどおりの装備で待ち合わせ場所へと出向いた。
何も変えるものがないのだから、何も変えないのは至極当たり前のことだ。
なのに。
「………藍人、せっかくいつもとは違う人がいるのに、何かしら変えてこようとは思わないんだ……」
「え、ちょ、俺それで殴られたの!?」
時間までは余裕があったのだが、俺が行った時には既に俺以外の全員が集まっている状態だった。
あまり待たせるのも悪いと思い、駆け足で近づいたらいい感じにシリカに顔面パンチを貰った。
「つーか、俺がそういうことしたら、色目使ってるとか何とか言ってキレるだろ、お前」
「キレるよ?」
「理不尽すぎるッッッ!!」
俺への理不尽なお仕置きをコントと受け取ったのか、向こうで宮田さん(と思われるアバター)がこみ上げてくる笑いをかみ殺していた。そこまでするならいっそ笑ってほしい。
立ち上がり、追撃を試みるシリカを避けてから、一本背負いで黙らせる。あれ、俺ってシリカのこと好きじゃなかったっけ……?
「えーっと、大丈夫ですか……?」
「うん、まぁ。パラメータでそこのやんちゃ猫に後れを取るなんてことしてないし、さっきの一本背負いも本気じゃないから二重の意味で大丈夫」
「そ、そうなんですか……」
若干引き気味の宮田さんだった。
まあ、むしろ引かれない方がおかしいような登場だったけど。
「えっと、ここでは《レイン》っていいます。種族は
「俺はヴァイオレット。種族はインプだ。よろしくな」
リアル通りというか想像通りというか、小柄なアバターだった。
オレンジを基調にしたゆったりとした服は戦闘職よりも
体装備については興味がないせいであまり調べてないが、服もおそらくレアアイテムか高スキル保持の鍛治によるプレイヤーメイド。腰に巻いているポーチは、収納可能アイテム数でトップランクのものだ。
なるほど、どうやらそこそこどころか、かなり腕の立つプレイヤーらしい。
「あ、あの、何ですか……?」
む。どうやら装備観察のために、じろじろ見すぎたかもしれない。また少し身を引かれた。
「いや、あんまりゲームやるイメージなかったし、装備のランク高いなーと思ってさ」
「そ、そうですか?」
まるで自分の描いた絵を褒められた子供のように、ぱっと明るくなるレイン。俺の後ろで腰をさすりながら、一本背負いのダメージ判定から抜け出してようやく立ち上がったシリカに比べると、彼女の方がよっぽど可愛く見えてくるのは何故だ……?
「で、ユウナ。これからどこ行くんだ? このメンツなら、大抵のクエはこなせると思うが」
「えーっとですね、折角なんでこの前見つけた隠しイベントでもやろうかと」
隠しイベント?と俺が首をかしげると、ユウナは元気いっぱいに頷いた。
キリトさんからも姉さんからも、勿論ユウナからもそんな話は聞いたことがない。シリカも同様に首をかしげている。
……ということは、ユウナとレインの二人でALOにダイブしている時にでも見つけたんだろう。
「そのクエがですね、パーティーメンバーが4人で、なおかつ3種族の構成って制限があるんです」
「……なるほど。
「はい」
頷くユウナ。
そこまで厳しく発生条件が絞られている場合、特に人数制限があると、場合によっては苦戦確実(こっちのレベルが高いので何とも言えないが)なイベントは実は多い。
たとえばヨツンヘイムに行くためには、かつて俺達が助けたトンキーというモンスターの力を借りる必要がある。ただし、トンキーに乗って移動できるのは7人までなので、大型邪神級モンスターばかりが沸いて出るヨツンヘイムに最大で7人でしか行けないということになる。
トンキーと同じように邪神級モンスターを擬似的にテイムする方法もあるが、何度か試したにもかかわらず、同じようなイベントは起きなかったことを考えると現実的ではない。
そう考えると、ノリで行くにはキツくなる可能性もあるが……
「まぁ、何とかなるか」
というのが俺の結論だった。
レインの詳しいステータスは知らないが、こっちにはSAO時代のステータスを引き継いだ猛者が3人いる。
いざという時の脱出方法として転移結晶(この前のアップデートで導入された。超便利)もある。瞬間
「ヴァイオさんが大丈夫なら、はやく行きましょう!」
「そうですよ! 私たちが最初にクリアするんですっ」
そう言って俺達をせかすと、ユウナとレインはすぐに飛びあがってアインクラッドめがけて飛んでいく。
シリカと目を合わせると、俺達もそれに続く。
目を合わせたのは、純粋に驚いたからだ。
ユウナの――――優奈の過去を知っている俺達は、SAO生還者の通う学校に彼女と同じ年齢の子が少ないこともあって、少し心配をしていた。
俺達――――現在高校生の年齢であの学校に通っているものはかなり多いが、中等部には人が少ない。
つまり、友達の作りようがない。
上手い下手に関わらず、火のないところに煙が立たないように、人のいないところで友達は作れない。
完全に0ではなくても、優奈が普通に友達を作って、俺たち以外とも遊ぶようになれるためには、ちょっと不都合な環境だったのだ。
それが、前の学校のクラスメイトとこうして遊んでいる。
そんな他愛もない、ちょっとした事に子供が何か凄いことをした時の保護者のような感情を抱いてしまう。
「ねぇ、藍人、嬉しいんでしょ」
「な……っ!? ば、バカ言え、何か嬉しいことなんてあったかよ」
「ア、テレテルー」
「超棒読みじゃねーか!」
しししと笑うシリカをはねのけ、さっさと先に行く。
照れているわけじゃない。
ただ、自分の殻に閉じこもるだけだった優奈がああやって変わっていくのが、すこし嬉しいだけだ。
……本当に照れてねーぞ!?