ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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島夢さん感想ありがとうございました!

番外編第三話。
舞台はやっとこさ仮想世界。


第3話 宮田咲月の日常 ③

 レプラコーン領を出て少し南下した辺りにある中立域の森に、おばあさんと幼い女の子が二人で暮らしている家があるという。俺が幼い女の子に反応したと思った奴、首を洗って待っていろ。

 そこはもともと、SAO時代にもあった《森の秘薬》クエと似たようなクエが発生する場所だったのだが、《パーティーメンバーが4人で、なおかつ3種族の構成》という特殊条件を満たしている場合に限り、話の続きが出てくるのだ。

 その家に住む二人は当然レプラコーンだ。『昔の家族は4種族6人、仲良く暮らしていた』というおばあさんの台詞から、4人3種族が成立するらしい。文面から読み取るに、レプラコーンはノーカンで、しかも事前にクエをこなしておく必要がありそうだが。

 ユウナとレインが発見した新たな隠しイベントの概要はこうだ。

 前回行ったクエで手に入れた薬では、おばあさんは体調こそ良くなったものの、全快とまでは言えなかった。そこで、さらに効果の強い薬を探してきてほしいという、よくある派生イベントだ。

 ALOユーザーがかなり多いのにもかかわらず、なぜこれがイベント――――というか、派生クエであることが今まで知られてなかったのかはすぐに分かった。

 薬の在りかとして提示されたのはアインクラッドの19層――――つまりこのクエ、この前のアップデートで導入されたばかりの、出来立てほやほやクエスト。

 そりゃ、誰も知らなくても不思議じゃねえよな。

 

 「しっかし、アインクラッドとはねぇ……19層って何があったんだっけ?」

 

 「めぼしいダンジョンは特に……今はもう23層まで開いてますし、19層は大体狩りつくされてるんじゃないですか?」

 

 「やっぱ?」

 

 「やっぱ」

 

 目を合わせて、頷き合う俺とユウナ。

 フロアボスも弱ければ、稼げるモンスターもいなかった層なんて、まあ誰も覚えちゃいないだろうけど。

 幸い、おばあさんも女の子も話を端的に分かりやすくまとめてくれるので、開始にこぎつけるまでの時間はそうかからなかった。

 今からなら、アインクラッドまで飛んでダンジョンに籠っても相当余裕がある。

 

 「しかしまぁ、《森の秘薬》クエとよく似てるよな、これ」

 

 「そうですね。虐殺(スローター)系な辺りが特に」

 

 《森の秘薬》のクエストは、ある程度レベルが上がってからも(大量のリトルネペント狩りと報酬のアニールブレードによって、かなりのコルを稼げたため)何度か挑戦した記憶がある。大量に出現するリトルネペントは、第1層では比較的珍しい《隠蔽(ハイディング)》スキルが通用しない敵だったのも覚えている。

 

 「あの……《ソードアート・オンライン》って……確か、ゲームオーバーが現実の死と同じってゲームですよね……」

 

 唐突に、レインが口を開いた。

 元SAOプレイヤーでもある俺達3人は立ち止まって、互いに顔を見合わせる。

 

 「ご、ごめんなさい。二人がなんか、楽しそうにSAOの話をしてたので……」

 

 「ああ……」

 

 要はレインが言いたいことは、こうだった。

 俺達がナーヴギアやSAOによって、アインクラッドに幽閉されていた約2年間。

 それだけの時間を奪われ、ゲームの中で築いた絆を失った者さえもいる。

 そんな物を、何で思い出話に出来るのか、と。

 普通なら決別したい過去だし、触れられたくない過去だろう。

 けれど。

 

 「失ったものもあったけど、手に入れた物もあったしな」

 

 俺は殆ど反射的に、そう呟いていた。

 SAOに奪われた時間は、特に姉さんみたいな人にとっては、そのまま人生バッドエンド直結だったかもしれない。コアゲーマーだった俺からすると、あまり関係ないような気もしたが……。

 けれど、姉さんがキリトさんと出会えたように。俺がユウナやシリカと出会えたように。

 失うばかりではなかったのだ。

 俺だけの話をすれば、きっと、失ったものよりも得た物の方が多い。

 だから、その程度には、旧アインクラッドと、そして茅場晶彦に感謝さえしているところもある。

 

 「俺がユウナやシリカと出会えたのはどう考えたってSAOのお陰だし、SAOという存在がVRゲームに大きな影響を与えたのも事実だしな」

 

 「私も……ヴァイオさんやシリカさんと会ってなかったら、きっと、昔のままだったと思うし」

 

 「辛かったりしたこともあったけど、その分だけ大切なものも手に入ったから」

 

 だから、俺達はあの2年間を後悔なんてしていない。

 現実では失われた時間であっても、アインクラッドで俺達は確かに、生きていたのだから。

 

 「……いいな、それ。ちょっと羨ましいです」

 

 「? 何がだ?」

 

 「私も、そういう風に言い合える、大切な人を見つけられたらなって……」

 

 「だから、何言ってるんだよ?」

 

 俺が言い返すと、レインは訳が分からないという風に首をかしげた。

 

 「レインにはユウナがいんだろ? ユウナとは、そこまで仲良いわけじゃないのか?」

 

 俺が当たり前のように言うと、レインとユウナは互いに見つめあった後、同時にぷっと吹き出した。

 何故だろう。俺がとんでもなくカッコ悪い気がする。

 

 「……シリカ、俺ヘンな事言った?」

 

 「藍人が変なのはいつものことだし……」

 

 「うるさいな。あんまり言うと泣いちゃうぞコノヤロー」

 

 別に泣かないけどね。え、いや、これ心の汗だし? 俺男の子だもん。強いもん。泣かないよ? ばっ、泣いてねーし!

 

 「ぷっくくく……あ、えっと、元気出してヴァイオさん、ほら笑ってないから!!」

 

 「いーよもう……カッコいいこと言っても結局カッコつかないヴァイオさんだもん……ぐすん」

 

 「わ、笑ってないですって、ほら、ヴァイオレットさブフォッッッ!!」

 

 「笑ってるよね!? 盛大に『ブフォッッッ!!』って噴き出してたよね!?」

 

 本当のこと言うとちょっとだけ頬を涙が伝ってたんだけど、シリカがピナに語りかけながら明後日の方向を向いているせいでツッコミが追いつかないので、仕方なく突っ込むことに。いや、笑われて悔しいなんて思ってませんよ?

 というか、レインが噴き出したことで完全にストッパーが外れたのか、既に二人とも大声で笑いながら転げまわっている。

 ………超うぜぇー……

 

 「………?」

 

 いい加減にこの二人ぶった切って帰ろうかと思ったその時、視界の端に《索敵》スキルの上位派生(ボーナス)スキル《予感》の警告ウィンドウが表示された。

 《予感》は《索敵》と併用するスキルで、主に魔法による不意打ちを警告してくれるスキルだ。つまり、《予感》が発動したということは――――

 

 「………!! ユウナ、レイン!!」

 

 緑、赤、青の三色の光が、転げまわっていた二人に直撃する。

 二人はまだ何がなんだかよく分かっていないようだが、既に意識が戦闘モードに切り替わっているシリカが回復魔法で減少した二人のHPを回復する。

 この密林の中で魔法を放ってきたということは、完全に向こうはこっちに位置を把握しているうえに、狩る気満々と言うことだ。

 後者はともかく、前者は俺達にとって圧倒的なディスアドバンテージ。おそらくは高位のサーチタイプの魔法が使われているはずだが、その魔法を撃破しつつ撤退するのが一番消耗なく終わらせることができる方法……だが。

 

 「ユウナ、レイン、下がれ! 多分向こうは2,3種類のサーチャーを使ってる。迎え撃つぞ!!」

 

 叫ぶと同時に、索敵スキルを使用。

 熟練度MAXの索敵スキルは、壁の向こうの人数さえも把握する。密林に隠れる程度では、俺の索敵スキルを誤魔化すことは出来ない。

 

 「………シリカ、そっちに二人、多分ウンディーネだ!」

 

 「了解!!」

 

 俺の指示を受けて、シリカが素早く詠唱を開始。

 ケット・シーは、シルフやサラマンダーと違って、専売特許と言えるような属性魔法はない。

 しいて言えば。

 

 「ケット・シーの闇魔法は、結構恐ろしいんだよな」

 

 かつてケット・シーの領主、アリシャが使っていた闇魔法を思い出し、身震いする。

 シリカの放った黒球も、あれほどではないが、相当高威力のものだ。

 潜んでいた二人を撃破したかどうかは気にしない。必要なのは撃破ではなく、こちらに相手を迎え撃つだけの準備と戦力があるということを明確に示すことだ。

 

 「(さっきの攻撃魔法……属性は風に炎に水だった。単純に考えれば、最低まだあと二人はいるんだよな)」

 

 「ヴァイオさん、後ろから攻撃、来ます!」

 

 索敵を使いつつ考えていると、ユウナが叫んだ。

 ほぼ同時に俺は振り向き、目の前に迫っていた火球を引き抜いた大剣で受け止める。

 

 「……そっちか!」

 

 シリカはまだ次の魔法を詠唱中だし、ユウナやレインは支援魔法(バフ)で忙しい。

 ここは俺が距離を詰めて直に叩く!!

 

 「ラァアアアアアッッ!!」

 

 瞬時に加速し、火球の飛んできた方向へと飛び出す。

 おそらくはさっきの火球を出した張本人であるサラマンダーがすぐに視界に飛び込んできた。

 いきなり距離を零まで詰められるとは思ってなかったのだろう、完全に動けていない。

 

 「ひっ……!」

 

 「くたばれや」

 

 繰り出すは俺が考案したオリジナルソードスキル《インフィニティペイン》7連撃。

 結構なランクの防具を装備していたようだが、きっちり7撃でHP全てを削り取られ、サラマンダーはリメインライトと化した。

 

 「最低あと一人……」

 

 不意に俺が呟くと、後方で誰かの悲鳴が聞こえた。

 誰かはまでは判別がつかないが、おそらくは、ユウナかシリカかレインの誰か。

 

 「――――――――!?」

 

 飛びだすと同時に索敵スキルを使用。

 3人は固まっているが、その周囲にプレイヤー反応が……12……!?

 少し開けた所で、ユウナ達3人は囲まれていた。

 シルフだとか、サラマンダーの他に、ウンディーネやノーム、インプもいる。

 そして、ソイツらを従わせている、ムカつく顔のシルフは――――

 アイツは――――

 

 「お前はッ……!!」

 

 「よう、インプ。あの時は世話になったな」

 

 かつて、自分の領主と仲間を裏切って、敵対していた種族に寝返った男。

 シルフの領主サクヤがパワー思考と称していた男。

 自分の目論見が全て行くと過信して、領主の椅子でふんぞり返っていたところを俺とキリトさんにいいように邪魔された男。

 

 「お前は……シグルド……!!」

 

 シグルド。

 《レネゲイド》として中立域を彷徨うほかに道を失くしたはずの男が、俺の目の前にいた。

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