ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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島夢さん、デウスエクスさん、感想ありがとうございました!

さて、いよいよ真の最終回……。

初回投稿が8月直前なので、約9カ月ですかね……長いようで短い……。
気がつけば文章量もそこそこに。びっくり。

アリシ編に関して僕がほとんど乗り気じゃなくなってる今、藍人のバカっぷりもこれで見納め……いや読み納め。

それでは最終回、どぞう!


第5話 宮田咲月の日常 ⑤

 斬!!という音とともに、ヴァイオレットの顔のすぐ横を、長刀が通り過ぎた。

 

 「……ッ!!」

 

 危機感を抱いたヴァイオレットはすぐに間合いを取ろうとするが、かなり飛行速度を誇るヴァイオレットにシグルドはぴったりと張り付いてくる。

 そもそも、ちょっと考えれば気が付けることだった。

 前回、いともあっさりとシグルドの野望を打ち砕いてしまったが為に気が付けなかった盲点。

 

 「(流石は実質的にシルフを仕切っていただけあって、強い……!!)」

 

 シグルドがサラマンダーと共謀して領主暗殺を目論むような輩だったとしても、それでシグルドが弱いと証明できるわけではない。

 むしろその逆、この場でヴァイオレットとまともに相対出来るだけの実力があるからこそ、サラマンダー側に寝返ることができたのだ。

 

 「わざわざ俺の得意な一対一に持ち込んでくれるとは好都合!! この《斬魔の長刀》の錆にしてくれる!」

 

 「んなモンになってたまるか……ッ!!」

 

 振り下ろされてくる剣の軌道は、今のヴァイオレットの体勢では避けることは出来ない。

 が、それはヴァイオレットにとって、決してマイナスではない。

 かつてSAOで剣を取っていた頃なら、回避不可の攻撃など日常茶飯事なのだから。

 

 「直線軌道の斬撃なんざ弾い(パリィし)ちまえば……!」

 

 《フィジカルブレイカー》を強引に持ち上げ、シグルドが振るう《斬魔の長刀》に衝突させる。

 名前からもわかるように、シグルドの武器は曲刀スキルのの派生カテゴリ《カタナ》だ。主にスピード主体のステータスに用いる武器であるのに対し、ヴァイオレットの《フィジカルブレイカー》は完全なパワー型。仮に両者の筋力パラメータが同程度だった場合、弾かれるのは間違いなくシグルドの方である。

 もしも、剣同士をぶつけることができればの話だが。

 

 「がぁ……っ!?」

 

 ヴァイオレットの弾き防御(パリィ)が成功するというその直前、《斬魔の長刀》は透過し、的確にヴァイオレットの胸部を斬りつけた。

 それは、かつてシグルドの策謀によって剣を交えることとなった剣士の――――

 

 「エセリアルシフト……!?」

 

 「まぁ、ユージーンと戦ったことがあるなら知ってるか。あれ、別にグラムの専売特許じゃないんだぜ? レプラコーンが鍛治スキルと派生スキルの《開花》、《豪化》をマスターしていれば、武器強化で付加できる」

 

 もっとも、必要な素材アイテムはSS級ばかりだけどな、とシグルドは付け足した。

 その話を聞いている最中も、ヴァイオレットはエセリアルシフトの攻略法を思い出す。

 

 「(そもそも弾き防御(パリィ)からのカウンターが主体の俺にとって、天敵と言える相手なんだけどな……ベストは奴の間合いに入らず遠距離からの攻撃だが……)」

 

 自分で意見を出しながら、それは即座に却下された。

 相手の飛行速度は自分と同等かそれ以上。自分よりも速い相手に遠距離戦を仕掛けたところで、間合いを詰められて終わりである。

 エセリアルシフトを相手にする時の攻略法として、最も的確かつ最も簡単なのは――――

 

 「――――ひたすら攻め続ける事ッ!!」

 

 ゲームであれば、どんなものだろうとすぐにコツをつかめるだけの技量のあるヴァイオレットにとって、ALOにおける随意飛行も障害にはならない。

 加速減速旋回飛行、なんでもござれなのだ。

 それはつまり、加速と同時に攻撃を仕掛け、そのまま一周して背後からさらに追撃を仕掛けるという、武器による高速戦闘も可能ということだ。

 

 「ラアアアアアアア!!」

 

 咆哮と同時に斬りかかる。

 エセリアルシフトは防御時には関係がないので、シグルドは素直に回避行動をとる。直線攻撃は回避すればいい、というのは、シグルドも、そしてヴァイオレットも良く分かっていることだ。

 だから、ヴァイオレットは追撃することを前提に戦略を組んだ。

 もっとも、シグルドはさっきよりも更に速い速度で突っ込んできたヴァイオレットが、まさか追撃してくるだなんて想像もしていないが。

 

 「そのまま逃げるつもりか……!?」

 

 「んなワケあるかバーカ」

 

 悪意100%でヴァイオレットが、その言い放った直後だった。

 シグルドのすぐ隣で地響きさえ起こせそうなほどの大爆発があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、爆音が響いた。

 乱戦において、弓を使うレインは直接的な戦力として数えるには少し物足りない。が、弓を使わずとも、ALOには《体術》スキルが存在する。

 ユウナにシリカ、《体術》を使うレイン、それからピナで、戦力は実質4人分。

 ハイランカーとは言え、5人を相手にするには(ユウナとシリカからすれば)十分すぎる。

 

 「(確かに無茶って言えば無茶ですけど……)」

 

 「(あのバカの無茶なんていつものこと!)」

 

 二人の放つソードスキル《ショートシギル》が三人目の体を貫く。

 シリカとユウナが二人で一人を相手にすれば、撃破にかかる時間はそう長くない。その間にレインとピナが二人死角から狙う敵を抑えているのだ。

 その場の流れで完成したパーティとは言え、コンビネーション力は申し分ない。

 

 「あと二人……」

 

 「あの人たちって、シグルドって人の側近っぽかった人たちですよね。多分強いんだろうなぁ……」

 

 「二人とも凄い……! みんな倒しちゃった……!」

 

 雰囲気をブチ壊すレインの素直な反応に気が抜けるユウナとシリカだったが、気を引き締めて短剣を構え直す。

 敵は、両手斧と巨剣という、明らかなパワーファイター装備のサラマンダーが二人。

 

 「おい、とっとと片づけてボスんとこ行かないと、後で何言われるか分からないぞ」

 

 「だけど、敵を見逃してきましたって言っても何か言われるだろ……」

 

 意外と切実そうにため息をつく敵を交互に見ながら、シリカはユウナに小声で話しかける。

 

 「さっきの爆発……多分、藍人が使ったんだよね」

 

 「ですよね…。じゃあ、私たちも?」

 

 「まだやったことないけど、経験者的にどう?」

 

 「姐御とならいける気がしますっ」

 

 姐御……?と首をかしげるシリカだったが、どうせ藍人の病が移っただけなので無視した。

 構え直した短剣を敵に向ける。

 

 「3、2、1、GO!」

 

 叫ぶと同時にスタートダッシュを切るユウナとシリカ。

 ピナはシリカを敵の死角からサポートするために上空に跳び上がるが、それ以外の三人――――敵の二人とレインは、突然の出来事に硬直する。

 経験者的に――――つまりは、かつてはユウナだけが使えた、そして今はケット・シーの限定能力(リミットスキル)となった――――

 

 「「《デュアル・サーキュラー》!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あんたも知ってんだろ。前回の大規模アップデートで導入された限定能力(リミットスキル)ぐらい」

 

 「……たしか、種族ごとに使えるスキルの種類が違うんだったか」

 

 知ってんなら話が早い、とヴァイオレットは唇の端を釣り上げる。

 限定能力(リミットスキル)とは、シグルドが言った通り、種族ごとによって異なる、その種族だけが使えるスキルの事。

 そして、そのスキルの系統は種族によって全く異なるのだ。

 

 シルフは速度と飛行時間の補正が得られる《神速》。

 サラマンダーは筋力とクリティカル率の補正効果を得られる《剛力》。

 ウンディーネは水・回復魔法の補正効果の《純化》。

 ノームは強力な万能ソードスキル《ランドクエイク》。

 プーカは味方の回避・命中を上昇、敵の同ステータスを低下させる《マジカルダンス》

 レプラコーンはドロップ率強化とトレジャーボックスの中身を良くする自動スキル《発掘》。

 スプリガンは全属性を持ち、全バステを付加させるソードスキル《スターアサシン》。

 ケット・シーがかつてユウナが保有していたユニークスキルでもある《協力技》。

 

 「そして、この俺、インプが持つ限定能力(リミットスキル)が、《浮爆蟲》だ。」

 

 浮爆蟲。

 その名前の通り、ふわふわと宙を移動しながら術者の指示したタイミングで爆発する蟲。

 

 「く……忘れていたな。確かにそんなものもあったが……」

 

 「詠唱はしなくてもショートカットアイコンで行けるし、何よりコイツは《隠蔽(ハイディング)》を使えば姿を隠せるのが強みだ」

 

 だからこそ、ヴァイオレットはこの話をすることができるのだ。

 より高度な《索敵》スキルを用いらなければ、ヴァイオレットの《隠蔽(ハイディング)》は看破できない。

 

 「気をつけろよ? いつお前の頭が吹き飛ぶか分からないぞ?」 

 

 もしかしたら、今この瞬間、シグルドの後ろに浮爆蟲がいるかもしれない。

 その事実を理解したシグルドは、歯噛みすると同時にその場から上昇しようとする。

 が、

 

 「がぁ…あああああああああ!?」

 

 顔面を爆風が直撃する。痛みはなくとも、炸裂する閃光は確実にシグルドの動きを封じる。

 何とか別の方向へ逃げようとするも、今度は腹のあたりで爆発。衝撃を受けて飛ばされれば、その先で更に爆発。

 

 「(コイツ……今までどれだけ蟲を配置していたんだ……!? 今までのおしゃべりも、その気配を感じさせない為の……!?)」

 

 あまりの手際の良さに戦慄する。

 シグルドは前回の騒動で、実際にヴァイオレットの戦いをみたわけではないし、SAO時代の彼を知っているわけでもない。

 そして、敗因を挙げるとすれば、それしかない。

 

 「誰に喧嘩売ったのか分かってんだろうな。……後悔して爆ぜ果てろ」

 

 「(これが……《藍色の騎士》……!!)」

 

 藍人の真黒な笑顔を見て何かを叫ぼうとしたシグルドは、その時にはすでにリメインライトと化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃー皆さん解散ということでー……」

 

 「「「異議なーし……」」」

 

 俺の力ない声が、ケット・シー領のしがないNPCカフェに響く。

 シグルド一味の妨害を突破し、クエストフラグがリセットされる前にさっさとクエストを終わらせてしまおうと、俺達は最初の目的地であるアインクラッド第19層の未踏破ダンジョンに挑んだ。

 このクエストにつながる前回のクエストがスローター系だったので、今回も同系統の面倒くさいこと極まりないパターンだと思っていた俺達は、正直テンションだだ下がりだった。

 クエストボスである、巨竜をみるまでは。

 

 「それにしても、何だったんだあれは……」

 

 「なんか今更なんですけど、私たち良く勝てましたね……」

 

 テーブルに突っ伏した俺に、同じようにテーブルに突っ伏したユウナが応える。

 第19層は、アインクラッドの中で言えば下層も下層、まだ全然序盤なのだ。SAO時代でも印象に残るような場所ではなく、それゆえにそんなキツイものでもないだろうと鷹をくくっていた。

 が、実際にはそんなことは全然なかったのだ。

 そこに用意されていた巨竜は、俺を視界に納めると同時に太い前足(というかほぼ腕)で圧殺を狙ってきた。

 突然の事態ではあったものの、俺がユウナ、シリカとスイッチしつつ、レインが援護射撃&補助魔法(バフ)という陣形を取れたのは不幸中の幸いだろう。

 問題だったのは、敵が多用していたブレス攻撃が、レンジが広すぎてこっちのメンバーが居場所に関係なくダメージを喰らっていたことだ。

 途中で俺とレインが死亡し、リメインライトとなった時はもう終わったかと思った……。

 

 「あたし、本気で死ぬかと思った……」

 

 「私もです……」

 

 シリカとレインもテーブルに突っ伏し、己の見分の狭さに絶望していた。世界にはあんなのもいるのか……と。

 最終的には、プーカであるレインが只管に《マジカルダンス》でこっちの命中回避を上げつつ、シリカとユウナが《協力技》ででかいソードスキルをバンバン叩きこみ、憎悪値(ヘイト)の関係で巨竜が二人に気を取られているうちに俺が頭や背中を狙って《浮爆蟲》をどんどん爆発させるという、限定能力(リミットスキル)総攻撃になった。

 MPはほとんど底をつき、POTローテで一度にMPポーションを4,5本ほど一気飲みする始末。HPMP両ポーションを合わせて被害額はざっと7万ユルド程。巨竜が1500000ユルドと言う大金を残して逝かなければ、大変な赤字だった。

 目立ったアイテムも落とさず、クエストの報酬は数個の転移結晶と回廊結晶、僅かなユルドのみ。一番の収穫がボスが落とす金と経験値ってのは、クエストとしてどうなんだ……?

 

 「まあ、俺達のレベルまで来ると1レべ上げるだけでも時間がかかるからな。レベルアップのファンファーレ連続で聞いたの久しぶりだったぜ……」

 

 「それだけは本当に嬉しかったですけどね」

 

 「単純に時間だけなら、凄い短縮だったとは思うけど」

 

 「もうやりたくない……」

 

 全員の言いたいことを代弁して、レインが再びテーブルに突っ伏した。どうやらあの巨竜は、HP、MPに続く第三のパラメータ、《メンタルポイント》を根こそぎ削って逝ったようだ。……あれ、これもMPだ。

 

 「……うわ、もうこんな時間。ごめん、あたしそろそろ落ちないと」

 

 「あ、私も落ちます、シリカさん。じゃ、お疲れさまでした」

 

 メニューウィンドウの時計を見て、シリカとユウナが立ち上がり、2回の宿屋に続く階段を上っていく。

 なんとこのカフェは2回に宿屋を併設しており、そのまま即時ログアウトができる優れカフェなのだ! ……何処も大体そうだけどね。

 

 「おつかれー……っと、俺ももう落ちっかな。真面目に疲れたし……」

 

 「あはは……」

 

 思わず天を……というか、天井を仰ぐ俺にレインが苦笑いする。

 あの激戦で疲れない方が異常なのは、十分承知と言うことだ。

 

 「あの……ヴァイオレットさん、今日は一日、ありがとうございました」

 

 「いや、気にしなくていいよ。こっちこそありがとな、優奈と仲良くしてくれて」

 

 え……? と気の抜ける声を漏らすレインに俺は続ける。

 

 「知らないかもしれないけどさ、アイツもっと小さい頃に色々あって、ついこの前も大分キツくてさ……余裕なかったんだよ。だから、君が傍にいてくれたおかげで、相当楽だったと思うんだ。ホント、ありがとな」

 

 「えっと……そんな、大したことないですよ。私も、優奈ちゃんに助けられたんですから……」

 

 「あ、やっぱ? アイツお節介でお人好しだからなー」

 

 そうかもしれないですね、とレインは笑う。優奈からそれを抜くと、ただの畏まっただけの人間になってしまうわけだから、それでいいんだけど。

 それよりも、そろそろいい加減に現実に戻らないとうちのクソババアが核でもぶっ放しそうだ。会話も増えていい傾向だねと姉さんに言われはしたけれど、改善のベクトルをかなりの規模で間違えている気がするのは気のせいだろうか。

 

 「もう遅いし、レインも早く落ちた方がいいぜ。俺が言えることでもないけど、家族ってのは大事にするモンらしいしな」

 

 「はい、私ももうログアウトします」

 

 「んじゃ、お先」

 

 レインに軽く手を振ってから、階段を上り落ちるためにベッドに横になる。

 さて、どうやってあのババアの戦略兵器を処理しようか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お人好しなのは、貴方もですよ……藍人さん」

 

 そう言って、俺に笑いかけてくれる少女がいてくれることを、俺は知らない。




今まで、ありがとうございました!!



……って、まだ死なないよ!?
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