ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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第9話 違うこころ ⑥

 シンカーは確かに俺に行った。お前は何者なのかと。

 

 「君がまだ隠している情報があるなら、是非教えてもらいたい。それはきっと、これからの攻略に役立つだろう」

 

 「……………」

 

 俺は何も言わない。

 別に、俺が手に入れていた情報を提供すること自体は何の問題もない。それ自体には。

 ただし、俺がべらべらとしゃべることで、ベータテスターでもないこの俺が、ベータテスターさえも知らないような情報を持っているという、不自然極まりない状況が出来上がってしまう。ニュービーとベータテスターの溝が今でも深いように、俺もベータテスターと同じような立ち位置になれば、今後の攻略にだって支障が出る。MMORPG――――特に、このSAOはそう簡単にクリアできるようなものではない。

 もう、他に知っていることはない。そう言うのが一番の安全策だ。そう考え、その通りに行動しようとした。

 だが。

 

 「ソイツ……ベータテスターでもないのになんでそんなこと知ってるんだ?」

 

 そう、誰かが言った。

 おそらくソイツはベータテスターだったのだろう。1000人という規模であれば、多少見逃すことはあっても、大多数は覚えられるだろう。仮にキャラネームまで変えていても、俺がベータテスターではないと判断できる理由はほかにもある。

 たとえばレベル。

 さっきのボス戦で俺のレベルは14まで上がったが、ボス戦に入る前のレベルは11。決して低くはないが、ベータ上がりとしてはあまりにも低すぎる。

 つまり、ここにいる全員が、俺のことをベータテスターではないと認識したわけで、そうでないなら、コイツはいったい何者なのかということになる。

 

 「そう言えば……君は、どこから情報を仕入れていたんだ?」

 

 「それは……」

 

 素直に、クラッキングしました。などと言う奴はいない。

 相手が相手だから実際に罪になるかどうかはともかく、犯罪行為は犯罪行為だ。それも、俺は理解してやっていたのだから。

 俺が口籠っている間に、ボス戦の前に俺たちに喧嘩を売ってきたプレイヤー――――クラディールが一歩前に出た。

 

 「シンカー、私は、コイツは茅場晶彦の仲間だと思うのだが」

 

 「何……?」

 

 シンカーが怪訝そうに俺を見る。

 クラディールが続けた。

 

 「考えてもみろ。茅場晶彦の仲間なら、ナーヴギアに細工をして私たちよりも有利な条件で――――たとえば、ログアウト出来る状態でこのゲームをプレイすることも可能だろう?知るはずのないことを知ってた理由も、それで納得できる」

 

 「ち……違う!! 俺は、茅場晶彦の仲間なんかじゃ……!!」

 

 たまらず反論するが、今度はクラディール以外の、後ろでクラディールの推理を聞いていたプレイヤーたちの怒声に遮られた。

 

 「だったら、証拠見せてみろ!!」

 

 「お前らのせいで、何人死んだと思ってんだ!!」

 

 「ふざけるな、この悪魔め!!」

 

 怒声、罵倒、暴言、怒り、恨み、そんな負の象徴と呼べるもので、辺り一面が埋め尽くされた。

 また、なのか……? 謂れのない恨みで、俺はただ、あの場にいた全員を守ろうとしただけだったのに、またこうやって責められるのか……?

 思わず一歩後ずさる。さらに一歩、後ずさりそうになった時。

 

 「………ッ!?」

 

 初歩的な投擲スキル《シングルシュート》が、俺の頬を掠めた。

 放ったのは、シンカーだった。

 

 「……すまない、ヴァイオレット君。君に助けてもらっておいて、恩知らずだとは思う。だが、この場を収めるには、こうするしかないのだ……!!」

 

 リーダーだったシンカーが俺に攻撃したことで、他のプレイヤーたちも、それまで抑えていた最終ラインを越えた。

 先陣を切ってきたのはクラディールだった。それに続いて、沢山のプレイヤーが俺にめがけてソードスキルを放とうとしている。

 横目で俺のHPバーを確認する。回復アイテムを使って4割と多少は余裕があるものの、この人数の攻略組プレイヤーを相手にして立ちまわれるほどではない。

 クラディールの一太刀を避け、そのまま回避に徹しようとする。逃げ道を確保しようと周囲を見回した時、ユウナが目に入った。

 はっきりと、聞いたわけじゃない。でも、口の動きで、確かに分かった。

 

 『騙してたの……?』

 

 違う。騙してなんかいない。全部、皆が勘違いしてただけなんだ。

 

 『信じてたのに……』

 

 やめてくれ。その先を言わないでくれ……

 

 『ヴァイオさんなんか……』

 

 聞きたくない、嫌だ、やめてくれ、言わないで、言うな、やめろ……!!

 

 『■■■■■■■■■■』

 

 「………っ」

 

 信じてくれると信じていた。けど……

 そりゃあ、当たり前だよな。自分をこんないつ死ぬか分からない世界に閉じ込めた人間の仲間なんか、信じろっていう方が無理があったよな。

 はは……、なんか、色々バカみたいじゃないか、俺。つーか元からバカだよな。もっと賢かったら、あそこで何も知らない振りして戦ってた方が被害少なかったしな。

 バカみたいじゃん、何もかも失っちゃってさ……

 

 「……《ブレイバー》」

 

 「ぶば!?」

 

 相手をなぎ払うタイプの単発ソードスキル《ブレイバー》でクラディールを吹き飛ばす。

 HPバーにはまだ余裕があったし、そんなに一撃が重い技でもないから死にはしないはずだ。

 クラディールは既に俺に向ってソードスキルを使っていたため、HPバーが犯罪者を表すオレンジになっていた。そのため、犯罪者(オレンジ)カラーになっていたクラディールを攻撃しても、俺は犯罪者(オレンジ)にはならなかった。もっとも、俺が仮に犯罪者(オレンジ)になったところで、二人パーティにはそこまで関係ないし、システムから何か干渉があるわけでもない。犯罪者(オレンジ)は時間経過で解除されるから、そこまでペナルティにもならないだろうけど。

 邪魔なクラディールをどけると、一目散に森に向って走り出す。

 その途中で、姉さんに向って叫んだ

 

 「姉さん、ユウナを!!」 

 

 そこから先は言わずとも理解してくれたようで、姉さんはユウナに向って走り出した。

 ユウナは俺とパーティを組んでいるから、俺と同じように狙われる可能性がある。モンスターとの戦闘もギリギリのユウナじゃ、『人を攻撃する』こと自体に耐えられないだろう。

 

 俺はもう何も言わなかった。言わなかったし、言えなかった。

 自分の手で、ユウナを守ると誓ったのに、こんな形で自分だけで逃げなければならない己の弱さに。

 逃げる以外の道を見つけられなかった、己の不甲斐なさに。

 ユウナに本当のことを言えなかった、己の臆病さに。

 俺は、全てに負けた。

 

 「ち……くしょうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 頬を伝う感触がある。きっと、今の俺は泣いてるんだ。

 けれど、泣く暇があるのなら今は走るんだ。

 無様でも惨めでも何でもいい、とにかく走って、逃げて、生き延びるんだ。

 生き延びて、もう一度ユウナに会う為に――――




次回、あの人登場!

「やっと俺の出番か……」

「戦闘描写はナイヨ」

「…………」

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