原点にして頂点とか無理だから ~ジャンボの日記~   作:浮火兎

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ジャンボの独白 summer(後)

 やりかけの書類を片付け終わったシンクが研究室を出たのは10時頃だった。そこからタマムシシティに滞在するときは居候させてもらっているおじいちゃん達の居住兼店に帰って、急いでシャワーを浴びると髪を乾かすのも勿体無いと昼食をかっこみ、ジムに向かって走った。

 約束はお昼過ぎと曖昧な時間指定だったが、強行軍のおかげで12時前に到着することができた。この時間帯ならばセーフだろう。どこのジムも基本的に12時から13時の間に昼休みを取るところが多い。僕たちは受付だけを済ませて、午後一の挑戦者登録を済ませた後はロビーで時間を潰すことになった。最低でも一時間は確保できた訳で、となると必然的に――

 

「寝る。呼ばれたら起こして」

「ピッカー」

 

 待合用の腰掛いすに座り、背は壁に預けて僕を膝上に置いたシンクは、器用に体勢を整えて寝入った。

 仕方ないよ、何日もほとんど寝ていなかったようなものだし。少しでも寝て回復しないと、この後のバトルが辛いもんね。

 僕はといえば、お腹をシンクの両手で抱えられているので身動きがとれない。こういう時はおとなしくポケギアで暇を潰すのだ。

 最近は自分専用のものを買ってもらったおかげで気兼ねなく遊べるし、全く苦ではない。僕は毎日つけている日記を出そうとして、ふと指を止めた。

 

 そういえば今日のお昼に出たカフェラテ、写真撮ったんだっけ。

 

 写真フォルダの中から最新の一枚を展開して、僕は顔を緩ませた。そこには大きめのカップに注がれたカフェラテ、正確には見事な意匠を凝らしたラテアートがあった。カップというキャンパスには三枚のリーフの中央に僕が描かれている。

 おじいちゃんの手ずから入れてくれたカフェラテは見事な技術でもって、僕のお腹も心も満たしてくれた。この感動を忘れないうちに、残しておかねば。

 

 僕はシンクに内緒で、日記とは別にブログを書いている。切欠は食べるのが勿体無いと渋ったパンを、写真に取って保存することを教えてくれたブルーだ。

 何かの拍子にデータが消えてしまったことを考えて、メモリーカード以外にも別でデータを残しておくといい。フリーメールもありだが、折角ポケギアを買ってもらったのだからブログを始めてはどうだろう? そこに画像と一緒にコメントも残しておけば、ちょっとしたアルバムになる。

 それを聞いて早速始めたはいいものの、なぜ相棒に隠れてこそこそとやっているのか。

 実は僕、結構なロマンチストらしい。というのも、自覚したのもつい最近で。ブログに上げた画像に添える文章が、どうやらポエムみたいとコメントで指摘があったのだ。自覚がなかった分、改めて見直してみると恥ずかしいのなんの……誰もいないところで思いっきり十万ボルトぶっ放したい気分になったくらい。匿名でやっててよかった。

 それでもやっぱり自分の個性が早々変わるはずもなく、一時期は自重しようと普通に書いてたんだけど、その内に開き直ったというか、コメントでいつも通りがいいと言われたのもあって、ポエムは今も続いている。

 一日に何度も上げることもあり、僕のブログは更新頻度が高い。毎回写真付きで、少々の文章。その短さが受けたのか、お気に入りをしてくれる人の数は多いほうだ。まだ半年もたってないのに結構な盛況振りで、僕自身も驚いている。

 

「あっ、JKのブログ更新されてるよ!」

「『ミルクの零れる軌跡』だって。この人絶対若い女の子だよね! 同年代かな?」

 

 すみません、男の子です。

 どうやら今し方更新したばかりのブログを見てくれた人がいたようだ。

 こちらからは見えないが、ロビーの二階から聞こえてきた声に僕は少々恥ずかしくなった。衝動的にシンクの手に頭をこすり付けて、もどかしさを振り払う。

 

「……JK、ねえ。JKつったら普通はジョシコーセーだろ。常識的に考えて。……いや、こっちの線もありか」

 

 頭上からした声に、思わず体がビクっと反応してしまう。

 い、今のは挙動不振すぎるでしょ僕ッ!

 そーっと顔を上に向けてみれば、目を薄っすらと開いたシンクが寝起きの顔でこちらを見下ろしていた。

 あ、よかった。まだ寝ぼけてるだけだ。

 ホっとしたのもつかの間、またもや聞こえてきた声に僕の体は凍りついた。

 

「そういえば、このブログが本になるかもって知ってる?」

「うっそマジで?! じゃあ今までのは削除しちゃうのかな……」

「削除はしないっぽいよ。新作いっぱい追加した美麗保存版みたいな感じってどっかの雑誌に載ってた」

「ちょっと興味あるなあー。発売したら本屋さんでチェックしてみよう」

 

 え……雑誌で紹介? それ僕知らないんですけど!?

 というか、シンク今起きてるから!! 聞かれちゃってるからッ!!

 

「書籍化、ねえ……」

 

 いやあああなんでそこ拾った!? あなた普段そんなものに興味持たないでショ!! どうして食いついちゃってるの!?

 

「タイトルもう決まってるの?」

「まだみたいだよ。だから作者名で探すしかないかも」

「さすがにJKなんて名前で出さないよね。改名するかな?」

「もしかしてこれ、イニシャルだったりして!」

 

 やあああめえええてええええええ、もう僕のライフはゼロだからあああ……!!

 冷や汗どころじゃなく、冗談抜きで湿った僕の毛皮の下にはきっと鳥肌がびっしりなのだろう。

 ようやく遠ざかった声に、僕はバクバクと跳ねる心臓を押さえつけて相棒の反応を待った。

 

「……そういえば、うちにもいたなあ。イニシャルがJKの末っ子が」

 

 あ、これ完全にバレてらっしゃる。

 ニヤっと笑ったシンクに、僕の口元は引きつった笑みしか浮かべられない。がしっと捕まれた両腕が、離すまいと力を強める。

 逃げ場は、ない。

 

「相棒、悲しいことに私たちの間で何やら隠し事があるらしい。ちょうど時間もできたことだ。少しお話(・・)しようか?」

 

 

 

 

 

 

「勝負あり! マサラタウンのレッドっ!!」

 

 審判の判定に、張り付いていたシンクが肩で息を吐いた。無意識に込められていた力が抜けたのだろう。

 バトルと眠気という二重の戦いに勝利した相棒だったが、いかんせんギリギリのラインで持ちこたえた感が否めない。僕は今回、おとなしく後ろでサポートに回るだけだったので正にシンクの功労である。というか、気づいてないけどきちんと指示出してたしね。僕の相棒はやれば出来る子なのです!

 同じく、やれば出来る子の愛弟子が戻ってきた。シンクに褒められた途端にやっぱり泣いてしまったが、いつもなら叱るところでも今回は特別、よく頑張ったと僕も素直に労った。

 だけど僕が褒めたのが珍しかったのか、余計に顔を覆って泣いちゃった。嬉し泣きかな、真面目なところがここにまで出るとは。愛弟子の肩に移動して、泣き虫だったゴンベの頃のように僕は頭を撫でた。

 その横で、ジムリーダーのエリカさんがシンクに約束のお願いを聞いてもらっていた。

 

「すみません、どうしても欲しくて」

 

 シンクが指差したのはエリカ、なのだが、僕はそれが事実じゃないことを知っている。

 いや、客観的にどうみても、これはエリカが欲しいと言っているようなものなんだけどね。

 本当はその後ろの方。結構遠いけど、確かに真っ直ぐ先に聳え立つ樹にはモモンの実が生っていて、シンクはそれが欲しいと言いたかったんだ。

 だけど、絶対眠くて意識が朦朧としてるなこれ。顔を赤くして戸惑うエリカの反応にも、訳がわからないって顔してるし。

 

 はぁー、と僕は深い溜息をついた。

 相棒は身内贔屓を抜いても整った顔の作りをしている。可愛いじゃなく綺麗で、精巧な顔つきだ。

 そんな素材と相まって、男の子の格好と仕草――僕としては如何ともし難い問題――、年齢にしては高い身長と低めの声、落ち着いた性格、元が女の子なのもあって中世的な印象を受ける容姿をしている。

 簡単に言えば、女の子にモテる要素しかない。良い男の全てが詰まった原石なのだ。

 

 誤解される原因としてエリカを指したのも当然だが、僕としては眠気のために細められた眼とか、勝利しても冷静さを崩さないその態度とか、色々とシンク本人のせいがあるんじゃないかなと思わなくもない。

 現にバトルの後からシンクを見る観客の眼が、随分と好意的なものに変わっている。一部の女子などはキャーキャーと黄色い悲鳴を上げていたり。まあ、さらに一部の男性は「エリカさんがああああ!!」「頬を染めている、だと……!?」「くそッ、小僧めー!!」「……あいつになら掘られてもいい、かも」などとハッスルしているようだが。あれ、最後なんかおかしくなかったか?

 

 うーん……いつの間に僕の相棒は女ったらしになったのだろう。そんな子に育った覚えはないんだけどなあ




ジャンボは研究室のお手伝いできちんとシンクと同じく給料をもらっています。
それはポケクレカに自動振込みされます。ポケクレカはジャンボの専用口座みたいなものです。
お小遣いだけは毎月現金支給。いちいち入金するの面倒くさいとシンクが嫌ったからです。
ポケクレカは入金できても引き落としは基本できません。その際は銀行にいってトレーナーが手続きしないといけません。ポケモンが入金したお金で好き勝手しちゃう可能性があるからです。ポケクレカがないと買い物はできませんが、切符の自販機などは現金でも買えちゃうからね。他にもお金さえあれば結構できることが多いのです。
ゆえに、ジャンボは自分の財布も持っています。横にトレーナーが入ればカードなくても証明になるから買えます。トレーナーのお金って認識すればお使い扱いになりますし。
まあそんなことはさておき、書籍化するなら契約金は? 実はジャンボがこの話をもらったときにお母さんにヘルプをしています。お母さんを代理人にしようと考えたジャンボでしたが、正式なトレーナーはシンクなのでもちろんお話はシンクも通さなければいけません、お母さんからこっそりシンクに連絡がきていたんです。
シンクはいつ自分に打ち明けてくれるかなーと待っていましたが、いつまでたっても内緒にされるので、切欠ができたことでお話(笑)をしました。
ジャンボ視点では語れないのと、本編では邪魔な裏話だったのでここに書いてみました。長くてすみません。
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総合評価:1125/評価:7.49/連載:16話/更新日時:2014年10月10日(金) 17:00 小説情報


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