原点にして頂点とか無理だから ~ジャンボの日記~   作:浮火兎

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ジャンボの独白 spring

 相棒、親、パートナー、様々な言葉で僕たちの関係は表現できる。でも、本当はどれも違う。

 僕はシンクの「共犯者」だ。

 

 ある日、育て屋の庭に一つの卵が落ちていました。誰にも見つかることなく放置されていたその卵を、育て屋夫婦の孫が偶然にも発見。しかし、長い間野晒しにされていた卵は、危険な状態にまで衰弱していました。

 生まれてくる希望は僅かだとジョーイさんに言われた孫は、それでも卵を見捨てませんでした。毎日抱えて話しかけ、何処へ行くにも眠る時も一緒に過ごします。それを哀れに思った育て屋が、孫の隙を見てこっそり卵を取り上げることにしました。孫はいなくなった卵を必死に探します。泣くのを懸命に堪えながら、一心不乱に探し続けること丸三日。諦めない孫の姿に、仕方なく育て屋は卵を返しました。

 孫は祖父母を怒りませんでした。逆に、心配させてしまったことを謝ります。これには育て屋の方が度肝を抜かれる始末。孫は祖父母がした事が自分のことを思っての行動だと理解していたからです。

 愚かなことをしているように見えるかもしれない。それでも、この卵を見捨てたくないのです。

 そう語る幼い孫の姿に、祖父母は恐ろしさを感じてしまいました。子供らしくないおとなしい子だと思っていた孫でしたが、ここまで人から外れた存在だとは思わなかったからです。何も言わない祖父母に、孫は卵を抱えたまま逃げ出しました。

 卵と二人きりになった孫は、たくさん語りかけます。自分の異常さ、自分という存在の違和感、この世界と似て非なる世界、家族に対する罪悪感、それから――とある男の子の一生。

 ほどなくして、家族が迎えに来た孫は家に帰ることとなりました。その手には、もう二度と離さないとばかりにしっかりと卵を抱えて。

 孫が常に卵を抱えていることに周囲も慣れ、ただの荷物扱いにまで馴染んだ一ヵ月後。

 

 そして、僕は生まれた。

 

 

 

 シンクは生まれてくる前の記憶があるって言ったけど、僕にもあるんだよ。

 ようやく意思疎通ができるようになった頃、卵の中にいた時の記憶を身振り手振りや絵を交えて伝えれば、シンクの顔は見る見る内に青ざめていった。

 どうして? 喜んでもらいたくて話したのに。そんな顔させたくて言ったんじゃない。

 ひたすら僕に謝るシンクに、どうすればいいのかまったくわからなくて呆然としたことを覚えている。

 お願いだから、誰にも言わないで。生まれてくる前といっても、私とジャンボでは違うんだ。お前まで異常な目で見られたくない。辛い思いは私一人で十分だ。

 最後に、全部忘れてくれと泣きながら懇願されたところで、僕は意識を失った。それから暫く熱で寝込むわ、シンクは抜け殻のようだわ、それに釣られてカズハが泣き止まないわ、一家総出の一大事だったとママは言う。

 シンクが孤独に生きていることを、隣で見てきた僕はずっと感じていた。どれだけ一緒に過ごしても、側にいても、僕はシンクに認められない。それがとても寂しかった。

 どうしたらシンクは僕を見てくれる?

 君をわかりたい。ひとりぼっちじゃないんだよ。僕はそのために生まれてきたんだ。

 最初は見よう見真似だった。人間の仕草を覚えて、なんでも試してみることから始めた。文字を覚えてからは随分と行動の幅が広がった。本を読んだり、調べて聞いたり、たくさん勉強をした。

 人間からは褒められる反面、ポケモンらしくないと異質な目で見られることもあった。勿論、同族からは軽蔑された。

 それでも構わなかった。むしろ、これもシンクが感じている気持ちの一つなのだと知ったおかげで辛さには耐えられた。

 僕がどんどん普通に育っていないことに、シンクが焦っていたのも知っている。知識もだけど、身体も大きくなりすぎちゃったんだよね。僕は早く大きくなりたかったから嬉しかったんだけど、病気じゃないかと心配するシンクを見てちょっと後悔したことは内緒。

 そんな折にマサキと出会って、僕たちは和解することとなる。第三者からみて、僕とシンクは大分すれ違っていたのだと気づかされたからだ。

 シンクは疑心暗鬼に陥っていた。僕に余計なことを言ったから、自分がジャンボを間違った方向に育ててしまった。誰にも相談できず、一人で不安と戦っていたんだ。

 僕は君をわかりたい一心で今まで頑張ってきた。それでも悲しませてばかり。僕は間違っていたのだろうか?

 お互いがお互いを思って考えて、それなのに全く噛み合っていないということをマサキに指摘された。

 

「とりあえず、お前さんはその子のことをどう思っとんねん」

 

 心臓が止まるかと思った。嫌われていたらどうしよう。今までしてきたこと全部が間逆にしかならなかったと知ったばかりで、怖くてシンクの方を見れない。僕はぎゅっと目を握って震えながら返事を待った。

 

「大好きに決まってる!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、身体の奥底からぶわっとこみ上げた。それは嬉しさや愛しさ、報われた気持ちなどたくさんの感情。溢れ出したそれらと一緒に涙まで湧き出てしまい、泣きながらも必死に思いが伝わるよう抱きついた。

 僕はここにいるよ。気づいてくれるのを、ずっと君の隣で待っていたんだ。

 たとえ皆と違っても、君と同じなら僕はそれがいい。もう君は一人じゃないんだよ。

 二人でたくさん泣いていっぱい話した。お互いのこと、今までのこと、これからのこと。

 

 シンクは自分のことを「この世界の犯罪人」だと言う。

 生み育て慈しんでくれた家族が偽りに感じる時がある。生きている人たちが時々無機質な物に思える。知られていない知識を公表しない、研究室の皆に対する冒涜行為。

 数え切れない程の異質さが、この世に生きる彼女に罪悪感を植え付けていた。

 僕もシンクから見れば罪悪感の一つなのだろう。それなら、逆に考えてみて。

 僕だけがそれを知っている。異質というなら、僕自身だってそうなのだ。

 全部共有させて。一緒に乗り越えていこう。僕は、君のために生まれてきたのだから。

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