◇◇0
椚が丘中学校の三年E組は特殊なクラスだ。
このクラスは学校に落ちこぼれと判断された人間のみが集められ、あらゆる面で差別を受ける。
また、今年においては更に特殊なクラスになったと言えよう。なにせ、マッハ20の超生物が担任を勤めることになったのだから。
また、原作と呼ぶべき平行世界において、四月時点での生徒数は男女含め26人である。
しかし、この世界の椚が丘中学校三年E組の生徒数は27人と一人多かった。原作において存在しない女子生徒が一人増えていたのだ。
名は、
「お前、よく
「だよねー。なんとなく受験してテキトーにマークしてたら合格しちゃって自分でも驚いたわー」
「ほぼ奇跡じゃねーか!」
クラスメイトからは主に『アホ』と認識されていた。
◇◇1
四月の朝8時、まだSHRには早いにも関わらず旧校舎の三年E組教室にはE組の生徒のほとんど全員が集まっていた。
普段ならばまだ登校していない生徒が少なからずいる時間に生徒が全て揃っているのは、先日E組担任となった超生物の暗殺のために彼らが示し会わせて登校時間を8時までとしたからだ。
生徒達の一部、寺坂グループが離れた席に着席していて、残りは教室の中央で学級委員長二人を中心に輪を作っている。
「よし、計画の最終確認をしとくぞ」
男子学級委員長である磯貝悠馬が口を開いた。が、寺坂竜馬が不機嫌そうに反論する。
「計画っつったってヤツが点呼をとるときに全員で銃撃するだけだろ?朝早くに集まる意味なんてあったのかよ」
「人数は多い方が成功率が上がるし、遅刻しないように早く集まってるの」
輪の中心にいたもう一人の生徒、女子学級委員長の片岡メグが呆れたように言う。寺坂もそれは理解していたらしく、不服そうにしながらも反論はなかった。
「誰か、まだ来てない人はいるか?」
「あ、湯島さんがまだだよー」
気を取り直して問いかけた磯貝に倉橋が答える。磯貝は困ったような顔をして言った。
「湯島さんに連絡貰った人、いる?」
誰も湯島春から連絡を受けた生徒はいなかった。気まずさを感じさせる沈黙の中、誰もが計画に暗雲が立ち込めたように思えてきた所に、パタパタと足音が聞こえてきた。
足音の主は教室の前までたどり着くと、いったん立ち止まり扉を勢いよく開いて言った。
「セ、セーフ……!」
「いや、アウトかな」
磯貝が言った。教室にかけられた時計は8時10分を指している。
湯島が申し訳なさそうに一礼する。
「あー、ごめんなさい……」
「いいよいいよ。ちょっと遅れたくらいは問題ないし」
「本当!ならよかったー」
磯貝が許したとたんに悪びれなく「いやー、朝まですっかり忘れちゃっててさー」とへらへら笑いながら言う湯島に苦笑い気味のE組生徒達だった。
◇◇2
「よし、みんなゴーグルは着けたな」
もうすぐ朝のSHRが始まるというタイミングで磯貝が言った。E組生徒達は緊張した様子で頷く。
生徒達で相談して決めた暗殺計画はこうだ。まず、暗殺対象が教室に入ってくるのを待つ。次に生徒全員が怪我のリスクをなくすためにゴーグルで目を保護しながら各々が使いやすいサイズのエアガンで弾幕を張る。暗殺に成功すれば賞金の100億円は山分けというわけだ。暗殺対象が必ずチャイムが鳴ってから教室に入ってくるのは今までの観察でわかっていたし、自分達をなめきっている暗殺対象は何かをしようとしていることに気がついても逃げたりはしないという計算である。
緊張した空気が流れる中、濡れた素足でタイルを歩いているような特徴的な足音が聞こえてくる。ーーーーーー暗殺対象のものだ。緊張感が高まり近くの席の生徒同士が目配せをし合う。
教室の扉が開いた。入ってきたのはマッハ20の超生物。教師服に身を包んだ触手の化物で暗殺対象の、E組の担任教師だった。
「HRを始めます。日直の人は号令を」
暗殺が、始まったーーーーーー!
「すいませんが銃声の中なのでもっと大きな声で」
「……は、はい!」
暗殺は失敗した。
クラス全員の銃撃をものともせずに対象が全ての弾を避けきってしまったのだ。
「数に頼る戦術は個々の思考をおろそかにする。一人一人が単純すぎます」
暗殺についてダメ出しをする余裕っぷりである。
その余裕さに疑わしくなり、前原陽斗は食って掛かった。
「こんなただのBB弾みたいなのが本当に効くのかよ先生!?」
他の生徒達からも同意の声が上がる。対先生特殊弾だという触れ込みの弾だが、暗殺対象は人間では見切れない動きを駆使するため本当に当たったのか判断がつかないのだ。生徒達の疑問は至極当然と言えた。
ならば、と対象は生徒の一人にエアガンに弾をこめるように言う。そしてたまの入ったエアガンを受けとるとおもむろに自分の持つ触手の一本に向けて発砲した。撃たれた触手が弾け飛び、うねる触手は半ばで切断されたようになってしまった。
「国が開発した対先生特殊弾でーーーーーー」
無くなった触手を再生させつつ対先生特殊弾について説明をする暗殺対象。その話を聞き流しつつ、切り離された後も陸に上がった魚のように跳ね回る触手をじっと見つめる生徒が一人。何を隠そう、湯島春である。
「ーーーーーー殺せるといいですねえ。来年の三月までに」
なめきった顔色で言った暗殺対象は、ふと一人だけ何か作業をしている生徒に気づいた。湯島春という生徒だ。普段から何かと個性的なことをしている生徒である。彼女が何をしているのか確認してみて、固まった。注目を集めていた暗殺対象が目線を固定していると、話を聞いていた生徒達も異変に気づく。『なんだろうか』と疑問に思い対象の視線をたどって、同じように固まった。
そこには、活きが無くなったものの、未だに動いている触手をこっそりと自分のカバンにしまおうとしている湯島春の姿があった。
「何やってんの!?」
潮田渚以下、クラスのほとんど全員がツッコんだ。
「にゅやっ!?先生の触手をどうしようと言うんですか湯島さん!」
クラス全員の弾幕にも余裕な顔をしていた超生物が動揺していた。
周りに居た生徒が呆れた顔をして対象の動揺した様子を見ている中、湯島は照れくさそうに言った。
「……食べる」
「食べるの!?」
生徒全員に加えて暗殺対象すらツッコんだ。
「いや、だって見てこれ!黄色いけど触手だし、切っても動いてたし、タコみたいじゃん!なら食べられるよ!」
「無理だから!」
「黄色い時点でタコじゃないし!」
「お腹壊しちゃうよ!」
「お腹壊す!?
い、いや、そもそも先生の一部なんですから食べないでください!想像しただけで痛くなりそうです!」
阿鼻叫喚とはこの事か。ツッコんだ女子達の台詞が一部、暗殺対象に飛び火し精神的ダメージを与え、暗殺対象の発言に生徒達が心の中で『超生物のくせに気が弱いな!』とツッコみ、元凶の湯島は触手を抱き締めて離さない。
そんな中、クラス1のエロ男、岡島大河はと言うと。
「リアル女子にリアル触手……ありだな」
静かに興奮していた。
岡島大河は興奮している様子を近くに居た女子数人に見られてドン引かれていますが、気づいていません。