椚ヶ丘の春(仮題)   作:一文字

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視線の時間

◇◇0

 

 

 岡島への説教が長引き、もう遅い時間だと烏間に帰宅を促された春達女子一行が旧校舎から続く山道を下っていた。ゲス男子二人はデータの入ったSDカードを没収され、撮影に使った教室の後片付けを命じられて居残りである。

 

「いや~しっかし、私たちまで友達と思ってなかったって……」

「ごめんなさい……」

 

 ショックだわ、とため息を吐く岡野ひなたに春は申し訳なさそうな様子になる。

 倉橋を友達だと認識していなかった春に対して自分達への認識を聞いてみた岡野に対し、春の返答は『クラスメイト……?』というあんまりなものだったのだ。

 

「私もショックだったなー」

「私たち何度か一緒に帰った仲なのにね~」

「もー、わかったって。皆友達だってば」

 

 一瞬お互いに目配せをし合った矢田桃花と片岡メグが残念そうに言ってからかうと、つい先ほど全員と友達になった春が言い返した。そこですかさず矢田が、「ならさ」と口を開いた。

 

「明日はちょうど日曜日だし、一緒に遊びに行こうよ」

「うっ……、それは……」

「まさか、友達との遊びを断るってことは、ないよねえ?」

 

 後ろめたそうに目をそらした春に、今度は矢田の狙いに気がついた岡野が逃げ道を塞ぐ。

 

「……わかった。しょうがないなー」

 

 春が観念して笑いつつ承諾すると、倉橋が愕然として呟いた。

 

「わ、私が最初に友達になったのに、湯島さんが取られた……!」

「取ってない取ってない」

「取られてないよー?」

 

 友達になって、お互いに名前で呼び合うようになった四人だった。

 

 

 ◇◇1

 

 

 そんなことがあった土曜日から二日。生徒たちが登校してくる朝の教室でやたら春の友人の女子から厳しい視線を受けている岡島と三村(ゲス二人)が居心地の悪い思いをしている中、春は借りた漫画を返しに不破優月の席へ来ていた。

 漫画を手渡されながら不破が睨まれている男子を見る。

 

「ねえ、なんで岡島君と三村君が女子に睨まれてるのかわかる?」

「あー、それは名誉がかかってるから言えないんだ」

「……なるほど、大体わかったわ」

 

 土曜日の放課後に三村と岡島、春の三人で居残っていたことを思い出しながら不破が呟いた。片岡達は武士の情けで彼らの行動を他の女子には伝えないことにしたのだが、不破はあっさりとその行動を察してしまったようだ。

 

「この漫画面白かったよー」

「それはよかったわ。続きは明日貸すね?」

「わかったー」

「へぇ~、そんなに面白かったのか。なんて漫画なんだ?」

 

 不破の横で野球雑誌を広げていた杉野友人が興味をそそられて言った。

 不破はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの顔になる。

 

「『黒子のバスケ』よ」

「バスケ?どんな漫画なんだ?」

「そうねえ……。敵の視線を誘導して見つけられなくなる主人公が、数メートルジャンプする野生児と一緒に勝利を目指すバスケ漫画ね」

「それってほんとにバスケ漫画なのか……?」

 

 まるでバトル漫画のような設定に杉野が呆れ顔になった。不破もその気持ちはわかる、と苦笑いしている。

 

「そう!それでねー、暗殺に使えると思って私も視線誘導覚えてきた!まだちょっとしかできないけど!」

「ええと、視線誘導ってどんなものなんだ?」

「簡単に言えば手品みたいなものよ。マジシャンが独特の手つきで上手く観客の視線をそすみたいに、身振りで視線を外す技ね」

「へ~。湯島はどのくらいできるようになったんだ?」

「うーん……あ、そうだ。ちょっと消しゴム貸して?」

「ん?ああ」

 

 春は杉野から手渡された消しゴムを受け取り、指の間に挟むとマジシャンのような手つきで両の手のひらを交差させる。

 

「おお!」

「へぇ~」

 

 両手を交差させるたびに手から手、指から指と移動していく消しゴムを見て杉野と不破が感心した声をあげる。危うく見失いそうになる消しゴムを目で追いかけていく二人。段々と目が慣れてきて、追うのが簡単になってくる。すると、手から手への受け渡しに失敗して消しゴムが指に弾かれて空中に浮き上がり、

 

「あっ!」

「うおっ!」

 

 消しゴムに注目していた二人は気付けば春に額を小突かれていた。

 驚いて春を見ると、空中の消しゴムを回収ししてやったりと笑っている。

 

「どう?」

「すげーよ湯島!全然避けれなかった!」

「えへへ……。今はこれしかできないけど、もっと色々できるようになったらこれで暗殺するつもりなんだー」

 

 興奮する杉野に消しゴムを返す春。

 不破がちょっと待って、と疑問顔になる。

 

「漫画貸してから一週間も経ってないにしては上手過ぎない?」

「ああ、私手先が器用だし練習したらできたよ?」

「そういう問題か?」

 

 たまらずツッコむ杉野。不破も納得できていない顔だ。マジシャンのそれと見分けのつかない手つきを器用なだけで一朝一夕にできるとは考えにくかった。

 

「ちゃんと器用だよ!ほら見て、小指だけ曲げられる!」

「それはそれですごいな!」

「それって、器用さは関係ないんじゃ……」

 

 疑われたと感じたのか両手の小指だけを曲げてみせた春に杉野がツッコミをいれる。二人はまだ納得のいかない様子である。その様子にうんうんと唸りだす春。

 

「えーと、じゃあ……昔ピアノやってた!」

「うーん……なら器用……になるのか?」

「知らないわよ。器用になりそうなイメージはあるけど」

 

 不破の言葉にほら見たことか、といった表情になる春。複雑な指使いを要求されるピアノを習っていたなら先ほどの動きもできなくはない、と二人は若干信じられないながらも納得することにした。

 

「ああ、でも湯島さんって手が綺麗だなって思ってたんだけど、それもピアノやってたからなのかな?」

「え、ほんと?ちょっと手え見せてくれよ湯島」

「いいよー。でもピアノやってるからって手が変わったりはしないと思うなー」

 

 両手を杉野の前に差し出す春。鍵盤を叩くだけで手が変化してしまうなんて恐ろしいことはないと思いたいようで、自分に言い聞かせるようにする春だった。

 

「ふーん……うわっ!指長い!細い!」

「おお……手が小さいのに指の長さが俺と同じくらいあるぞ……」

「んー?そんなに驚くことかなー?」

 

 興味津々に自分の手を手に取る二人。春はくすぐったそうにしながら複雑そうな表情を浮かべた。

 

「ねえ湯島さんっ。こんな手になる秘密とかある!?」

「わっ。い、いや?特別なことはしてないけど……?」

 

 春は席から立ちあがり一気に顔を近づける不破に気圧されて後ずさった。その様子を見た杉野と、その後ろに座っていた菅谷創介も少し引いている。

 

「本当に?隠してない?」

「う、うん……」

「そう……。これが生まれの差かぁ……」

 

 不破が落ち込み、しなしなと自分の席に戻る。春は元の位置に戻りながらその様子を見て、何か悪いことをしたように感じていた。

 

「えっと、そんなに気にすることでもねーような気がするけど、やっぱ女子ってそういうの気にするもんなのか?」

「あたりまえでしょ?あたしら花の女子中学生よ?」

「そ、そうか……」

 

 とりなすような杉野の言葉に呆れたように返す不破。そのままの表情で春の方を向く。

 

「たとえばこんな感じの湯島さんでも、どっかで美容に気を使ったりするもんなの」

「へー」

 

 感心してこちらを向いた杉野と、手先に気を使っていて手の綺麗さで春に負けた不破が拗ねたように見てくるのに、春はきょとんとした顔になった。

 

「私、美容とか気にしたことないよ?」

 

 謙遜などの嘘偽りなどと程遠い表情で春は言った。

 杉野と、その後ろの席でぼ~っとしつつ会話を聞いていた菅谷は『空気読んで湯島!』と心の中でツッコミを入れた。

 

 

 ◇◇2

 

 

 何やら騒がしくなった春のいる方向を見つつ、後ろの席の矢田と会話をしていた倉橋が愕然として呟く。

 

「春ちゃんが取られた……!私の友達なのに……」

「……私たちの友達でしょ?」

 

 倉橋を慰めつつ、矢田がぽつりと訂正をいれた。




日曜日の遊びに行った時の内容はカットします。
今時の女子中学生が何して遊ぶとかわからんよ……。
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