ぐだぐだあーと・オンライン   作:おき太引けなかった負け組

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ぐだぐだプロローグ

 都内にある病院。

 そこに似つかわしくない、一人の少女がいた。

 木工紋の入った帽子と黒い軍服を着た黒髪の少女。

 髪は長く、また、肩から掛けているかばんは妙に古めかしい。

 これが、昭和時代初期であれば、将校さんなのかな、とでも思うような姿格好だが今は平成の世。

 故に、不自然と言わざるを得ない。

 しかし、それを気にするものは誰もいなかった。

 むしろ、近くにいるナースさんやお医者さんは親しげに、「またお見舞いですか?」と声を掛ける。

 最初の頃はその奇妙な服装に戸惑うものも多かったが、なぜか彼女に似合っており、それを何十回と目にしたため、気に止めることはなくなっていた。

 それに、彼女自身は結構小柄で背が小さいので軍服でありながら、物々しいというよりは微笑ましく見える。

 子供がヒーローの服を着ているようなものだ(まあ、これを知られると激怒されるが、その怒っている姿もかわいいと思われてるのは内緒)。

 そんな微笑ましい物を見るような声に応えながら、彼女はまるで輝くような、それでいて、魔王のような邪悪な笑みを浮かべながら病院内を闊歩する。

 そして、彼女は目的の病室にたどり着き、勢い良くその扉を開けた。

 

「いいものを持ってきたぞ!沖田よ!」

 

 開かれた扉の先はごく一般的な病院の個室があり、一つのベッドがそこにあった。

 ベッドのうえでは病人らしい少女が座っており、退屈を凌ぐためか本を読んでいる。

 そして、その少女はやれやれと言わんばかりに本を置くと入ってきた軍服の少女に答えた。

 

「……いきなりなんの用ですか信長さん。というか、病室で騒がないでください。また三段突き食らわせますよ?」

 

 そう、彼女に問うのは桃色の髪の少女。

 白い、清潔感を漂わせるような、病院服を着ている。

 病弱のためたびたび、彼女は入院しているのだが、その姿は病気のものにありがちな儚げと言う印象ではなく、むしろ凛とした、一本の刀をイメージさせるような風貌であった。

 

「そなたは固いのう……」

 

「常識の話をしているんです。病院内で騒ぐなと習わなかったのですか?」

 

 軍服の少女が破天荒なのはその姿格好からも想像がつくが実際そのとおりであり、そんな様子に対し沖田と呼ばれた少女は慣れた感じで説教に入ろうとする。

 だが、説教される信長もそういったことに慣れているため、ごまかすように答えた。

 

「……説教はもういいのじゃ!それよりこれを見よ!」

 

 そして、彼女は持っていたかばんからヘッドギアのような形をした機械と一本のゲームソフトのパッケージを取り出す。

 

「何ですか、ソレ?」

 

 怪訝な様子で、沖田はその機械を見る。

 

「これを知らんのか?遅れとるのぅ……」

 

 そんな沖田の何も知らないふうな様子に、少し優越感に浸れたのか、信長は沖田を小馬鹿にしたような表情で見ている。

 というか、完全にドヤ顔で見下したような感じだ。

 

「……そうですね。こうして病室に居ることが多いので流行には『少し』疎いもので」

 

 そして、その姿にちょっとムカついたのか、沖田はヨヨヨと目を隠しながら、世間知らずの儚げなお嬢さんを演出する。

 そんな彼女の様子に焦りを見せる信長。

 沖田が日常的に入院していることは彼女はよく知っていたため、心の中に罪悪感が生まれる。

 

「そ、そんなつもりじゃなかったのじゃ!す、すまぬ!」

 

 謝る、信長。

 その慌てる様子は普段の傍若無人な彼女を見ている者にとっては驚くことだろう。

 普段は結構、ぶっ飛んでいて周りを振り回すジャイアニストではあるが、意外と素直で優しいのだ。

 そして、その姿に満足したのか、沖田は隠していた顔をバァと出して微笑むような笑みを浮かべながら答える。

 

「フフフ、いいですよ。別に怒っていません。ちょっといじわるしてみたくなっただけです」

 

「……なんか釈然としないんじゃが。まあ良い!それよりも、じゃ!」

 

 そう、少し不機嫌になるがこれは彼女たちにとってはいつものことであり、それを引きずることはなかった。

 そんなことはさておき、ジャジャーンと取り出した機械を更に沖田に突き出す信長。

 

「それで、ソレなんなんですか?」

 

 話を戻すように沖田は尋ねる。

 そして、それは期待していた答えだったのか胸を張るようにその質問に答える。

 

「うむ、話に聞いたことがあるかもしれんが、これは『ナーヴギア』というものじゃ!」

 

 『ナーヴギア』。

 世間に疎い、沖田も聞いたことはあった。

 確か、ごく一部のアミューズメント施設において実用化されていたVRマシンの家庭用だっただろうか。

 そういえば近々注目のゲームが発売されると、聞いたことがある。

 『ソードアート・オンライン』とかいうタイトルだったと思う。

 まあ情報源は目の前に居る信長なのだが。

 値段は12万8000円と割りと高かった記憶があるが新しいもの好きな彼女はそれを手に入れたらしい。

 どうやらそれを見せるためにここに来たようだ。

 

「それで、自慢しに来たというわけですか?」

 

 だが、彼女の様子は違った。

 それを聞いて更に邪悪な、ともすれば純粋な笑みを浮かべる。

 

「フッフッフ!わしを誰だと思っている!織田家次期当主、織田信長であるぞ!下々のものに褒美をやるのもわしの勤めじゃ!」

 

 ババーンと、これが漫画であるならば後ろに集中線があるような見事な名乗りだった。

 だが、沖田はそれを意に介すことなく、ジーっと見つめる。

 そして、閑古鳥が鳴くようなシーンとした静けさが病室内を襲った。

 

「ご、ゴホン。ま、まあなんというか、あ、あれじゃ!そのじゃな、一人で遊ぶのもなんじゃし、一緒に遊ぼうと思ったのじゃ!そ、それでじゃな……」

 

 そんな様子に恥ずかしくなったのか咳き込み、ごまかしながら顔を赤らめ答える信長。

 

「……プレゼントというわけですか?ですがこんな高いものを受け取るわけには」

 

 しかし、沖田はそれを断ろうとする。

 確かに信長は織田家と言う、由緒正しい家柄でかなりのお金持ちであるが『ナーヴギア』は前述したように結構高い。

 故に受け取れないと答えるのが普通の人間の感性であろう。

 だが、信長は尚も渡すことを諦めない。

 

「ム、わしの褒美を受け取れんというのか!そ、それにじゃな……その、一人で遊ぶのもなんじゃし、沖田も病室でボーっとするのも暇じゃろ?じゃ、じゃからな!ほ、ほら!そなたは剣道が好きであろう?これは剣を使って遊ぶゲームのようじゃし、そちも楽しめると……」

 

 更に顔が赤くなる信長。

 どうやら一緒に遊びたいようだ。

 断りたいが、こうなった時の信長は結構頑固だ。

 大体、押し切られてしまう。

 それに沖田も少し興味はあった。

 コントローラーを使うゲームは苦手だがこれは実際に身体を(ヴァーチャル・リアリティの中でだが)、動かして操作するゲームのようなので、沖田も十分に楽しめる。

 しばらく剣術の稽古もしていなかったこともあってか、沖田はため息を着きながら断ることを諦めた。

 

「分かりました。信長さんの気持ちを無碍にするわけには行きませんし、ありがたく受け取ることにします」

 

 それを聞いてパーっと花のような笑顔を咲かせる信長。

 

「で、アルか!ならば、一緒にやるとしよう。わしは、帰ったら直ぐにログインするからそなたもログインしておるのじゃぞ!最初の町で待っておるからな!」

 

 そして、返事を聞くや否や、そのまま満面の笑みを浮かべながら信長は去っていった。

 

「あ!待ってください信長さん!主治医の許可を……って言ってしまいましたか。いつもどおり嵐のようですね」

 

 一人病室に取り残される沖田。

 こうして彼女に振り回されるのはいつものことなのでやれやれといった風にため息を着く。

 

「んー。断られたらどうしましょうか?一応、個室とはいえ病院ですし、大丈夫でしょうか?でも行かなかったら信長さん泣いちゃいますし……まあ、なるようになるでしょう」

 

 沖田はベッドから立ち上がり外に出る。

 その背中は信長に振り回される気苦労のせいかほんの少し煤けて見えるような気がした。

 ちなみにこの後、医者の許可を取るのに手間取り、遅れて行ったことで信長に拗ねられるのはまた次のお話。

 そして、この数時間後、彼女たちが、いや、ソードアート・オンライン(SAO)を購入した全ての人間が、命をかけたゲームに巻き込まれる事になるとはまだ誰も知る由もなかった。




まあ読んでもらったとおり、ノッブ達が現代に生まれてて友達みたいな関係の話です。
そんなんでよろしければ次回もお付き合いください
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