ぐだぐだあーと・オンライン 作:おき太引けなかった負け組
おき太「……暇ですね」
おき太「剣降ってたらなんか人集まっちゃいますし……」
おき太「……あ、茶柱立ちました」
以下ぼっち
「それで、どないするんや?」
日が沈んでいき、空が赤から黒に変わり始めたその頃、ディアベルとキバオウは明日の作戦について話し合っていた。
「うん、これから説明するよ」
「それと、やっぱりあれはアカンかったみたいやわ」
キバオウは作戦の一つが失敗したことを告げる。
しかし、ディアベルはそんなことは気にせず、作戦について告げた。
「まあ、アレは上手く行けばラッキーみたいなものだったからね。こっちが本題さ」
そして、机の上の上を見ると明日のボス戦の大まかな配置図が広げられていた。
まず、
そして、サブのアタッカー部隊であるA2班と協力して攻撃を交互に繰り返し、危なくなればB1班、B2班が壁となるといった比較的普通の戦術を取る。
また、その配下である『ルインコボルト・センチネル』は、別アタッカー部隊のA3班が叩き、壁役のB3班とサポート班のS1班と協力して抑えこみ、最後にこのレイドのリーダーでもある信長達が属する、サポート部隊のS2班はコボルトロードとセンチネルの中間で立ち回り、取りこぼしたセンチネルを倒したり、コボルトロードを牽制し、その戦線が合流しないようにする。
これが、彼女が考えた戦略だった。
これにより、ボスを安全に倒せるだろうと、皆が納得していた。
「しかし、大した嬢ちゃんやな。役割が皆ハッキリしてて急造ながら動きやすそうやわ」
そう言って、概略図を見ながらキバオウは感心する。
少しS2班の負担が大きい気もするが、彼女たちの実力ならば上手く立ち回れる気がしていたし、そこに不満はなかった。
「で、この状況やとあのガキ、出し抜こうと思えば出し抜けそうやな」
しかし、先ほどのディアベルの話を聞けばこの状況は不味いのでは、とキバオウが考えるのも仕方ない。
確かに、指示を出しセンチネルの方へキリトを向かわせたとしてもその位置は全体を睨んだ中間地点。
センチネルがいなくなれば自由に動くことが出来る。
「うん。だから戦線を少し広げる必要があるよね」
それを聞いてディアベルは自分たちがどのように動くかを説明する。
A1班にコボルトロードのヘイトが向かった時に、少し、下がることで、徐々に引きつけていけばいいのではないか、と推論を述べる。
レイドのリーダーは彼女たちではあるが、パーティ自体のリーダーはディアベルである。
故に、こういった細かい部分でなら動けるだろう、とディアベルは考えた。
「でも、それやと、嬢ちゃんらがサポートに入りづらいんとちゃうか?」
しかし、キバオウはその意見に対して反論を述べる。
この戦略の肝はその戦線の絶妙なバランスである。
センチネルは3班、場合によっては4班で抑えこみ、かつ、ボスのコボルトロードに対しては4班、または5班で戦う事ができる。
そのために、戦線が付かず、なお、サポートするために離れすぎず、そんな距離を維持する必要がある。
それが上手く行かなくなるのではないか?とキバオウは危惧する。
「いや、この戦略はやっぱり、彼女たちの負担が大きすぎると思うんだ。彼の動きを警戒しながらこちらのサポートをするなんて無茶に等しい。だから、それを助けるためにこちらでも動いたほうがいいと思う」
そう言って、ディアベルは、あくまでもこれも協力の一環だと言う。
その方が自分に都合のいいことを隠して。
実際、彼女たちは警戒するなんてことは考えていないのでこれで上手く立ち回れるとディアベルは知っていたが。
「それに、彼女たちのサポートが無くてもオレたちは簡単にやられてしまうほど弱くないだろう?」
付け加えて、挑発するようにディアベルは言う。
そう言われてしまえばキバオウは納得せざるを得なかった。
「せやな、ワイらも新規プレイヤーと言えどここまで来た精鋭。むしろこれくらいこなさな、今後やっていけんわ」
彼にとってこれは汚名返上の機会。
そう言った、彼女たちの為、というのであれば奮起するのも仕方ない。
そして、その概略はディアベルにとって都合のいい方向へと動いていった。
「それで、ボスのHPバーは4本あってそれが1本削れる度に、センチネルが追加で現れるから、離れることで彼は向こう側に行かざるを得ないだろう。そして、最後」
ボスの行動パターンが変化し、その武器スキルをメインとした戦いになる。
その最後の押し込みで自分たちが攻め込めば、彼は手を出すことは出来ずに、問題なく戦闘を終えることが出来る。
そう、ディアベルは言った。
「でも、これやとワイらの方でLAとってまうかも知れへんな」
それを聞き、キバオウは調子に乗った感じで言う。
プレイヤー達にとってLAボーナスは垂涎の代物であるし、もしかしたら自分が取れるのではないか、と夢を見てしまうのも無理は無い。
ほんの少し、こちらにはいない向こう側のA3班、B3班、S1班を気の毒に思うが、元々この攻略は彼女たちの善意から開かれたものだと思っているキバオウは、自分は運が良かったのだと、それを気にしないことにした。
しかし、それを聞いてディアベルはほんの少し暗い表情を見せた。
「……そうだね」
「なんや?暗い顔して。まあ、ワイも向こうには悪い気がするけどな」
キバオウはディアベルの様子を見て、慰めるようにそう言う。
その明るい様子を見てほんの少しディアベルに罪悪感がよぎる。
「いや……オレは……」
そうしてディアベルは彼をこの策に巻き込んだ時の心境を思い出した。
自分とキバオウ、何が違ったのだろうか。
あの攻略会議の中で何度も考えた。
そして、あの会議でディアベルは嫉妬をしてしまったのだ。
まるで、彼が夢見る勇者のように彼女たちに選ばれるその瞬間を見て。
このゲームが開始する前、ディアベルはこのゲームがデスゲームへと変化する前は、優しい、リーダーシップあふれる、ナイトのようなロールプレイをしたいと考えていた。
皆に頼られ、尊敬を得る騎士。
そんな、存在に彼は憧れていた。
元々、彼はベータテスターであり、このゲームに関する知識は新規プレイヤーと比べて十分にあった。
だから、その知識を分け与え、教え、導くことをしていけばそう成れると信じていた。
しかし、このゲームが命をかけたものへと変わった事で状況は変わる。
多くのベータテスター達はその状況で直ぐにはじまりの街から姿を消し、自らが生き残るために行動を開始した。
だが、ディアベルはその場に取り残されてしまった。
己が生き残るために他を犠牲にする。
それは生きるためには正しいのかもしれない。
しかし、彼がそうありたいと願った、ロールプレイのせいか、それとも生来の優しさのせいか、彼はそれを選ぶことはなく、周りの者達を助けるために尽力した。
また、自分以外のベータテスター達は新規プレイヤーを見捨てていったことで、その溝は深まっていった。
新規プレイヤー達のベータテスターへの恨みは蓄積していき、一週間で約800名が死んだと聞かされた時、それはもう取り返しの付かないものへと変わっていた。
故に、ディアベルは本当の意味では孤独だった。
多くの者達からの信頼を得ながらも、自分は裏切り者である、ベータテスターの一人。
でも、今は導いてくれた自分を信頼し、集まってきた仲間たちが居る。
だから、大丈夫だとその時までは考えていた。
そして、会議が開かれる。
そこにいたのは新規プレイヤーでありながら、自分より実力を持ち、攻略に尽力する者。
そんな彼女たちに着こうと考えるものも少なくないだろう。
ディアベルは疑念に襲われる。
もし、仲間たちがいなくなれば自分はどうなってしまうのだろうか、と。
そうなれば、後に残されるのは、
ディアベルは焦った。
そんな状況、耐えられるはずがないと。
だから
そして、その状況で、物語の主人公のように選ばれたキバオウを見て、彼を巻き込むことを思いついた。
しかし、今の状況を考えればどうだろうか。
己のために他者を騙し、力を求めるものが騎士足りえるだろうか?
彼は純粋に、皆のために頑張ろうとしているのだ。
そんな明るさが羨ましいな、とディアベルは心の中で思う。
そして、笑いながら元気出せよと励ますキバオウを見て、今ならばやり直せるのかもしれない、とディアベルは逡巡する。
だが、考えれば考える程に、既に賽は投げられていた。
「……なんでもないよ」
ディアベルは笑って、言おうとしたことを誤魔化す。
「そっか?まあ、あんまり気にしすぎんなや。そんなんやと、攻略に支障が出るで?」
「そうだね」
先程までの暗い表情を隠して、ディアベルは笑う。
もし、ディアベルがやり直す瞬間があったとすれば多分この時だっただろう。
しかし、彼はそれを選ぶことはなく、運命の日は訪れた。
本編より前回のあらすじのネタに困る今日このごろ
それでディアベルさんの活躍シーンその2(その1は前の登場回)
彼、原作読んでる限りだいぶ頭いいんですよね
原作だとリーダーだったからディアベルはいろいろ配置をいじれたけどリーダーではないのでこんな感じに
あ、それで次回更新ちょっと空きます
第一層ボス攻略の『星なき夜のアリア』編を一気に投稿したいので
次更新する際は話数に注意してくださいね
前回のあらすじでネタバレ食らう可能性ありますから