富幸神社縁起   作:水城忍

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第一話 富幸神社のお正月

 富幸神社が開かれてから初めてのお正月。

 艦娘たちは新年の行事のための準備にてんてこ舞いだった。

 

 扶桑姉妹は間宮・伊良湖の給糧艦コンビと共に正月料理の準備中だ。NINJA鎮守府も160人以上の艦娘を抱える大所帯となっていた。もちろん、神饌の用意も別に必要。そのため、決して広いとは言えない厨(くりや)はまさしく戦場さながらの修羅場だった。

 間宮・伊良湖は焼き物を、扶桑姉妹が煮物を担当していたが、焼き物は後でもいいため、まずは全員で野菜などを切っている。野菜の皮をむくシュリシュリという音と、大根・人参・芋を切るトントンという音がリズミカルに響いている。

 トントントン。

 サクサクサクサク。

 しゅりしゅりしゅり。

 とにかく大量の食材を、四人は無言で捌いていく。その甲斐あってか、思いの外、早く野菜の下ごしらえが終わる。肉魚は搬入時に大方、処理が終わっているため、一つの山場を終えたという感じだ。そのせいで、余裕も出てきたのだろう。四人は備え付けの汗拭き用タオルで額を拭く。食品の劣化を防ぐために厨に暖房はない。だから、かなり冷え込む。しかし、集中していたためか、汗がうっすらと滲んでいたのだ。

 「間宮さんも伊良湖さんも、いつもこれだけの料理をしているのね……」

 扶桑が呟く。扶桑も料理をするが、大抵は数人分だ。これだけの量をこなす経験はあまりない。

 「お正月料理は手間がかかるから、やっぱりいつもとは違いますよ」

 「ですから、扶桑さんと山城さんに手伝ってもらって、本当に助かります。私は艦娘として着任して、はじめてのお正月ですし」

 間宮と伊良湖が礼を言う。

 「そ、そんなことないわよ」

 山城が少し顔を赤らめて否定する。この娘、照れ屋なのである。

 「さ、野菜も切ったから、煮物を作り始めましょうか……」

 扶桑が大鍋に火を入れる。まだ、灰汁取りや焦げ付かないように加減をする必要はあるが、かなり余裕も出てきた。そのためか、間宮が思わぬことを言う。

 「そうそう。扶桑さんに山城さん、お正月は数の子、たくさん召し上がった方がいいんじゃないんですか?」

 伊良湖も追撃してくる。

 「高千穂ちゃんだけだと、寂しいんじゃないんですか? 里芋も多めによそおっておきますよ? 雷鳥さんとMagoさんに負けていられませんよね?」

 給糧艦たちが意味深にニヤリと笑う。扶桑姉妹は調理の手を止め、ただ、赤面するだけだった。厨での調理はまだまだ終わりそうにない。

 

 雪風・瑞鶴たち幸運艦は、鳳翔の指導の下、神社で販売する「厄除けSD艦娘人形」制作の真っ最中だった。もちろん、最高級はSD扶桑。次に山城、翔鶴などなど。これらは人形の艤装部分が厄を引き受けるようにできている。いわゆる「身代わり人形(ひとがた)」だ。厄を受けるたびに砲塔や甲板部分が少しずつ壊れるということになっている。

 「お裁縫って、結構難しいのよねー」

 「でも、こうして、お人形を作るなんて、雪風、新鮮ですっ!」

 「まぁ、深海棲艦と戦うだけじゃ、女の子スキルも上がらないしね」

 「瑞鶴さん、雪風の『おんなのこスキル』これで、上がるんですか!?」

 適当なことを言った瑞鶴が、雪風の思わぬ食いつきに一寸困惑するが、直ぐに笑って「そうね」と答える。

 「さ、甘味処からアイス最中を買ってきましたよ。お茶にしましょうか」

 鳳翔がお茶とアイス最中を持ってくる。

 「わーい! 雪風、感激でっす!」

 「火鉢に当たりながらのアイスって、美味しいのよね」

 「うふふ。そうですよね。北国では暖房を効かせて冷たいものを食べるのが贅沢だと言いますしね」

 厄除け人形担当の艦娘たちが次々とアイスとお茶に手を伸ばす。パクリと一口噛むと、疲れた体に上品な甘みの間宮&伊良湖アイスがしみわたる。そこにアツアツの緑茶を一口。仄かな渋みとアイスの甘みが混じりあって、最高の味わいとなる。

 「さ、皆さん、もう少しですよ。仕上げは私も手伝いますから、頑張りましょう」

 そう言うと、鳳翔も「厄除けSD艦娘人形」の一つに手を伸ばす。手慣れた様子で、仕上げ加工を始めた。

 「流石鳳翔さん、手早い」

 「鳳翔さんの『おんなのこスキル』凄いです!」

 「あらあら。雪風ちゃん、嬉しいこと、言ってくれるのね」

 雪風はまだ「女の子スキル」に拘っているようだ。鳳翔が照れ笑いする。しばらく、雪風の中ではこの言葉が反復されるんだろうなと思った瑞鶴であった。

 

 吹雪をはじめとした駆逐艦娘と高千穂は巫女装束に着替えていた。参拝客の相手や境内の掃除・お守りなどの販売と、とにかく忙しいところに人海戦術として駆逐艦娘が投入されているのだ。

 着替えの最中、ひときわ目を引いたのが潮、浜風、浦風。「お前のような駆逐艦がいるか」と言われるほどの胸部装甲の持ち主である。夕立もそれなりに立派な装甲を持っている。普段の服とは違う巫女装束が、彼女たちの容姿をひときわ目立たせていた。

 NINJA提督と扶桑の娘・高千穂はおもわず、駆逐艦たちの胸部装甲をみる。一回り小さい高千穂は自分の胸をペタペタと触る。

 「私も、扶桑型戦艦ですから……成長すれば、きっと、おっきくなるはず」

 「高千穂ちゃん……一緒に頑張ろうね……」

 吹雪が力なく笑う。

 「はい……吹雪姉様」

 「そろそろ準備ができたか?」

 NINJA提督が扉を開ける。そこにはまだ着替え中の艦娘たちが。まだ、艦娘たちは下着のまま。

 「……」「……」

 双方、暫し絶句。そして。

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 艦娘たちの悲鳴が響き渡る。

 がこーーーーーーんんんんんん……

 NINJA提督の顔面に招き猫と高崎だるまがぶつけられた。

 「年明けを前に……眼福……」

 NINJA提督が幸せそうな表情で倒れる。そこに「ソロモンの悪夢」状態の夕立が蹴りを入れて、彼は部屋からたたき出されるのであった。

 

 大晦日の夜。神宮寺である、富幸寺で除夜の鐘を鳴らし始める。艦娘たちが一鐘ずつ突いていく。

 ごーん……ごーん……ごーん……

 最後の、108回目を扶桑が突く。

 ごぅぅぅぅぅぅぅんんんんん……

 深夜の神社と寺にひときわ大きな鐘が鳴る。日付が変わった。と、同時に近所の住人達が初詣にやってきた。建立から間もないのだが、艦娘たちが働いているということで、話題性は十分だったのだろう。相当数の参拝客がやってきた。

 扶桑姉妹は舞殿で夜神楽を舞っていた。その華やかな舞が参拝客の目を引く。一指舞うと、今度は金剛四姉妹の絢爛な舞にうつる。扶桑姉妹の「静」を基調とした艶やかな舞とは対照的に、「動」をベースにしながらも優雅さは失われていない。艦娘たちの珍しいパフォーマンスに参拝客は思わず見とれていた。間宮・伊良湖・鳳翔・一部の駆逐艦が舞殿に集まった人々に無料で暖かい甘酒を配る。寒空の中でありながら、舞と甘酒のせいで、参拝客はすっかり寒さを忘れていた。

 幸運艦お手製のお守りにSD厄除け人形も中々の売れ行きだ。

 NINJA提督の(怪しい)お祓いも、何だかんだで上手くいっているようだった。

 

 怒涛の「払暁戦闘」から引き続き、昼の「会戦」をあっという間に超えて、元日の夜。参拝客は昼過ぎまでひっきりなしだったが、夕方から先になると客足も落ち着き、すっかり暗くなるころには参拝客は数えるほどになっていた。艦娘たちもようやく一息つけるようになった。社務所では任務を解かれた艦娘たちが特製の正月料理に舌鼓を撃っていた。

 そして、社務所の一角、指令室ではNINJA提督と扶桑姉妹が集まっていた。

 「姉様、姫様、正月からお疲れ様」

 「提督こそ、お疲れ様でした……」

 「神社のお正月も大変だったけど、結構、面白かったかな?」

 三人がお屠蘇代わりの純米酒で乾杯する。

 「今年も、いい年にしたいですね……」

 「いろいろあったけど、それも、思い出になるのよね。姉様、今年もいい思い出を作りましょうね!」

 「山城、提督を忘れちゃダメでしょ?」

 扶桑が笑って妹をたしなめる。

 「うっ……その……提督も……今年も、一緒に……。で、今年は、そのぅ……」

 山城の最後の方はよく聞き取れなかった。

 「ん? 姫様、最後の方は何を……?」

 「山城、最後までちゃんと言わないとダメ……よ?」

 「うー……つまり、こういうことよ!」

 山城がNINJA提督の後頭部を強引につかむと、顔と顔とを突き合わせる。つまりは。

 「よくできました……」

 扶桑がにっこり笑う。

 「でも、山城だけじゃ……ね……。私も」

 姉も、妹と同じように提督と軽く唇を交す。と、そのとき。執務室のドアが勢いよく開いた。

 「あー、てーいーとーくー、扶桑さん達とちゅーしてるぅ~。わたひともちゅーしよー」

 「え!? 何で吹雪、酔っぱらっているんだ!?」

 思わず、三人が赤面して、飛び退く。そこにいたのは顔を真っ赤にした吹雪だった。呂律がまわっていない。

 「ひょんなこと、ろーでもいいぢゃないですかぁ~。ね~、ふぶきともちゅー……」

 「吹雪姉様が、間違えて黒糖焼酎のコーラ割を飲んでしまったんです……。あ、母上、山城姉様、父上、私のほっぺたにも……その……ちゅーを……」

 吹雪の後ろからひょこっと、高千穂が顔を出す。

 さらに、銘酒『森伊蔵』を片手に千歳と薩摩が殴り込んでくる。

 「てぇーとーくー、私を忘れるなんて、ひどいですよ~」

 「ひょっひょっひょっ。千歳。儂と飲み比べとは100年早いわ! おう! 主らも呑め!」

 「Hey、一家団欒のところ、悪いけど、私も混ぜてよね!」

 NINJA鎮守府にすっかりなじんだアイオワもいた。

 

 これまで長くいたところを離れることになった一同。しかし、どこまで行っても、この絆は変わらないのだろう。富幸神社の新しい一年がこうして始まろうとしていた。

(第一話・了)

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