富幸神社縁起   作:水城忍
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第三話 薩摩様のお祓い

 ようやく梅雨の長雨が終わろうとし、夏本番らしい暑さと陽射し、青空が富幸神社の境内にもやってきた。

 久々に顔を出した太陽がまもなく西に沈もうとする時分、NINJA提督は悩んでいた。

 どうも最近、ツキに恵まれないのである。先日のリランカ島攻略戦では道中の空母や戦艦に易々と扶桑姉妹や大鳳が大破させられ、何とか港湾棲姫の所にたどり着いても妖怪12足りないが出たり、夜戦メンバーだけがこぞって中大破させられたりと、大苦戦を強いられた。カスガダマでも火力不足で戦術的敗北を喫するわ、猫が出るわと三度も挑戦する有様。さらに礼号作戦でも、いつもは一度の出撃で終わるのが、4度出撃して4度とも大破撤退。新しく深海棲艦の存在が確認された中部海域へ水上機母艦・千代田たちを航空偵察に出撃させても肝心の敵旗艦を撃破できずにいる。暁たちの新任務は言うまでもない。軽空母に大破させられる、輪形陣の重巡の連撃で大破する、羅針盤はいつまでたっても南を指さないと、20回出撃して1度も主力艦隊に遭遇していないのである。

 社務所内の指令室で、扶桑と吹雪を前にここの所の戦果報告書一覧と資源収支表を見て頭を抱えるNINJA提督であった。

「うーん……この大苦戦ぶりは何だろうな……。おかげで、資源も高速修復材の増加ペースもかなり鈍っているしな……」

「ごめんなさい、提督……。油断したわけじゃないんだけど……」

 艦娘筆頭総代でもある扶桑が申し訳なさそうに言う。

「駆逐艦のみんなの戦意高揚もしているんですが……」

 礼号作戦の旗艦を務める吹雪もばつが悪そうだ。

「いや、姉様や吹雪のせいじゃないさ。しかしなぁ……これから大本営から大規模作戦の要綱が届くだろう。そっちにも備えないとならないから、ここで足止めを食らっているわけにもいかんしなぁ」

 NINJA提督が、頬杖を突き、右手の人差し指で机をこつこつと叩き、つぶやく。扶桑・吹雪もどうしたものかと思案顔でいると、扉がバァンと大きな音を立てて開く。

「ふっ……ここは儂が一肌脱がねばなるまいて」

「さ、薩摩様!?」

 戸の口にもたれかかり、秋雲顔負けのドヤ顔で立っていたのは薩摩だった。

「ここまでロクなことがないというのは、何かの祟りか呪いじゃろう。儂が気合! 入れて! 厄払いをして進ぜようぞ」

「薩摩様が厄払い……ですか?」

扶桑が小首をかしげる。

「うむ。占術や祓いは自分で自分にやっても効果はないからのう。代わりに儂がやってやろうというわけじゃ」

「……薩摩様が気合を入れて厄払いなぞした日には、妖気と霊力と精気をすっかり消耗して座敷童の干物に……ぶけらっ!?」

 

 薩摩は座っていたNINJA提督の頭をむんずと鷲掴みにして、強引に起立させると、拳を提督のみぞおちに勢いよく食い込ませた。

「失礼な奴じゃ。折角、不肖の弟子と可愛い扶桑たちのために力を貸してやろうというに」

 薩摩の強烈な一撃で床へ倒れこみ、死にかけたエビのように、くの字に折れ曲がってぴくぴくとしているNINJA提督を横目に薩摩がわざとらしく嘆息する。

「私の巫女服装甲も何度も破かされました……改二装甲で強化されているのに……」

「そういえば、この前のリランカ島沖じゃ、凄い格好になっていましたよね。無傷のはずの山城さんが血塗れになっていたのは不思議でしたけど」

「山城のは、鼻血よ。いつもの……」

「ああ……。やっぱり。あの時の扶桑さん、ほぼ裸でしたね……」

「……あんなことが続くと恥ずかしいわ。やっぱりお祓いしてもらった方がいいわね。薩摩様、お手を煩わせますけど、お願いします……」

「ですね。このまま、悪運にまとわりつかれると夏の大規模作戦にも支障が出るでしょうし。薩摩様、よろしくお願いします!」

 二人の言葉に薩摩が莞爾と笑む。

「そうかそうか。好いぞ、二人とも。では、儂は祭礼の準備に取り掛かろうかの」

 そういうと、薩摩はささっと、本殿の方に向かった。一方、みぞおちに鋭い一撃を食らった提督はというと、水揚げされた鯖のように口をパクパクさせてつぶやいた。

「い、嫌な予感しかしない……。ふ、不幸だ……」

「提督、山城の台詞を取っちゃダメですよ……」

「そういう話じゃないと思う……がくっ」

 

「あのう……薩摩様……そのお姿は……?」

 扶桑が問いかける。

 ここは富幸神社本殿。お祓いのためにNINJA提督をはじめ、富幸神社の主要メンバーが集められた。そして、祭壇の前に立っているのが、巫女服に着替えた薩摩。しかし、いつもと様子が異なる。顔の上半分が隠れるような面をかぶり、鎧の一部を巫女服の上に装着している。面は般若であり、非常におどろおどろしい。加えて、般若面は五徳にくっついている。頭に五徳をかぶるというのは、鬼になるということでもあり、本来なら丑の刻参りのように呪うときのスタイルである。厄払いにするようなものではない。本来は巫女である扶桑が強い違和感を持つのも当然だ。

「ふむ。此度は強い力を持った悪鬼が鎮守府全体に憑りついておるようでのう。普通の姿では払えぬゆえ、悪鬼をも上回る姿にせねばならぬのじゃ」

「はぁ……(そんなのどこから持ってきたのかしら)」と扶桑。

「(何だか背中がぞわぞわするわ……悪いことが起きなきゃいいけど)」と山城。

「(そのお姿怖すぎです、薩摩様。かえって変なものを呼び込むんじゃ……)」と吹雪。

「(薩摩様のお祓いって、あんまりいいことが起きたためしがないのよね)」と千歳。

「(あー……これはますます嫌な予感しかしない)」とNINJA提督。

「(オババ様……皆さん、不安そうな顔しかしていませんよ……まさか、騒動になることを楽しいでいるわけじゃないですよね)」と高千穂。

 要するに、薩摩の妙な気合の入り方に嫁艦一同並びにNINJA提督・高千穂そろって、ロクなことにならなそうな予感がしているのである。そんな一同の不安をよそに薩摩が儀式を始める。

「では、厄払いの儀を始める……。はりゃ!」

 奇声を上げて御幣を振る。

「天にましますが我らが父よ。願わくは御名をあがめさせたまえ、御国を来らせたまえ……」

「それ、主の祈り……。神社の祈祷文じゃない……」

 一応、宮司のNINJA提督が小声で突っ込む。

「あー! ほー! やーーー!! ズンガリガリガリズンガリガーリ……」

 黄色い和服のオジサンがよくやる雨乞いの祈祷に、なぜか頭の中で反芻される、学校で習った謎の歌まで混ざって、最早何なのかわからない。だが。薩摩の妙な祈祷に何かが呼応し始めた。 本殿に祀られた鏡が鈍く光り出す。

 

 だが、鏡が突然、毒々しい青紫色に変色したかと思うと、禍々しい暗色が渦を巻き始める。そして、渦の中心から金色の衣をまとった、ウェーブのかかったロングヘアの女がゲートから飛び出してきた。

「カツヨ! カツヲアゲルノヨ!!」

 雄たけびを上げる女。

 さらに渦からはフライやカツのコロモに覆われた駆逐イ・ロ・ハ級らしきものまでわらわらと現れはじめた。

「トンカツガ! エビカツガ! ワタシヲヨンデイルワ!!」

 そう叫びながら、女は神社内の供物を手当たり次第に揚げ物に変えていく。魚介類はアツアツのフライになってもいいのだが、リンゴや大根までフライにするのはいただけない。

「な、何なんだこれは……」

 NINJA提督が呆然として、呟く。敵か味方か、はたまた、タダのはた迷惑な変人か。

「アナタタチモアツイアツイアブラノウミヘシズムノヨ!!」

 一通り、供物を揚げ物に変えた女が、その血走った眼を富幸神社の艦娘たちに向ける。

「うっ! これは!」と千歳。

「知っているの、千歳」とは扶桑。

「これは……伝説の姫クラス――火津棲姫よ!」

~火津棲姫~

 金色の衣をまとう姫クラスの深海棲艦。深海棲艦は怨念や執念などが凝り固まったものと言われるが、火津棲姫は揚げ物への執着によるとされる。

 サクサクで香ばしい衣による強靭な装甲によって、魚雷も三式弾も通用しない最強クラスの棲姫。だが、水気に非常に弱く、特に出汁と卵とタマネギにさらされると体を守る衣がしなしなになってしまい、急に弱体化して、食べごろ(意味深?)になるという研究報告がなされている。だが、地方によっては、ウスターソースもしくはデミグラスソースで弱体化するという報告もあり、更なる検証が待たれている。

出典:『深海棲艦の生態研究――その生成と進化についての最新見地』(2015年 民明書房 尾宮好子著)p.80

 

「そして……取り巻きは、friedshipのようね」

~friedship~

 駆逐イ・ロ・ハ級flagshipが更なる進化を遂げた姿とされる。

 新鮮な駆逐イ・ロ・ハ級をさっと油にくぐらせるとflagship以上の金色の輝きを持ち、さらにサクサクの衣が防御力を一層増すという。そのため、夜戦火力最大の雷巡の連撃でも仕留めきれないことが多い。

 しかし、火津棲姫と似て、タルタルソースやサルサソースなどに弱いという報告が多数寄せられており、今後の観察に注目が集まっている。

出典:前掲書p.46

 

「このまま、火津棲姫を放っておくと、世界は油の海に沈み、全て揚げ物になってしまうわ!」

「な、なんだってーーーーーー!!」

 千歳の言に某MMRばりの驚き方をする富幸神社一同。千歳がタブレット端末を取り出して説明を続ける。

「現に、中破して_(:3」∠)_になった天城さんが、火津棲姫の手で油に……」

「なんて恐ろしい……」「あ、油の中に入れられるの……不幸だわ……」

 千歳が指し示したツイッターを見て、怯える艦娘たち。筆者的には、深海棲艦が登場しているのによくそんな余裕があるな、とツッコみたいところであるが。

 そうこうしているうちに、魔界のゲートと化した(?)鏡からは次々と駆逐イ級friedshipがぴちぴちと出てきて、フライになった供物をもしゃもしゃと食べていく。

「このまま、放っておくわけにはいかないわね……」

「せ、世界を油まみれてするなんて、深海棲艦が許しても、この吹雪が許しませんっ!!」

いつの間にか艤装を身につけた扶桑姉様と吹雪が鏡に砲を向ける。

「主砲、副砲……撃てっ!!」

「こらーーーっ!! 神社内で発砲するな!!」

 一応、宮司のNINJA提督が慌てて制止する。

「でも、このままにしていたら、扶桑さんも山城さんも、みんなカツになってしまうんですよ!? 天城さんの悲劇を繰り返すわけにはいかないんですっ!!」

「というか、何で艦娘がカツになるんだよ?」

 吹雪よ。間違いなく、提督のツッコミの方が正しいぞ。しかし、そんなことにはお構いなしに砲撃を開始する一同。千歳も友長隊に江草隊を発艦させる。

 度重なる砲撃と空爆によって、鏡などひとたまりもなく破壊される……はずだった。しかし、鏡は見えない力で全ての攻撃をはじいていた。

「そ、そんな……」

 艦娘たちの攻撃にびくともしない鏡。『艦これ』主人公の吹雪と富幸神社シリーズのメインヒロイン・扶桑姉様ががっくりと膝をつく。

「このままじゃ……山城も、高千穂も油の中に……」

 絶望にかられる一同。そんな彼女らを尻目に色々な揚げ物を作り出していく火津棲姫。だが、声高らかに皆を叱咤する艦娘が一人。薩摩だ。

「諦めるでないぞ!!」

「薩摩様……」

「鏡を狙うのではない! 火津棲姫を狙うのじゃ! さすれば、ゲートなどたやすく破壊できようぞ!」

扶桑がハッとする。

「そうか……! 私たちは目の前の鏡に気を取られ過ぎていたのね……」

「さすが、薩摩様です!!」

 吹雪が素直に感嘆する。

「ふっ……『艦娘これくしょん』アニメの最終回がヒントになったのじゃよ」

 もっとも、NINJA提督は、この騒ぎのきっかけはそもそも薩摩の怪しいお祓い(のようなもの)だろと、虚ろで諦めの色しかない目で見ていたのだが。

「そういうわけで、吹雪よ! 火津棲姫に一撃を食らわせるのじゃ!」

「はいっ!!」

 吹雪が火津棲姫にむけて、両の太ももに装着されたありったけの酸素魚雷を放つ。海面じゃないのにどうして魚雷が打てるんだというツッコミは野暮なので止めておく。魚雷は狙い過たず、棲姫に向かい、すべて命中し、大爆発する。火津棲姫がまとう金色の衣にヒビが入った。

 そこから数条の赤い光がほとばしる。そして。

「ウオーーーーーーーン……」

 断末魔の悲鳴が上がる。火津棲姫の身体は崩れ、板敷きの中に沈もうとしていた。

「今じゃ!! 戦艦は鏡に一斉射撃を!!」

「砲撃戦用意……てーーーーーーーー!!」

 扶桑の号令にしたがって、本殿に集まっていた全ての戦艦が鏡に巨砲の照準を向け、発砲する。それまで、何をしても再生し続けていた鏡はあっさりとヒビが入る。そして、ヒビからは火津棲姫の身体から放たれていたのと同じ赤い光が放たれる。真紅の光はますます増え、神社の本殿内を照らす。その眩しさと禍々しさに、一同が目を覆う。

 どぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんん

 光の大爆発。目を閉じていても、まぶた越しに光を感じる。だが、それも一瞬のことで、あっという間に薄暗い本殿に戻る。

 光の消えた本殿の床には、只一枚のトンカツが所在なさそうに置かれているだけだt

 

「ちょっと、勝手に殺さないでよ!」

 大破状態で半裸となり、セクシーな肩が特に色っぽい、艦娘が抗議の声を上げる。足柄だ。

「足柄さん!? 何でこんなことに……」

 扶桑が近寄る。

「提督は、見ちゃダメですぅ!」と吹雪。早くも視線が足柄のセクシーすぎる肩と胸元に行っているNINJA提督の目を手で覆う。

「ううん。何かね、厨でトンカツを揚げていたら、変な声がして。で、何だろって思って声のする方に近づいたのよ。そしたら、なんでもカツにしてもいいみたいで、色々揚げて行ったら楽しくなっちゃって……」

「その声ってなんだったのかしら」と、千歳が怪訝な顔で聞く。

「それがね。『私の可愛い狼よ、目覚めよ。今がその時。筆者が富幸神社シリーズの続きを書く気になった今、レギュラーメンバーに入るには一騒動おこすのが一番。どっかんどっかん、やらかして、場を沸かせば、一気に富幸神社シリーズの仲間入りを果たせよう……』って声だったわね」

「……」

 嫁艦一同並びに、薩摩・アイオワ・高千穂がもくもくと神社の片づけを始めた。

 神社を夜の闇が覆っている。久々の晴れ間のおかげで、夜になっても蒸し暑い。今夜は熱帯夜になりそうだ。なのに、この寒さは何だろう。真冬にパンイチで立たされたようだ。

 闇夜に一羽のカラスが「あほー」と鳴いて、何処とも知れずに飛び立っていった。

(第三話 了)







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