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「帝国の連中だ!もう来やがったのか!前線のやつらは何をしている!」
指揮官の苛立つ声が聞こえる。一年ほど前にこの国は戦争状態に入った。先立つ成長精神はその矛先を国外に向けたのだ。しかし物量で勝る敵国に、じわりじわりと戦況は悪化していった。現在は本土決戦もかくや、とばかりに押し込まれてしまっている。カイムは傭兵としてこの戦争に参加していた。歴戦の戦士であるカムイはその技量を買われ国防の要である、本土の目と鼻の先にある小島に派遣された。カムイには負け時、というのがなんとなくわかることがある。長い傭兵経験から得た嬉しくない産物といったところだ。____この戦はまさにその負け戦になる、なっていることを既にカムイは悟っていた。どこから間違ったのか、大敗したあの戦か、それより前の戦か、___それとも戦争を開始した時点か。
「ううっ、いてぇよぉ…」
ふと聞いたことのある声がした。ジュザだった。病気で働くこともままならぬはずの 彼がなぜここにいるのか、理由はすぐに分かった。―彼は捕まったのだ。国家に反逆するかもしれない犯罪人、その予備軍として。逮捕され反逆罪に問われるものの末路は、等しく前線に送られることだった。戦果を挙げてくれれば十分、目的は死ぬことにあるのだから。
はたして目的は達成された。ジュザは内臓を撃ち抜かれている。戦場を渡り歩いてきたカイムには分かる、致命傷だ。病弱の彼が、奇跡的に復活するとも思えず、また軍も彼に十分な治療を施さないだろう。
「大丈夫か、ジュザ」
分かっていてもそんな声をかけてしまう。
「あ、あんたは」
ジュザがかすれた声で反応する。呼吸をするのも苦しいのだろう、声も途切れ途切れだ。ジュザは続ける。
「お、俺はもう死んじまう。いてぇよぉ…いてぇよぉ…」
半ば嗚咽のようになりつつもジュザは話し続ける。
「俺は反逆罪で捕まってここに送られた。それでこんなザマだ。あたり前だよな、軍役もまともにこなせずお役御免にされたんだぜ。そりゃいくら戦況がまずいからってよ、まともな働きができるわきゃねぇ、こうなるのも当然だ…」
「なぁカイム。なんで国を真剣に憂う俺がいきなり反逆罪だとかいって捕まってよ、こんな最前線に送られなきゃいけないんだ?俺は反逆なんてするつもりもなければよっぽど愛国者だってのにさ…」
カイムは答えなかった。
「____いやごめん。いきなりあんたに聞いたってわかるわけないよな。」
きっとジュザも頭の中ではわかっているのだろう。―生き急ぎ過ぎたのだ、国もジュザも。そして生き急ぎ過ぎたかどうかがわかるのは、死ぬ時しかないのだと。
「____この国はじき負ける。」
ジュザはぽつりこぼした。
「生まれ変わったこの国がどういう未来を描くのか、分かったら教えてくださいね。天国で先に待ってますから。また会った時はおいしいコーヒーでも飲みつつじっくり語りましょう。」
天国なら僕も元気に何時間でも語れますよ。笑いながらジュザは口にする。顔色が悪い、もう長くはないのだろう。
分かった。カイムは頷く。約束ですからね、絶対ですよ。ジュザはそう言ったきり目を開くことはなかった。
「何をしているカイム!さっさと撤退するぞ!ここはもうだめだ!」
指揮官のがなる声がする。この前線ももうだめらしい。本土での決戦をするのだろうか、その前に降伏するのか。まだ分からないがこの国は確実に敗北するだろう。カイムは指揮官の下に足を急がせた。
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戦争は敗北に終わった。この国は帝国の支配の下政治制度を一新、数十年をかけて先進国と肩を並べるまでに繁栄している。この国の今を見たらジュザはどう思うだろうな、ふとカイムは愛国心溢れた青年を思い出す。病に侵されながらも才気にあふれ、真剣に国のことを考える青年だった。かつての侵略精神を忘れたかのように人々には笑顔があふれ、誰もが自分のやりたいことをやりたいようにできる社会がそこにはある。
ジュザとの約束は果たせそうにないな、カイムは今更ながら罪悪感を覚える。けれどもジュザはいつまでも待ってくれているだろう。あの情熱溢れる目を抱いたまま。
もしいつか、会える日が来たら熱いコーヒーでも交わしながら存分に話したいものだ____
カイムは明朝にもこの国を出る。平和な国に自分の居場所はないからだ。
願わくはこの国に二度と訪れることがないことを____。
カイムはまた次の戦場を求めて店をあとにした。