光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ウィリアム・スミス

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愛用の紀行録 2─3

 24階層のエーテライトに転移したルララは早速素材の採集に乗り出した。

 ちなみにテレポ代は徴収されなかった。どうやらこのエーテライトはギルドの管轄外らしい。使い放題とはラッキーだ。

 料金が発生しない代わりなのだろうか、ルララを待ち受けていたのは大量のモンスター達だった。

 モンスター達はエーテライトから溢れてくる液体を美味しそうに啜っている。久々の食事なのだろうか、必死になって啜っている姿はなんだか微笑ましい。

 邪魔しちゃ可哀想なので、さっさとその場から離れることにする。

 エーテライトから離れると、アーマリーチェストから園芸道具を取り出し園芸師に着替える。

 ダンジョンでは出現するモンスターと、採集できる素材は大体同じくらいのレベルになるようだ。

 なので、必要になりそうな素材が採れるのは、Lv.4相応のモンスターが出現し始める36階層以降になる。ここよりもさらに下の階層になるので、さっさと進んでしまおう。

 36階層に着くまでの道中、立ち寄った各階層の『食料庫の広場』では、24階層と同じくエーテライトがあった。また、それを守るようにモンスターも同じく出現した。

 オラリオで転移魔法が発展していないのは、こいつ等のせいかもしれない。まあ、重要な施設にモンスターが出るのは、お約束というやつだ。先を急いでいるのでさくっとやっつける。

 不思議な事だが出てくるモンスターは全てドラゴン族で、見覚えのあるやつばかりだった。

 名称も『なんとか・シャドー』とか『ほにゃらら・レプリカ』だとかで、彼等を強く連想された。使ってくる攻撃も殆ど同じだ。まあ、お陰で楽勝だったが。

 しかし、エオルゼアから遠く離れているであろうこの地で、こうもそっくりなモンスター達を見かけると、少し怪しさを覚えてしまう。

 それでも、着々と広がっていくエーテライト網には笑みを零さずにはいられなかった。誰もいないダンジョンで、マップを見ながらほくそ笑むルララこそ誰よりも怪しい存在だった。

 まあ、ルララのこの笑みもしょうがないというものだ。

 なにせ、クエスト消化とダンジョンでの行き帰りに時間を取られていて、碌に探索も進んでいなかったのだ。これで効率良く探索が可能となれば、笑みが溢れるのも致し方無い。

 未知や刻限、伝説などの特殊な採集所の場所や時間の特定は、今後の事も考えると急務なので嬉しさはひとしおだ。流石に伝説の採集所は、この土地の伝承録を持っていないので期待できないが、それでも探す価値は十分にある。

 

 

 

 *

 

 

 

 そうこうしている内に36階層に着いた。

 この付近の探索は殆ど進んでいないが、園芸師のスキル『トライアングレート』と『アーバーコールⅠ・Ⅱ』によって採集場所はすぐに見つけることができた。良質の採集所や、最も近い採集所の位置を知ることのできるこのスキルは、採集職をする上で必須スキルだ。

 粗皮などのモンスター素材も、そこら辺にいるモンスターを適当に狩ることで簡単に集められた。

 モンスター達は無駄に固まっている事が多いし、幾ら狩っても次々に湧いてくるから尽きることはない。まさに獲り放題だ。 

 この階層までくると、あまり冒険者も来ないのか取り合いも起きなかった。

 確かにエーテライト無しでここまで来るのは骨が折れるし、移動時間なども考えるとあまり旨味がない気がする。それも、オラリオの素材が高騰する理由だろう。

 現にルララもエーテライトを見つけるまでは敬遠していた。まあ、お陰で今となっては楽に集めることができるのたが。

 モンスターの取り合いは、時に血みどろの争いになる事がある。エオルゼアでもよく見かけた。

 懐かしい……生れ出でた途端一瞬で狩られるカラクール。フリースが大量に必要になると分かって、血眼になって必死に追いかけたものだ。あの時はリテイナーもタダの荷物番で、自力で集めなくてはならなかったのだ。

 オラリオのダンジョンはエオルゼアでいうダンジョンよりかは、どちらかというとフィールドに近かった。

 エーテライトや採集場所もあるし、モンスターもダンジョンモンスターというよりはフィールドモンスターに近い性質をもっている。

 ダンジョンモンスターはレベル差がどんなにあっても問答無用で襲い掛かってくるし、何処までも追いかけてくるが、オラリオのモンスターはレベル差があるとアクティブモンスターでも襲ってこない。

 何処までも追いかけてくるという点は一緒だが、モンスター達は他パーティーになすりつけることができるみたいだ。怪物進呈(モンスターパレード)なんて言うらしい。

 折角取ったヘイトを他人に渡すなんて、なんの意味があるのか分からないが、兎に角そういったテクニックも存在する様だ。多分、無茶なまとめをした時に、そういった事をするのだろう。身の丈以上のまとめをして死にかけたなら、大人しく死んでいればいいものを、迷惑な話だ。

 そして、今ルララの目の前にいる階層主──ウダイオスもエオルゼア的に言うとモブに近い性質を持っているみたいだ。

 一度倒されてから一定周期を待たないと再出現しないところ何てそっくりといえる。

 特殊な出現条件が無いことから多分Aモブなのだろうが、強さ的にはF.A.T.E.ボスの方がより近い感じだ。そこら辺の細々とした違いは結構あった。

 下半身が地中に埋もれた巨大なスケルトンのウダイオスはやる気満々でルララを待ち構えている。希望に応え、早速戦闘に入る。

 ウダイオスが持つドでかい剣の剣戟を、軽く往なし、掻い潜りながら後ろに回り込む。

 ウダイオスは下半身が埋まってしまっているからだろうか、背面に回ると全く攻撃がこなかった。

 誰もいない場所を目掛けて、虚しく攻撃し続けるウダイオスさん。あまりにも哀れなので、さっさと片付ける事にする。

 ルララはむき出しになった弱点──淡く輝く魔石──に一撃を喰らわせると、魔石は粉々になってウダイオスは煙のように消えた。

 呆気無い、こうまで弱点がむき出しで分かり易いと、彼の今後が心配になる。

 近い将来、『ウダイオスさくっと周回。理解者のみ』なんて募集が乱立してしまわないだろうか? まあ、得られるアイテムは大したこと無いのでそんな事はないだろうが。

 ウダイオスを倒した後には、彼が使っていた大剣が残されていた。名前はそのまんまで『ウダイオスの黒剣』だ。他にも『ウダイオスの黒斧』とか『ウダイオスの黒杖』とかあるのだろうか? 意外に多彩なやつなのかもしれない。

 超える力により見えるILは38で、この37階層でとれる武器としてはそこそこだが、ルララが()()()()()()()と断じた原因がステータス欄にあった。

 何も、何も無いのだ。本来であれば、そこには装備時にどれだけステータスが上昇するか記載されているはずなのに、何も記載されていなかった。

 武器性能こそIL相応だが、これでは不良品も良いところだ。ミラプリ専用かな? でもあまりパットしない見た目だ。うーん、要らないなぁ。

 ルララは迷いなく鍛冶師の分解スキルで『ウダイオスの黒剣』を分解する。

 分解により得られたのは『ウダイオスの骨片』だった。使い道は特に無いから後でト、トリ……道具屋に売りに行こう。うん、きっと喜んでくれるはずだ。

 さて、では採集作業を再開しよう。

 

 

 

 *

 

 

 

 必要となる素材は36階層から48階層の間で大体集めきった。

 これまでの感じから言って、大体12階層ごとにベースとなるLv.が上がるみたいだ。

 この調子でいくと、アダマン鉱などの高レベル素材は、単純計算で82階層辺りから採集できるようになるはずだ。先は長い。道理で素材が高くなる訳だ。

 今の階層は48階層なので目的地までは、後、半分ぐらいになる。

 いい加減広くなってきたダンジョン内を、徒歩で歩くのがかなり億劫になってきたので、こっそりマウントを出してみる。

 都市内ではギルドの目があってできなかったが、ダンジョン内にはギルドの監視はない。言ってしまえば無法地帯で、やりたい放題し放題だった。

 呼び出すタイプの生体系マウントは、残念ながらオラリオに転移してきた時に離れ離れになってしまったが、魔導アーマーなどの非生体系マウントの方は、ガレマール帝国やガーロンド・アイアンワークス、そして悪名高き古代アラグ帝国、科学者集団『青の手』の脅威の科学力などによって、極小サイズにまで縮小されていたので未だルララの傍にあった。

 少し思案し、小さくなったマウント──騎乗システムを起動する。

 何度も何度も苦しめられた忌まわしき球体そっくりのマウントだが、それだけに手に入れた時の感動もひとしおだった。

 何人もの冒険者を血祭りにあげた末に、ようやく手に入る事もあって、ルララのお気に入りマウントの一つだ。

 マウントには、特に問題なく乗ることができた。生憎、風脈のコンパスはうんともすんともしないので風脈の泉は無いらしい。残念、飛べたらさらに色々と捗るのに。

 起動した騎乗システムに乗りかかると、ちゃっちゃと進んでいく。脳裏に流れるBGMはちょっとノスタルジーでアンニュイな感じだが、周りに『低圧電流』を撒き散らしながらノリノリで進んでいく。その勢いで49階層の片目の巨人族──バロールを打ち倒すと、50階層へと乗り込んでいった。

 そしてルララは、()()に来た意味と、そして決別した過去の因縁その残滓と遭遇する。

 彼女の迷宮冒険譚(ダンジョン・オラトリア)はここから始まる。

 

 


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