光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ウィリアム・スミス

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愛用の紀行録 2─5

 エオルゼアの装備品にはステータスボーナスというものがある。

 この防具を装備するとSTRが10上がるとか、VITが5上がるとかそういったのだ。

 エオルゼアに存在する装備群の殆どが、そういったステータスを上昇させるボーナスを持っている。無いのは極々一部の例外だけだ。戦闘用じゃないおしゃれ装備や、今、ルララが着ている種族装備なんかがそうだ。

 このステータスボーナスを巡って冒険者は日夜、様々なクエストやコンテンツに命懸けで臨んでいる。

 中にはたった1のステータスボーナスの為に、何万ギルもかける冒険者だっている。ルララも、まあ、その中の一人だ。

 冒険者にとって、それほどステータスボーナスというのは重要なのだ。ほんの僅かなボーナスの差で、常日頃一喜一憂している。

 でも、それはエオルゼアでの話だ。オラリオでは違うみたいだ。

 なんとなく薄々感づいてはいたが、オラリオで取引されている装備品には、一切ステータスボーナスが付与されていない。あるのは基本性能や、防御力などだけだ。

 最初は、展示品だから複製品(レプリカ)なのだと思っていた。だから、ボーナスが付いていないのだと考えていた。

 見かけた冒険者達の装備を見ても、『そんな装備で大丈夫か?』と思うだけで特に気にはかけなかった。

 おかしいと思い始めたのは、でかいスケルトンから手に入れた黒剣を見てからだ。

 ILもそこそこあるし、おしゃれ用には見えない。なのにステータスボーナスがない。ちょっと異常だった。

 確信に変わったのは、更に下層で手に入れた『デスペレート』を道具屋で売ろうとした時だ。

 あろうことか『こんな高価な武器買い取れません』と言われて店長から突き返されてしまったのだ。

 売れなかったことは、まあ、良い。売却不可なアイテムなんてざらにあることだし、特に装備品はその傾向が強い。だから別に良い、気にしていない。

 ルララが衝撃を受けたのは店長──確かアスフィといったはずだ、覚えておこう──が言った言葉だ。

()()()()()()()()』……確かに、アスフィはそう言った。

 この、デスペレート──例によって例の如くステータスボーナスが全く付与されていない──を前にして、あのアダマン鉱を百万ヴァリスで買い取るほどの資金力を持つ道具屋が、()()()()()買い取れないと言ったのだ。メテオが降ってきて新生するぐらい衝撃を受けた。

 驚きを隠せないルララに、アスフィはこの『デスペレート』について簡単に教えてくれた。

 曰く、この武器は、第一等級武装で特殊武装(スペリオルズ)で、かの剣姫も愛用している武器だそうだ。どれも聞き覚えのない言葉であるが、兎に角凄いことらしい。

 

「その武器は剣姫アイズ・ヴァレンシュタインが愛用しているものです。まさか貴方盗んできたのですか?」

 

 アスフィから他人の武器を盗んできたのかと問いつめられた。

 これを手に入れた時、近くに蛇の死体はあっても女の死体はなかったし、間違っても誰かから奪ったものではない。

 なので、素直に拾ったものだと主張すると「……そうですか」と言いそれ以上の追求はなかった。

 まあ、見た目がそっくりな装備なんて幾らでもあるし、間違えてしまうのは仕方のない事だ。気にしていないから、そんなに怯えた顔をしないで欲しい。

 今度はルララからアスフィに問いかける。

 

「……ステイタスの向上ですか? いえ、そんな事、聞いたこともありませんが?」

 

 そんな事、聞いたこともないのか。所が変われば品変わると言うが、まさかこれほどだったとは。

 思うに、調理品と同様で、クリスタルを利用した製作法がまだ確立していないのだろう。

 冒険者が大した施設もなく、道端で、主道具と副道具だけで製作が出来るのはクリスタルのお陰だ。

 これまで、ルララは“それだけ”がクリスタルを使用する理由だと思っていたが、その他にも、クリスタルは製作品のボーナスにも関係していたということだったのだろう。

 まあ、クリスタルを使用しない製作法を知らないので、あくまでも予想だが。

 オラリオでクリスタルに相当するものといったら、やはり魔石になるだろう。

 オラリオは世界でも有数の魔石産出地で、魔石製品のメッカらしい。だから魔石を利用した装備品もあっても良さそうなものだが……本当なんでないのだろう? 謎だ。

 少し悶々としていると、ちょっと思い当たる事があった。魔石には属性がないのだ。

 クリスタルはエーテルの結晶だ、それは魔石も変わらないだろう。

 でも、クリスタルはその“場”の性質に影響されて様々な属性を得るが、魔石にはそれがない。

 無属性クリスタルとでもいえば良いだろうか、確かにそれならエオルゼアにもあった。

 製作時のクリスタルとしては使えなくて、エーテリアルホイール──簡単にいえば日常生活をちょっと便利にしてくれる代物だ──を作るのに必要になる。そう考えると、オラリオの魔石とそっくりじゃないか。

 恐らく、オラリオで採れるのはその無属性クリスタルばかりなのだろう。

 モンスターの内部にあるから属性が得られないということなのか。あれ? でも、火属性モンスターとかだったら属性付きの魔石が採れそうなものだけど……やっぱり違うのかな? うーむ、分からん。

 そういえば、魔石が採れるのもモンスターからだけだった。適当に壁を掘ったら、採れそうなものなのだが。

 エオルゼアじゃそこら辺から無尽蔵に採れるし、魚ですら分解したらクリスタルが手に入る。オラリオのエーテル不足が心配される。

 いや、結構真剣にやばい気がする。

 星の血とも言えるエーテルの結晶がモンスターからしか採れないというのは些かやばくないか? それもオラリオは世界有数の魔石産出地だ、これ以上の土地は滅多に無いのだろう。()()()()がこの程度ってこの()は大丈夫なのだろうか。

 それともエオルゼアが異常なだけなのだろうか……あー、なんだかそっちの方が有り得そうだ。

 だから、エオルゼアは『神々に愛されし土地』なんて言われているのかもしれない。道理で色々な勢力に狙われるはずだ。うん納得、納得。

 なにか、とても大事な事をスルーした気がするが、まあ、必要になったら思い出すだろう。

 そうして、ルララは『デスペレート』をかばんにしまうと、『トリスメギストスの道具屋』──長ったらしくて中々覚えられない──を後にした。

 取り敢えず“コイツ”は予定通りアンナにプレゼントしよう。凄い人が愛用しているのと同じものらしいからきっと喜ぶだろう。

 

 

 

 *

 

 

 

 ルララは丹精──12ターンぐらいだ──籠めて制作した『アダマンナックル』と『シバルリー・ストライカーコート』そしてクリソライトとシトリンのアクセサリー、そして適当に作ったIL30台の装備を持ってリチャードの控室に来ていた。

 道中、何人か警備員がいたが忍者の『かくれる』のスキル……ではなくて、ギャザラーの『ステルス』のスキルで難なく突破した。

 潜入するなら『かくれる』よりも『ステルス』の方がぶっちゃけ便利だ。エモートしても解除されないし、スプリントしても解除されないからな。

 隠密ジョブの名が泣きそうだが、昨今の忍びは、忍ばないのが忍びというのが流行なので大丈夫だろう。忍者のソウルクリスタルはちょっぴり湿っぽいが、まあ、気のせいだ。

 リチャードは思っていた通り、凄くお洒落な装備を着ていた。まさにおしゃれ装備ってやつだ。もちろん武器なんて持っているはずがない。こいつ死にたいのかな?

 そんな事を思っているとリチャードから、コイツまじで死ぬんじゃないのか? と思わせるような話をされた。ルララさん、そんな話されてもどうすることもできないのですが。

 ぐうの音も出ない程の話だったので、取り敢えず微笑んでおく。救出された時、持っていたのが生首じゃなくて何よりだ。

 何事も笑っていればなんとかなるのだ。ほら、笑う門には福来たるって言うし。かくいうリチャードも笑っている。

 物凄く気まずい雰囲気なので、さっさと装備を渡してしまう事にする。リチャードもさっきからニヤニヤしていてすぐにでも奇行に走りそうだし、さっさと済ませたい。

 装備品を渡すとリチャードは疑りながらも装備した。いや、装備出来た。装備制限がある装備をだ。思っていた通りだ。

 ルララは、時折見かけていたのだ、明らかに装備可能レベルに至っていないのにその装備をしている冒険者達を。

 そして思ったのだ『この人達はもしかしたら、装備制限を無視して装備出来るのかもしれない』と。

 加護(ファルナ)か、この土地の人間の特徴なのか、はたまた別の要因かは分からないが、兎に角そんな現象が起きていた。

 これは、ルララにとって都合の良いことだ。これで、『大迷宮バハムート』の攻略がかなり有利に進められる。ILの暴力は伊達じゃないのだ。

 問題はレベルと不釣り合い過ぎて、どんな不具合がでるか分からないことだが、それは、追々調べれば良いだろう。

 ルララはあの50階層以降の領域を『大迷宮バハムート』と名づけていた。まんまじゃないかとは言わないで欲しい。

 都合、四度目となる大迷宮バハムートの攻略は、差し詰め『大迷宮バハムート:復讐編』とでも呼ぼうか。“復讐”と“復習“を兼ねている中々のネーミングセンスだ。ネミングウェイ並だろう。

 思っていた通りに事が進んだことにより大笑いをするルララ。

 急激に上昇したステイタスに笑い声を上げるリチャードと合わさって、やばい雰囲気が形成されていた。彼等を止めるものは、何処にもいなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ひとしきり笑った後、ルララは控室を後にした。

 これでもう、リチャードは安心だろう。

 逆に笑いすぎて色々とヤバくなっていそうだったが、まあ、あの装備ならよっぽどの事が無い限り勝てるはずだ。所詮、アイアタルなど高ILの前では雑魚同然だ。

 控室から戻る途中『ステルス』をしていなかったせいか、警備員に呼び止められた。

 もう、既にやるべき事は終えていたので、特に抵抗もしないで出ていこうとしたが、どうやらこの警備員、何か勘違いをしているらしい。ルララの事を団員だと思ったのか、手伝いをお願いしてきた。ふむ、そういう事ならお任せ下さい。

 どうやら、彼女は祭りの裏方を仕切る班長らしい。

 なんでも、運ばれてくるはずのモンスター達が、中々運ばれて来ないので様子を見てきて欲しいそうだ。できれば自分が行きたいそうだが、かなり忙しいらしく手が離せないらしい。

 そう早口で捲し立てる『忙しそうな班長』は、確かに凄く忙しそうだ。

 オッケー任せて、行ってきます。

 

「あれ? 班長、あんな子ウチの団員にいましたっけ?」

「ああ? ……んー、まあ、そんなこといいからお前は上の奴らに伝えてこい! もうすぐモンスターが来るってな!」

「は、はいいい」

 

 

 

 *

 

 

 

 赤いクエストマークに辿り着くと、そこは闘技場の地下だった。

 薄暗く怪しい雰囲気がぷんぷんする地下室の中に入る前に、念の為戦闘職に着替える。

 暫く待って地下室へと入っていく。

 地下室には大小中の檻が設けられている、どうやらモンスター用の檻のようだ。

 だが、モンスターが入っている割には随分と静かだった。ふむふむ、流石に既に調教済みという訳か。

 薄闇の中を進んでいると『へたり込んでいる男』を見つけた。近づいて『救助』するが「ぁう……ぁ」としか言わない。寝ているようだ。こんな所で寝るなんてだらしのない男だ。

 他にも三人、同じ状況になっていた。どうやら、揃いも揃ってさぼっていたらしい。全く、こんな暗い所にいるから居眠りをしたくなってしまうのだ。

 更に奥へと進んでいくと、今度は抱き合っている男女を発見した。

 丁度、男が後ろから女を抱きしめる形になっている。こんな所で盛るとはいい度胸だ。

 なぜ、みんな寝ているのだろうかと思ったが、恐らくこの二人に一服盛られたのだろう。

 幾ら二人きりになりたいからといって、やって良いことと悪いことがある。一言二言文句を言ってやろうと近づくと……あ! 男はよく見るとこの間のアシエン(仮)じゃないか。なら敵だ、間違いない。女の方は囚われていただけのようだ。

 迷いなくアシエン(仮)に『トマホーク』をぶつけると、ヤツは地下室の奥に吹っ飛んでいった。あー、それはもう見た、何度もやらなくていい。お前の“それ”は見飽きた。

 崩れ落ちた女を守るように立ち、油断なく構える。アシエンは神出鬼没だ、どうせワープか何かで移動してくるに違いない。

 案の定、何事か言いながらアシエン(仮)は再び姿を現した。

 いちいち敵の言葉に聞く耳を貸すほど暇じゃないので、その台詞に被せるように今度は『ヘヴィスウィング』を喰らわせる。

 再度吹っ飛んでいくアシエン(仮)。どうやらそういったギミックの様だ。コンボが思うように出せなくてイライラする。流石アシエン(仮)汚い。

 この隙に『原初の直感』を使用する。これで一つ。

 またもや出現したアシエン(仮)に今度は『メイム』を繰り出す。

『メイム』の効果により、ルララの与ダメージが20%上昇する。これで二つ。

 吹っ飛んでいったアシエン(仮)が戻って来る前に下準備として『ヴェンジェンス』を使う。これで三つ。

 再度戻ってきたアシエン(仮)に仕上げの『シュトルムブレハ』をお見舞いする。斬耐性を20%減少させる効果がアシエン(仮)に付与される。これで四つ

 再びアシエン(仮)が戻ってくる前に『バーサク』を使用する。自身の与ダメージを50%上昇させる悪夢の様なこのスキルは、『戦士』の象徴とも呼べるスキルだ。これで五つ。さあ、準備はできた。

 懲りずに舞い戻ってきたアシエン(仮)に無慈悲の鉄斧を与える。

『フェルクリーヴ』

 もうお馴染みとなった『戦士』最大最強の攻撃スキルだ。

 鈍い回転音が地下室中に響き渡り、極限にまで高められた攻撃に大ダメージを受けるアシエン(仮)。

 そのまま再び吹っ飛んで行きそうになるアシエン(仮)を、強引に『ホルムギャング』で繋ぎ止める。どこへ行こうというのかね、どこにも逃げられはせんよ。

 最後のダメ押しに『ウォークライ』で一気に溜めた『アバンドンⅤ』を消費して、再び『フェルクリーヴ』をぶちかます。こっそり『マーシストローク』をするもの忘れない。んん、気持ち良い!!

 そこまでやってアシエン(仮)は断末魔を上げて消滅した。初めてですよ、私に『フェルクリーヴ』を二回、撃たせたのは。

 生憎、ここには『白聖石』が無いので完全に消滅させることは出来ないが、それでもかなり消耗したはずだ。これで、当面は大人しくしているだろう。

 

 

 

 *

 

 

 

 襲われそうになっていた女の人は、女神様だった。比喩ではなくて本物の女神様だ。そういえば、見るのはこれが初めてな気がする。

 一見、普通のヒューランの様にしか見えないが、腕に嵌められていた拘束具を解除すると、成る程、『蛮神』に近い気配を発する様になった。確かに神様みたいだ。

 

「あ、ありがとう、助かったわ」

 

 そう、おずおずと言う神様は『フレイヤ』と言うらしい。

 銀色の髪に銀色の瞳はエオルゼアでも中々見ない容姿で、なんとなく、イゼルを連想させられた。丁度、彼女も『蛮神』になれたしそっくりだ。懐かしいな。

 かつての旅の仲間を思い出し、少し侘びしくなる。

 フレイヤの服装は地下に来ている割には薄着だ。まったく、そんな格好しているからアシエン(仮)なんぞに襲われるのだ。

 

「……貴方も『魅了』されないのね」

 

 フレイヤは唐突にそんな事を聞いてきた。

 そんな事を聞くだなんて、私に気があるのだろうか? もしや、助けてくれたから惚れてしまったとか? 

 だが生憎、同性愛は趣味ではないのだ。見るのはいいが、やるのはご遠慮したい。

 元々、恋愛自体にあんまり興味が無いのだ。エターナルバンドにはちょっと興味あるが……二人乗りのチョコボって便利だよね。

 それに、『魅了』したいのであれば、こう、何というかこう……そう、髭、髭が足りない! 玉葱の様な立派なお髭が足りないのだ。あるいは異空間の様に暗いスカートの中身が足りない。あの中には何があるんだろう? という無限の可能性が足りない!

 それ無しで、『魅了』しようとするのは難しいというものだ。

 ルララはかつて戦った、たいそう立派なお髭を持つ『蛮神ラムウ』ちゃまを思い出した。ああ、なんという立派なお髭、流石キャベツの親玉である。ん、セイレーン? 知りませんね。

 そういえば、フレイヤも『蛮神』に近しい存在だ。やっぱり倒したら武器をドロップするのだろうか? 例えばソード・オブ・フレイヤとか。興味ある。

 ドンナ武器ヲ落トスノダロウ?

 

「ッッッ!!?」

 

 突然、圧倒的な恐怖心がフレイヤを襲った。指先までガタガタ震え。口の中が乾き切り。目の奥が熱くなる。

 ……どうやら、フレイヤは、相当アシエン(仮)に襲われたのが怖かったようだ。

 今更ながらに恐怖心が出てきたのだろう、女神様は生まれたての子鹿の様にガタガタと震え初めてしまった。もう、そんなに脅えなくていいんですよ?

 

「ヒッ!? こ、来ないで!!」

 

 安心させるために近づこうとするも、逆効果だったようだ。更に脅えさせてしまった。

 暗闇で襲われたものだから、近づくもの全てが怖いのだろう。さもありなん。大人しく引き下がることにする。ちょっと傷ついたのは内緒だ。

 

「ご、ごめんなさいね……その、と、突然だったから、驚いてしまったのよ。えっと、気を悪くしないで」

 

 まだ、震えている声でフレイヤは言った。本当に申し訳無さそうだ。逆に罪悪感を覚えてしまう。いいのよ。許してあげる。

 優しく微笑みながら、別に気にしていないことを伝える。

 

「そ、そう……それは良かったわ。……ああ! いい! いいわ! 自分で立てるから!!」

 

 未だ立ち上がれないフレイヤを、助け起こそうとしたら全力で遠慮されてしまった。ララフェルだからといって力が弱い訳ではないのに。STR6の差なんて誤差ですよ誤差。

 意外と元気に立ち上がるフレイヤ。その動きはかなり俊敏で、もう特に心配は無さそうだ。

 

「それじゃあ、私はもう行くわ。助けてくれてありがとう」

 

 そう言いつつフレイヤは地下室から出て行ってしまった。よっぽど急ぎの用事があったようだ。

 移動しながら別れの挨拶をするなんて……トイレかな? ふむふむ、神様はトイレに行くのだな。冒険者は……どうだったけ? はて、忘れた。

 良くあるクエストと同じく、一緒に行動しないで先に行ってしまったフレイヤ。どうせなら一緒に来ればいいのに。連れない神様である。

 しかし中々に愉快な神様だ。こんな地下室にいた事からして、結構お茶目さんなのだろう。表情もころころ変わって愛嬌豊かだった。また会ってみたいものである。その時は是非、ナニヲドロップスルノカ教エテ欲シイ。

 ……さて、もう、ここには用がない。さっさと依頼主の『忙しそうな班長』に報告するとしよう。

 そう考えるとルララも地下室を後にした。

『忙しそうな班長』には、変なおっさんに皆眠らされていたと報告する。

 それで起こしてきたのかと聞かれ、首を横に振ると、『だったら起こしてきて』と言われた。まさかの二度手間である。

 心なしか『忙しそうな班長』が、“あの人”の様に見えた。

 

 

 

 *

 

 

 

 ダンジョンの奥深く誰も知らない階層で、闇に包まれ蠢くめく者たちがいた。

 

仮面の男(あいつ)がやられたようだな……』

『ええ、でも所詮仮面の男(あいつ)は、私達、四天王の中でも……どうしましょうか?』

『……兎に角、今は大人しくしていよう。下手に刺激して勘ぐられでもしたら計劃が台無しになる。五年も待ったのだ、今更変更はご免だ。特に、あの冒険者は注意が必要だ。間違っても刺激するなよ? 仮面の男(あいつ)みたいに馬鹿な真似はするなよ? レヴィス』

『ええ、流石にあの戦いっぷりをみて、ちょっかい出そうなんて思わないわよ』

『しかし、あんな者がごろごろといるのだろう? 全くエオルゼアという所は恐ろしい所だな』

『そうだな、できれば一生関わりたくなかったが、まあ、それは向こうも同じことだろう』

『そうね、かの冒険者は、やりようによっては『敵』にも『味方』にもなるはずよ。あの冒険者のもつ()()はそういったもの、そうでしょ?』

『そうだ、あの()()を持つかの冒険者は、オラリオには決して受け入れられまい。そこを上手く利用すれば……』

『そうなれば、主様だけでなく、『光の戦士』も我々の味方というわけだな。フッ、向かうところ敵なしだな』

『そういうことだ、だからくれぐれも慎重に行動しろよ、オリヴェス』

『無論だ、ウィクトリクス。主の御心のままに』

『主様の御心のままに』

『竜神様の御心のままに』

 

 目覚めの時は近い。

 





 

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