光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ウィリアム・スミス

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レフィーヤ・ウィリディスの場合 5

 49階層までと50階層からとでは、最早異世界と言っても過言では無い程に様子が変化する。

 まあ、実際に異世界の文明により侵食されているので間違ってはいないのだが、それはレフィーヤ達が知る由もない事だ。

 

「侵食がだいぶ進んでいますね……」

 

 50階層に辿り着いたレフィーヤはそう呟いた。

 

「そうなんですか?」先頭を行くアンナがレフィーヤに聞く。

「はい、私が前に来た時はまだ露出していた部分が多かったはずですが、今では完全に覆われています……」

 

 前回50階層に来た時の光景は今でも鮮明に思い出すことができる。その時と比べ謎の幾何学模様の侵食は階層全域に至るまで進行していた。

 一体この幾何学模様の目的は何なのだろうか? もしこれがダンジョン内全域を覆ったら一体何が起きるのだろうか……。

 

 青白い輝きに満ちる階層内は、不気味な雰囲気を漂わしている。

 嫌な予感がひしひしと湧き上がってくる。

 一応この階層は安全領域ということになっているが、そんな事“あの”モンスター達には関係無いはずだ。

 

「気をつけて下さい。この階層からモンスターの強さが跳ね上がります。特に金属で出来た蜘蛛みたいなモンスターには注意して下さい」

「ですね……慎重に進んでいきましょう」

 

 レフィーヤの警告通り警戒レベルを最大限に上昇させてパーティーは進んでいく。

 

「……そういえば、皆さんはこの階層に来るのは初めてなんですね。転移魔法なんて便利なものがあるので何度も来たことがあるのかと思っていました……」

 

 警戒しつつもレフィーヤはパーティーに聞いた。49階層まで一気に転移できるのであれば、一度くらいこの階層に来たことがあってもおかしくは無いはずだ。

 レフィーヤの質問にはすぐ隣にいたリチャードが答えた。

 

「ああ、嬢ちゃんは一人で来たことがあるらしいが、俺達にはまだ早いみたいでな……この様子じゃその判断は正解だったと思うよ……」

 

 確かにその判断は正しい。碌な準備もなくこの階層に来るのは自殺行為と言っても良いだろう。それはレフィーヤが身を持って証明している。

 

「すみません……私のせいでこんな事に……」

 

 本来であればずっと後になるはずだった50階層以降の探索を、自分の都合で早めてしまったのだ、申し訳無さがこみ上げてくる。

 

「まあ、レフィーヤちゃんの件が無くてもいずれは来る予定だったんだ。それが少し早まっただけさ。気にすることないだろう。なあ? そうだろう? 嬢ちゃん」

【はい。お願いします】【気にしないでください】

「……ありがとうございます……」

 

 そうこうしていると先頭を行くアンナが静止した。

 パーティーの目の前には幾何学模様を描く大きな扉が広がっている。マップによればここから先が51階層への連絡通路だ。

 ここに来るまでモンスター達に襲われることは無かった。これは運が良いと思っていいのだろうか?

 

「さて、無事何事も無く連絡通路まで辿り着けた訳ですけど、ここで作戦タイムとしましょうか」

 

 パーティーを代表してアンナが音頭をとる。

 パーティーのメンバーは口々に了解の意を示す。

 

「異議なし!」「了解!」「わかりました」【わかりました。】

 

 パーティー全員の了解を得たらアンナは、一つ咳払いをして語りだした。

 

「ルララさんと、レフィーヤさんの証言では51階層からは本格的にモンスターが出現し始めます」

 

 恐らく、50階層にモンスターが出現するのはよっぽどのイレギュラーか、なにか目的がある場合だけなのだろう。

 その証拠にここまで戦闘は発生しなかったし、それはルララが来た時も同様だったらしい。レフィーヤの時だけが特別だったのだろう。その目的は……考えたくもない。

 

「出現するモンスターはルララさんの話ではLv.8クラスのモンスターの様です……この時点で頭がおかしいと思うのは私だけじゃないと思うのですがどうでしょう?」

 

 オラリオ最強の冒険者でもLv.7というのに、いきなりLv.8クラスとかぶっ飛び過ぎだ。

 その上、これより下層の領域にはそのLv.のモンスター達がうじゃうじゃいるらしい。マジか。

 もし万が一彼等が地上に現れでもしたら、ひとたまりもないだろう。

 

「レフィーヤさん達が来た時はどうしました?」

 

 この階層以降の経験があるのはレフィーヤとルララだけだ。取り敢えずアンナは参考になりそうなレフィーヤから意見を求めた。

 

「私達が来た時は、一体一体誘き寄せてから全員で総力を上げて攻撃しました。それでも相当苦戦したので、ルララさんが言ったLv.8クラスのモンスターというのは間違いないと思います」

 

 あの時の戦闘は、一戦一戦がまさに死闘だった。まるで神話の再現の様であった。

 七人いた第一級冒険者が死力を尽くし、総力を結集し、薬品を湯水の如く使用してようやく倒せたモンスターばかりだ。

 

 この戦いは後世にまで伝えられる英雄譚になる。今、私達は伝説の中にいる。

 そんな確信が持てる程の戦いだった……。

 だからこそ“あの時”退くに退けなくなってしまったのだが……。

 

 レフィーヤの話を聞いて一番顔色を悪くしたのはアンナだ……と思う。なんせ彼女、全身甲冑で顔が見えないし……。

 

「えっと、正直、Lv.3の私がタンクを務めるのはそろそろ限界だと思うのです。そこら辺どうでしょう? ルララさん……Lv.8相手にLv.3のタンクとか頭おかしいと思いませんか? 私、死んでしまいます!」

 

 タンク役を務めるアンナはそんな化物相手に正面切って攻撃を一身に受けなくてはならないのだ。

 Lv.1の差でも絶望的な性能差があると言われているのに、Lv.5も差があるなんて最早、夜空に輝く月に戦いを挑むのと同じだった。人はそれを無謀と言う。

 

 そんな必死なアンナの意見にルララは頷くと、どこからか大きなメッセージボードを取り出すと、何やら書きなぐり始めた。

 

 しばらく書きなぐって満足そうに頷くとそれをみんなに見せる。

 

 そのメッセージボードをじっと見つめたアンナは一度溜息をつくとエルザに向き合った。

 

「……はい! エルザ、なんて書いてあるんですか?」

 

 どうやら彼女には読めなかったようだ。というか甲冑内からだと見えたかどうかも怪しい。

 

「えーっとね! ふむふむ……ほうほう……うんうん……あーなるほど!」

 

 元気よく返事をして、エルザは早速解読に乗り出した。

 それをそっと覗き込むレフィーヤ。

 

「……あの、リチャードさん、私にはただのミミズがのたうち回った跡にしか見えないのですが……エルザさんには本当に読めているんですか?」

「まあ、エルザちゃんは唯一嬢ちゃんの文字を解読できる子だからな、きっと彼女達にしか分からないものがあるんだろう……俺にも良く分からん」

 

 ひそひそと会話をする二人。

 

「あれ? じゃあ、あの依頼票って誰が書いたんですか?」

 

 当然の疑問をレフィーヤは零した。あの依頼票の文字は汚かったがなんとか読むことは出来た。少なくとも文字であることは理解できた。

 

「それはエルザちゃんだ……代筆してあげたのさ……」

 

 遠い目をしながらリチャードは答えた。

 

「じゃ、じゃあルララさんに文字を教えているのは……」

「それもエルザちゃんだ」

「あー、だからですか……」

「ああ、だからだ……」

 

 それを聞いて妙に納得したレフィーヤであった。

 

「はい、はい、はいー! 終わったよー!」

「それで、何て書いてあるんですか?」

 

 急かすようにアンナが言った。

 

「それでは発表します! ずばり!! ルララちゃんが言いたいのは……」

 

 いつの間にか扉の前まで移動していたルララ。彼女が手を翳すと、ゆっくりと扉が開いていく。そして、自信満々な顔で振り向いた。その顔はこう言いたそうだ。

 

『後は私に任せろー!!』

 

「……だそうです! おー流石ルララちゃん頼りになるね!」

 

 ねー、ねー、ねー、ねー。

 

 エルザの言葉が階層中に木霊する……。

 しばしの静寂が周囲を包み込む……ああやってパーティーの面々は口を揃えて言った。

 

「「「おっし! 作戦タイム終了だ!」」」

 

 

 

 *

 

 

 

 51階層に降り立ち、徘徊するモンスター達を紙切れのごとく蹴散らして辿り着いたフロアに“そいつ“はいた。奴こそが……あのモンスターこそが、憎き大蛇──カドゥケウス──だ。

 

「……エルザさん、あの大蛇って、私にとっての仇敵だったんですよね……」

 

 レフィーヤは時折光り輝く床を()()()()様にしながら、直ぐ側で弓矢を射っているエルザに言った。理由は知らないが絶対に踏んではいけないらしい。理由は知らないが、駄目なのだ。深く考えてはいけない。

 レフィーヤの直感では踏んだほうが良い気がするがそれでも駄目なのだ。

 

「うん、そうだね……」

 

 絶えず攻撃しながらもそう答えるエルザ。だが彼女の努力虚しく攻撃は全く当たっていない。

 レフィーヤが声を掛けたのが原因ではない。ルララ曰く命中力が足らないらしい。命中力ってなんだ?

 

「ここに来るのにも、本当に多くの葛藤とか不安とか迷いとか色々あったんですよ……あ、床が光っていますね、移動しましょう」

「うん、そうだね……あ! 当たった! 今の見た? 当たったよ!」

 

 そう嬉しそうにエルザは言う。

 

 やりましたね、二十回くらいやってようやく一回ですから命中率5%とかですよ。

 95%当たらないって考えると意外と高いと思うかもしれませんが、成功率95%でも稀によく外すらしいですから、きっと、多分、稀によく当たるはずですよ!

 それにゼロでないのであれば結局は当たるか当たらないかの五分五分の勝負です! それなら50%です、やったね45%も増えたじゃないですか! 一体何言っているですかね、私は!

 

「……あの姿を見た時も身震いするほどの怒りとか、恐怖心とか、復讐心とか、そんな複雑でどうしようもない感情が湧き上がってきてですね……」

 

 あの大蛇に向けられていたドロドロとしたどす黒い感情も今ではすっかり収まってしまっている。ああ、一体何処に行ってしまったのだろうか……。次元の狭間にでも行ったのかな? 巡り巡って邪悪な大樹とかになっていなければいいんだけど……。

 

「そうだよね……あっ! 毒沼来たよ! 移動、移動」

「はいはい……それに、ここに来るまでの間に何度も何度もヤツとの戦いを夢想していました『必ず倒してやるんだ!』って……すっごい意気込んでいたんですよ? ……『アルクス・レイ』」

 

 そう言いながら、エルザに倣って魔法で攻撃してみるがちっとも当たらない。これじゃあ、打ち倒すどころの話ではない。下手な鉄砲を幾ら撃っても当たらなければ意味ないのだ。

 

「イメトレは重要だってリチャードさんも言ってたよ!」

 

 それは確かにそうなのだが、それにしたって当たらなくてはどうすることも出来な……あ、当たった。おー結構嬉しいものだ。

 ダメージの方は……まあ、当たっただけでも良しとしよう。

 

「でも、でも、流石に、これは……予想外ですよ!」

 

 遂に我慢できずにレフィーヤは叫んだ。

 

「エルザさん! この行き場のない私の感情はいったい何処にぶつければ良いんでしょうか! こんなのって! こんなのって! あんまりだよ!!」

「でも、あの戦いについて行けって言われても高度過ぎて無理だよ?」

 

 レフィーヤ達の前で繰り広げられている戦闘は、ある意味、高度過ぎる戦闘だった。少なくともレフィーヤにはそうだった。

 

 ルララが遠距離からひたすら魔法で攻撃して逃げまくる。

 

 言葉にすれば簡単だが、実際見るとなると何ともへんてこりんな光景だった。緊張感もクソもあったもんじゃない。

 ルララの後を追うカドゥケウスの後を、これまた必死に追いかけるリチャードとアンナがそれにより拍車をかけてくる。

 

 ルララは彼等にはカドゥケウスの後ろには絶対立つなと厳命していた。何故なのだろう、あの大蛇は殺し屋かなんかなのだろうか? それにしても、追いかけるのに後ろに立つなとは中々に無茶な要望だと思う。

 

「それは、そうなんですけど! これじゃあ、もう! 彼女一人でいいじゃないですか! 私達、完全にいらない子じゃないですか! これなら居ないほうがまだマシですよ!」

 

 この階層に来てから戦闘でまともに活躍したのはルララだけだ。

 レフィーヤがやった事といえば、さっき魔法を一回当てただけだ。後は絶対に踏むなと言われた光る床を踏まないように移動しているだけ。マジでそれだけ! レフィーヤちゃんマジ無能。やだー、てへぺろ。うるせぇ殺すぞ。

 

「で、でもほら攻撃当てたよ? 一回だけだけど……」

「一回だけですよ! たった一回! ルララさんなんてもう何十回と動きながら攻撃当ててますよ! 百発百中! それに彼女、ヒーラーなんですよ!? 最後尾に陣取っているはずの人が最前線で戦っているとか、あの人可笑しいんじゃないの!?」

 

 彼女の戦闘はもはや、ヒーラー? なにそれ美味しいの? 状態だった。

 

 ルララの戦闘は並行詠唱だとか高速詠唱だとかそんな次元を超越していた。

 確かに移動しながら詠唱する技術はあるにはあるが、あんな絶えず動き続けて行うなんてことは不可能だし、そんな状態で息をつく暇もなく魔法を撃ち続けるなんて、無茶苦茶もいいところだ。全く、彼女の精神力は底なしか!

 

 その他にも、タイタン・エギ以外の召喚獣を召喚したり、三種類の魔法を同時にそれも無詠唱で使ったり、背後に謎のドラゴンの幻影を降ろしたりとやりたい放題し放題だった。

 

 これでヒーラーとか、ハハハ、ワロス。いや、笑えねえよ巫山戯んな! こんなヒーラーいてたまるか! 魔法職舐めんな!

 

 まあ、実際に『召喚士』はヒールも出来るキャスターなので、ヒーラーという訳ではないからレフィーヤの主張はもっともなものなのだが、彼女がそれを知ることは永遠に無いだろう。

 むしろこの程度で怒っていては、真のヒーラーの性能を知ってしまった日には憤死してしまうに違いない。同じクラスだが本当のヒーラー職である『学者』とかなんて……。

 

 しかもルララは、明らかに三種類以上の魔法を使いこなしていた。レフィーヤがこれまでに見た限りでは、既に十種類以上の魔法を行使している。

 恩恵(ファルナ)のルールとか規則とか完全にシカトだ。なにそれありなの? あっていいの? 

 レフィーヤの知っている中でも最強の魔法使いであるリヴェリアでさえ、三種類の魔法を威力調整して九種類です、とかちょっと流石にそれは無理矢理過ぎでは? と思えるほど強引にかさ増ししているのに、それよりも多いとか、ハハハ、世の中って広いんですね。

 

「私、みなさんの戦い方を見て感動していたんですよ? 凄い連携だなぁって! 凄いなぁ、格好いいなぁ、憧れちゃうなぁって! 思ってたんですよ!? それがなんですか!? ぶち壊しじゃないですか!」

 

 ルララの戦闘は完全に連携とか協力とか無視したワンマンプレイで、力押しのゴリ押しプレイだった。

 ここに来るまで散々パーティープレイの重要性を見せつけておいて、これは無いよ! これじゃあパーティープレイ(笑)だよ! 何もかもぶち壊しだよ! 私の感動返してよ!

 

「おかしいなぁ、私もルララちゃんから散々“それを”教わったはずなんだけど……どうしてこうなった?」

 

 必死の形相でカドゥケウスに食らいついていくリチャードと、全身甲冑で顔が見えないがきっと同じ様な顔をしているであろうアンナはとても忙しそうだ。

 だが、レフィーヤとエルザはというと……。

 

「……暇ですね」

「……だね」

 

 そう、暇だった。

 遠距離攻撃が主体の彼女達はわざわざ絶えず動き続ける必要がないのだ。

 フロア中をぐるぐると大回りでマラソンしているルララ達をぼーっと見つめる。リチャードやアンナは肩から息をしているが、ルララは平然とした表情をしている。少しも疲れた素振りを見せない。彼女のスタミナは無尽蔵なのだろうか?

 

「……そういえばエルザさんは何でルララさんに協力を?」

 

 アンナはルララに生命を救われた、リチャードはルララに助けられた……じゃあ彼女は? そう思い疑問を投げかけてみた。

 

「ん? 私? 私は……『ギャアアアアアアアアア』

 

 だが、その言葉はカドゥケウスの断末魔によってレフィーヤに届くことはなかった。

 

 天を切り裂くような極光がカドゥケウスから立ち上り、それが止めとなったのか、力尽き、消滅していくカドゥケウス。

 いやーカドゥケウスさんは強敵でしたね! という顔をするルララ。いや、そんな風には全然見えなかったのだけど……。

 

 ああ、勝っちゃったよ……。

 勝ってしまったよ……。

 こんなにも呆気なく……。

 本当に、これで良かったのだろうか……。

 

 勝利というものはいつも虚しいものだというが、これほど虚しい勝利は他に無いだろう。

 

 レフィーヤの瞳から自然と涙が溢れてきた。

 だが、嬉しいのか、悲しいのか、よく分からない。とてつもなく複雑な感情が彼女の中で渦巻いていく。

 ただ、消えゆく大蛇がとても、とても憐れに思えてしまった。

 あれほど恨んだ怨敵だというのに同情してしまった。ああ、さようならカドゥケウスさん。キスしてグッバイしてあげる。

 

 レフィーヤは悟った、復讐なんてしても虚しいだけなのだと。

 復讐は憎しみしか生み出さないし、憎しみは悲しみしか生み出さない。そして、その後に残るのは、ぽっかりと心に空いた虚無感だけだ。

 

 その事を知って、レフィーヤはちょっぴり大人になった。

 こんな事で大人になんてなりたくもなかったがなってしまった。ああ、ヨヨさん、大人になるってこんなにも悲しいことなのね……。ヨヨさんって一体誰だ?

 出来れば永遠に子供でいたかった……さよなら、何も知らなかった愚かな私……こんにちは死んだ魚の様な目の私。この先が思いやられるわ。

 

 まあ、何にせよ、こうしてレフィーヤは憎き仇敵を討伐することに成功した。

 

 そう、一回は攻撃を当てたんだし、ファーストアタックを取ったのはパーティーのメンバーのルララだ。だから彼女も間違いなく討伐者の一員だ! そうだ! そう思うことにしよう! どんな形であれ勝利は勝利なのだ。おめでとう、レフィーヤちゃん、君も立派なカドゥケウスを屠りし者だ! そんなアチーブメント無いけどね!

 

 それに、レフィーヤの最大の目的はカドゥケウスの討伐ではない、ファミリアの仲間の救出だ。

 

 ここまで来てレフィーヤはようやくスタートラインに立ったのだ。ここからが彼女のスタートなのだ。だからここまでの過程や方法など、どうでも良いじゃないか。

 澄み渡る青空のような清々しい笑顔でレフィーヤはそう思った。

 

 

 

 *

 

 

 

 カドゥケウスを倒し、階層中を隅から隅までくまなく調べてみたが、生憎ファミリアの仲間達は見つからなかった。

 

「どうやらこの階層じゃないみたいですね……」

 

 レフィーヤは呟く。だが、その声に悲観の色はない。

 なぜならこれは想定済みの事だからだ。

 

 あの金属製のモンスター達は敵の殲滅ではなくて捕獲することを目的として行動していた。

 現にレフィーヤも後一歩という所で()()()()()()()()()。そう、殺すのではなく()()されそうになったのだ。

 彼等は彼等なりに何か目的があるのだろう。

 

 それならば、捕まえた獲物を捕らえておく場所があるはずだ。

 そして、その場所は逃げ出したり、救出しに来たりしたものを逃さないためにも、ここよりももっと奥の階層に作っているはずだ。

 それがレフィーヤの考えであった。

 

「ルララさん何か心当たりはありませんか?」

 

 ルララの話では彼女は61階層まで到達したことがあるらしい。軽く人類未到達領域に突っ込んでいるが、まあ、彼女ならやりかねないのでここはスルーだ。

 

 ルララは少し思案するとうんうんと頷いた。どうやら心当たりがあるらしい。

 

「心当たりがあるんですね? 何処ですか?」

 

 レフィーヤの質問にルララは手を差し出して答えた。彼女の右手は五本の指が大きく開かれ、左手の指は二本立てられている。

 一呼吸おいて、左手の指が二本から四本に増える。

 そこまでしてルララは手を下ろした。

 

「……5と2、そして4……。52階層と54階層ですか……」

 

 レフィーヤの言葉に肯定の意を示すルララ。

 確かに可能性としてはあり得る階層だ。

 

「それじゃあ、52階層から調べてみましょうか」

「まあ、それ一択だよな……」

 

 レフィーヤの言葉に同意を示すリチャード。

 

「問題は戦闘ですよね。さっきの大蛇みたいのがいた時の事も考えないと……と言っても結局ルララさん頼みになっちゃうんですけど……」

【気にしないでください】

 

 アンナの言葉通り52階層でも戦闘が予想される。それも51階層よりも激しい戦闘がだ。

 

 特にカドゥケウスクラスのモンスターがいた場合、まともに戦えるのはルララだけだ。

 ルララ自身は気にしないでと言ってくれているが、流石にいつまでも彼女に頼りっぱなしじゃパーティーメンバーとして立つ瀬がない。

 

 同じ魔法職で、位置取りも一番近いのはレフィーヤのはずなのだ。今は戦闘じゃまるで彼女の役に立てないが、戦闘以外でも何かできることがあるはずだ。それを必ず見つけてフォローして見せる……。果たしてルララにフォローが必要なのかというのは言わない約束だ。

 

「私も出来るだけフォローしますから頑張って下さい……」

 

 そういった決意を込めてレフィーヤはルララに言った。

 そんなレフィーヤの言葉に、ルララは一瞬きょとんとした顔をすると微笑んで頷いた。

 

 頷くルララから視線を外し、パーティー全員を見渡す。

 

「さて、では、行きましょうか」

 

 深淵のさらなる深淵へ、かつての仲間を救出するための“侵攻”が開始された。

 

 

 

 

 

 




 どんなに装備も整えても所詮彼女達はLv.3や2ですからね、仕方ないね!

 パーティーの面々は置いてきた、正直この戦いについてこれるとは思えない……でも偉業稼ぎの為に戦闘には強制参加です。

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