光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ウィリアム・スミス
極光が──蛮神バハムートのテラフレアが、世界を貪り、焼き尽くす。
星の中枢から放たれた竜神の閃光は、地を切り裂き、迷宮を粉砕し、摩天楼を消し去り、天を貫いた。
灰塵が舞い上がる中、かつて、天より降りし竜の神が、地より這いで生まれ出る。
生きとし生ける全てのものが、その咆哮を聞いた。
死にゆく死せる全てのものが、その脅威を感じた。
人の兵士も、神の戦士も、誰も彼もが戦いを止め、目を見開き、その竜の姿を見る。
世界に審判の時が来た。
想像を超えた異界の力が、理解を超えた竜の力が、世界に破壊の炎を撒き散らす。
太古の昔、希望に欺かれた竜の叫びが世界を揺るがしていく。
心を弄ばれた嘆きは世界を轟かし。
肉が腐り、魂が擦り切れようとも利用され続けた怨念は絶叫を上げ。
五千年の永きに渡る憎悪と怨嗟の想いを籠めて、メラシディアの竜神が世界を蹂躙する。
もはや世界は燃え盛る地獄と化し、地は砕け、空は焼け、命は噛み千切られた。
栄光は悲劇へと変わり、雄叫びは悲鳴へと変貌し、希望は絶望へと移り変わる。
世界が「死」で満たされていく。
恩恵も、希望も、願望も。
愛も、絆も、憎しみも。
文字も、絵も、音も。
この煉獄では意味を無くし、何にもならない。
世界にあまねく全てを飲み込んで、終焉をもたらすために竜と炎が疾走する。
現世は絶望という名の闇に堕ち、希望の灯火は輝きを失った。
老神は、瞳を閉じ問う。
この苦しみに意味はあるのか?
この嘆きに意味はあるのか?
この痛みに意味はあるのか?
疲れ果て倒れそうになっても、抗う意味はあるのか?
世界を救う意味はあるのか?
その
崩壊した都市で、大神が神座から立ち上がる。
喩え、己が心核が砕けようとも。
喩え、人の幻想が打ち砕かれようとも。
我が意思が輝き、我が意志が挫けていないのであれば。
己が使命を全うするため、我が存在が許されるのであれば。
この生命が燃え尽き消え去るその最期の瞬間まで、全身全霊全てを懸けて戦う意味は、確かにある!
ウラノスにエーテルが集中する。
それは神々を、蛮神バベルを形作っていたエーテルの残り香。
偽りの神が残した最後の幻想。
この為に
最も古き神に、残る全ての力を結集する為に──。
集束する力の波動を、竜神が察知する。
瞬間──放たれる暴虐の流星。
それを、青く光る障壁で受け止める。
しかし、神智を超えた竜の閃光の前に、神の障壁は脆くも砕け散り、崩れ去った。
圧倒的な竜の暴力に、老神は顔をしかめ暴君をにらめつけ、古き神の眼前に、竜の神が降臨する。
その場所は、かつて偽りの神があった場所。
蛮神バベルが顕現していた場所。
『人』と『神』の“罠”が残る、神の残滓に満ちる場所。
彼の使命を果たすには、絶好の場所。
異界より来たりし太古の竜神に、異界より来たりし叡智の結晶が注がれる。
それは、元々その為に造られた。
竜の神を捕らえるために。
異界の神を拘束するために。
その為に用意されたものだった。
オラリオに設置されていた拘束具が、その全能を発揮し、竜神を拘束する。
この時のために、これまで生きてきた。
この時のために、あの時、命を受けた。
この生と命は、今この瞬間、死ぬためにだけに与えられたのか?
──違うッ!──
この命は。
この使命は。
今この瞬間に、抗い、抵抗し、戦うために与えられたのだ!
竜神の周囲にエーテルが収束する。
怒り狂う荒神を鎮め、再び封印するために。
世界が目撃する。
それは──。
『象の仮面』
『戦乙女の側面像』
『道化師の肖像』
『双頭の蛇と杖』
『太陽と弓矢』
『娼婦の肢体』
『女戦士の闘姿』
『鎧と豪傑』
『星と天空』
──全ての神々を象徴する、神のファミリアのエンブレム。
紋章は旋回し、竜の蛮神を取り囲んでいく。
エーテルが煌めき、線を描き、姿を成し、幻想を紡いでいく。
消え行く人の幻想を。
終わり行く最後の神話を。
千年続いた神の写し身を。
今ここに顕現し、再び召喚する!
エーテルが塔の形となり、荒神を取り込み、神話を再現していく。
千年蓄積し、人に分け与えられ、鍛えあげられてきたエーテルの結晶は、強固な檻となり竜の神を捕らえる。
だが、蛮神バベルの召喚が完成する目前、突如として神の塔は膨張し破裂した。
千年かけて蓄えた神力も。
千年かけて鍛えた恩恵も。
五千年の憎悪と怨念を鎮める事は叶わなかった。
粉砕され、再びエーテルの粒子へと還った幻想をウラノスは見つめた。
こうなることは分かっていた。
神の力では『神』に勝てないと、そんな事はずっと昔に理解していた。
でも、それで良いのだ。
これで、消え去るべき幻想の使命は果たされた。
これで、終わるべき神話の最期の務めは遂行された。
千年続いた神の力を使い、僅かでも竜の神の力を削れれば、それだけで十分だった。
消え行く定めの神の幻が、後の人の世の礎となれればそれで──。
深い達成感と満足感の輝きに包まれる。
その中で、母なる生命へと虚ろいで行くウラノスは、最期の瞬間──深い微笑みを浮かべた。
「後は頼んだぞ、我が友、黒竜。そして……星の子達よ──」
使命を果たした老神の幻想もまた、星へと還った。
*
竜神が吼える。
勝利の雄叫びをあげるように、己の存在を示すように。
世界に竜の咆哮が轟く。
絶望で世界が赤く染まる。
神の塔が崩れ、再臨した幻想さえも打ち砕かれた光景を見て、人々は不可避の破滅を予感した。
この日、この世界は終焉し、もはや抗う術は無いのだと、そう絶望の中で悟ったのだ。
それを肯定するように、再び竜の咆哮が轟く。
それに呼応するかのように、今度は北の空から竜の遠吠えが響き渡った。
ややあって、北方より巨大な黒き竜と、それに付き従う様に竜の大群が出現する。
翼をはためかせ、猛然とした勢いでオラリオへと迫ってくるドラゴン達。
それ以外にも翼を持ち、飛行できる様々なモンスター達が空を飛び、その背にモンスターを乗せて飛翔してくる。
そして、更に追い討ちをかけるように、神の塔から解放された命の大穴から、異世界の尖兵が這い出てきた。
伝説の中で語られる黒竜と、空を覆うほどのモンスターの大群、そして、狂気の文明の尖兵と、圧倒的な存在感を示す異界の竜神。
神の恩恵を失い、戦う力も気力も無くした人々は、その脅威達を前にして、暗い絶望へと突き堕ちていった。
誰も彼もが竦み上がり、涙を浮かべ、生を諦めた。
大神の守護によりなんとか生きながらえた勇者ですら、その光景に恐怖を抱かざるを得なかった。
だが、希望はまだ失われていない。
星の使命を背負いし戦士達の戦いは、まだこれからなのだから……。
深きドン底の絶望を消し飛ばす様に、壮絶な勢いで黒竜が竜の神へと突っ込んでいく。
群れをなして迫ってくるモンスター達が、人間達には目もくれず異界の尖兵達へと突撃していく。
そして──モンスターの背に乗っていた人の戦士達が、戦場へと舞い降りる。
人々は見た。
友の仇を取らんが為に、世界に仇なす神を滅ぼさんが為に、抗い吼える竜の姿を。
人を守り、脅威と戦うモンスター達を。
彼等と肩を並べ、絶望に立ち向かう戦士達の勇姿を。
人と魔が──不倶戴天の敵同士が──手を取り合い、力を合わせ、破滅と戦う希望の光景を。
絶望に染まる人々の中に、新たなる希望が芽生え初める。
迷いは確かにあった。だが、その困惑と混乱は、モンスターと共に戦う戦士達が打ち消してくれた。
彼等の輝きに導かれるように、一人、また一人と、再び武器を手に取り脅威へと立ち向かっていく。
必死に戦うモンスター達と戦士達と共に、星の破滅へと抗うために。
『そうだ、人の子達よ──』
竜神に挑む黒竜が、戦いながらも高らかに吼える。
脳裏に直接轟くその叫び声は、戦場にいる全ての者達に響き渡った。
『そなた達の神が滅び、恩恵が失われようとも、そなた達の経験は、人生は、灰塵になど還っていない──』
竜の咆哮に、人々の戦う『力』が舞い戻ってくる。
『そなた達がこれまで受けた痛みは、悲しみは、喜びは、願いは、想いは、幻想では無かったはずだ──!』
それは神の恩でも恵でもなく。
『思い出せッ! そなた達の歴史を、鍛えた力を、これまでの戦いの日々をッ!!』
人類が戦いの中で、歴史の中で勝ち取った『人の力』であり、『人の技術』であった。
人の兵士と、神の戦士が再び立ち上がる。
もはやこの戦場で、戦っていない者などいない。
星の使徒も、人の兵士も、神の戦士も、魔の者モンスターも、この星に生きる全ての者達が、同じ意志の下、絶望に抗っていく。
この世界の異物である竜の神と狂気の文明を、打ち倒すために。
この世界を脅かす異界の脅威を消し去るために。
この星に生きとし生ける全ての生命が。
この日、この時、この世界の存亡を賭けて。
星の歴史上初めて、“命”が団結した──。
*
人類は『怨念』に強く抵抗した。
モンスターは『狂気』に強固に抗った。
黒き竜は『憎悪』と懸命に戦った。
星の生命達は眩しく煌めき、絶望という名の暗闇を振り払うため、必死に奮闘していた。
その光景を、ルララ・ルラは星の闇の中で、見て、感じて、考えていた。
彼等はとても強くなった。
初めて会った頃に比べると、驚くべく程に強者となった。
人も、モンスターも、誰しもが、強く強く輝き勇敢に戦っている。
絶望を消し去るために、暗闇を切り裂くために、その生命が続く限り、必死に抗っている。
だが、それでも。
竜の神の怨念と異界の文明の狂気には敵わない。
竜神の『力』はあまりにも巨大で、強大で、絶対で、圧倒的で、絶望的だった。
異界の『狂気』はあまりにも深く、暗く、無限で、底なし過ぎた。
一つ、また一つと希望は絶望に飲まれ、暗闇が光を侵食していく。
光は陰り、命は消え、生命が飲み込まれる。
人は傷つき、魔は倒れ、そして──黒き竜も……。
伝説が堕ちる。
空の王者と畏怖される魔の王が、竜の神に屈服し地へと堕ちていく。
全身のいたるとこから血が噴き出し、生命が流れ落ち、黒き竜が墜落する。
神を殺し、世界を破壊し、拘束され、封印されかけ、再臨した幻想を打ち倒し、竜と死闘を演じても尚──竜の神は依然として健在で、その暴威を世界に振り撒いていた。
『まだだ! まだ戦いは終わっていない。諦めるなッ!! 終焉はまだ訪れていないッ!!』
黒き竜がそう咆吼する。
だが、確かに闇は光を蝕んでいた。
世界の終焉は確実に近い。
声が……聞こえる。
人の嘆きの声が。
魔の悲しみの声が。
命の痛みの声が。
竜の苦しみの声が。
そして……
星の闇の中から“光”が生まれる。
漆黒に包まれていた星の海が、極光に包まれていく。
「な、なぜ──」
星の闇を討ち祓うほど強い光の輝きに、星の代弁者は驚愕の声を漏らした。
その疑問に対し、ルララ・ルラは黙して語らない。だがその顔は戦う“意思”と“意志”を雄弁に物語っていた。
彼女の助けを求める者がいる。
彼女の力を必要としている者達がいる。
そうならば……。
彼女の仲間が戦っている。
彼女の仲間達が願っている。
そうであるならば……。
彼等を助ける。
世界の敵と戦う。
世界を救う。
その必要があるのだと……。
「どうして、そこまで──」
喩え、全く関係の無い世界だとしても。
喩え、雀の涙ほどの報酬でしかなかったとしても。
喩え、ただの自己満足でしかなかったとしても。
誰かを助けられる力を持っているのに、助けないでいるのは怠慢だ。
この世界で、多くの友を得た。
この世界で、多くの仲間を得た。
この世界で、多くの知り合いを得た。
この世界で、多くの“誰か”を得た。
旅した世界は広大で。
訪れた世界は遠大で。
招かれた世界は痛んでいて、苦しんでいて、病んでいて。
それでも尚──世界は
その世界を守るため、この世界を助けるため。
大事な友を守るため、大事な仲間を助けるため。
多くの知り合いを守るため、多くの“誰か”を助けるため。
光の戦士が戦うのは間違っているだろうか?
「それは……」
返答に窮する代弁者にルララ・ルラは優しく微笑む。
そして、徐に詠唱を開始すると、光の粒子となって星の海から姿を消した。
別に、答えは聞いていない。
*
『光』がやって来る──。
世界中の願いと想いに応える様に。
世界で最も眩いものがこの地にやって来る。
そう、蛮神バハムートは感じ取った。
それは憎悪に塗れる神と同じ存在。
同じ星に生まれ、同じ星に喚ばれ、同じ星に疎まれた、彼とは違う希望に塗れた存在。
終焉をもたらす存在に、終焉をもたらせるこの世界で唯一の存在。
その存在がまもなくやって来る。
バハムートは歓喜と憎悪にうち震え、咆吼を上げた。
彼女が帰ってくる。
*
オラリオは破壊し尽くされたというのに、そこは、まるで何事も無かったかの様に無事だった。
一般居住区7-5-12。
ルララ・ルラのマイホーム。
通称『竈の家』。
周囲はがれきの山に埋もれ、元の形を保っている建物など何一つ無い。
しかし、『竈の家』だけは、まるでそこだけが異次元になっているかの様に、以前のままにそこにあった。
ルララが空を仰ぎ見る。
空は暗闇に包まれ、暗黒に沈んでいた。
あの時の空と一緒だ。
五年前にあの地で見た、あの終焉の空と──。
荒ぶる神の咆吼が轟く。
ルララはその方向を見定めると、その叫びの下へとゆっくり歩き出した。
異界の神を打ち倒すために、異界の狂気を討ち祓うために、異界の光の戦士が悠然と突き進んでいく。
その光景を、星の使徒も、命の方舟も、人の兵士も、神の戦士も刮目して見た。
光が闇を切り裂いていく。
絶望が希望に満ちていく。
恐怖が勇気で溢れていく。
『来たか……来てしまったか……異世界の光の戦士よ……』
堕ちた黒き竜が、血塗れになりながら言った。
傷だらけになり、力を使い果たしても、それでもその瞳に宿る意志の炎は少しも揺らいでいない。
黒竜は自らに与えられた『異界の脅威の排除』という使命は果たせなかった。
三人で計劃し、マリウスが準備し、黒竜が生み出し、ウラノスが結集し、力を合わせて『竜神』に挑んでも、この世界の力だけで脅威を除くという使命は果たされなかった。
『我々では
だが、『計劃』は終わっていない。
世界を救う三人の『計劃』は、まだ失敗などしていなかった。
『そなたなら……光と希望の結晶であるそなたなら……世界の願いと想いを一身に背負うそなたなら……それが出来るはずだ……そのための時間くらいは、我が稼ぐッ!!』
生命の源である魔石の力を振り絞り、黒竜が再び飛翔しバハムートに特攻する。
その黒竜の後から、一つ『光』が舞い降りてきた。
その光は地上に降り立つと、次第に人の形をとり、やがて女神の姿となる。
その身に課せられた使命を果たすために、最後の女神が光の戦士の前に降臨した。
「久しぶりだね……隣人君」
この世界で最後の女神となったヘスティアが、照れくさそうにルララにそう言う。
【こんばんは。】
「ははは、君は変わらないな……」
こんな緊迫した状況だと言うのに、相変わらずな棒読み具合で暢気に挨拶をしてくる小さな冒険者に、ヘスティアは何だか可笑しくて微笑みを浮かべた。
久しぶりに会うと言うのに、この冒険者は変わらない。
ルララ・ルラはヘスティアの記憶通り、相も変わらず無愛想で、無感情で、でも何故か暖かくて、優しくて、ヘスティアに安らぎと勇気を与えてくれた。
己の存在も、己の『光のクリスタル』も、何もかも全てを懸けた、彼女にしか出来ない、彼女だけの使命を全うする為の勇気と安らぎを……。
「ずっと、ずっと、君の事を探していたんだ……そして、君を探し求めているうちに色々な事があった……」
ルララ・ルラは変わっていなかったが、ヘスティア達は大きく変わった。
星の使命に目覚め、真実を知り、絶望に抗い、そして──今、『闇』に敗北しようとしている。
「僕達は少しでも君に近づけたかな? 僕達は少しでも君の様に強くなれたかな?」
俯きながらヘスティアが聞いてくる。
ヘスティアの言葉をルララはうんうんと頷きながら肯定した。
ヘスティア達はとても強くなった。
使命を背負う程に、真実に負けない程に、だが……。
「でも、僕達は今、大いなる絶望に負けようとしている。僕達の『光』では、あの竜の『闇』を討ち祓うことが出来ない、だから──」
ヘスティアは前を向きルララを見た。
誰よりも小さくて、誰よりも強くて、誰よりも優しくて、それ故に──誰よりも孤独な冒険者がそこにはいた。
彼女は誰にでも手を差し伸べる。
彼女は誰でも助けてしまう。
彼女は誰でも受け入れてしまう。
そんな彼女でも唯一受け入れなかった事──それを願うために、きっとヘスティアは彼女と出会ったのだ。
「だから──僕の……僕達の……」
慈愛の女神であるヘスティアだからこそ、それが出来た。
神殺しの力を持つ冒険者を拒絶せず、神が畏れる冒険者を受け入れて、彼女と親愛を結ぶ事が出来た。
だから、彼女に助けを求める事が出来た。
だから、彼女を追う為に都市を捨てる事が出来た。
だから、世界の真実に気付く事が出来た。
だから、星の使命をヘスティアは授かった。
だから──ヘスティアは、この世界で
人の願いと想いを集め、星の命と生命を集め、戦士に分け与える事の出来る最後の『神』に……。
その為にここに神は集められ、その為にここに人々が集められ、その為にここに命の方舟が集められたのだ。
世界の命が溢れるこの場所で、世界の生命が集まるこの場所で、光の戦士にこの世界の命の輝きを授ける為に。
ヘスティアに、最後の女神に、世界のエーテルが収束する。
光の戦士達のクリスタルから光粒が流れ出て。
モンスターの魔石から命の力が注がれ。
人々の身体から願いと想いが伝わる。
バハムートと死闘を演じていた黒竜が遂に、力尽き墜落する。
だがもはや、時間稼ぎは不要だった。
幻想はまもなく結ばれる。
『……わ、我が、魂も……そなた等の……この星の、ために……』
黒竜の強大な魔石が砕かれる。
星が生まれ、その次に生まれた星の守護者が、星へと還っていく。
彼の同胞が待つ、母なる星の海へと。
女神は竜の命の輝きを受け取ると、言葉を紡いだ。
「僕達の……」
それは、太古から人と神との間で交わされ続けてきた古の契約。
無垢なる盟約。
神の恩と恵を授ける、人の信と仰を捧げる無窮の契り。
世界の希望と願いの結晶。
女神が与える最後の幻想。
「この世界の──」
そのための誓いの言葉を。
そのために祈りの言葉を。
そのための約束の言葉を。
ヘスティアは紡いだ。
「──ファミリアになってくれないか?」
その言葉にルララ・ルラは微笑みを浮かべて答えた。
【わかりました。】
ここぞというところでチート技を使うスタイル ( ゜ω゜)
次回、感動? の最終回!(になる予定……)