飛び交う無数の鉄の塊、いやそれは一つ一つが強力なミサイルであった。こんなものがもし一発でも市街地に落ちれば目も当てられない大惨事であろう。
しかしそんなものを一身に向けられるその存在は、それをものともせず大空を踊り、迫りくる2431発ものミサイルをさも当然とばかりに切り捨てた。
ありえないはずの光景、そんなキセキを起こしたその“白”は何事もなかったかのように去っていった。
あまりにも現実感のない出来事、そして後日篠ノ乃博士から発表された“IS”は世界を一般させるには十分な奇跡であった・・・
「ISねえ・・・」
その発表は全世界に行われ、誰もがその存在に驚いていたがある一人の少年はまるでどこかあきれたような目でその発表を見ていた。
IS、正式名称「インフィニット・ストラトス」。科学者"篠ノ之束"により開発された宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツらしいのだがどうやら女性にしか乗れないという特徴があるらしい。
少年はこれを見ながらこうつぶやいた。
「俺男なんだけど・・・」
俺はどうやら転生者ということになるらしい。
それがわかったのは幼稚園に入った頃であっただろうか、自我の芽生えとともに少しずつはっきりしていった前世の“俺“の意識だが3、4歳のころにはそれをしっかりと認識できるようになっていた。
そしてどうやらこの世界は前世にあったなにがしかの創作物の世界であり、自分がその物語の根幹に深くかかわるというのはわかっていた。
そしてそれがとても物騒な物語であるということも・・・
いったいどんな世界なのか、物語はいつ始まってしまうのか戦々恐々としていた俺であるが、5歳となった現在、ISなんて代物が世の中に登場してしまった。
・・・いやいや絶対これじゃないですか
転生したと思ったら、とんでもSFの世界だったようである。
こんなものが登場したんだ、まちがいなく世界中が大混乱だろうし、男の身でありながらISに関わるからには十中八九大変な人生になるだろう。
いやもしかしたら自分はあれを動かせてしまうのではないか。
女性でしか動かせないものを男の自分が動かせる。
前世ではロボットアニメなんかも嫌いではなかったし、ISというものが主軸の世界なら女の園に入ってウハウハハーレム物語なんてこともできるのかもしれないが、実際そのISが無数のミサイルを細切れにしている光景を見てしまうと、とてもじゃないがそんなお気楽な展望は描けなかった。
やっていく自信ないなあ・・・
そう思いながら自分に与えられた力のことを思い出す。
この力、前世で大好きだった漫画の技なのだがそれはもう自信がこよなく愛する技であった。
あの漫画を読んだ当時は小学生だったであろうか、あの技をよく傘で真似しては両親や先生に怒られたものである。
牙突
それが俺に与えられた唯一の力・・・
漫画「るろうに剣心」に登場する斎藤一の剣技である。
通常の刺突(つき)を極限まで鍛え、昇華した技で、深く腰を落とし刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く右手を添えた状態から中距離の間合いを一瞬で詰めて突進、標的を貫く。
斉藤一は世を蝕む悪を即座に絶つ「悪・即・斬(あく・そく・ざん)」という信念のもと、この力で多くの強敵を打ち破っていた。
このキャラクターも大好きであったが、なによりこの技のポーズのかっこよさに当時の俺は心を奪われていた。
・・・いや今も奪われているんだろう
なにせ転生するにあったって唯一望んだものがこれである。
物騒な世界で生き残るというだけなら、ほかにも色々な選択肢があったのかもしれないが、結局深く考えもせずにこの技を特典に選んでしまった。
前世から合わせて30歳近くになるというのに、思考が小学生からあまり成長していないのかもしれない。
正直言ってこんなSF世界でこの技しかない自分がどこまでやれるか自信はないが、思いかえせば斉藤一だってこの技一本で幕末の戦いを生き残り、主人公だった剣心とも互角の戦いを繰り広げていた。
いや、俺は牙突を信じてやっていこう。
実際にこんな物騒な世界に来てしまったんだ。
力があるに越したことはないし、たとえISとやらに牙突が通じなくても人間が相手なら十分な力なはずだ。
斉藤一もこの技で鉄の扉突き破ってたし・・・
いやあ、冷静に考えると人間相手にはいささかオーバーキルすぎるもするな・・・
決意は固まったさしあたっては、まずは特訓だな。
そう思った俺はまず牙突を試してみることにした。
「ここならいいかな・・・」
俺は、家の近所の雑木林にやってきていた。
ここなら誰に見られることもないだろう。
「さて、じゃあ始めるか」
そういいながら手ごろな木の前で、家から持ってきた傘を構えた。
何で牙突を撃とうか考えたのだが、刀なんてあるはずもないし、木刀すら5歳の自分にとっては手に入るものでもなく仕方なく長さも手ごろな傘を家から持ってきたのである。
「ふーっ・・・」
息を吐くとともに傘を構え目標の気に対して集中する。
それと同時に体に力がみなぎるのを感じる。
実のところ、転生後に牙突を実際に撃ったことはない。
こうやって構えてみたことは何度かあるものの、どこからともなく湧き出る力に自分でビビってしまっているのである。
以前幼稚園の上級生に絡まれたときに、牙突の構えを向けてみたことはあったが、それはもう盛大に泣かれてしまった。
後で聞いたところ尋常でない殺気を俺が振りまいていたようである。
(ちなみにこの世界には「るろうに剣心」は存在しないため、ポーズについて突っ込まれることはなかった)
しかしもう悠長なことは言っていられない、物語が動き始めてしまった以上俺はこの力を一刻も早く使いこなせるようになっていなくてはならない。
しかしこの力は本来自分のものではない、決して私利私欲のためには使ってはならない。
だからこその決意がここにある
「いくぞ」
そう言って俺は力を解放した。
「牙突!!」
ズバァアアアアアアン!
そして木に向かって放った傘は尋常でないスピードで木に刺さり、あろうことか直径1メートルはあった木をへし折った。
「マジでか・・・」
いやいやいや、自分5歳児なんですが何だこの威力は・・・
木はそれはもう見事にへし折られており、傘に至っては原型がほぼなくなっていた。
そして自分が尋常でないほどの汗をかいていることに気が付いた。
どうやらこの一発で相当の体力を使うようである。
バキバキに折れた傘を放り捨てながら、たまらず地面に寝転がった。
「とりあえず体力をつけないとなあ、牙突なんて覚えてるわけだし剣道なんかをやるべきなのかもしれない」
ぼーっとした頭でこれからのことを考えてみる。
自分にどこまで出来るかわからないが、自分にはきちんと力があることもわかった。
とりあえずやってみようじゃないか、俺のSF人生を、そして・・・
「俺なりの悪・即・斬ってやつをな」
そして思った、やっぱり俺は小学生から成長してないのかもしれない・・・
さしあたっては、
「傘が壊れたのを母さんに謝らないとなあ」
なんというかしまらない訳で。
次回から本編