ブラックブレット 銃弾と雪の乱舞   作:tetsusora

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この小説はブラックブレットの4巻のラスト部分を改変したものです。作品を公開するのは久しぶりなのでつたない出来になっていると思いますが、それでもいいという方はどうぞ、ご覧ください。




始まり

 

「里見、随分やられたな」

 

「え?」

 

 その時、ばさりと音がして視界いっぱいにロングコートの裾が翻った。バイザー白コートの兄弟子がこちらに背を向けている。

 

「しょ、う磨兄ぃ。どう、して?」

 

「状況は把握している。俺が行こう」

 

「む、り……だ。アイツは、体内深くに……衝撃を、与えないと……?」

 

 そこまで言ってから、蓮太郎はハッとする。

 

「忘れたか里見。俺の技は外道の技だ。物体を内部から破壊する力がある」

 

 遠のきかけた思考で、だが必死に首を振る。

 

「……め、だ。……だ、だめだ。彰磨兄ぃ、死んじゃう」

 

「里見、お前も俺の技を見ただろ?あの天童の技を捻じ曲げたまがまがしい技を。俺の技は、金輪際封印しなきゃならん。助喜与師範の言ったとおりだ。本当は、ずっと前から気づいてたんだ。ただ、行動するのが遅すぎた」

 

 彰磨は思うに任せない蓮太郎の体をひょいと肩に抱え上げると、近場にある小高い丘の裏側に連れて行った。

 

 彰磨は何も言わずに駆け出して行った。

 

 また、いなくなってしまう。誰かの犠牲を積むのは二度としないと誓ったのにまた、繰り返すのか?そんな……そんなこと!

 

「しょ、彰磨兄ぃ……や、やめて……いかないで」

 

 必死になって手を伸ばす。かすれて、ほとんど聞き取れないであろう言葉。

 

 しかし、彰磨はその言葉に応えるように一瞬、足を止め、振り向いた。

 

「      」

 

 彰磨は微笑んでいた。

 

 何を言ったのか、蓮太郎にはわからなかった。

 

 しかし、彰磨は今度こそ、振り返らずにアルデバランに向かっていった。

 

「彰磨兄ぃ!彰磨兄ぃ!うあああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 廃屋同然のかつて道場だった木造平屋の建物。

 

 そこには六人の人間がいた。

 

 里見蓮太郎、藍原延珠、ティナ・スプラウト。天童民間警備会社のメンバー。

 

 そして、国土交通省副大臣天童和光。その秘書、椎名和美。

 

 最後に天童和光と相対する、天童民間警備会社社長、天童木更。

 

「あ、足があ!わ、私の足がぁぁああ!」

 

「見るな!」

 

 蓮太郎はとっさにティナと延珠の目を両腕で覆った。

 

 天童和光の両足から、まるで噴水のように血が吹き出し、道場の床を朱色に染めていく。

 

 そして、この決闘の勝者であり、この凄惨な光景を作り出した天童木更は敗者である和光を冷たく見下ろしていた。

 

 その瞳にはティナや延珠、蓮太郎に向ける天童民間警備会社社長、天童木更のものではない。『天童殺しの天童』天童木更であった。

 

「天童式抜刀術零の型三番『阿魏悪双頭剣』これがお兄様を斬った技の名前です」

 

 木更は淡々と技の解説をしていた。冷静に、そして冷徹に。

 

 そして、説明を終えると木更は無慈悲に刀を振り上げる。

 

 廉太郎は直感した。

 

 木更は和光を殺す。そして、二度とこの手に抱きしめられないところに行ってしまう。

 

「木更さ……っ!?」

 

 刹那、蓮太郎の義眼が唸りを挙げた。

 

 これは一体!?

 

 周りの景色が止まっている。まるでDVDの一時停止ボタンを押したかのようだ。

 

 勝手に……義眼が発動した?

 

 そのようなこと、この義眼を身に着けてから初めてのことだった。しかも戦闘中に発動するよりもずっと強い。

 

 ぐ、ぐあああああああ!!!

 

 しかし、そのような感傷に染まっている時間はなかった。

 

 義肢を装着して間もないころ、なんどともなく襲った激痛が蓮太郎の脳髄を犯した。

 

 まるで、頭の中に棘だらけの虫が暴れまわっている感覚。目の前の景色がぼやけていった。

 

 やがて、激痛が止み、視界が鮮明になっていくと、蓮太郎は自分の頭がおかしくなったのかと思った。

 

 蓮太郎の目に映るのは十年前、両親が自分を電車に押し込んでいく光景だった。

 

 そして、蓮太郎の耳に届いた。もう二度と聞きたくなかったセリフ。もう一度聞きたかった声。

 

 

「心配するな。俺たちもすぐに行く」

 

 

 や、やめろ!父さん!母さん!

 

 蓮太郎の慟哭は届くことはなかった。

 

 悲痛な悲鳴がスイッチになったかのごとく、蓮太郎の視界が反転、白く塗りつぶされていく。

 

 こ、これは?

 

 次に蓮太郎が目にしたのは小高い丘の上。そこの木陰に自分がボロボロになりながら、寝そべっている。そして、そのそばにいる男は……

 

 彰磨……兄ぃ?

 

 数日前、アルデバランとともに光の中に消えた兄弟子がいた。

 

 必死に手を伸ばす自分。覚悟を決め、敵に向かっていく兄弟子。

 

「しょ、彰磨兄ぃ……や、やめて……いかないで」

 

 蓮太郎の言葉にバイザーコートを翻し、振り替える彰磨。

 

「……俺は翠を守れなかった」

 

 噛みしめるかのように

 

「里見。お前は……守れよ」

 

 彰磨は弟弟子に最後の言葉を贈った。

 

 まも……る?

 

 俺はだれを守りたい?

 

 蓮太郎の脳裏に両親、恩師である室戸医師。片桐兄弟をはじめとした戦友たち。東京疎開の人々。

 

 そして、ティナに延珠の顔が浮かぶ。

 

 だが、だがしかし!一番……誰よりも一番守りたい者は……

 

 バキン!

 

 金属と金属が激しくぶつかり合った音が道場に木霊する。

 

 延珠、ティナはもちろん、天童和光までもが目を疑った。

 

「どう……して?」

 

 木更から、悲しさと失望と絶望、すべての負の感情が入り混じった嗚咽がこぼれた。

 

 そこには、木更の殺人刀・雪影と蓮太郎のバラニウム義肢のつばぜり合いがあった。

 

「蓮太郎!」

 

「お兄さん!」

 

 延珠とティナの言葉が合図になったかのごとく木更は道場の壁際に、そして、蓮太郎は両足を失った和光の前にはじけ飛んだ。

 

「里見君」

 

 裏切られた憎しみ。木更の言葉と瞳はそれらの感情で塗りつぶされていた。

 

「なにを……しているの?」

 

「あんた、和光義兄さんを殺す気だったろ?」

 

「なにを……言っているの?」

 

「おい、そこの秘書さん。もう決闘は終わったんだ。さっさと血止めしな。ティナと延珠もきついだろうが手伝ってやれ。ほっておくとマジでやばい」

 

 茫然としているギャラリーに天童和光を助けるための的確な指示を出す蓮太郎。

 

 里見蓮太郎は天童和光を……自分の仇を救おうとしている

 

 その事実が木更の怒りと憎しみに火をつけた。

 

「ふざけないで……なんなの!?何のつもりなの!?そいつは私の……いえ!私たちの仇じゃない!お母様やお父様の仇!彰磨君の仇でもあるのよ!?何で里見君が……里見君が邪魔するの!?そいつを守るの!!?」

 

「守るよ」

 

 その言葉に、木更の瞳から色が消えていた。絶望すらをも超えた虚無というべきものだろう。

 

 蓮太郎の後ろからふはっ!という笑い声が響いた。

 

「い、いいぞ!蓮太郎!死ぬ気で戦え!俺を守れ!その女を殺せたらいくらでも金をやる!それとも女がいいか!?そんな化けモノなんかよりもよっぽどの上物を……ぶはぁ!?」

 

「黙れ」

 

 蓮太郎は後ろでのたうちまわっている和光の顔面を蹴り飛ばした。

 

 延珠をはじめ、木更までもが蓮太郎の行いに茫然としていた。

 

 蓮太郎は木更にまっすぐ向き合い毅然と宣言する。

 

「俺が守りたいのは木更さん。あんただよ」

 

 

 

 

 

 

「私を……守る?」

 

「ああ」

 

 木更ははっと蓮太郎を鼻で笑った。

 

「何言ってるの?里見君。私は決闘に勝ったのよ?貴方がしていることはそこの虫けらを守っているだけじゃない。私のことを守るっていうんなら……そこをどいてよ!」

 

 かつてないほどの殺意の本流。

 

 それは、その場にいた延珠はもちろん、百戦錬磨であろうはずのティナまでもが身動きが取れなくなるほどであった。秘書に至っては失禁してしまっている。

 

 しかし、蓮太郎は引かない。気後れしない。臆さない。

 

「俺はあんたを守るよ。天童殺しの天童じゃない。俺が知っている天童木更を守る。彰磨兄ぃが言ったんだ。守れって。絶対にあんたを守る。そっちに行かせはしない。絶対に俺が知っている天童木更を殺させはしねえ」

 

 その言葉と同時に蓮太郎は構えを取った。木更は静かに俯いた。

 

「……みくんが……るの?」

 

 木更は俯き、蓮太郎は顔をうかがうことができない。だが、静かな殺意をみなぎらせまっすぐ蓮太郎に向けて歩を進める。

 

 無造作に垂れ下がった雪影に蓮太郎は全神経を注いだ……が

 

「っ!?」

 

 蓮太郎の視界が傾いた。

 

「里見君になにがわかるの?」

 

 恐ろしいほど冷たい声。そして、切断された蓮太郎のバラニウム義肢。全神経を注いでいた。にもかかわらず倒れ伏す蓮太郎

 

 けたたましい破砕音を立て、バラニウム製の義肢が道場の壁に吹き飛んだ。

 

「蓮太郎!」

 

「お兄さん!」

 

 居合。ただの居合。天童式抜刀術では最も基本中の基本動作。技ですらない。それだけで蓮太郎は切り札ともいえるバラニウム製の義肢を破壊された。

 

 力の差は歴然。

 

 延珠とティナは瞬時にそう悟り、蓮太郎に駆け寄ろうとする……が

 

「来るな!」

 

 蓮太郎の叫びに、気迫にぴたりと歩みを止める。止めてしまう。

 

「……離しなさい」

 

「離さねえよ」

 

「そう」

 

 立てなくなっても、這いつくばった状態で木更の足をつかむ蓮太郎。

 

 幼馴染のそんな様を無関心に見つめ、まるでためらわず蓮太郎の義手を切断した。

 

 ティナや延珠がこちらに駈け出した。

 

 だが……

 

「……なにやってるの?」

 

「何やってると思う?」

 

 まるで天童民間警備会社にいるかのごとく自然な軽口をたたく蓮太郎。

 

「正気なの?」

 

「ああ。まぎれもない正気だ」

 

 這いつくばりながらまるで、気負わない蓮太郎の声。だが、ティナと延珠は悲鳴を上げた。

 

「な、何をやっているのだ、蓮太郎!やめるんだ、木更!」

 

「も、もうやめて!天童社長!お兄さん!」

 

 義肢ではない、生身の左腕で蓮太郎は木更の足をつかんでいた。

 

「……その腕、いらないの?」

 

 殺人刀、雪影をゆっくりとふりあげる木更。一切の躊躇がない所作。蓮太郎は確実に左腕を失うだろう。

 

 だからどうした?

 

「意地っ張りで……泣き虫」

 

「……は?」

 

「強欲で、ぶっきらぼう。愛想のかけらもねえ。金にがめついわ、世間知らずだわ、見栄っ張りだわ……本当に残念

な女だよ。あんたは」

 

「…………」

 

「だけど、誰よりもさびしがり屋で……誰よりも一途で、努力家で、誰よりも優しい女の子だってこと、俺は知っている」

 

「…………っ!?」

 

 蓮太郎は片足だけで立ち上がり、真っ直ぐ木更を見据えた。

 

「血なまぐさい、真っ暗な闇に……悪なんかに染まらない真っ直ぐな正義を持っていることを俺は知っている。だから、木更さん。負けんじゃねえよ。自分の中の悪なんかに負けんじゃねえ!」

 

 その言葉に込められた思いに木更の腕が……殺人刀・雪影がまるで疫病にかかったかのようにぶるぶると震えだした。

 

「……たしは……のよ」

 

 木更の唇が小さく言葉を紡ぐが、それは空気になって消えてしまう。

 

「わたしには……なにも…………ないのよ」

 

 その瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

「わたしには……正義なんてない。復讐しかないの」

 

 まるで自分に言い聞かせるように。

 

「私はいったい……何のために生きていけばいいの!」

 

 涙ながらに刀を振り落ろす木更。

 

「っ!?」

 

 鮮血が舞った。

 

 ティナと延珠が声なき声を上げたとき、絶句した。

 

 天童木更は間違いなく天童民間警備会社最強の手練れだ。

 

 その彼女の斬撃を動揺していたとはいえ、剣閃が乱れていたとはいえ、蓮太郎は素手でつかみ取った。

 

「俺がいるだろ」

 

 生身の掌から鮮血が滴れ落ちるのもいとわず、蓮太郎は木更に微笑む。

 

「あんたがどんなこといおうが、俺はあんたを幸せにするんだからな」

 

「さとみ……くん」

 

 蓮太郎の覚悟が木更の目から狂気が徐々に消していく。そして、その手から殺人刀・雪影が零れ落ちた。

 

 床に突き刺さった木更の愛刀の腹に蓮太郎はそっと指をあてた。

 

「ふん!」

 

 裂ぱくの気合いとともに雪影が真っ二つになった。

 

「ゆ、雪影を……」

 

「これで、復讐からもさよならだ」

 

「しばらくは、空っぽに感じるかもしれない。俺を恨むのもいい。だけど、俺が絶対に忘れさせてやるよ。だから、木更さん」

 

 蓮太郎は血だらけの掌を木更の顎に当てた。

 

「俺についてこい」

 

 ささやき、強引に木更の唇を奪った。

 

 数秒、たった数秒の口づけが木更には永遠に感じられた。

 

 唇が離れる瞬間、木更は確かに感じた。

 

 この人に支配されたい。この人ともっと繋がりたい。この人が……里見蓮太郎が……

 

「……里見君は」

 

「ん?」

 

「里見君はなんで……こんなボロボロになってまで……私を……守ってくれるの?」

 

 まるで自分自身に問いかけるように木更は問うた。

 

 蓮太郎はばつが悪そうに頭を掻くと、一瞬ためらった後、言の葉を紡いだ。

 

「あんたが好きだからだよ」

 

 木更の中で何かがつながった瞬間だった。

 

「……お馬鹿」

 

 気づくと木更は蓮太郎に抱きついていた。

 

「……木更さん」

 

 蓮太郎もそれに応えるかのごとくぎこちなく片腕を背中に回した。

 

「ねえ、里見君」

 

「ん?」

 

 顔をあげ、満面の笑みで蓮太郎を見上げる木更。

 

「男臭いわ」

 

 そこには蓮太郎が守りたかった天童木更がいた。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
まだまだ拙いですが、これからも精進しますのでよろしくお願いいたします。
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