いろいろと不備不足はあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
天童和光と天童木更の壮絶な決闘と決着から一週間が過ぎた。
テレビ、新聞には国土交通副大臣、天童和光辞職というニュースが世の中を彩っていた。
室戸菫の研究室。その片隅にある手術台に横になる里見蓮太郎の横目にもそのニュースが映し出されていた。
「なるほど。それで、お姫様を復讐劇から救い出してめでたしめでたし……というわけかな?蓮太郎君?」
ビーカーに入れたコーヒー(らしき液体)を啜りながら室戸菫は蓮太郎に胡乱な視線を向ける。しかし、その間にも菫は片腕で蓮太郎の義肢をつなぎ合わせていた。
その神業にも等しい所業に蓮太郎は内心、戦慄していた。
「めでたしって……そんな単純なことでもねえだろ、先生。これからだろ。大変なのは」
蓮太郎の言葉に菫は目を閉じ、唇の端で静かに微笑んだ。
「なんだ、わかってるじゃないか。もしここで、木更の胸を好きなだけ揉み揉みできる権利を手にしたことを一言でも自慢し、浮かれていようものならすぐにでも社会的に抹殺してやろうと思ったのに。もちろん真っ先に木更に伝わるような形でね」
「そんな権利手に入れてねえ!つーか、あんた一体何するつもりなんだよ!」
「ん?知りたいのかい?」
菫の表情はゾンビからいきなり生者に生まれ変わったように輝いた。
そして、おもむろにテレビに近づくと、ごそごそとケーブルをつなぎ始めた。
「何やってんだよ。先生」
「ん?なに、私のパソコンに入っているデータをこのテレビに映し出してあげるだけだよ。テレビなら君がさっきから見てるだろう?」
普段なら絶対に出さないであろう、菫の弾んだ声音に蓮太郎は嫌な予感を通り越して、まるで疫病神と死神に投げキッスされたような悪寒に襲われた。事実、それは当たっていた。
「な、なななな!」
「いやあ、いい出来だろう?蓮太郎君。暇つぶしにこういった写真を作ってみたわけだが……やってみると面白いものだね。まさに笑いが止まらないとはこのことだよ」
蓮太郎の目に飛び込んできたのは自分が年端もいかない幼女にちゅっちゅしたり、ぺろぺろしたり、●●●●したり、×××××××したりといった……犯罪の物証の数々だった。蓮太郎の表情はまるで余命を宣告されたがん患者のように真っ青になった。
「ああ、ちなみに私が1時間以上もかけて研究したんだ。これを合成写真だと見抜ける者や機材は世界にないだろうね」
さわやかな笑みを浮かべながら死刑宣告を言い渡す菫。蓮太郎の極大不幸顔とは対照的にCMに起用されてもおかしくないほどのさわやかな微笑みだ。
なるほど。この児童ポルノ法に正面からケンカを売るような画像が流された暁には蓮太郎は社会的にも人としても死ぬだろう。誰も無罪を信じないだろう。蓮太郎自身ですら、あまりの完成度に自分は夢遊病か?二重人格か?それともドッペルゲンガーの仕業なのかと現実逃避したほどである。
しかも、そのクォリティーは六法全書を30分で暗記するような人間がその倍の時間をかけ試行錯誤した研究成果。法廷に立てば弁護士だってさじを投げるだろう。
「……あんた、一体何やってるんだよ」
まるで10年は年を取ったような声を上げる蓮太郎に対して、菫は、どこまでも溌剌としていた。
「さて、早速このファイルを天童民間警備会社に送ろうと思うのだが……」
画面には添付ファイル→宛先→天童民間警備会社と表示された。
「マジやめてくれ!」
刑務所生活が現実味を帯びてきたことに蓮太郎は必死に声を上げ、パソコンにとびかかろうとするが……
「ああ。やめてあげよう」
やめてあげよう……やめてあげよう!?やってあげようじゃなくて!!?
あっさりと退いた菫は蓮太郎の元に戻ると、義手の装着を続行した。
その様子は先ほどの様子など、欠片もない。いつもの気だるげな、亡者のようないつもの室戸菫だった。
「……なんだったんだよ、先生」
「ん?なにがだい?蓮太郎君」
「あまりのテンションの違いにこっちはついていかねえんだよ。つーかどこまで本気だったんだよ」
「私はいつでも本気だよ。蓮太郎君。仮に君が本当に木更をものにした。人生初の彼女ができたなどと浮かれていようものなら私はさっき示した手段はもちろん、あらゆる権謀術数を用いて君たちの仲を引き裂くつもりだった。たとえ君にどれだけ恨まれようとね」
機械のように正確に作業をする手。どこまでも無機質な声。菫の“本気”が蓮太郎に伝播した。
「木更の……いや、天童の闇は深い。私が知る限りでも……ね。それを生半可な正義感や恋愛感情で首を突っ込めばどうなるか、わかるかい?」
「…………」
「これでもね。蓮太郎君。私は君のことが気に入っているんだよ。だから……」
「守るよ」
蓮太郎は真っ直ぐに菫を見据えた。
「約束したんだ。彰磨兄ぃと。そして木更さんに」
しかし、そんな蓮太郎を菫は鼻で笑う。
「なんだい?自分に酔っているのかい?そんなのはね。私に言わせれば正義なんてたいそうなもんじゃない。そう。偽善というんだよ。そんなもんでいったい何が守れるというんだい?」
「守るよ」
菫の蔑みなど知らないとばかりに蓮太郎は強く、真っ直ぐな視線を向ける。
「偽善だろうと、なんであろうと俺は譲らない。俺は絶対に木更さんを守る」
その言葉に菫は口角を釣り上げた。まるで面白いおもちゃを手に入れた子供のようだ。
「そのためなら君はそうだな……延珠ちゃんを犠牲にできるというんだね?どちらかの命を選ばなければならない。そんなとき、君は迷いなく木更の命を取ると……そういっているんだね?」
「んなわけねえだろ」
即答。あまりにも迷いのない返答に菫は目を丸くした。
「俺は、両方守って見せる。天童の闇にかかわって、そんな状況になったとしても絶対に何とかしてみせる。先生からもらったこの拳で絶対に守って見せる」
数瞬か、数秒か。菫と蓮太郎は目と目で対話した。
菫は問うた。覚悟があるのかと。
蓮太郎は応えた。
「……わかったよ。私の負けだよ。個人的には考え直してほしかったんだが……まあ、君の命だ。せいぜい頑張りたまえ、蓮太郎君。もう義肢の整備は万全だ。もう明日から来なくていいよ。さあ、帰りたまえ」
「言われなくても帰るよ。今日はキャベツが1玉10円のタイムセールがあるんだ」
しっしとまるでハエを追い払うようなジェスチャーをする菫に蓮太郎は苦笑と軽口を返す。
「ああ、またな。先生」
「ああ。気を付けたまえ、蓮太郎君」
「ふう」
蓮太郎が出て行った扉を見つめながら菫はこぼれる笑みを抑えることができなかった。
全く、大口もいいところだ。イニシエーターの延珠にすら勝てず、その延珠をも軽々とあしらうだろう木更が勝てない天童からすべてを守ると抜かしたわけだ。
普通ならただの子供のたわごとと菫も一顧だにしなかっただろう。
だが、なぜだろう?
「巣立っていく子供を見送る親の気持ち……なのかな?私にこんな感情が残って……いや、湧いてくるなんてな」
口に出してみてはっとした。
(何を柄にもないことを)
「さあ。お楽しみの時間だ!」
気を取り直し、自分の楽しみ(死体と戯れる)であり仕事(検死)に集中するため冷めたコーヒーを一気に飲み干す。
ダン!
カチ
…………カチ?
ダンは菫がコーヒーを飲みほしたビーカーをデスクに叩きつけた音。
ではカチは?
「あっ」
菫は目の前にあるパソコンのディスプレイと愛用ビーカーに下敷きになっているマウスに気が付いた。
画面にはすでに天童民間警備会社→送信済みと写されていた。
今回、このような形になりました。木更やティナや延珠が登場していませんが、次回はちゃんと登場します。
勿論、修羅場にて(笑)
さて、感想返しをしたいと思います。
桂木ヤユ様
感想ありがとうございます。自分の文章力、表現力のなさに辟易としますが、少しでも面白い小説を書けるように頑張っていきます!応援、ありがとうございました!うれしかったです!