ガールズ・ア・ライブ   作:ダイナ

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十香トラブル2

 「シ、シドー! ……で、デェトとは私とか?」

 

 「お前以外にいないだろ?」

 

 「だ…だが、急すぎる……何故?」

 

 顔が赤い。混乱が収まらない。

 士道が言っている言葉の意味は理解できるのに、心と頭がそれを上手く処理してくれないため、十香は混乱した状態のまま言葉を紡いでいく。

 

 「あ……あの……どうしたんですか? 二人とも?」

 

 『あ~れれ~? もしかして、よしのんたちお邪魔しちゃった?』

 

 十香が言葉にならない言葉を紡いでいくと、新たな人物が士道たちに話しかけてきた。

 水色の髪と蒼玉の瞳を持ち、左手にはコミカルなデザインのウサギのパペットをはめている少女───四糸乃はいまだに混乱状態にいる十香の方を不思議そうに見ながら、主に士道に向けて問いかけていた。

 

 「ああ、実は十香に少し用事があってな。二人はどうしたんだ?」

 

 「私はその……七罪さんの部屋で遊んでいて今、帰ってきたんです……」

 

 そう言われて、士道は十香と四糸乃の部屋がマンションの同じ階に位置していることを思い出す。

 おそらく、最上階に住む七罪の部屋から自分の部屋に戻る際に士道たちを見つけたのだろうが、中々どうしてタイミングが悪い……。

 

 『んで、士道くんったら、十香ちゃんに何しちゃったの~? 今だったら琴里ちゃんに黙っててあげるからさ。さっさと吐いちゃいなよ~』

 

 「いや、別に何かしたってわけじゃなくてだな………俺はただ……」

 

 四糸乃が左手につけているパペットである『よしのん』に言葉を返す士道だが、その言葉は途中から力を失っていく。

 士道は十香をデートに誘っていた。二人でデートをするつもりなのだ。

 なので、無用に他の人に知られるのはあまり好ましいことではないと思ったのだ。

 

 『もうはっきりしないな~。十香ちゃんはどうしたの?』

 

 「わ、私か!? う、うむ、私は士道に───────」

 

 ─────デートに誘われたのだ!

 その言葉がのど元から引っ掛かって出てこなかった。

 理由は……分かる。分かってしまう。

 ここで四糸乃や『よしのん』にデートのことを知られるのが怖いのだ。先ほど、士道から誘われたデートの誘いが『みんな』のものになるのが怖いのだ。

 

 ─────あぁ、なんて嫌な女なのだろう。

 

 これでは四糸乃たちに申し訳ない……早く、本当のことを言わねば。そう、思ったとき。

 

 「─────十香をデートに誘ってたんだ」

 

 「あ………」

 

 「そう、だったんですか」

 

 『へえ~、デートねえ~。ねえねえ、士道君! そこには四糸乃は招待されてるのかな?』

 

 「よ、よしのん……っ!!」

 

 「はは……もちろん、と言いたいけどごめんな。遊園地に行く予定なんだけど今回はペアチケットしかなくて、四人は行けないんだ。次は絶対に招待するから今回だけ見逃してくれないか?」

 

 『んもう~!! しょうがないな~!! でも、次こそはよしのんたちも誘ってよね!』

 

 「ああ、もちろん」

 

 少し申し訳ない気持ちで士道は言葉を返す。

 確かに、ペアチケットしかないのは嘘ではない。が、ラタトスクなら追加でチケットを手に入れることだって可能だろう。

 

 四糸乃は『よしのん』と士道がお喋りをしている間に、十香のことを横目で見る。

 どこか、元気がないように感じる。士道が十香をデートに誘ったのと関係があるのかもしれない。

 もしそうなら……邪魔をしてはいけないのだろう。

 

 「じゃあ、士道さん……私達は部屋に戻りますね」

 

 「ああ、気を付けて……っていっても、すぐそばか」

 

 「そうですね……では、頑張ってください」

 

 そう言って、四糸乃と『よしのん』は部屋に戻っていく。

 二人が部屋に戻るのを見届けると、士道は改めて十香と向き直る。

 

 「それで、十香……どうだ? 日曜日のデートは?」

 

 「う……うむ、もちろん良いぞ! 楽しみだな! ……本当に楽しみだ」

 

 デートの楽しみに十香の心は温かくなり、今から日曜日が楽しみになる。

 だが、四糸乃達に士道にデートに誘われたことを自分で言えなかったことが小さな棘となって、十香の心に刺さり続けていた。

 

 

*  *  *

 

 

 そして、日曜日はやってきた。

 デートの雰囲気を味わうため、待ち合わせ場所は今回のデートの場所である遊園地になっている。

 集合の時間は午前十時。その十五分前である九時四十五分に士道は遊園地のチケット売り場の前で十香を待っていた。

 

 『───今回はこちらから必要以上のサポートはしないわ。ただ、いつでも動けるようにはしてるから何かあったらそのインカムを使って連絡しなさい』

 

 「……あぁ。分かっている」

 

 『そう、じゃあ。くれぐれも十香を不機嫌にさせないようにね』

 

 そこまで言って、士道の耳につけているインカムから発せられていた琴里の声は途切れた。

 まだ、待ち合わせの時間にはあるためどうやって時間を潰そうかと、士道は考え始めるが─────その考えが本格化するまえに待ち人は来た。

 

 「シドー!! 待たせたのだ!」

 

 「おうっ! 早かったな! まだ待ち合わせには十分あるぞ?」

 

 「それならば、シドーの方が待っていたではないか」

 

 「ははは……違いない。行こうか?」

 

 「うむっ!」

 

 士道はあらかじめ琴里から貰っていたペアチケットを使用して、何の問題もなく十香とともに遊園地の中へと入っていく。

 日曜日の昼間だからか、あるいは最近できたばかりなのかは定かではないが、遊園地の中は士道の想像をはるかに超える混雑っぷりを見せていた。

 

 「どうする十香? 結構混んでるからまずは空いてるところから乗っていくか?」

 

 「……ん、そうしよう」

 

 十香からの許可も得られたので、周りを見渡して空いてるところを探していく。

 ジェットコースターといった絶叫系は流石というべきか長蛇の列が並んでいる。これは多少並ぶことは覚悟しないといけないな……と、そのことを十香に告げようとすると────

 

 「シドー! あれはなんだ?」

 

 「ん?」

 

 ────する前に、当の本人に呼ばれて指さす方向に振り向くと、そこには床と固定されて回転する馬や馬車とそれらに乗って楽しそうに笑顔を浮かべている子どもたちの姿があった。

 

 「あれは……メリーゴーランド? 十香、あれに乗りたいのか?」

 

 「うむっ! みんな楽しそうではないか!」

 

 十香の言葉に士道は右手の人差し指で自分の頬をかいた。

 楽しそうなのは確かだが、今目の前で楽しそうにしているのは主に小学生以下と思われる子どもたちばかりだ。中には恋人同士と思われる大人も乗っているが、子どもたちばかりの場所にいるその姿は正直浮いている。

 

 ────────でもまあ、悪くはないか。

 

 隣で目を輝かせながらメリーゴーランドを見ている十香を見て、そこまで深く考える必要はないと思った士道は十香の方を見ると、言葉を返した。

 

 「確かに楽しそうだな……行くか?」

 

 「うむっ!!」

 

 

*  *  *

 

 

 「は~~、少し疲れたな」

 

 「そうか? 私は楽しいが」

 

 十香の底知れない体力に苦笑しながら士道は案内された席に座って近くにあったメニューを眺め始める。

 

 メリーゴーランドに乗った後、空いてる乗り物を中心にいくつか乗っていると時間はすでに昼を超えていたため、遊園地の中にあるレストランに入って今に至るのだが────士道はここまでの経緯を思い出して、軽く笑う。

 

 「でもまさか、バイキングに三回も乗るとは思わなかったな」

 

 「何を言うシドー! あれは病みつきになるぞ!」

 

 「確かにな………あの風を切る感覚とかがジェットコースターとはまた違う面白さがあるな」

 

 「ん。やっと士道も認めたな……というわけで、昼餉を終えたらジェットコォスタァに乗るぞ」

 

 「食べてすぐに絶叫系に乗って大丈夫なのか? 少し休憩してからのほうが……」

 

 「何を言うシドー! あれだけ待ってる者たちがいるのだ。待つだけで休憩になってしまう!」

 

 「……確かに」

 

 十香の言い分に思わず納得してしまった。

 

 

*  *  *

 

 

 士道と一緒に談笑をしながら昼食を食べる。その時間はとても楽しく、間違いなく今の時間は幸せだと十香は思う。それなのに、どこか心が重い。今の状況は本当に正しいのかと不安になる。

 理由は分かっている。今、ここにいるのが『みんな』ではないことに違和感を感じているのだ。

 

 ────────私は嫌な女だ。

 

 士道にデートに誘われたときに、四糸乃にすぐにそのことを教えられなかったことを思い出す。

 あの時、どうして言えなかったのか? 『みんな』で遊ぶことが嫌なのか?

 ─────違う、そうじやない。みんなは大切な友だ。それなのに、遊ぶことが嫌なはずがない。……はずが、ないのだ。

 自分が分からない。だが、少なくとも分かることはある。それは士道に心配をかけさせないことだ。

 十香は不安定になっている心を無理やり奥底に閉じ込め、せっかくの時間を楽しむことにする。

 ──────『みんな』に対する罪悪感を感じながら。

 

 

*  *  *

 

 

 ジェットコースターは予想通り、非常に混んでいた。

 しかし、隣に誰かがいて、話をすることができるというだけで列に並んでいる間の長い時間は体感的には早く過ぎ、気づけばもう次は自分たちが乗る番になっている。

 そして、二人はジェットコースターに乗ったわけだが──────

 

 「シドー! シドー! ジェットコォスタァというのはすごい楽しいな! もう一回乗りたいぞ!」

 

 「ま、待ってくれ十香………少し、休憩させてくれ」

 

 十香の言う通り、ジェットコースターは楽しかった。士道もそう思う。しかし、猛スピードで方向を変え、宙返りを連続で三回もしてしまうこのジェットコースターは少なくとも昼食を食べたばかりの人間が乗るものではなかった。

 だが、十香はそう思わないようで少し不服そうに士道のほうを見ている。どうやら、バイキング同様ジェットコースターもお気に召したらしい。

 

 「俺はそこのベンチで休憩しているから、行って来いよ」

 

 「う……うむ。シドーは平気なのか? 少し顔色が悪いが」

 

 「大丈夫だ。十香が戻ってくるころには回復してるだろうし」

 

 「ん。では行ってくるぞ!」

 

 「おう!」

 

 十香を見送り、近くにあったベンチに腰掛けた士道は軽く深呼吸して呼吸を整えると、再びジェットコースターの列に並び始めた十香の様子を見る。

 その表情は士道を心配してか少しだけ陰りがあるが、しばらく見ていると列が進みジェットコースターの順番が近づいてきて笑顔になった。

 

 楽しそうだな───と思う。

 

 琴里は十香が自分自身に対して嫌悪感を抱いていると言っていた。だから、十香の様子がおかしかったのだと。

 

 今回のデートで、そんな自分に抱いている嫌悪感を解消してくれればと士道は心の底から思った。

 

 

*  *  *

 

 

 二度目のジェットコースターを乗り終えた十香は戻ってくると同時に三度目を乗りたいと言ったが、まだ他にも行っていないところがあるからそっちに行こうと言う士道の言葉に「ん」と頷き、二人は『ミラーハウス』に行った。

 

 「おおっ! シドーが一杯いるぞ! んん? 私もだ! っと、なんだこれは? 行き止まりか?」

 

 「気を付けろ十香! どこが行き止まりか分からないからそっと歩いたほうがいいぞ」

 

 「うむ………そうす痛っ!?」

 

 見渡す限り鏡で形成されている空間に士道も十香も苦戦し、出口に辿り着くころにはへとへとになっていた。

 そのため、ソフトクリームを買いベンチで一休みしたあとに今度はお化け屋敷へ行き、お化けに驚いた十香がお化けを殴るといったハプニングを起こした。

 

 ────────そして、気づいたら日も傾き始めてきた。

 

 「もう、こんな時間か………どうする? そろそろ帰るか?」

 

 「うむ……このパンフレットとやらを見てもほとんど遊んだみたいだな───────いや、待てシドー! 最後にあれに乗るぞ!」

 

 パンフレットを読んでいた十香は突然顔を上げると、どこかに指を指した。

 十香の指さした方向を見ると、そこにゆっくりと回転し続ける巨大な車輪が見えて士道は軽く笑う。

 確かに、デートの最後といえばあれだ。

 

 「ああ、乗るか!」

 

 「うむっ!」

 

 そう言って、二人は最後に乗るものを決めて、そこに向かう──────目の前でゆっくりと回転し続ける観覧車のもとへと。




 書きながら最近遊園地に行ってないなあとふと思ってしまう今日この頃……。
 
 
 とまあ、前置きはこれぐらいにして今回は十香の短編の中編です。
 短編集だし最初だから明るい話にしようと思ってたら何故か十香の悩みが話の中心になってしまってますが………まあきっとアレです。DEMのせいです。

 次回は十香編のラスト!
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