ガールズ・ア・ライブ   作:ダイナ

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四糸乃プレゼント2

 慣れていないため、恐る恐るマンションに備え付けられている紅茶を準備するとそれを二つのカップに入れ、テーブルに持っていく。

 テーブルでは四糸乃と『よしのん』が待っていた。

 流石は我等の天使である四糸乃は待つ姿もどこか神々しい。本当にこんなお茶でいいのか? こんなのものを出したら失礼じゃあないのか? むしろ、今七罪がこの場にいることそのものが失礼ではないのだろうか。

 

 「ごめんなさい。今すぐ死んで詫びます」

 

 「七罪さんっ!?」

 

 紅茶をテーブルに置き、そのまま土下座をしようとした七罪を四糸乃は慌てて止めた。

 四糸乃を困らせるわけにはいかないため、七罪も土下座を諦めると二人は一息ついて紅茶を飲む。

 

 「あっ……おいしいですね。これ」

 

 「本当? 正直種類が多いうえに分からないから適当に選んだんだけど……」

 

 『確かにこのマンションって物が充実しているっていうか、結構充実し過ぎてるよねー』

 

 「……たまに何を使えばいいのか分からなくなっちゃいます」

 

 軽く肩をすくめて、困ったように笑う四糸乃の姿は輝いている。どれぐらいかというと、直視するには眩しくて七罪は思わず顔を背けた。

 

 「………七罪、さん?」

 

 「ごめん、なんでもない。ちょっと、光が眩し過ぎて自分の醜さに気づいたっていうか再確認されたっていうか……」

 

 「………? 七罪さんは醜くなんかないですよ。とても優しいです」

 

 「四糸乃ぉ………」

 

 七罪は目を潤ませながら四糸乃の方に振り返る。

 天使は今日も美しい。戦争やらなんやらやっている人たちは今すぐ四糸乃の言葉に耳を傾けるべきだ。銃を撃つよりも四糸乃の言葉を聞く方が何百倍も価値があるだろう。つまるところ、四糸乃は平和の象徴だ。ピース四糸乃だ。

 

 

*  *  *

 

 

四糸乃が用件を告げたのは七罪がピース四糸乃の偉大さを再確認し、温かい紅茶をのんびりと飲んで一息ついた後だった。

 

 「士道にお礼?」

 

 「……はい。その、日頃のお礼とか……そういったもののお礼がしたくて」

 

 『この時間はみんな学校だからねー。七罪ちゃんしか頼れるのがいなかったんだよー』

 

 「……一緒に考えてくれるとうれしいです」

 

 「もちろん考えるわよ! 四糸乃のためにも良いアイディアを出すように頑張る…………と、言いたいけど……」

 

 四糸乃からの要件を聞いて、七罪は珍しく明るい声を出しながら協力を申し出た──────と思われたが急速にその顔から明るさが消えると代わりに陰気な暗さのみが残る。

 四糸乃と『よしのん』から視線を逸らすように顔ごと横に向けると、七罪はぼそぼそと言葉を漏らす。

 

 「…………私がでしゃばっちゃったら、せっかくの四糸乃の計画が失敗するかも? うぅん、それ以前に天使のような四糸乃がお礼しているときに私がいたら、士道もきっとがっかりするわ」

 

 七罪の頭の中で士道が四糸乃に日頃のお礼をされて心から喜ぶ。当然だ。四糸乃からお礼をされて喜ばない人間など地球はおろか宇宙にすら存在しないのだろうから。しかし、四糸乃の背中から七罪が姿を現した瞬間状況は一変した。士道の心の底からの笑顔はたちまち固まる。どうしてお前がここにいるんだ? 口にはしなくてもその表情がそう訴えていた。七罪は必死に弁解した。私も日頃のお礼に……。それに対して士道は返答する。

 

お 前 の は い ら な い !

 

 「…………うがあああああああああああああ!!!」

 

 自分の妄想で傷ついた七罪は堪らずに叫んだ。

 突然の七罪の豹変に四糸乃は一瞬目を丸くした後、慌てて立ち上がって七罪のもとに駆け寄る。

 

 「あの……七罪さん? 大丈夫ですか?」

 

 「四糸乃ぉ……」

 

 「大丈夫ですよ。士道さんは絶対に七罪さんからお礼をしてもらってがっかりなんてしません………そんなこと、するはずありません」

 

 「そうよね………あいつ優しいし」

 

 「確かに士道さんは優しいですが……それが理由ではないと思いますよ」

 

 『七罪ちゃんが思ってるほど七罪ちゃんは嫌われてないからねー。 士道くんも四糸乃も七罪ちゃんのこと好きだし。あ、もちろんよしのんもだよー』

 

 「え?」

 

 『よしのん』の言葉に七罪は四糸乃のことを見る。

 『よしのん』の言葉が恥ずかしいのか少し頬を染めながら、それでも確かに頷いてくれた。

 

 ─────心に何か温かいものが広がっていく。

 本当は知っている。みんな同情や憐憫の目で七罪を見てなんかいないことは。ただ、自分が臆病なだけなのだと。

 

 「………やっぱり、私も考える」

 

 でも、少なくとも今は臆病になっている時ではない。

 

 「私も士道へのお礼を考える」

 

 「はい、お願いします」

 

 七罪の言葉に四糸乃は笑顔で即答した。

 

 

*  *  *

 

 「それでどうしょう……?」

 

 『七罪ちゃんの能力で大人化して士道くんを慰めるなんてどうかな? あ、もちろん慰めるってのはもがもが』

 

 『よしのん』が最後まで言い終える前に顔を真っ赤に染めた四糸乃が『よしのん』の口を塞ぎ、強制的に話を終わらせた。

 

 「よしのん……真剣に考えて」

 

 「そうよ! ………大体、私なんて大人化しても士道に喜んでもらえるはず────」

 

 「七罪さんの大人モードはとても魅力的なので大丈夫ですよ……でも、やっぱり、その、恥ずかしい……ので、よしのんの案はやめておきましょう」

 

 「……そうね」

 

 顔を真っ赤に染めた状態でも七罪のフォローをしてくれる四糸乃の優しさに七罪も思わず頬を赤く染めながら小さく頷いた。

 それから、二人と一匹は再度士道へのお礼の方法を考え始める。

 しかし、もともと内気気味な二人だからか時間ばかりが経過して具体的な案は出てこない。

 

 「………やっぱり、妥当なところだとプレゼントとかなのかな」

 

 「プレゼント……ですか?」

 

 『それって私がプレゼントよ的なむぐぐ……』

 

 余計なことを言い終える前に『よしのん』の口を封じた四糸乃の問いかけに七罪は考えが纏まりきったわけではなかったらしく、ポツリポツリと呟くように自分の考えを出していく。

 

 「……なにか士道が欲しいもの……あるいはしてほしいこととか……それだったら、士道もがっかりなんてしないだろうし」

 

 「士道さんの欲しいもの……して、ほしいこと……」

 

 二人は五河士道という青年について改めて考えてみた。

 とても優しく、彼が本気で怒ったことなんて数えるほどしか見たことがない。また、料理がとても上手で両親がいない代わりに毎日その腕を振るっている。

 料理────それは士道の趣味とまではいかないにしても、それに関連したものなら士道も喜ぶかもしれない。料理に関連するものとして二人の頭に浮かんだのは新品のフライパンだった。だが、日頃のお礼としてフライパンを渡して本当に士道は喜ぶだろうか?

 フライパンではないとしたら鍋。そういえば、最近士道は料理を振る舞う人数が増えたためかもっと大きな鍋を買おうか悩んでいたような気もする。いや、しかしフライパンがダメなのに鍋が良いのだろうか? ならばここはいっそ二人のお小遣いを総動員して高級な食材をプレゼントするというのは? 士道のことだ。きっと美味しく調理してくれるはず。でも、せっかくなら調理したらなくなってしまう食材ではなくもっと形に残るもの良いとも思っている。形に残るもの──────やはり、『よしのん』の言う通り「私がプレゼント」を実行するべきか。士道に美味しく頂かれるべきか!

 

 「……………………………………………………」

 

 「……………………………………………………」

 

 二人が五河士道という少年について改めて考え始めてから数分後、ほぼ同時にオーバーヒートした頭が二つテーブルに落ちた。

 

 なんかもう、必死に考えすぎて途中から思考が暴走していたような気がする。

 

 湯気が出てきそうなほど熱い頭をテーブルに置きながら二人は同じようなことを考えていた。

 

 『あらら~~。二人とも何考えてたのー? ねえねえ、何考えてたのー?』

 

 四糸乃の束縛から解放された『よしのん』はからかうように言葉を重ねていく。

 二人は死人のように何も語らなかった。

 

 

*  *  *

 

 結局、考えるばかりでは何も決まらない。

 そう考えた四糸乃と七罪は頭を冷ますために冷たいお茶を飲み、少しのんびりとした後外に出かけた。

 まず最初に立ち寄ったのはホームセンターの調理器具売り場。

 

 「…………なんか、やっぱりこれをプレゼントするのは何かがおかしいような気がする」

 

 「………私もです」

 

 売り場に並べられた様々なフライパンを眺めながら二人は同じ思考に辿り着いていた。

 少し歩を進めて様々な鍋も見てみたが結果は同じ。士道は優しいしまあ、使うと言えば間違いなく使うためプレゼントしたら士道は喜ぶだろう。だけど、だからといってこれをプレゼントしたいとは思えない。

 

 「どうしよう四糸乃。士道に何をプレゼントすればいいのかわからない……」

 

 「………私も、です。なんか、士道さんと出会って大分経っているのに……自分が情けないです」

 

 「四糸乃が情けなかったら私なんてもう生きる価値もなくなっちゃうよ……」

 

 二人同時にため息をつくと、ホームセンターを出た。

 特に長距離を歩いたわけではないが、主に心理面で疲れた二人はホームセンターを出た後、近くにあったドーナツ屋に寄るとそれぞれドーナツと飲み物を一つずつ買い、ドーナツ屋の奥に用意されているイートインコーナーに座った。

 そういえば、いつだか十香が疲れた時には甘いものが良いと言ったときに琴里が実はそれはあまり良くないのだと教えてくれて三人して目を丸くしたことがあったなと思い出しながら二人はドーナツを食べていく。

 

 「…………せっかく、琴里さんが教えてくれたのに気づいたら食べちゃってますね」

 

 「………仕方ないわよ。これ食べて少し休憩したら士道のプレゼント探しを再開しましょ」

 

 どこか疲れた笑みをお互いに向けると、ドーナツを完食しゆっくりと飲み物を飲みながら休憩する。

 

 体を休めながら、四糸乃は士道へのプレゼントを考えていた。

 もともとは自分が言い出して七罪に付き合ってもらっているのだから、できれば何をプレゼントするのかだけでも考えてから動き出したかった。

 

 

 ──────何をあげたら士道さんは喜んでくれるのだろう?

 

 いっそ、直接本人に聞きたい衝動に駆られたが、士道だったら絶対に笑顔で何もいらないと言うだろう。その気持ちだけで嬉しいのだと。

 士道は優しい。だけど、今はその優しさが四糸乃には辛い。

 

 「はあ~、でもやっぱり美味しいもの食べると幸せな気分になるね」

 

 「美味しい……もの……」

 

 七罪の何気ない呟きに四糸乃は反応した。

 フライパンや鍋、高級な食材はプレゼントに相応しくなかった。なんだか、感謝の気持ちがうまく伝わらない気がするからだ。

 でも………だったら………。

 

 「七罪さん……」

 

 「ん? 何?」

 

 「その……あの……」

 

 何故か変に緊張しながら四糸乃は言葉を紡いでいく。

 七罪はストローを口にくわえたまま四糸乃の言葉を待ち、『よしのん』は四糸乃がこれから何を言おうとしているのか分かっているかのように悠然と四糸乃の言葉を待つ。

 そして、四糸乃は言葉を紡ぎ終える。

 

 「三人で……士道さんに料理をつくりませんか?」

 

 「げほっ!? ごほっ! ごほっ!」

 

 「だ、大丈夫ですか?」

 

 四糸乃の言葉が意外だったのか七罪はストローから思いっきりオレンジジュースを吸い込み、せき込む。

 とりあえず、四糸乃を心配させないように手で大丈夫だと合図しながら七罪は深呼吸しながら回復に努めた。

 なんとかすぐに呼吸を整えると、七罪は不安げな表情で返答する。

 

 「でも………私が料理作ったら士道がお腹壊すかも? それだったら四糸乃とよしのんだけの方が……」

 

 「そんなことありませんっ」

 

 いつもよりも強い声でそう言うと、四糸乃は七罪の目をまっすぐに見る。

 慈愛に満ちた綺麗な瞳だなぁと七罪は思った。

 

 「七罪さんの力が必要なんですっ」

 

 「四糸乃ぉ………」

 

 やはり、四糸乃は女神だった。七罪の邪悪で汚れたものが浄化されていく気がする。

 こうして、二人と一匹の士道へのプレゼントは料理となった。

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