閃乱カグラ LAST VERSUS ~少女達の道~ 作:影山ザウルス
その"男"には未練があった。彼は己の野望のために利用できる全てを利用し尽くした。それでも、まだまだ野望の途上だった。これからもありとあらゆるものを利用し、野望を果たそうと全力だった。たとえ自分の行っていることが、人の道から外れていようと構わなかった。
しかし、彼の野望は年端もいかない少女達に阻まれた。
このまま野望を果たせぬまま道半ばで死ぬのかと彼は心底悔やんだ。そして、絶命した。
しかし、彼は再び目を覚ました。
「こ、ここはどこだ?私は確かに死んだはず……」
夏の日差しが降り注ぐ、森の中。男は周囲を見渡した。遠くに見える浜辺には20人程度の少女と老婆の姿が見えた。次の瞬間、突然青空が割れ、暗闇の空に山のように巨大な赤子の姿が現れた。
それを見た瞬間、男の体に電流が走った。
「そうか……そうか!!"あれ"がそうなのか!!アハハハハハ!!素晴らしい!!素晴らしいぞ!!」
男は全て理解した。ここがどこで、今何が起きているのか。そして、あの空に浮かぶ赤子が何なのか。男は全て理解していた。
「待っていろ……この道元が今度こそ世界を支配する!!そう……『心(しん)』と共に!!永遠に!!」
男はそれから数日、少女達に気づかれぬように、少女達が"この世界"から立ち去るのを待った。
そして、数日後。少女達がいなくなったのを確認して、道元は動き出した。
志半ばで倒れた忍の魂を呼び戻し、未来を担う若き忍学生に、忍の未来を託す千年に一度の祭り。
カグラ千年祭
燃え盛る太陽の下で、少女達は己の異なる二つの正義と悪と誇りを掲げ、死の美を見せた。
激しい戦いの中で貫いた信念。過去との決別。そして、最愛の者から託された未来を胸に、盛夏を駆け抜けた少女達は水平線の向こうにある少し懐かしき故郷へと帰るのだった。
カグラ千年祭の期間中、少女達にとっての現実世界は時間が停止していた。そのため、夏の暑さから一気に冬に戻った気分は良くなかった。しかし、千年祭は確実に少女達を強くしていた。特に卒業試験を控える忍学生の三年生達にとっては、有意義な時間だった。
「斑鳩。これで卒業試験もバッチリだな!!」
葛城が斑鳩の背中を叩いた。
「ええ、もちろんです!!」
斑鳩の瞳には迷いがない。しかし、その様子を見つめる後輩の飛鳥、柳生、雲雀はどこか寂しげだった。
「もうすぐ卒業しちゃうんですね」
「なんだ~?アタイにおっぱい揉まれないのが、そんなに寂しいのか?」
「さびしいよ、かつ姉!!」
雲雀が今にも泣き出しそうな声で叫んだ。柳生も口にも表情にも出さないようにしているが、寂しさが込み上げている。
「皆さん……私もこの五人で過ごした……いえ、詠さん達や叢さん達、それに蛇女の皆さんと過ごしたこの一年は本当に楽しかったです。それに……それに……卒業試験まで時間がありますから……まだ泣くのは……早……」
平静を保っていたつもりでも、卒業試験を意識すると涙が溢れずにはいられなかった。五人はこの五人で過ごせる残りの時間を噛み締めるように抱き合った。
そこに霧谷先生が現れた。
「お前達。別れを惜しむのはまだ早いぞ」
「き、霧谷先生……でも、二人はもうすぐ卒業試験で……」
「その事なんだが、報告がある」
霧谷先生の表情が和らいだ。その表情に五人は不信感を抱いた。
「両備……話がある」
蛇女の選抜メンバーが揃う忍部屋で雅緋が口を開いた。
「なによ、いきなり改まって」
「今後の蛇女の話だ……」
その話が切り出されるというのは誰もが薄々勘づいていた。問題は誰が選ばれるかだった。
「両備……お前に新しいリーダーを任せたい」
「いいわよ、両備がやってあげる。当然よね~。引きこもりの紫はリーダーって柄じゃないし、メス豚の両奈なんて論外。ほんとは面倒くさいのは嫌なんだけど、仕方ないから、嫌嫌だけど、ホント~に不本意だけど、リーダーになってあげるわ」
両備はひどく面倒くさそうに、本当に嫌嫌そうに、しかし、まんざらでもないのがわかるように承諾した。
「紫。両奈。そういうことだが、いいか?」
「私も……両備ちゃんが……リーダーなら…………それがいいです。じゃないと……部屋に帰れない……から……」
「ハイハ~イ!!両奈ちゃんも絶対絶対それがいい!!」
「忌夢……」
「雅緋が決めたことならボクは従うだけさ。それに紫にリーダーが務まるか心配だしね」
満場一致のようだ。これで雅緋も忌夢も卒業試験に専念出来る。
「お前達」
凛とした声がした。振り向くと鈴音先生が立っていた。
「皆さん、無事に戻って来れたようですね」
月閃の五人は少し懐かしく感じる忍部屋を見渡した。
「ああ、たのしかった~!!みのり、また皆で南の島に遊びに行きた~い!!」
「美野里。遊んでばかりじゃ、黒影様に叱られますよ」
「ってか、本当に時間止まってたのかな?実は動いてました~っていうオチはないよね?」
「それは大丈夫だ。我の電波時計が千年祭に行く前とほとんど変わってない。確かにこちらでは時間が止まっていたようだ」
少しだけ懐かしい忍部屋に、いつもと変わらない月閃の面々に安心感を抱きつつも、雪泉はもうすぐ卒業する寂しさを感じた。おそらく他の面々も同じことを考えているだろう。黒影に育てられ、共に月閃で過ごした日々。卒業して終わる絆ではないが、少なくとも学生の時のままの関係ではいられないだろう。
「ミンナ、久シブリネ~!!」
思い出とこれからの不安に浸っていた雪泉の心に土足で上がり込むエセ中国訛りの老人が現れた。
「王牌……いえ、半蔵様?どうなさったのですか?」
「チョット、オマエ達二、オ知ラセアルヨ~」
「その喋り方どうにかなりませんか?」
「すまん、ついクセでの……それで知らせなんじゃが……」
「私としたことが!!!!」
帰ってきて早々、詠が叫んだ。
「どうした詠!?」
「も、申し訳ありません……私としたことが……南の島で採った魚介類や果物を忘れてきてしまいました!!」
詠はその場に泣き崩れ、周囲の面々も残念そうに項垂れる。他校のヤグラを壊したり、自分達のヤグラを守る合間に食材を集めていただけあって、落胆は大きい。
「で、でも、詠お姉ちゃんが作ったワカメスープは本当に美味しかったよ!!ねえ……私、アルバイト頑張るから、バイト代が出たら、また作ってくれる?」
「未来さん……」
「そうだ、詠!!私もまた焼き魚が食べたいぞ!!」
「焔ちゃん……ええ、もちろんです!!腕によりをかけて作って差し上げますわ!!」
帰ってきて早々に起きたアクシデントではあるが、この程度のことで挫ける焔紅蓮隊ではない。伊達に抜け忍生活を続けているわけではない。
「うふふ。はい、それじゃ今日のバイトも張り切ってらっしゃい」
春花が今日出掛ける焔と詠と日影を送り出した。
残った二人はアジトの警備を担当していて、未来は土日の出勤が多い。春花はほぼアジトの警備を担当していて、パソコンを使って情報収集に勤しんでいる。それは千年祭から帰ってきた今日も同じだ。
「春花様……」
突然未来が主人に甘える猫のような声を出した。
「なぁに、未来?」
「蛇女にいたら、もうすぐ卒業だったけど……ほ、焔紅蓮隊から卒業……ってことはないよね?」
蛇女に在学中の時はほんの一瞬だけ、卒業のことを考えた時期があった。それ以降は半蔵学院から超秘伝忍法書を奪取することに躍起になって、卒業のことは後回しになっていた。
蛇女を離れ、抜け忍として生きている今は卒業試験は受けられない。
「そうね。卒業はしないわ。それに……どうやら、他の学校の娘達もまだしばらく卒業出来ないようよ」
そう言って、春花は未来にパソコンの画面を見るように促した。
見ているのはクラッキングでアクセスしている善忍のデータベースだ。あらゆる善忍のデータを閲覧でき、その気になればデータ改ざんも出来るだろうが、そうすればアジトの位置を特定されかねない。だから、あくまでも閲覧だけに留まっている。
「これよ」
春花はカーソルを動かし、あるファイルを開いた。
「「「「そ、卒業試験が延期!!!!????」」」」
各校で驚愕の叫び声が上がった。