閃乱カグラ LAST VERSUS ~少女達の道~ 作:影山ザウルス
卒業試験の延期。そんなこと初めて聞いた忍学生達は複雑な思いが胸を渦巻いた。つい今まで別れが辛いと泣いていた半蔵学院の面々だが、もうしばらく五人で過ごせることになって嬉しさが込み上げた。しかし、納得のいく事態ではない。
「延期とおっしゃいましたが、では、いつになるのですか?」
先陣を切ったのは、やはり斑鳩だった。葛城は葛城で両親とのこともあるため、納得のいく説明を求めるように鋭い視線を霧谷先生に向けた。
「時期は未定だ」
「未定!?そりゃないぜ!!そもそも何で延期なんだよ!?」
「お前達のせい…………と言ったら、語弊があるな。学炎祭によって、お前達は他校の忍学生も含めて大幅に実力を伸ばした。その上…………お前達、カグラ千年祭に行ってきたようだな」
五人は耳を疑った。霧谷先生が何故千年祭に行ったことを知っているかだ。
「俺も伊達に教師をやっているわけじゃない。お前達の様子を見れば、何があったかぐらい、すぐにわかる。以前から小百合様からお前達や蛇女、月閃、紅蓮隊の忍学生達を千年祭に招待する話はされていた。
お前達は学炎祭と千年祭を通じて、短期間に実力が格段に上がった。いや、"上がりすぎたんだ"」
「それで、卒業試験が延期になったって言うのか?」
「そうだ。これから国家に所属する善忍の選定試験。簡単に合格させるわけにはいかない。そのため、現在卒業試験の見直しが行われている。見直された試験内容にも合格できるよう、もうしばらく俺が鍛える。とりあえず、今日のところは解散」
そう言って、霧谷先生は霧のように姿を消した。
実力が認められている。
だからこその卒業試験延期。
もうしばらくあの四人と家族でいられる。
言われている内容はどれも喜ばしい内容だが、斑鳩の心は晴れなかった。
「ただいま戻りました」
「おお!!帰ってきたか!!我が愛する妹よ!!」
鳳凰財閥の私邸のドアを開けた途端、長身の青年が斑鳩を出迎えた。彼は斑鳩の兄、村雨。鳳凰財閥の次期当主だ。少し前までは口を利くこともなかったため、出迎えなんて初めてで、斑鳩も驚いた。
「た、ただいま戻りました。どうなさったのですか?」
「よくぞ、聞いてくれた!!見ろ!!」
村雨はA4サイズの紙切れを斑鳩に見せ付けた。冒頭に卒業通知書と書かれていた。村雨自身、忍としての才能はともかく、世間一般的には優秀な人間だ。卒業なんて自慢するほどでもないが、おそらく卒業試験を控えた斑鳩を勇気づけようとしたのだろう。
「ご卒業おめでとうございます、お兄様」
「まだ少し気が早いって……しかし……ん?どうしたのだ、斑鳩?」
気が付くと斑鳩の頬に涙が伝っていた。何故涙が溢れるのか、わからない。村雨の卒業が嬉しいから泣いているのだろうか。それなら何故こんなにも胸が苦しいのだろうか。
「こ……好機でござる!!斑鳩!!今日こそ飛燕を俺に返せ~!!」
不意を突くように村雨は服の下に隠し持っていた鎖鎌を取り出した。財閥の私邸だけあって、鎖鎌を振り回すには十分過ぎるスペースがある。
「喰らえ~!!」
鎖の先に付いた分銅が斑鳩に向かって走り、村雨が手元を動かすと斑鳩に鎖が巻き付いた。
しかし、巻き付いたのは斑鳩ではなく、幾度となく村雨を虚仮にした丸太だった。斑鳩は既に村雨の背後に立っている。
「だが、今日の俺は一味違う!!」
巻き付いた丸太をそのまま斑鳩に送り返した。しかし、斑鳩は飛燕で丸太諸とも村雨の鎖鎌を破壊した。
「さすがだな、斑鳩」
「え?」
「お前は強くなった。技術だけじゃない。動揺していようとすぐに戦闘に集中する、その心も。…………だけどな、斑鳩。普段通りのお前ならもっと良い動きが出来るはずだ。……もし、良かったら俺に話してくれないか?」
村雨とゆっくり話をする時が来るとは正直驚いた。今襲われたのも、村雨がこの状況を作るための芝居だ。彼なりの精一杯の優しさだとわかったから、斑鳩はその優しさに甘えた。
「実は……」
斑鳩は卒業試験延期について村雨に伝えた。話している間、村雨は相づちを打つだけで静かに真摯に聞いてくれた。
話終えた所で、何かが変わっていることを期待したが、そんなことはなかった。気持ちは晴れず、胸には分厚い雲が広がった。
「斑鳩…………俺様に任せろ!!」
村雨は立ち上がり、オーバーアクションで演説を始めた。内心、自分のことを元気付けようとする心遣いが嬉しく思った。
「斑鳩。お前は半蔵の連中と別れるのが寂しいのだろう!?なら、俺様が鳳凰財閥の当主となった暁には、お前の後輩達を鳳凰財閥専属の忍として雇おう!!そうすれば斑鳩は寂しくないし、俺様には妹が……ぐふふ……ぐふっ!!」
斑鳩は村雨の腹部に強烈な正拳を食らわせた。元気付けようとする心遣いに感謝していた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。加えて、村雨は単に自分の下心の捌け口を後輩に見出だしていたと思うと、怒りが込み上げる。
「ま、待て……斑鳩。じょ、冗談だ。すまない」
「冗談!?」
「ああ、冗談。もう少しだけ話を聞いてくれ。今度はお前にも関わる真面目な話だ」
「ふざけたことを言ったら……」
斑鳩は手を飛燕の柄に添えた。
「わかっている……
斑鳩。お前は卒業試験の延期に納得してない訳ではない。お前は半蔵の連中と別れるのが寂しいんだ。でもな、斑鳩。お前達の関係は卒業したことで終わるようなものじゃない。そうだろ?」
「わかっています!!ですが、忍学生の時のままとはいきません!!お父様やお兄様を手伝わないと……!!」
「その事なんだが……俺は斑鳩の力は借りないつもりでいる」
村雨の口から思いがけない言葉が飛び出した。鳳凰財閥は代々忍の家系として、表と裏とで活躍してきた。現在の地位も鳳凰財閥の裏があったからこそだ。しかし、直系の息子である村雨は忍の才能に欠け、代わりに遠縁の斑鳩が養子として引き取られたのだ。そして、今まで斑鳩は鳳凰財閥を裏から支えるために努力してきた。無論、斑鳩自身も忍になりたい気持ちがある。
だが、村雨の言葉はそれを否定していることになる。
「お前には、酷い嫌がらせもした。背負わなくていいものまで背負わせた。忍としての自由を、お前の自由をこれからずっと奪うのは……嫌なんだよ。親父は俺がなんとか説得してみせる。任せろ。
だから、お前にはお前の自由を見つけてほしい。自分の進みたい道に進んでほしい。それを仲間と共に目指してほしい。そうすれば、道は違えど行き着く先が同じこともあるだろう?例えば……"カグラ"……とかな」
分厚い雲の隙間から一筋の光が差し込んだ。