閃乱カグラ LAST VERSUS ~少女達の道~ 作:影山ザウルス
天守閣から見下ろす景色はあと何回見れるだろう。吹き抜ける冷たい風を感じれるのは、あと何回残っているだろう。
しかし、今日の風は、やけに荒れている。
「雅緋……」
「忌夢か……」
「やっぱり、卒業試験のことだね」
考えないはずがない。卒業試験の延期なんて聞いたことがない。それに卒業試験を受けるのは何も選抜メンバーだけではない。雑多な忍学生達も受けられる者がいる。そういった者達に対して、難易度が上がった試験を受けさせては公平な審査はできないはず。
「何かが起きているはずだ。それを調べる必要がありそうだ」
「ボクも一緒に行くよ」
忌夢なら、そう言うと思っていた。
「いや……私一人で行く」
「どうして!?ボクだって、学炎祭、千年祭と乗り越えて強くなったんだ!!」
「だからこそだ、忌夢。二人で動けばそれだけお互いに危険が及ぶ。それだけじゃない。紫達にも何が起こるかわからない。その時、頼れるのは忌夢、お前だ」
納得がいかないのは当然だった。だが、雅緋の言うことも確かだ。
「親子丼……」
「え?」
「帰ったら、雅緋の作った親子丼が食べたい」
「ああ、皆で食べよう」
その瞬間、鋭い殺気を感じて二人は身構えた。
「雅緋。筆頭のお前がどこへ行くつもりだ?」
天守閣に凛が現れた。千年祭で実力を付けたからこそわかるものがある。それは凛の実力だ。正確には凛の実力がわからない。底が知れない。しかし、わからないことがわかるのは進歩だろう。以前は漠然と強いとしかわからない状態だったのだから。
「雅緋!!ここはボクが!!」
如意棒を取りだし、臨戦体制の忌夢。実力差がはっきりしないが、少なくとも雅緋のために時間稼ぎくらい出来るだろう。しかし、持って3分あるかないか。
それでも忌夢が稼ごうとしている時間を無駄に出来ない。
「頼んだぞ」
雅緋は振り向かず天守閣から外に飛び出した。無論、凛が後を追おうとしたが、忌夢が立ち塞がった。
「先生の相手はボクです」
「一対一か……」
「いいえ………二対……一…………です」
部屋に帰ったはずの紫が現れた。
「バカね。四対一よ!!」
「両奈に黙って、鈴音先生に虐めてもらうなんてズルいよ~」
少し遅れて両備と両奈の二人も現れた。この人数なら例え勝てなくても十分過ぎる時間稼ぎが出来る。
「甘いな……」
しかし、凛は平然としている。
「お前達。今、私を倒さず、時間稼ぎが出来れば、それでいいと思ったな?甘いぞ!!戦うなら、相手を殺すつもりで来い!!
私の辞書に容赦の文字は無い!!」
その口上通り、凛の攻撃は容赦が無かった。下手をすれば四人でも十分な時間稼ぎが出来ない可能性もあった。「情を捨てよ」と小百合に言い聞かされた千年祭ではあるが、それに対して、忍学生達は「情を捨てることは出来ない」と答えた。しかし、今、目の前の凛は"非情"に徹している。
「情にも色々あるんだな……」
凛の強さに圧倒されながら、忌夢は自分の甘さを痛感した。
「ねえ、皆は嬉しくないの?」
口を開いたのは美野里だった。その場にいる全員が嬉しくないはずがない。目の前に積み上げられたパンケーキの山を皆でつつきながら、最初はお祝い気分が少しだけあった。だが、当然、卒業試験の延期を祝えるような状態ではない。そもそも祝うべきことではない。
「美野里。わしだって、雪泉と叢と一緒にいれるのは嬉しいです。ですけど……」
「やっぱりさぁ、卒業試験延期なんて変だよ」
四季の言葉に美野里以外の三人もうなずいた。
半蔵は卒業試験延期の事実を伝えるや、そのまま帰り、延期の理由や正式な日時を伝えなかった。質問は一切受け付けてくれなかった。
「我には半蔵様の様子もおかしかったように見える……」
「確かにそうですね。何か伝えられていない裏がありそうです」
雪泉達が眉間にシワを寄せる一方で、美野里だけが、不機嫌そうにパンケーキを頬張った。
「もういいよ!!皆はずっと考え事してなよ!!もう知らない!!」
美野里はハムスターのリュックを担いで忍部屋を飛び出した。
「み、美野里さん!?」
飛び出してすぐに美野里の気持ちを考えるべきだったと四人は後悔した。高校生と言えど、美野里は特別子供な部分が多い。
「皆さん、追いますよ!!」
四人は美野里を追って忍部屋を飛び出した。美野里は五人の中で一番すばしっこいことを考えると、ほんの数秒ではあるが、見失うには十分過ぎた。