・色々と崩壊
・ノロノロ更新
それではごゆっくりどうぞ!
「どういう意味ですか?」
慣れない笑顔を張り付け、敵意剥き出しの店主に問いかける。
「どういう意味って?そのまんまに決まってるだろ?」
汚い笑みを浮かべて腹を抱えながら答える男から視線を外すことなくじりじりと後退する。
目指すのは勿論出口だ。明らかに話し合いでどうにかなる雰囲気ではない。
「すいませんがお金は持ち合わせていないんですよ……。本当に申し訳ないです。」
心にもない言葉を吐く………出口はまだ少し遠い。
「金?なにも鉱石で払えなんて言ってねぇ…………そちらさんには女もいるんだ。若い労働力は高く売れるんでな………。」
「ユイ。走れ……!」
その合図と共に180度方向を変え二人同時に踏み込む。
半ば前のめりになりながら一目散に出口の扉へと走った。
しかし………
「ガシャン。」
そんな機械音。
そして目の前の扉に変化が起きた。いや、扉にというのは誤解を招くだろう。
正しくは扉の前の地面がせり上がった。
扉が半分ほど塞がれとても出ることが出来そうにない。
「そんな簡単に逃がすわけないだろ?」
ヘラヘラといやらしい笑みを浮かべる店主の声が妙に耳に入ってきた。
「………怖い顔すんなって……………悪いようにはしねぇよ……。」
何か状況を打破するものはないかと周りを見渡す。
しかし目に入るのはそれが何かすら見当もつかないような怪しいものばかり。
(クソッ…………)
心の中で悪態を付きながら尚もなんとか方法を編み出そうと頭をフル回転させる。
店主はニヤニヤとこちらにゆっくりと歩み寄っている。
「つ、創さん……?」
ユイが不安げに乞うような声色を出す。
「そんじゃ!大人しくしな。」
そんな声に思わず目を瞑り、ユイを庇うようにして倒れ込んだ。
数秒の静寂。
そしてゲラゲラと下品な笑い声が響く。
顔をしかめながら見上げると、店主が腹を抱えて盛大に笑っていた。
しかしその笑いは先ほどまでの濁ったものとは違い、悪戯が成功した子供のようなものに思える。
「……。」
「……。」
呆気にとられる俺たちを見て店主は眼の縁の涙を拭いながらこう言った。
「ひぃ……ひぃ………。冗談だよ冗談!!まさか本気にするとは……。そんなに怯えて………ギャハハハハ。ちょっと余所者をからかってやりたかっただけさ………。………それにしても………ひぃ……ひぃ………ブハハハハ。」
随分とバラエティに富んだ笑い声を披露する店主に怪訝に思いながら視線を送る。
冗談………というにしては役者ばりの演技だったが……。
今の様子を見るに本当に俺たちを襲う気だったとは考えにくい。
恐らく本人が言うようにただからかっただけなのだろう。
思わず体の力が抜けてその場に座り込んだ。
「………なんですかそれ………。」
ユイも同じようにして力なくフラフラと俺の横に座り込んだ。
「いやぁ悪かった悪かった。そんなに驚くとは思わなくってな、ついつい悪ノリしちまったよ。」
未だに笑いを完全に収められないまま店主が謝る。
当然ながらそんなことで俺たちの機嫌が戻るはずもなく二人が二人とも半眼で店主を睨みつけていた。
「いや、すまんすまん。しかしそれにしてもあんた等鉱石すら持ってないだって?」
そんな俺たちの気持ちを少しは察したのか急に真面目な顔に移り変わる。
「え、あぁはい………。」
「おいおいそれじゃぁこれからどうすんだ?野宿でもしようってか?」
鉱石……さっきの店主の言葉から察するに恐らく通貨の代わりになるものだろう。
どちらにせよそんなものは持ち合わせてなどいない。
「はぁ……しょうがねぇな………ここは一つ!おれが仕事を与えてやるよ。」
すると店主がこう持ちかけてくる。
「え?そんなこ――」「本当ですかっ!?」
その言葉に金欠二人は飢えたハイエナのように噛みついた。
「すいません……今夜は二人部屋が一部屋しか空きがなくて……それでも良ければ……。」
「えぇ。そうなんですか!?でもしょうがないですね。相部屋で良いです!はい!って痛い!?」
「あの……どうにかなりませんかね……?」
「さすがにちょっと………申し訳ありません。」
街の隅にある小さな宿屋。
申し訳なさそうなカウンターの店員を見てるとこれ以上無理を言う気にはなれない。
しかし今から別の宿屋を探す時間も無いし、第一あの呪術屋から前借りした給料ではここ以外の宿屋では1部屋借りるのが限界らしい。
「いいじゃないですか。共に夜を同じ穴で過ごした仲です。宿屋の相部屋ぐらい気にならないでしょう?」
「てめぇの前で寝たら何されるか分かったもんじゃねぇから気になんだよ。いっそのこと寝なきゃいいのか……?」
「やだもぉ!創さんったら『寝かせない』だなんて!///って痛い痛い!!」
随分と面白いネジの外れ方をしたポンコツの耳を引っ張りながら、店員の方を向く。
「………分かりました。その部屋でお願いします。」
「はい!かしこまりました!!二階に上ってすぐ右手の部屋です。」
癪だが一部屋しか借りられないならどうしようもない。
今日はひとまずここに泊まることにしよう、まぁ野宿の可能性も考えていたから儲けものだと思うことにする。
礼を言って鍵を受け取るとすぐにそれがインベントリへとしまわれた。
急のことに驚いたが今更といえばいえば今更だ………。
空になった掌を握ったり開いたりを繰り返しながらまっすぐ出口へと向かう。
「ちょ、ちょっと!?創さん、どこ行くんですか!?」
「あ?宿屋は借りられたんだから仕事しに戻るに決まってんだろうが。」
「そんな急がなくても……ちょっと部屋を見てからでもいいじゃないですか。」
「ダメだ。金インゴット前借りしちまったんだから遅れるわけにいかねぇだろ。」
口をとがらせるユイを引きずりながら宿屋を後にした。
所変わって商店街の真ん中。少し洒落た雰囲気のカフェテリア。
「もう!創さんたら!!口にクリームが付いてますよ!」
バシッ。
伸ばされた手をはたくと間抜けな音をたててテーブルに落ちた。
そこには水以外には何もなく、無論食べていてクリームなんぞが付くようなものはない。
「ちょっとぐらいいいじゃないですか~。スキンシップですよスキンシップ。」
はたかれた手の甲をさすりながらユイが頬を膨らませる。
「ちょっと頭冷やした方が良いんじゃないか?」
水の入ったグラスを掴み、立ち上がると静かになった。
俺たちが頼まれた仕事は食い逃げ犯を捕まえることだった。
呪術屋の店主は呪術屋以外にもカフェの運営もやっているそうで、最近食い逃げが多発しているそうだ。
カフェで食い逃げとは聞いたこともないが……まぁ、そういう輩もいるのだろう。
店主にはその食い逃げ犯の写真をもらっておりそれを頼りに身柄を拘束してくれとのことだ。
水を一口飲んで息をつく。
しかし、何で俺たちにそんなことを頼むんだろうか?
写真もあるんなら俺たちを頼るよりも店主が自ら捕まえようとした方が遙かに捕まえられる可能性は高いだろう。
それなのに何故?――
ブンブンと顔を左右に振ってそんな考えを取っ払う。
給料をもらってしまっている以上やる以外の選択肢なんてない。
不自然にならないように気をつけながら周りを見渡す。
どうやら今は犯人はいないようだ…………まぁ、必ずしも今日のこの時間に来るなんてわけじゃないからしょうがない。
根気強く待つこととしよう。
注意を怠ることなくグラスを口元に運んだ。
ふとユイの方を見る。すると視線が合い、ニッコリと笑顔を浮かべられた。
こいつは今やるべきことが分かっているんだろうか?
浮かべられた笑顔を殴ろうと固めた拳を静かに緩めて、軽く睨むだけに留めておく。
「おい馬鹿。なにしなきゃいけねえか分かってんのかお前……?」
周りをはばかりながら声を潜める。
「勿論分かっていますよ。私に課せられた使命はいつでも変わりません。あなたを見つめることで―――」
「おまえ本当に大概にしろよ?」
声を低く、脅すように呟く。しかしそんなものには怯まず調子に乗りだしたユイはくねくねと気持ち悪く身をよじり、
「もぅ、創さんてば!しっかり私の好みを分かっているんですね!もっとゴミを見るような眼で見つめても良いんですよ?」
「俺はこういうのが好みの人間は生理的に受けつけないけどな。」
吐き捨てるように言った言葉にユイが硬直する。
数秒ほど時間を起き、思いついたかのようにポンッと手を叩くと今度は全く似合っていない妖艶な笑みを浮かべて、
「あら~?そんな生意気なことをいうのはどのお口かな~?」
そんなことを言いながらテーブルに手を突いてじりじりと身を乗り出してくる。
隣の席の子連れの客が我が子の目を手で覆っている。賢い選択だろう。
俺の口元へと伸ばされる手を触れる前に掴む。そして尚も慣れない笑みを浮かべてプルプルと震えている顔にめがけて押しつける。
「フボォゥボァ」
どこかのバトル漫画さながらの叫び声をあげてユイの体がイスへと打ち付けられた。
「あんまり目立つようなことすんじゃねぇぞ。」
「ふぁ……はい……二度とこのようなことはいたしません………。」
軽く震えながら姿勢を正すユイにふぅ……と溜め息をついた。その顔が若干紅潮しており眼には期待の色が混ざっていたように見えたのはきっと見間違いだ。そうに違いない。
気づくと少し騒いでしまったせいか周りの客が不思議そうに俺たちを見ている。
「あ………すいません。何でもないですから……どうか気にし―――」
立ち上がって頭を下げようとした瞬間、視界に見覚えのある顔が映った。
写真の男………。
およそ0.2秒ほどの硬直の後……
「――ないで下さい。」
そう言って下げかけた頭をしっかりと落とした。
イスに腰を掛け、おもむろに呼び鈴に手をかける。
その様子を見てユイの表情が強張る。そのわかりやすい表情筋はどうにかならないものだろうか?
間もなく伝票を持った店主がやってくる。
「アイスコーヒー二つお願いします。」
笑顔でそう注文する。店主はかしこまりましたと一礼するとそそくさとその場をあとにした。
あまり意識しすぎるのはよくないと分かってはいてもついちらちらと視界に入れてしまう。
男はボロ布を纏い明らかにここの雰囲気から浮いている。
それに食べているものも腹の足しになりそうなメニューばかりだ。
何かこう………明らかに怪しすぎて逆に怪しい気がしてくる。
なんだかこう………食い逃げ犯である自覚はあるんだろうか?
それに食い逃げって同じ店で何回もやるものか?
考えないようにしていた疑問がもくもくと胸の中で膨らむ。
しかしそれを遮るようにして声が割って入る。
「こちらアイスコーヒーです。」
俺たちは目の前に置かれたグラス………ではなく残された伝票を取り上げる。
そこに書かれた読みにくい癖のある字はこんなものだった。
『ただ捕まえるだけじゃ言い逃れされるに決まっている。一度店の外に出て奴が出てくるのを待ち伏せしといてくれ。』
続きますよ。
はい!どうも彩風です!!
先ほど10段トランプタワーに挑戦したところ3段で挫折しました。
難しいです。とても。
ユ「もう!創さんたら意外に照れやなんですね。」
創「は?」
ユ「だって私との二人部屋を最初は拒んでたくせに最終的には了承してたじゃないですか!」
創「お望みならばてめぇだけ犬小屋でも借りて使うか?」
ユ「もう!素直じゃないんですから!!」
創「…………」
ユ「あはん!痛い!でもそれがいい!!」
それでは次回また会えることを願っております!!
閲覧ありがとうございました!!