Tales of Twilight~黄昏が真実を告げるRPG~ 作:乙姫 凪紗
その日は昼間だというのに重い雲が立ち込めていた。――否、雲かと思うほどに黒く、大きく、そして重量感を持ったそれは、山よりも巨大な……鳥だった。
魔喝(まかつ)モノと呼ばれる巨大生物を前に、烏合の衆と成り果てた兵団をちらりと見た赤毛の僧兵は盛大に肩を竦めてため息を吐いた。
その僧兵に背を預けていたもう一人の赤毛はどうやら騎士のようで、鈍く光を照り返す剣を掲げて兵たちを鼓舞していた。
「臆するな!相手は手負いだ、このまま畳み掛けるぞ!」
しかし、手負いの獣ほど追いつめられると何をしでかすかがわからない。
それも騎士の男は理解していたようで細やかな指示を飛ばしながらも最低限の負傷で済むようにと尽力していた。
「 」
男が傍らの僧兵に何やら耳打ちするが、僧兵は聞き入れずに緩く首を横に振る。
「そう言うな。皆で生きて帰るためだ」
「……ハイそうですかわかりましたって言うこと聞くような素直な子じゃないってことはよぉくご存じのはずだけど」
次にため息を吐いたのは騎士のほうだった。
僧兵が言って聞くような従順な人物であったならば彼もここまで気を病むことはなかったろう。
それほどこの僧兵は扱いにくい人物なのだ。
「トルイドオオカラス……予想以上に手強いな」
ひっそりと呟く男に、僧兵は派手な装飾のピアスを弾いて口角を釣り上げた。
その足元にはいつの間に描いたのか、赤く輝く幾何学模様のような魔方陣が複雑に絡み合っていた。
それは、『エマナ術の申し子』と呼ばれる僧兵が独学で編み出したオリジナルの魔方陣であり、本人が試行錯誤していたが未だに成功した試しがないと口にしていたものだった。
「お前、それって……」
「ええ、未完成。ぶっつけ本番っていうのも悪くないでしょ?」
相変わらず、この天才の成長幅は留まることを知らないようだ。
絡まったままの線が噛み合い、解け、一つの形を成していく。芸術作品のような動きをする力の流れは、すべてが中央の僧兵と男に集中していた。
「これは……」
「ちょっと力貸してもらうわよ!」
ごう、と風が鳴く。力の本流に呼応して吹きすさぶ風が熱を帯びる。
周囲にある炎のエマナ粒子が二人を取り囲むように円を描いて回る。それは魔方陣の輝きに合わせて激しくなっていく。
――ヤルデハナイカ、人ノ子――
輝きが頂点に達し、魔方陣から炎が吹き上がったその時であった。
二人の脳内に直接声が響いたのだ。揃って顔を見合わせた二人だったが、声の主はほどなくして判明した。
それは、未だ大空を覆い尽くす怪鳥が発していたのだ。
――愚カニモ我ニ挑ム心意気ハ認メヨウ。……ダガ、我ニ牙ヲ剥イタ報イハ受ケテ貰ウゾ、人ノ子ヨ――
「待て!逃げるのか!」
悠然と羽ばたく怪鳥に男の方が声を張り上げるも、その頃には黒い影は遥か上空に飛び去っており、彼の声は届かなかった。
「ラティアラド……!」
男―ラティアラドと呼ばれた方だ―は自分を呼ぶ声に答えようと声を上げたが、二人を包んだ黒い霧によってそれは遮られた。