Tales of Twilight~黄昏が真実を告げるRPG~ 作:乙姫 凪紗
日の光を受けて輝くのは色とりどりのステンドグラス。
教会と巡礼者の宿泊施設を兼ねたそこは、冒険者と巡礼者で今日もごった返していた。
神殿にやってきた者がまず目にするのは大聖堂に飾られたステンドグラスである。
神話時代の神々の戦いを描いたというそれは全部で八つに分かれており、それぞれの属性を加護する精霊を模したものになっているらしい。
その一つ、火の精霊であるヴォルケードの肖像の近くに、その人物は立っていた。
すらりと伸びた長身に、切れ長のオッドアイ。そして神殿の紋章が入った僧服。
下ろすと腰までの長さになる赤毛をまとめ上げているのは火属性のエマナ鉱石を束ねたアミュレットである。
「……皆暇人よねえ……」
はあ。とため息を吐いた彼――見た目だけでは判別しにくいが、確かに性別的には間違った認識ではない――は熱心に祈りを捧げる信徒の傍の長椅子に腰かけた。
昔から彼の定位置はヴォルケードのステンドグラスの前にある長椅子だった。
その習慣は今でも変わっていないらしい。
「やっぱり!またここにいた!」
傍らに放られていた聖書を眺めていた彼に怒号を浴びせたのは、彼より若干年下であろうかという女騎士だった。
彼女の名は、ナリュア・フェリアモータ。神殿を警護する騎士団の発足者の孫であり、騎士団始まって以来初の女性の部隊長補佐官、つまり彼の上司にあたる人物である。
「ああら、誰かと思ったら団長補佐様じゃないの。何か用?」
鬼の形相で詰め寄られたところで、彼にとってはどこ吹く風なのかちらりと彼女を見ただけで直ぐに手元の聖書に視線を落とした。
「今日、定例会議があるって言ったよね?」
「言ったわね」
相変わらずの態度に、ナリュアはふるふると拳を震わせて口を開きかけたが、いつものことだと小さく息を吐いて言葉を続けた。
「それにアライストも参加してほしいって言ったよね?」
「ええ、言ったわね。“出来ればアライストにも顔を出してほしい”って」
それを聞いたのはほんの数日前。日課である聖堂の見回りを済ませたアライスト――オッドアイの彼だ――にナリュアが申し出たことだった。
騎士団の定例会議にアライストも顔を出してはくれないかということだったが、アライストは『気が向いたら』と返答したきりにしていたのだ。
「アタシは『気が向いたら行くわ』ってちゃんと返事はしたと思うのだけど?」
彼が行かなかったということは、そのまま気が向かなかったという意味合いになるのだろう。
しかし、ナリュアはそれでは納得できないようである。
「けど、騎士団の一員であるアライストにも参加する義務は生じるでしょ?」
「それは優秀な補佐官殿がアタシたち末席に情報伝達すれば済むじゃない。そっちの方がよっぽど効率的だと思うけれどね」
ああ。だの、うう。だのと二の句を紡げないナリュアを眺め、アライストは肩を竦めた。
結局のところ、彼相手に議論で打ち勝てる人間などそうは居ないのだ。
例え丸め込めたとしても、それは彼が“折れてやった”という可能性も出てくる。
今のところ、言葉を武器にした論争で彼と互角に競り合える者はこの教会には居ないらしい。
「もー、アライストは何でいつもそうかなあ……もう少し真面目に生きればいいのに」
「失礼ね、給料分の仕事はしてるわよ。それ以上のことは何も望まないし、得ようとも思わないだけ」
事実、アライストは生活していく分には十分な賃金は得ている。
ただそれ以上を望もうとしないだけだ。
それがナリュアに『怠慢』だと捉えられてしまったのだろう(本人にとってはたまったものではないだろうが)。
「それで?わざわざアタシを捜しに来た訳は何よ。まさか、お説教だけしに来たわけじゃないでしょう?」
「っと、そうだった。あのね、アライスト。ヴァスパーニュの北西にあるアヴェルの森って知ってる?」
アライストと同じ椅子に腰かけたナリュアは、言うなり携帯用の地図を長椅子に広げて首都の近くに広がる森を指した。
「ええ、フォトレイトの住民が狩場にしているっていう森でしょ?それがどうしたのよ?」
「最近、そこで魔喝モノが出るっていう報告が上がっててね。フォトレイトの人たちも手が出せないんだって」
「……魔喝モノ……ね」
アライストは一瞬苦い顔をしたものの、ひとまず話の全貌を把握しようと地図とナリュアの言葉に集中することで気を紛らわせた。
「でね、ヴァスパーニュの銃士さんが協力してくれることになってるの」
「じゃあアタシたちの出る幕は無いんじゃないの?」
「今あっちも大変みたいなんだ。ほら、偽神官の話はアライストも知ってるでしょ?」
現在ヴァスパーニュで起こっている事件と聞いて話に上がるのは未だ被害が拡大しつづけているという偽神官による詐欺事件だろう。
フェルドナーダ大神殿の神官だと名乗り、信徒から金品を寄付と称して巻きあげるという何とも罰当たりな手腕であるが、教会の認定証まで持ち出したというのだから犯人もなかなか用意周到である。
「……引っかかる方も引っかかる方だと思うけどね、アタシは」
「――ま、まあ、ともかく!それでヴァスパーニュも人手不足なの。で、聖堂騎士団にお呼びがかかったってわけ!」
「――で、アタシも行けと。そういう話なのね」
「そういうこと!」
大方、騎士団始まって以来の天才だと持て囃されているアライストの実力に目を付けたヴァスパーニュの重鎮たちが実力を見る為に指名したのだろう。
「この依頼を成功させたら聖堂騎士団の株も上がるし、アライストや私の実力も見てもらえる。とても名誉なことだと思うんだ」
「――アタシは遠まわしにアンタのお守りをしろって言われてる気がするんだけどね」
もともと、聖堂騎士団の評価はそれほど高いものではない。
というのも、聖堂騎士団を結成する面々の多くは傭兵上がりの荒くれ者であり、巡礼者とのトラブルも絶えなかったために首都ヴァスパーニュからは敬遠されていたのだ。
ここ最近はそういった諍いもなく、平和的に解決するようにとナリュアたちが尽力したおかげで事なきを得ているといった状態だった。
「と・も・か・く!!おじいちゃ……じゃない、騎士団長もこの件には慎重になってるの。アライストを指名したのだって団長なんだよ?」
「あのタヌキジジイ……体よくアタシに押し付けたわね……」
浮足立つナリュアとは対照的な心境にあるアライストは、後日思う様嫌味と働きに見合った報酬とそれ相応の休暇を申請してやろうと密かに心に決めるのだった。