闇を統べる吸収者の少女は友達を欲す   作:ささんさ

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3 『友達は冒険者の中で』

 振り返れば、重圧な音を立てて城の門扉が閉まったところだった。

 まるで化け物を見るかのように視線を背ける門兵数人を、拍子抜けた心地で一瞥する。

 

 ──本当に私の言うことを聞いちゃうなんて。ここの王様も相当抜けてるわ。『ギュランホルン』ほどではないけれど。

 

 ギュランホルンとは、【デザイア・オブ・エターナル】の初期位置にあたる搾取と貧困の国ハーマトリアの王だ。

 政に関心も持たず、ただ腐敗し切った上級貴族の操り人形に終始し、プレイヤーに追い詰められれば命乞いを始め、己の潔白を命尽きるまで喚き散らした暗君。

 その命乞いの最中に靴を舐め始めることから、プレイヤー間で『靴磨きの人』と揶揄される会話を聞いたことがある。

 

 ──髪も、変えちゃって、変な感じ。

 

 少女の艶やかな黒髪は、彼女自身の影を操るスキルで紅色の影に染まっていた。

 どうにも黒髪は異世界人の最たる特徴であり、この世界では警戒心を持たれてしまうらしい。

 よって王国で出歩く際には、被り物を着用するよう控え目に厳命された。

 しかも友達作りには当然、警戒されるのはNGのはずだろう。

 そのための染髪だったが……見慣れた自分の髪が火焔の色に変化すると落ち着かない。

 

 ──それにしても、どうしたものかしら。もうマカロニサラダが操ってはくれないし、行動も自分で決めなきゃ。……とりあえず日陰へ移動しましょうか。

 

 灼熱の太陽が少女の身を焦がす。

 深黒の影のワンピースが怯えたように揺らめかせ、陶器のような白雪のような肌にも痛みを覚えた。

 決して吸血鬼ではないのだが、陽光に身体が慣れていないのである。

 

 【デザイア・オブ・エターナル】の空はいつも分厚い黒雲で蓋をされ、灰燼が舞い上がり、夜が支配した世界だったのだ。

 ある日を境に、太陽が死んでしまった。

 人伝てに他人事みたいな話を聞くだけだ。

 

 だから少女が太陽という概念を目にするのはこれが初めて。

 直視を拒ませる眩い光の塊は、少女に感慨を抱かせるに足るものだ。

 

 影を濃くする輝き。

 炎とは異なる温かみを与える存在。

 

「これが『タイヨウ』……暑いわ」

 

 風情も何もをあったものではない率直な感想を零すと、近くの建物の影に飛び込む。

 影の中に溶け込みたい、とも考えたが思い直す。

 

 ──どれほどの間抜けでも、私を放置するものか。現に私を監視してる者はいる。いや、いた(・・)

 

 横目で睨む先には、誰か待ち人がいるように装う中年の草臥れた男。

 身なりは泥臭く薄汚れており、一見には王国の監視役と看破出来ない。

 けれども時折、こちらへと真っ直ぐに視線を向けてくる。少女の一挙一動に瞳孔が動いているようで、偶然とは考えづらい。

 何となく手を振ってみると、男は愕然と目を露骨に見開いていた。

 

 ──なら、あまり不審な行為はしないであげた方がいい。なにか勘違いされたら、堪ったものじゃないわ。

 

「……さて、これからだけれど。私の経験で進むなら」

 

 【デザイア・オブ・エターナル】のセオリー通りに進むなら、冒険者ギルドに登録するのだろう。

 好みの職業ギルドに入団し、近場のエネミーの傾向、弱点を突くノウハウを習得し、レベルを上げていく──のだと思う。

 生憎とマカロニサラダは型破りにもギルドに入団することなく、独自の方法で着々とレベル上げを積み重ねたため、誰かしらから聞き伝えられただけなのだが。

 だから少女はギルドにおける決まりじみた物を知らない。

 

 ──まあ、叶わなかったことを体験してみるのも良いわね。友達作りにも、ギルドは重要。みんな、わいわいあそこで楽しんでた。友達作りなら、まずそこね。

 

 ギルドの場所は通行人に尋ねれば、すぐだろう。

 路銀も少なからず王国から分け与えられている。

 相場など知りもしないが、多分そこまで心配することもあるまい。

 

 こうして、昇る陽を忌々しげに睨み付けながら少女は城下町へと繰り出した。

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 想像通り、そう時間も掛からずに『冒険者ギルド』なる建物へと辿り着く。

 木造建築の三階建ては記憶にある同様の物よりも大きく、看板には特徴的な冒険者ギルドの印が描かれていた。

 交差するツルハシと剣を模した絵の意図は分からないものの、通行人に聞いた『冒険者ギルド』と同一だ。

 

 ──私の『威圧』が自由にオンオフできてよかった。元の世界じゃあ、解除したことなんてなかったから。

 

 王国の人間には伝えなかったが、格下へ威圧を与えるスキルは切り替えることが出来るのだ。

 今『威圧』を切った少女は、他人からは単なるか弱い少女としか認識されないだろう。

 

 ……一応、あとから思い出したから……でも、あとから教えなくちゃかな。それにしても暑いわ……。

 

 そろそろ向かわねばなるまい、炎天下に屯する趣味もない。

 ちょうど、屈強な男が出入りした入り口へと足を向けた。

 

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ。……あら」

 

 

 少女を、受付からの鈴のような声が出迎えた。

 

 徐に出入り口を潜ると、酒場特有の鼻奥を刺激するアルコールの臭いが漂ってくる。

 少女の知る【デザイア・オブ・エターナル】と同様に、ギルドは酒場も兼ねているようだった。

 二十ほどのテーブルには、空きが目立つものの、十人ほどの装備を整えた者達が歓談や酒を煽っている。

 仕事終わりか──いや、時刻は未だ午前のはずだ。

 となれば、朝からの呑んだくれ共もやはりいるらしい。

 

 仄かに汗の臭気も混じり、更に好奇の視線が集中したことに眉根を顰める少女は、早々と勝手口正面の受付へと向かう。

 そこには粗野な印象とは裏腹の、巻き髪の快活そうな女性が立っている。二十台前半だろうか、若々しさが溢れていた。

 微笑みを浮かべながらも、心配そうに目線を合わせて、

 

「お嬢ちゃん、どうしたの?  親御さんは近くにいるの?」

 

「冒険者の登録に来たのよ。ここで、できるって聞いたの」

 

 平然と返すと、困惑したような半ば唖然とした様子で受付の女性は固まった。

 一瞬、ギルド内が静まり返り。

 

 

「ハハハハハ!  寝言はお家に帰ってから言えよクソガキ!  怪我したくなきゃ、さっさと出ていった方が良いぜ!」

 

「翻訳、子どもがするような仕事ではないので大人しく帰ってほしい──です」

 

「俺のイカす言葉を勝手にナンセンスに翻訳してんじゃねぇ!」

 

「まあ無謀な行為は止した方が良いだろう」

 

「でも、あの子。なんか……おかしくないか?」

 

「気のせいだろ。面は上等かもしれねぇけど、ただのガキにしか見えねぇーよ」

 

 

「皆さん、この子怖がってるので大声禁止ですよ!」

 

 

 野次がテーブルから飛び、受付の女性が取りなすものの、ざわめきが止む気配はない。

 

 年端も行かない少女が冒険に出る。

 この国の常識では、あまりに滑稽な話だ。

 義勇兵を募るほど緊迫した状況下でもなく、子どもに対しての風当たりも弱い。

 そのため、危険と隣り合わせの冒険者の職業に就かせようとはしないだろう。

 

 ──おかしいわね。前の世界なら、この程度のことで、こんなことなかったのに。

 

 少女にしてみれば不可解だった。

 【デザイア・オブ・エターナル】では大人子ども関係なしに、ギルド登録出来たように思う。全てが自己責任。死んでも憐れむ心を持つ者はごく少なく、肉盾に利用されることも多いくらいだったのである。

 世界観の殺伐さの違いは常識の差異だ。

 ただ一つ、状況が上手く飲み込めない少女は首を傾いで。

 

「ダメ、なの?」

「……お嬢ちゃんが、見た目と同じ力ならダメだけど……」

 

 言い淀む受付嬢は、二の句を継ぐ。

 

「ステータス表示、見せてくれる? 分かるかな? 念じると出てくる……こんなものなのだけど」

 

 そう告げた受付嬢が人差し指で宙をタップすると、とある情報が視界に入ってきた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ナターレ・カターナ Lv9

 年齢:21

 種別:人類種

 

 HP(体力):196/200

 MP(魔力量):153/170

 

 STR(筋力):35

 DEF(防御力):53

 INT(知力):40

 AGI(敏捷):65

 DEX(器用):62/100

 LUK(幸運):43/100

 

 《魔術》

 【────】

 

 《パッシブスキル》

 【────】

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ナターレ・カターナ。私の名前と、ステータス……私の基準の強さを表したものかな。スキル欄は見せてくれないでいいよ。……人によっては、踏み込んじゃいけないところまで書かれてるし」

 

 ステータス表示が突然滑り込んできて驚きはしたものの、元いた世界がMMORPGだったため理解は容易かった。

 文字通りのステータスの数値。

 魔術欄は名の通り、習得した魔術の表示欄なのだろう。

 スキル欄も簡素だ。

 用語を起動して発動する能力がアクティブスキル、自動的に発動するのがパッシブスキルだろう。

 

 元の世界でも存在したが、この世界でもステータス表示なる物があるらしい。

 しかも空中に表示され、自由に他人へ見せることも出来るようだ。

 受付嬢ナターレ曰く、都合の悪い部分も隠せるらしい。

 

 ……特殊な操作とか道具は不必要なのね。随分便利な世界じゃない。情報得るために、裏切りとか横流しとか横行してたあの世界とは大違い。……ともかく、私も出さないと。

 

 言われるままに少女は念じてみると──情報の羅列が眼前に現れた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ────── Lv236

 年齢:9

 種別:魔種

 

 HP(体力):2000/2000

 MP(魔力量):3220/3240

 

 STR(筋力):836

 DEF(防御力):1675

 INT(知力):8550

 AGI(敏捷):6800

 DEX(器用):28/100

 LUK(幸運):76/100

 

 《アクティブスキル》

 【剥離させ掌握する吸収者】 射程:近〜中距離 魔力消費:80

 支配と同化の効果を持つ、欲望のチカラ。

 認識した生者のHP、MP、経験値を吸収する。

 吸収速度は距離に比例する。

 最速は使用者の身体に接触した状態である。

 又、対象者の半分以上のHPをこのスキルで吸収し、対象者のHPを零にした場合は対象者を眷属化する。

 

 【絶対者の威圧】 射程:── 魔力消費:──

 此のスキルの所有者の三分の二のレベルに満たぬ者に、心理的圧迫感を与える。

 効力は所有者とのレベル差に比例し、十倍以上のレベル差が有れば気絶に至るだろう。

 尚、このスキルに発声は不要。

 王者たる者、風格で雑兵を去なすのだ。

 

 《パッシブスキル》

 【汝は影、影は汝】

 自由に認識した影を操作、また接触している影に身体を溶かし一体化する事も出来る。

 魔力消費も無く、宛ら手足の如く影を操る様は闇すら手中に収めたようだ。

 

 【遍く闇を司りし、此の世全ての敵対者】

 原生生物でも異世界人でも無い、異世界人に溢れた此の世に於いてすら異質の存在。

 今代の異邦人であり、全ての敵対者。

 このスキルを他者に認知された場合、所有者は心底からの敵愾心を向けられるだろう。

 

 【言語翻訳C】

 世界を移動する際に自動付与されるスキル。

 他世界の標準言語を、──が認識できる言語に自動翻訳する。 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ──この世全ての、()…………?

 

 

 

 

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