言葉と意思の行軍記   作:嶺上

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十話

第十三話

 

 深夜、学生が寝静まり、昼の喧騒が嘘のような静けさに包まれた麻帆良学園の地下深くには、30人程の魔法使いが集まっていた。誰もがローブを目深にかぶっているが、陰気な雰囲気は感じない。それは、彼らが集まっている場所のせいでもある。そこは石造りの古代遺跡が広がっている。その正体は、円柱状に空いた穴へ建築された魔法世界への転送ゲートだ。上下ともに吹き抜けとなっており、天井も底も見る事は出来ない。中央にある儀式場の周辺は光を放っており、ゲートが開く時間が近いと告げていた。

 

 集まった人々の中で、固まってゲートを待つ5人が居る。中央の少年は出発はまだかと急いており、傍らの少女が本を読みながらそれを制している。周りに控える3人は、少年と少女を見て微笑みながら、地図を広げ、旅の予定を確認している。地図を確認していた一人が少女に声をかける。

 

「ではミオ、オスティアに滞在して情報収集、しかる後各地を回るという事でよいですね」

「ええ、当ても無く歩くのも悪くはないと思うけど、情報があって損はしないものね。ナギ、それでいい?」

「おう、ミオに任せるぜ」

 

 その言葉に、未央は微笑で応えながらも、内心は別の思いを得ていた。

 ──紅き翼の意思決定はナギだったけど、このままだと私になるんじゃないかしら……ちょっと不味いわねぇ。

 紅き翼はあくまでナギが中心となって動く集団だ、そのナギが未央に判断を仰ぐのは好ましくない。そう思い、今後はナギ自身に判断を仰ぐように話題を回そうと考える。

 

 考えていると、ガイドの魔法使いから声が飛ぶ。

 

「そろそろ出発となります! 中央へお集まりください!」

「よっしゃ!ミオ、行こうぜ!」

「はいはい、ゲートは逃げないわよ」

「まるで母親のようですねぇ」「保護者に違いない」「そうじゃのう」

 

 ナギが駆け出し、他の4人は歩きながらそれを追う。中央付近には、既に他の人々も集まっており、ゲート設備の発光も強まっている。5人が中央付近まで集まると、待っていたかのように設備全体の光が強まる。係員が辺りを見回し、乗り遅れが居ないか確認しており、出発間近だという実感を得る。未央が上を見ると、巨大な魔法陣が連なって展開され、その中央を光の柱が貫いた。同時に、魔力の収束する地響きのような音が鳴り始める。係員が見回りを終えて中央に戻ると同時に、魔法世界への転移魔法が発動する。視界一面が白い光に包まれ、浮遊感が体を包み、転移が開始される。

 

 

 ●

 

 

 一秒にも満たない転移の後、魔法世界への転移が完了する。目を開けると、一面に広がる浮遊諸島。浮遊する大地の上に建てられた都市、ウェスペルタティア王国の王都オスティアに到着したのだ。ゲートの到着地点も浮遊島であり、いくつかの石柱の上に魔法陣が描かれた舞台が建てられている。浮遊島同士は通路で繋がっており、その先には空港のような受付を見る事が出来た。視界を遮らぬ様、ゲート周辺には高い建築物が立っておらず、屋根も無い。空が近いと思う一方、雨が降ったらどうするのだろうと思ってしまい、我ながら無粋な考えだと未央は思う。

 一方ナギは、到着の喜びを全身で表しており、周囲を嬉しそうに見渡している。

 

「着いたぜオスティアー! すげーな! 島が浮いてその上に住んでるぜ! ──怖くね?」

「いきなり素に戻るんじゃないわよ、長い間浮いてるからそこらへんの感覚無視してるんじゃない? オスティアの人は鈍感なのね」

「到着するなり現地民を遠まわしに馬鹿にするのも、どうかと思うぞ。未央……」

「別に馬鹿にしてないわよ詠春。──鈍い奴らだと思っただけで」

「ガイドが! ガイドの人がこっち睨んでるぞ未央!」

 

 詠春はガイドに頭を下げながら苦笑いをしている。詠春の気苦労の元凶は、そんな事など知らぬとばかりにナギと入国審査に赴く。入国審査自体は、たいした事ではなかった。大人が同伴しているとはいえ、二人の子供──外面だけ子供のゼクトも含めると三人の子供が旅をしていると聞いて、係員が困ったような笑みを浮かべた。係員の困惑とは別に、手続きはスムーズに進み、預けていた荷物を受け取り、正式にオスティア入りを果たす。改めて周囲を見渡すと、浮遊島の上に古風な建物が立ち並び、幻想的な風景を見る事が出来る。それを見て未央が思うのは、綺麗だのといった感情ではなく、

 

「やっぱり落ちそうで怖いわねぇ、オスティアの人ってにぶ」

「やめろ、頼むからやめてくれ。周りに現地の方々が居る」

「でもよ詠春、やっぱり怖くね? お前どう思うんだよ、そこらへん」

「む……確かに、私も少々違和感がありはするが……」

 

 旧世界出身であり、オスティアの歴史もあまり詳しくない三人に、アルが補足する。

 

「大丈夫ですよ、オスティアの浮遊島は島自体が魔力で浮いているものですから、魔力が消失でもしない限り落ちません。魔法世界でも極一部地域で魔力が無い地域はありますが、まぁ、オスティアからいきなり魔力が消失するような事はありませんよ」

 

 ナギと詠春はなるほどと納得していたが、未央は少々微妙な思いを得ていた。

 ──原作だと落ちるんだけどね。まぁ、その時は【ものは下に落ちる】で島を無重力状態にすればいいか。

 そう思い、気を取り直す。

 

「じゃ、とりあえず宿取って情報収集行きましょうか」

 

 

 ●

 

 

 宿に荷物を置き、情報収集の為と、夕食をとる為に酒場と食堂を経営する店へ赴く事となった。情報収集といえば、酒場というのは定番である。しかし、同時に礼儀がいいとは言えない連中との付き合いも発生する。格好でアドバンテージを失うのは宜しくないと、未央は酒場にいく前に魔法薬を取り出した。それを見たナギが、未央に問う。

 

「ん? ミオ、それなんだ?」

「年齢詐称薬よ、18歳くらいに体を変身させる奴。流石に5人中子供が3人じゃ舐められるでしょ」

 

 答え、未央は一人部屋に入る。中で軽い爆発音が聞こえ、すぐに扉が開かれる。年齢詐称薬で成長した未央を見て、アルが感想を漏らす。

 

「おやおや、見違えましたよ、ミオ。なかなか美人に成長するのですね」

「ふふん、いいわよアル。もっと言いなさい。まぁ私もここまで変わるとは思わなかったわ」

 

 成長した未央は、平凡を体言した子供時代とは異なり、なかなか見栄えする容姿となっていた。

 長く腰まで伸びた黒い髪は、年齢相応に伸びた身長とよく合っている。体型はある程度、出るべきところは出ており、引っ込むべき処は引っ込んでいる。黒い瞳は吊り目で、気が強い印象を相手に与える。印象を問われれば、『不敵な女』と返されるだろう。

 

「さて、じゃあ行きましょうか。変なのに絡まれると嫌だから、適当に彼氏役してね、アル」

「──ええ、承りました」

 

 アルは一瞬視線を別に移し、了承する。疑問に思い、未央がアルが一瞬視線を移した方向を見ると、ナギが凄い顔をしていた。下唇を突き出して口を歪ませており、目線は未央に不満を訴えるように細めている。

 

「……ナギ、何その凄い顔」

「その魔法薬もう1個ねぇの?」

「あるけど…」

 

 差し出すと、ナギは少々強引に受け取り、部屋に入る。先ほどと同様に軽い爆発音が聞こえ、成長したナギが現れる。ナギはそのままに成長した姿で、やんちゃな子供から不敵な青年…いや、自信溢れる印象は頼もしさを感じさせる青年に成長している。ナギは笑顔に戻っており、未央に向かい、親指を突き出した手を掲げ、

 

「じゃ! 俺がミオの彼氏役ってことで!」

「へぁ!? べ、別にいいけど、なんでまた!?」

「なんでもへちまもねぇ! じゃ、行こうぜ!」

 

 ナギはそういうと、未央の肩に手を置き、強引に歩き始めた。未央はあたふたと困惑していたが、ナギに離す気がないとわかり、小さく縮こまる。

 それを見ていたアルは、何かを閃いたような仕草をし、二人を呼び寄せてひそひそと何かを語る。二人はそれを受け、ニヤリと笑うとローブを羽織り、部屋に一枚のメモを残して宿屋を離れる。宿を出る三人の口元は、楽しそうに笑っていた。

 

 ●

 

「全く、酒場の場所知らないのに先に出ないでよ、ナギ」

「細かい事気にするなよミオ、謝ってるじゃねぇか」

 

 ナギが酒場の場所を知らず、三人とはぐれてしまった事を未央が知るのは宿を出て10分後の事であった。宿屋に戻り、合流しようと三人の姿が探すが、エントランスに姿が見えない。怪訝に思い部屋に戻ると、置かれたメモに気づく。

 

【みっちゃんへ、我々が情報収集に行ってきますので、お二人は遊んできてください。 アルビレオ・イマより】

 

「……どういう事なの」

 

 未央は困惑し、メモの裏面なども見るが、特に追記は無い。背中に冷たい汗が流れている事を感じ、言葉が出ない。沈黙が部屋を支配し、刻々と時間が流れる。部屋の外からはナギが呼ぶ声が聞こえ、足音が近づいてくる。

 

 ──アル、一体どういうつもりなの……!?

 

 ●

 

 未央が知る術は無いが、先ほど、三人の間で以下のようなやり取りが交わされた。

 

「いやぁ……微笑ましいじゃないですか、年頃の少年少女らしいですね」

「そうじゃのう、ミオも色恋事には弱いようじゃな」

「やはり少年少女はかくあるべきだな。もう二人はほうっておいて私達だけで情報収集に行かないか?」

「詠春、何を言っているんですか。彼らはまだ10歳ですよ。

 ──ちゃんと見ていてあげませんと、勿論見つからないように」

「そうじゃの。何せ二人はまだ子供じゃからの。心配じゃ!」

「……それもそうだな! (たまには私もこちら側に居たい、許してくれ、未央)」

 

 このように、アルビレオ・イマ主催によるナギと未央の観察会が開催されていた。勿論、宿屋で困惑する未央も三人はしっかりと捉えている。アルは未央の様子を見て、満足そうに笑っている。

 無論、アルとて考えなくこのような企みを実行したわけではない。ナギと未央とは未だ数日の付き合いではあるが、アルは二人──特に未央を気に入っていた。

 少女らしからぬ賢しさを持ち、概念系統という新たな系統を操る天才。しかし、彼女を見ているとある事に気づいた。

 

 ──何やら、ナギに対して遠慮をしていますね。

 

 ナギは未央を頼りにしているのは見ていてすぐにわかったが、未央の態度が少々気になった。ナギに対して好意を抱いているのはわかったが、踏み込むでもなく、引くでもない中途半端な態度を取っている。自分が抱く好意に気づいていないのか、判断はつかないが、

 

 ──突いてみれば、面白そうですね。思い立ったが吉日です。

 

 自らの欲求に従い、アルは二人へ尾行を提案したのだった。首尾よく二人の同意を得られ、アルは隠れながら思う。

 

 ──さぁミオ、遠慮する事は無いのですよ……フフフ……

 

 彼は、どこまでも胡散臭い、自分の欲求に素直な男だった。

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