言葉と意思の行軍記   作:嶺上

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五話

 麻帆良学園は明治に創立された長い歴史を持つ学園である。

 広大な敷地には、小学校から大学までの教育課程を受けられる学び舎があり、エスカレーター式に進学出来るようになっている。また、敷地の中央には樹高270mを誇る神木「蟠桃(ばんとう)」、生徒達には世界樹と呼ばれて親しまれている樹が聳えている。

 その世界樹は22年に一度、大発光してその身に溜め込んだ魔力を放出させる──。

 

 麻帆良学園観光案内図書(魔法使い向け) 序章より抜粋

 

 

「つまり、武道会はどこでやってんだ?」

「待ちなさい、今それを探してるんだから」

 

 アイスクリームを舐めながら、ナギは傍らでベンチに腰掛ける未央を見る。未央はガイドブックに集中しており、ナギに視線を返す事はしない。ナギが未央を見ると、ゆっくりとガイドブックを捲っており、項目を探している手つきではない。

 ──まぁた始まった。未央の悪い癖だぜ。こりゃ長くなる。

 アイスクリームのコーンを口に放り込み、咀嚼する。麻帆良学園の広大な敷地に最初は喜んだものだが、いつまでたっても武道会会場に行けず、未央がガイドブック兼地図を買ってきて今に至る。

 未央が本を読み始めると、長い。しかも邪魔すると酷い目にあう。一年にも満たない付き合いだが、それは身をもって知っている。

 

 口の中のコーンも無くなり、さてどうしたものかと、ナギは周りを見渡す。

 現在、麻帆良祭の真っ最中であり、周りには暇をつぶせそうな催しがいくつもある。武術の催しが見当たらないのは残念だ。

 

「ミオ、ちょっとうろついてくるわ。なんかあったら念話で呼んでくれ」

「わかったー」

 

 おざなりな言質を得て、オーライと返答する。後の保身を保ったところで、ナギは散策を始める。

 学園の部活による出し物や、外部の商店が経営する露店、射的や輪投げといった定番のコースを冷やかしながら時間を潰す。その途中、度々年上の女生徒から囲まれ、走って逃げる事になり、暇を潰すという当初の目的はある程度達成出来ている。

 

 

 そうやって暇を潰していると、なにやら出店も無いのに人が集まっている場所を発見する。野次馬根性で近づいてみると、チンピラが誰かを囲んでいるのが見える。

 ──そうそう、こういうのを待ってたんだよ!

 思うより早く、ナギは走り、人垣をジャンプで飛び越える。チンピラ集団の真ん中に居るのは、メガネをかけ、腰に長物を挿した男だ。

 

「助太刀するぜ!」

 

 声をかけながら、手前のチンピラの頭に着地し、一人撃破!と言いながら体を回す。左右のバックハンドで手の届く位置にいたチンピラ二人を打撃。三人!その勢いのまま、更に回転して左のチンピラに回し蹴りをぶち込む。周りを巻き込みながら吹っ飛ぶチンピラを見て、ナギは数えるのを止めた。

 突然の乱入者に呆けていたチンピラ達は、ようやく気を取り戻し、眼鏡の男とナギに襲い掛かる。

 四方から敵が襲い掛かる状況に、ナギは思う。相手から距離をつめてきてくれて助かる、と。

 旧世界の街では魔法を隠さなくてはいけない為、杖は滞在する宿に置いてきているが、武術のみでもこの程度の相手ならば十分お釣りが来る。

 1分後、その自信が実力に裏づけされたものである事が証明された。

 

 山と重なったチンピラ集団を前に、ナギは眼鏡の青年と相対する。

 

「サンキュー、おかげで暇潰しになった」

「いや、礼を言うのは私の方だな。あの数は少々面倒だったので助かった」

 

 ナギが手を出すと、青年は握手に答える。手の内側が硬く、剣で長く生きてきた説得力を持っている。腰の長物が伊達ではないのだと、青年の手が主張していた。

 先ほどの乱闘の時、ナギは直接青年の戦いを見ては居なかったが、戦闘音とチンピラの傷跡を見れば、自ずと戦闘スタイルを把握出来た。風を切るような硬質の音と、チンピラ達の体にある細い打撃痕。魔力を感じないところを見ると、純粋な剣術使いなのだろうと思う。

 

「あんたも武道会に出るのかい?」

「ああ、──も、という事は君も出るのか。随分幼い──いや、すまない。

 格闘技に年齢は関係なかったな」

 

 わかる相手だ。自分より小さいからといって、相手を侮らない心構えが気に入ったぜ。

 

「おう、武道会でかちあったら宜しくな。

 俺はナギ、ナギ・スプリングフィールドだ」

「私は青山 詠春だ。手加減はしないぞ」

 

 互いの名を聞き、ナギは思う。思ったより楽しめそうな武道大会だぜ、と。

 眼鏡の青年──青山と別れたナギに、ミオから念話が入る。やっと受付が分かったから、合流しようと。こちらもやっと進めるようだ。急いで合流しようと、ナギは走り出した。

 

 

 ●

 

 

 武道会へのエントリーを済ませ、宿に戻りながら、ナギは青山の事を未央に話す。

 

「というわけで、なかなか強そうな奴にあったぜ」

 

 未央は、ふむ、と言いながら、腕を組み、

 

「ぬう、青山 詠春!まさか京都神鳴流の宗家の…!」

「なんだ!知ってるのか未央!」

 

 未央の背後に、いかついハゲが一瞬見え、ナギが目を擦ると幻視は既に消え去った。

 

「ええ、京都神鳴流といってね、野太刀といわれる巨大な片刃の剣を使う流派らしいわ。

 旧世界・魔法世界を問わずかなり有名なはずよ、しかも青山といったら宗家、強敵ね」

「く、詳しいなミオ……すげぇぜ」

 

 読書担当として当然の嗜みよ、と未央は前髪を書き上げながら言う。

 こいつ、調子に乗ってるぜ! と思うも、口に出す蛮勇を犯さないナギ。

 

「まぁ、なんにしろ、その人と当たったら全力で戦うしかないわね。

 話を聞けば紳士らしいから、正々堂々あたれば酷い怪我をする事もないわね」

「なるほど、わかった。元々回りくどい戦いは好きじゃねぇしな!」

「そうね、あんたバグキャラだものね…。(私は正々堂々こすい手を使うとするわ)」

「そう褒めるなよ未央!」

 

 褒めてないわ、と口と手で突っ込みを入れながら未央は歩く。

 照れるなよ、と突っ込みを捌きながらナギもついていく。

 

 麻帆良学園一日目、二人は後の仲間となる青山 詠春とのファーストコンタクトであった。

 

 

 ●

 

 

 麻帆良学園二日目、二人は早速武道会の受付に向かい、予定表を受け取る。

 まず、予選は20名が1グループとなり、バトルロイヤルで2名づつ選出される。

 ナギと未央は予選Aグループ、青山 詠春は別グループの為、相対は本選までお預けとなった。

 

 予選Aグループの選手が、続々とリングの上に上がる。

 ナギは周囲を見渡し、目を輝かせながら、

 

「よしミオ!どっちが多く倒せるか勝負しようぜ!」

「どうせ断っても意味無いのよね…ええ、わかってるわよ。精々頑張るわ」

 

「おいおい、オチビちゃん達、ここはお化け屋敷じゃないんだぜ」

 二人に声をかけてきたのは、巨大な体躯を持ち、ヒゲを蓄えた男、明らかにカタギではないツラだ。

 

「ケガしないうちに帰った方がいいぜ!リングの上じゃタダで帰れないからな!」

 そう言い捨て、笑うのはモヒカンで筋肉質の男。こちらもカタギではないツラをしている。

 

 ──あぁ、あれには負けそうにないわ。

 

 そう思う未央。明らかにカタギではない無骨な面構えをした彼らを見て、全く強そうに思えなかったからだ。

 単純な体術だけでは、未央は未だナギに勝った事がない。しかし、未央自身も認識していないが、彼女は既にナギに追従する事が可能な腕前なのだ。

 最低でも、気を使いこなす達人でも来なければ苦戦すらありえない。

 

 試合開始と同時に、ナギと未央に周囲の人間が飛び掛る。バトルロイヤルである以上、弱そうな相手から狙うのは当然である。

 しかし、最初に飛び掛った男は未央の拳にアゴを跳ね上げられ、浮いた体を蹴り飛ばされる。吹っ飛びながら後ろで様子を見ていた男を巻き込み、リングアウト。

 ナギに飛び掛った相手は、カウンター一閃で吹き飛ばされており、ボーリングピン宜しく吹っ飛んでいた。

 バグキャラめ、と思いながら未央は打って出る。近い相手から順に、出来るだけ吹き飛ばすようになぎ倒していく。

 

 観客席は呆然としていた。

 最初は、大の大人が子供を本気で襲うとは何事だという空気が流れていたが、試合開始直後、その認識は改められた。

 子供達が一撃を振るう度、大の大人が紙切れのように吹き飛んでいく。試合開始から1分も持たず、リング上には子供達しか居なくなっていた。子供達に疲れは見えず、むしろお互いが何人倒したのかと元気に言い争いをしている。

 

 今年の麻帆良武道会は、色んな意味で波乱になりそうだと、会場に居た全ての人間は思った。

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