言葉と意思の行軍記   作:嶺上

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七話

 未央と青山の対戦後、麻帆良武道会の熱は高まっていった。

 第一試合からの熱戦に、勝率は低いと思われていた未央の勝利により、賭けにも熱が入り、実際に戦う者や観戦する者にもその熱は伝わっていった。

 

 一方、未央とナギは順調に勝ち進んでいった。

 ナギはバグキャラとしての資質を存分に発揮し、魔法すら使わずに勝ち上がる。

 未央は二回戦からはアーティファクトを使わず、無詠唱魔法と瞬動を駆使して勝利していった。

 

 そして、麻帆良武道会はついに決勝戦を残すのみとなる。

 対戦カードは、開会式では誰も想像していなかった組み合わせ。

 

 決勝戦 柳 未央 VS ナギ・スプリングフィールド

 

 ●

 

 控え室は、静寂に包まれていた。

 既にこの部屋に居るのは、未央とナギだけだ。いつも騒がしいナギも未央と向かい合い、瞑想している。未央もまた、ナギと向かい合うように瞑想していた。

 決勝戦を待つ観客のざわめきが遠く聞こえ、控え室の中は時計の針が動く音が支配している。

 

 目を開き、ナギが言う。

 

「ミオ、本気でやってくれよ」

 

 目を開き、未央が答える。

 

「私は、いつだって本気よ」

 

 その言葉に、ナギは首を振る。それは違う、と。

 

「お前は、詠春に使ってない力があるだろ。

 旅に出る前、俺の魔法障壁を無視して攻撃してきた。

 ああいった力も、今回は使ってくれよ」

 

 確かに、青山戦では概念能力を使わなかった。自分自身の力がどこまで高くなっているか試したかったから。

 そして、ナギは自分を相手にそういった事はするな、そう言った。

 

「アーティファクトを使ったっていい。

 俺も本気でやる、だから、頼む」

 

 真っ直ぐと未央の目を見据え、ナギは頼む。

 未央はその目を見て、少々顔を赤くしながら、思う。

 ──なんでこいつはこう、私に頼みごとをするコツを心得ているか。

 

「わかった、私に備わる全部の力で、ナギに当たるわ」

「おう! 負けねぇぜ!!!」

 

 二人は立ち上がり、拳をあわせて互いに誓う。

 全ての力を持って、戦おう。

 ナギは無手で戦うつもりだろう。未だ一部の魔法を除き、長い詠唱をあんちょこ無しで唱えられない。リングの上では暢気にあんちょこを読んでいる暇は無い為、魔法は無詠唱魔法のみで戦う。

 一方未央は、アーティファクトを呼び出し、青山戦と同じ格好を取る。コートを羽織り、槍を振るいながら調子を確かめる。

 互いに万全だ。二人は並び、リングへ歩き出した。

 

 

 

 

「さぁ、麻帆良武道会決勝戦、一体誰がこの結果を予想出来たでしょうか!

 彗星の如く現れた二つの新星の実力はまさに本物!

 決勝戦、柳 未央 VS ナギ・スプリングフィールド!」

 

 二人は既に構えに入っており、観客も水を打ったように静まっている。

 アナウンサーの声だけが響き、会場は緊張感に包まれていた。

 

「麻帆良武道会、最終戦 ──開始!!!」

 

 合図と共に、ナギが無詠唱魔法を発動。白き雷を未央に向かって放つ。

 未央はそれに対し、リアクションを全く取らない。ただその魔法をじっくり見ている。

 リングの上を雷が走る。着弾の瞬間、

 

 【・──世界は一瞬で真逆となる】

 

 呟きが聞こえ、白き雷が着弾する。衝撃で煙が舞い上がり、人影がリングの外に転がり落ち、水に落ちる。すぐに水から人影が飛び上がり、上空に舞い上がる。

 上空に舞い上がった人影は、ナギだ。

 

 観客からどよめきが走る、雷に着弾したのは未央ではなく、ナギだ。

 結果だけ見ればそうなるが、未央を除き、状況を把握できていない。

 

 ナギは思う。

 ──やっぱり不思議な力を隠し持ってやがったな、ミオ!

 いつも感じていた。ミオは何か俺に隠し事をしている。直感だが、間違いない。

 その一つがこの能力だ、稽古では見た事がない。

 いつの間にかミオと自分の位置が逆となり、自分で放った魔法を自分で食らう破目になった。魔法が当たる直前に、ミオの声が聞こえた。世界は一瞬で真逆となる、つまり場所を交換する能力だと思う。

 

 「ナギ、先に言っておいてあげる」

 

 未央が、自分が立っていたリングの位置から言う。

 

 「一つじゃ、終わらないわよ」

 

 自分を貫くような視線で、未央は言う。

 

 「望むところだぜ!!!」

 

 浮遊術から、虚空瞬動で未央の左右に移動しながら、背後を目指す。未央はこちらの動きを追いながら、牽制のように魔法の矢を放ってくるが、当たりはしない。

 あと一回の移動で背後を取れる、未央は未だ行動を起こさない。

 

 ──やっぱ、さっきのはカウンター系の能力か。

   なら、未央が知覚できないタイミングで攻撃を放てば攻撃が届くはずだ。

 

 牽制として、未央の目の前に白き雷を着弾させようと、振りかぶる。

 

 【・──世界には真実しかない】

 

 先ほどとは違う言葉だ、そう思いながらナギは魔法を放とうとするも、

 ──体がうごかねぇ!!

 体の硬直と動揺を得て、未央から視線を外してしまう。

 

 未央が動く。

 槍を構え、ナギに向かって突き出す。

 速度と槍の質量から、魔法障壁を突き破りはしないと思うが、未央は更に言葉を重ねる。

 

 【・──攻撃力は最大となる】

 

 ──いかにもやばそうだな!!! 思い、回避を試みるも、未央の槍の方が早い。

 せめてもの抵抗に、魔法障壁へ最大限魔力を回し、防御の構えを取る。

 未央の槍が魔法障壁をあっさり貫通し、自分の腕を打撃する。予想を遥かに超えた打撃力が加えられ、ナギは観客席の更に向こう、麻帆良学園内の湖まで吹っ飛ぶ。

 

 

 ●

 

 

 ──概念能力を遠慮なく使うと、やはりこうなるか。

 

 予想通りだと思いながらも、ナギならまだやってくると思う。

 ──あの馬鹿なら、やられっぱなしで終わるわけがない。

 ナギが落ちたあたりを見ながら、未央は構えを解かない。

 

 場外カウントが進む。

 未央はカウントを待たず、水中で考えをめぐらせていると思われるナギに追撃を加えるべく、飛翔する。上空に飛び上がり、槍へ魔力を集中する。槍にまとわりついていた装甲がズレ始め、槍頭に砲身のようなスペースが出来る。

 

「行きなさい、砲撃の槍…!!!」

 

 槍頭に光が点り、光が増大していく。未央が槍頭を下に向けると、光は白い光線となり、水面へ着弾し、上空まで水しぶきを上げる。

 思わず、未央は言う。

 

「やったか!?」

 

 その声にこたえるように、水中からナギが飛び出してくる。

 高速で未央に迫り、ナギは未央に耳にタコが出来るまで言われながら、たった一つだけ完全に覚えた呪文を唱える。

 

「契約に従い、我に従え、高殿の王!

 来たれ、巨神を滅ぼす燃え立つ雷霆!」

 

 不味いと思い、一瞬体が硬直する。その隙をナギは見逃さず、未央の首を掴む。

 

「百重千重に重なりて、走れよ稲妻!」

 

 ナギが自分の魔法障壁を最大にしている事を見て、未央は相手の狙いを悟る。

 ──自分の魔法障壁強度を信じた、相打ち狙い!?

 世界を一瞬で真逆にする概念を利用しても、相手も効果範囲に居れば意味は無い。

 

「千の雷!!!」

 

 ナギの詠唱に答えるように、未央とナギを包むように雷の柱が振り下ろされる。

 未央の魔法障壁は即座に砕け散り、雷に直撃する。

 体中が燃えるような痛みに支配され、意識が遠くなる。

 

 ──失敗、待ちに徹すればよかったわ。

 

 リング上で待ちに徹すれば、開始直後と同様の対応で完封出来た自信はある。

 そうしなかったのは、自分の本当の全力を試す為だ。概念を駆使し、この世界で培った魔法と武術で、ナギに勝てるのか試したかった。

 ──まぁ、その試みは負けで終わったわね。

 残念だ、そこまで思い、痛みに耐え切れず、未央の意識は途切れる。

 

 ●

 

 千の雷が落ち、湖から水煙が立ち上る。

 雷鳴が鳴り響き、湖に落ちた雷が観客席へ津波を作り、観客からは悲鳴が上がっている。

 未だ上空に居るナギは、未央が落ちない様、抱え込むようにして持ち方を変えていた。

 

 雷属性最上位 対軍魔法「千の雷」。本来、一個人に向けて使用されるものではない。

 使用者であるナギが未だ使い慣れておらず、術式の最適化もされていないが、その攻撃力は戦略兵器である鬼神兵や戦艦にも通用するものだ。

 直撃した未央は全身に裂傷があり、既に意識を失っている。それはナギ自身も同様で、未だ未央を抱えたまま浮遊術を行使しているのが奇跡的な状態だ。

 ゆっくりとリングに戻ってくるナギ、それを見る観客に歓声は無く、誰しも沈黙していた。一人、アナウンサーが職務を果たそうと声を出そうとするが、声が出ていない。

 時間が止まったように静かなリングの中央に着地し、未央を横に寝かせながら、ナギは自身も倒れこんだ。そこで、初めてアナウンサーが声を出した。

 

 「きゅ、救護班! 急いでー!!!!」

 

 叫び声のような指示をきっかけに、会場の時間が動き始める。

 千の雷について考察をする者、二人の容態を心配する者、不謹慎だが賭けに負けた事を嘆く者と、その様子は様々だ。

 その中でも、周りと異なる反応をする者が3人居た。

 

 一人は青山 詠春。彼は二人の様子を見ようと救護室へ駆け出していた。一時とは言え、会話を交わし、刃を交えた相手だ。

 ましてや二人とも自分より一回りは小さいような子供だ、助けられるものなら、何でも手伝おうと彼は駆け出した。

 

 もう一人は、白いローブを羽織った長身の男。黒い髪を後ろで束ねており、線のように細い眼で未央を見ていた。

 彼女の使った魔法、自分と相手の位置を入れ替え、相手の体を硬直させ、攻撃力を増加させる魔法を一言の詠唱で発動させていた。

 興味深いと、見る者に不信感を与える微笑を浮かべ、誰にも気づかれず、影に潜むようにその場から立ち去った。

 

 最後の一人は、白い髪をした少年だ。半袖のジャケットを羽織り、年頃の少年らしい格好をしているものの、長い年月を経た大樹のような雰囲気をかもし出している。

 少年はナギを見ていた。千の雷を放った際に展開された魔法陣は、効率化を全くされていない落書きのようなものだったが、威力は並の魔法使いを遥かに上回っていた。

 また、自らも範囲に置いた中で魔法を発動させる精神力は特筆すべきものであり、磨けば磨く程光る原石を思い起こさせる。

 後遺症によってつまらない人生を送らせるのはもったいない、そう思いながら、少年は救護室へ歩き出した。

 

 

 ●

 

 

 救護室は戦場の様相を呈していた。ナギも未央も重症であり、魔力もほぼ残っていない。医療魔法使いが交代で魔法をかけ、容態を安定させようと帆走している。

 詠春はその中、医療魔法の効果を促進させる薬品を運ぶ為に帆走している。

 誰しもが幼い二人の将来を守るべく力を尽くしている中、白髪の少年がゆっくりと救護室へ入ってくる。誰も少年に気づかないまま、少年は二人の枕元に立つ。医療魔法使いに、少年──ゼクトは言う。

 

「退いておれ」

 

 言うと、両手で魔法陣を紡ぎ出す。ゆっくりと、朗々と詠うように詠唱を続けるゼクト。その姿は、教会で信者達に説法をする大司教のように見える。

 魔法陣は二人に寄り添う様に展開され、ほんのりと魔法陣からもれる光は、二人の傷を癒し始めていた。聖書を読み上げる司祭のように、ゼクトは詠唱を完了する。

 

「汝が為に、ユピテル王の恩寵あれ。<治癒>」

 

 魔法陣が一際大きな光を放ち、二人の体を包み込む。煌々と光り輝く魔法陣は見る者に無償の愛を信じさせる。

 光が収まると、そこには全身の傷がふさがり、穏やかな寝息を立てる二人が見えた。

 

「ふむ、こんなもんかの……。すぐに目を覚ますじゃろう」

 

 肩をぐるりと回し、一仕事終えたような仕草をするゼクト。その仕草は少年の体に似合うものではないが、不思議と違和感を抱かせない。

 言葉の通り、未央が何かむず痒そうに咳をしながら目を覚ました。ナギは目を覚まさないが、寝息がイビキになっており、周りの魔法使いが苦笑のまま安堵している。

 未央は周りを見渡し、状況を把握しようと周囲を見渡す。

 魔法使い達の中に詠春が居るのを見つけると、相手は笑顔で頷き、未央の枕元に居るゼクトに視線を向ける。

 未央がゼクトに目を向けると、

 

「体の調子はどうじゃ?」

「んー……大丈夫。特に問題ないわ。皆さん、ご迷惑おかけしました」

 

 ベッドから降りて一礼しようとする未央を、少年が止める。

 

「まだ安静にしておくのじゃ、体力は戻っておらんからの」

「あ、はい。わかりました。

 ところでお水頂いてもいいですか?」

 

 水差しを持った医療魔法使いが、未央に水を差し出す。受け取った未央は、コップに文字をなぞる。少年は枕元に居た為、未央がコップになぞった文字が見えた。

 

【体力と魔力が回復する水の入れ物】

 

 ──何かのまじないじゃろうか。

 

 未央が水を一気に飲み干すと、途端に未央の体から魔力が溢れ出るのをゼクトは見た。間違いなく唯の水であったが、未央は水を飲んだ途端に回復した。

 

 ──先の試合でも変わった魔法を使っておったが、その応用じゃろうか。

   少々興味があるのう。

 

 

 未央は同じコップに水を貰い、今度はナギに飲ませている。眠っているナギに強引に飲ませ始めた為、うがいのような状態になり、最後は鼻と喉を強引に手で塞いで飲ませた。

 

「ぐごばぁあ!? ミ、ミオ! たまにお前俺を殺すつもりかと思う事があるぜ?!

 もうちょっと優しくしてくれよ!」

「お・だ・ま・れ。あんたが相打ち覚悟の千の雷しなきゃお互いここまで怪我しなかったのよ!

 皆さんにご面倒をかけた分、私が! あんたに罰を与えるッ!!!」

 

 未央はナギに布団を被せ、【超重い】と文字をなぞる。ナギは首から上だけが見える状態となり、逃げ出そうと必死に力んでいる。

 未央は違うコップを用意し、ナギに見える様、ゆっくりと文字をなぞる。

 

【超苦いが健康にいいネギの味のする汁】

 

 ──!!!

 

 ナギの悲鳴があがり、未央の高笑いが響き渡る。未央の口元は釣りあがっており、恐ろしい笑顔を作っている。

 ゆっくりと見せ付けるようにナギの口にコップをつける。ナギはなんとかネギ汁を回避しようと周りを見るが、誰しも雰囲気に押され、動けない。

 詠春は漫画のように大きな汗を額に浮かべながら苦笑し、ゼクトにいたっては未央のコップを興味深そうに観察している。

 

 ──俺、終わったな。

 

 そう思い、口をあけてネギ汁を待っていると、未央の声が聞こえる。

 

「あっ、手が滑った」

 

 その言葉は嘘か真か、しかし確かにナギの口からコップは角度を外した。鼻の穴に角度を修正をしたのだ。鼻からネギ汁を受けたナギは予想の斜め上を行く事態に混乱し、悲鳴を上げた後、気絶した。

 未央はその様子を見て、悪は滅びた……と呟いており、一切遠慮の無いその手段を見た医療魔法使い達は、決勝戦でのナギが相打ちをしてでも勝ちたかった理由がちょっとだけわかったような気がした。

 

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