言葉と意思の行軍記   作:嶺上

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八話

 早朝、まだ朝日もあがり切らない頃から未央はゆっくりと起きる。頭に血を巡らせるように、ベッドから起きた後は窓から外を数分眺めると、寝巻きから運動着に着替え、ジョギングをする。

 ナギは同じ時間に起きられない為、早朝稽古は未央一人だ。麻帆良学園を一周、とは行かず、手近な区画を一周した後、武道会会場の近くにある湖に向かう。

 湖は霧が立ち込めており、周囲に人も居ない事から、稽古には最適だ。

 魔力を込めて、水面を歩きながら、拳を振るう。体の運びはノギから伝えられたものだが、記憶の中にあるどの武術とも一致しない。相手を掴み、打撃する事を主体とする動きだ。打撃する手は爪を立てるように構えるか、力強く握り相手を砕くように振るう。

 霧を貫くように拳を突き出し、その手を開いて横に振るう。漂う朝霧が風圧でなぎ払われる。

 

 ──でも、勝ちを得ていないわね。

 

 未だ、無手でナギと稽古をすると全く歯が立たない。身体強化に継ぎ込まれる魔力量が違う事もあるが、動きが馴染んでいる。武器を使い、概念能力も行使して戦ったがそれでも負けた。稽古の手を止め、自分に合う武器とは何か思いを巡らせる。

 

「来たれ!」

 

 アーティファクトを呼び出し、手中に現れた粘土に魔力を込める。

 『原初の泥』は、未央が思い描いた形に造形する事が可能なアーティファクトだ。粘土をちぎり、複数思い浮かべれば質量を増大させながら、形を変える。

 粘土を二つにちぎり、右手で槍を、左手でコートを造形する。左手のコートを羽織ると、槍を両手で持ち、構える。前方の空間を突き、そこから左に払う。槍を払った勢いで右足の蹴りを繰り出し、更に槍の石突きで足元を払うよう打撃を連続させる。独楽のように回りながら、無詠唱で魔法の矢を展開する。槍頭に寄り添うように収束し、突き出すと同時に矢が射出され、前方に水柱を作る。

 魔法を交えた近接格闘だ。

 

 しかし、と未央は思う。自分の能力を生かすならば、やはり魔法に専念した方がいいのだろうか、と。

 槍が形を変える。槍頭として突き出していた部分が丸くなり、更には四角く変形しながら、中央の面に穴をあける。柄であった部分は太くなり、取っ手が突き出し、トリガーが造られる。

 機殻杖だ。杖と名付けられているが、見るものはそれをバズーカと呼ぶだろう。その砲身に、未央は文字をなぞる。

 【威力は無限大となる、根性入れて更にドン】未央は前方の空間に狙いを定め、詠唱を開始する。

 

「来れ、虚空の雷、薙ぎ払え!」

 

 詠唱が完了すると、砲頭に雷が宿る。

 それは発動を待ちきれずに、周囲にバチバチと音を鳴らしている。

 

「い! か! ず! ち! の! お! のぉぉぉおおおおお!」

 

 根性を込めて腹からひねり出した詠唱により放たれた雷は、轟音を備え前方の水面に着弾する。概念能力によって無限大に強化された雷は、水面を穿ち、触れる水を蒸発させながら湖の底まで到達し、湿った土に巨大なクレーターを作る。威力のみでいえば、昨日にナギの放った千の雷よりも大きい。

 

 ──これに追尾や散開術式を加えて、後方からの砲撃がいいかしらねぇ。

 

 水面が荒れてしまった為、浮遊術で浮かびながら思う。着弾した周囲に水が戻る音を聞きながら、未央は考えを巡らせていた。

 

 だから、白いフードを羽織った男が、背後からじっと見つめているのに気づくことはなかった。

 

 

 ●

 

 

 ──素晴らしい。

 

 行使した魔法は、間違いなく雷系の上位魔法である雷の斧だが、その威力や千の雷を凌駕するものだ。放った少女に疲労は見られず、腕を組み、魔法がもたらした破壊跡を見ている。作り出した杖の効果であろうか、それとも先日の魔法の応用であろうか。まさか根性で威力が上がったわけではないだろう。思わず笑みが零れる、このような変わった相手に会う為、旅をしていたといっても過言ではない。

 

「お嬢さん、調子は如何ですか?」

「ひょあぁ!?」

 

 声をかけると、驚いた少女はこちらに杖を向けて、魔法の矢を放ってきた。

 

「──!?」

 

 迫る魔法の矢を精一杯に背を逸らして回避する。標的を見失った魔法の矢が上空で炸裂し、衝撃を伝えてくる。明らかに、魔法の矢の威力ではない。

 額から冷たい汗を流しながら、男は話を続けようと声をかける。

 

「ちょ、調子は如何ですか?」

「もう一度言ってくるとは、なかなかの猛者ね。調子は良好よ、ところで貴方はどなた?」

「旅の途中で武道会に立ち寄った変わり者です、少々お話してもよろしいですか?」

 

 少女は杖を下げ、こちらの話題に付き合うような仕草を見せる。流石にあの杖を向けられたまま話を出来る心構えは出来ていなかったので、助かった。

 

「未央、ミオ・ヤナギよ。 好きに呼んでちょうだい」

「ではみっちゃんと「ミオでいいわ」残念、それではミオとお呼びしましょう。

 魔法の扱いに大変秀でていらっしゃるようですが、どちらで習われたのです?良ければ師を教えていただければ」

「メルディアナ魔法学校に7ヶ月ほど通ってたわねぇ、あとは独学よ」

「──なるほど、独学でそこまで到達されるとは、おみそれしました」

 

 メルディアナ魔法学校に特別優秀な魔法使いが在籍しているとは、聞いた事がない。となれば、本人の言う通り独学で到達したか。少女の片割れの少年は、才気を溢れさせる魔法使いだ。生来の魔力量と格闘術の才能を持っている事は昨日の決勝戦で確信した。

 だが、少女の使う魔法は系統不明だ。

 

 ──新系統を生み出した天才、ですか。

 

 新たな系統の魔法、そう考えれば不可思議な現象にもとりあえずの納得は出来る。

 しかし、あくまでも取り合えずの納得だ、魔法であれば、学ぶ事で自分にも扱えるはず。

 思い、問いを作った。

 

「貴方の使われる魔法、私にも使えるでしょうか? 良ければ教えていただけません?」

「はぁ……? まぁ使えるんじゃないかしら? でも私も教える程使えるわけじゃないのよねぇ……。ま、良いわ。ところで、貴方名前は?」

「おっと、申し遅れました」

 

 フードを脱ぎ、露になったのは黒い髪に黒い瞳。

 微笑を浮かべながらも、本心が全く見えない物腰。

 

「アルビレオ・イマと申します、宜しくお願いしますよ」

 

 

 ●

 

 

 ナギは起きると、階下が騒がしい事に気づく。騒ぎといえば、昨晩の宴会は楽しかったと、記憶を辿る。 昨晩は麻帆良武道会の賞金を使い、救護室に居た皆と宴会を催していた。 詠春に酒を飲ませたら、泣き上戸な上に絡んできたので、やかましいと思って殴ったのを覚えている。ゼクトと名乗った少年は、自分の千の雷がいかに無駄な術式をしているかを説教してきた。

 イラッとしたので、こう言った。

 

「じゃあ教えてくれよ!」

「良いじゃろう、明日からお主と連れの少女もまとめてわしが鍛えなおす」

 

 あっさりと弟子入りとなった。そこらへんの魔法使いに聞くと、並ではない腕前の魔法使いである事はわかったので、ラッキーと思う事にする。

 その後、詠春の手元にあった酒をかっさらい飲み、いい気分になってミオの処に行った。

 

 ──その後、どうなったんだったかなぁ? イマイチ思い出せねぇ。

 

 妙に痛む頭を押さえ、ナギは部屋を出る。食堂からミオの声が聞こえた為、足を向ける。

 声をかけようと見ると、見知らぬ男と話している。何を話しているのかと耳を澄ますと、

 

「ええ、それでは宜しくお願いしますよ。みっちゃん」

「てめぇ何様だコラァー!!!」

 

 見知らぬ男に全力で殴りかかった。打撃が当たった感覚はあるが、浅い。食事が乗ったテーブルを足場として、蹴りを経て加速する。相手を見ると、肩を抑えながらも微笑を浮かべてこちらを見ている。

 余裕そうだ、気にいらねぇ。

 拳を振るう事で、そういう思いである事を相手に伝える。魔法障壁が硬く、攻撃を通せていない。

 ならばと、魔法を使おうと、

 

「ちょっと待ちなさいって言ってるでしょ」

 

 背後から未央の声と、衝撃が来た。相手の男に皿がぶつかっている事を見ると、自分にも皿がぶつけられたようだ。

 抗議しようと声を出すと、

 

 ──!!

 

 声が出ない。

 

「1分ほど黙ってなさい、そういう魔法をかけたから。

 いい? その人はアルビレオ・イマ。魔法の研究と暇つぶしの為に私達についてくるそうよ。

 あとアル、みっちゃん言うな」

 

 口パクで謝罪をする相手──アルビレオ。よく見るとなかなか愉快な顔をしている、キツネのような目だ。しかも、先ほど未央をみっちゃんと呼んでいた、多分今後も面白い事を言うに違いないと、勘が告げている。旅に同行するのはいい、そう思うが、

 

 (ミオをみっちゃん呼びかよ、親しげだな)

 

 そこだけが、少々気に入らなかった。

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