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とあるショートのお話
メモ書きその2
8回の裏。
チームの二塁手が軽い怪我をした。
既に点差は大きく、主力選手に無理をさせることはない。
監督が交代を告げる。
その時にはもう、自分のウォーミングアップは終わっていた。
アマチュア時代には華々しい経歴が並ぶ。
大学社会人を経て、遅いプロ入りであったがドラフト2位。
小柄な体格である自分としては最大級の名誉だったと思う。
1年目からレギュラーを期待され、それに応えた。
自慢の俊足を生かした広い守備範囲。
鍛え上げた正確なスローイング。
柔らかいグラブ捌き。
俺の守るショートストップの守備範囲は【マコトゾーン】と呼ばれた。
8年目の契約更改。
気軽に球団事務所に立ち寄った俺に宣告がくだされた。
「今まで世話になった、次からはこのチームで頑張ってくれ」
トレードの予感はあった。
既に若いショートが育っていたし、自分の年俸は能力以上に高すぎた。
それでもショックだった。
記者会見で何を喋ったのか。
移籍先での球団社長になんという言葉を書けられたのか。
3年たった今でも思い出せない。
ただでさえ打てないバッティングは、衰えと共に更に酷くなった。
移籍初年度はスタメンだったが、次第に出場機会が減っていく。
ベンチに入れる回数も徐々に減っていく。
今日のこの日も、久しぶりの一軍登録だった。
「セカンド・・・に変わりまして、伊藤。セカンドは伊藤。背番号6」
俺は、もう一度あのショートの位置に戻りたい。
それまでクビになんかなってたまるものか。