提督が親友で島風は自分で   作:すどうりな

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第二話 生まれ『転』じて

 それは我らが敵、深海棲艦のように突然現れた。

 

 深海棲艦と人類側.......艦娘との戦いは劣勢だった。

 

 事の起こりはもう何十年も前に遡る.......今から何十年も前、海は突然謎の勢力に占拠された。

 目的は不明.......話し合う処か抵抗する事も出来ずに一方的に侵略される人類側、しかし救いの手は確かに伸ばされた。

 それは『艦娘』という人の形をした海の女神だった。

 

 何処からか現れた彼女達の助けもあり人類側は何とか少ないながらも海を取り戻す事に成功したが.......それは一時的な勝利に過ぎなかった。

 艦娘が使う戦闘のための物資は人類がこれまで使ってきた物資とはまるで違い何処からか湯水の様に湧いてくる.......だがその一度の供給量は深海棲艦側とは比較にならないほど少ない。

 更に深海棲艦側の攻撃も激しくなり無限とも言える物量により人類側は再度劣勢に立たされた。

 

 しかし、しかしである。

 

 人類側は未だ深海棲艦側に屈してはいない.......それどころか着実に海を取り戻していっていた。

 

 艦娘の中から突然現れた『転型』と呼ばれる者によって。

 

 

 

 

 

 「.......つまり私はその転型って呼ばれる艦娘になっちゃったんですか、長門さん?」

 

 「前世の記憶とやらだったか、中身の違う艦娘は全て転型と呼ばれている.......艦娘は本来大戦時の艦の記憶を持っているわけだが極々稀に全く関係のない記憶を持っている艦娘が生まれることがある、君のようにな」

 

 「それが.......転型?」

 

 「そうだ、転型は基本性能が向上されていて同型の通常の艦娘と比べればその差は歴然らしい.......提督からの受け売りだがな」

 

 彼女が目を覚まして数日がすぎた。 初めの方こそ気が動転してしまい何やらおかしな行動をとっていたが今では随分と落ち着いた様に思う。

 

 学生........か。

 

 転型の前世は様々だ、料理人だったりフリーターだったり........中には犯罪者だったという転型もいるらしい。

 その誰もが共通しているのは戦争が起こっていない『優しい世界』で暮らしていたという事だ。

 半信半疑なのは否定しない、幾ら情報源が上層部の信頼出来る人物からのモノだとしても私は想像が出来ないからだ。

 子供達が爆撃に怯えずにすむ世界が、深海棲艦の恐怖に怯えずにすむ世界が。

 

 提督の話で何度も聞かされているにも関わらずにだ........戦争に生まれ、戦争に生き、沈んで尚敵を変え姿を変え今も戦い続けているが故の弊害なのだろう。

 

 .......『優しい世界』にする為に戦い続けている筈なのに『優しい世界』を想像すら出来ないとはなんたる皮肉だろうか。

 

 「........そう遠くない未来、君は二つ選択肢の中から何れかを選ぶ事を強要されるだろう。 一つは普通の女の子として暮らす事だ、戦わず、殺さず、少し特殊な人間として暮らす事」

 

 悪くない選択肢だと思う。 彼女の場合は特に........あの提督の事だ、何だかんだで右も左も解らない彼女を助ける為に行動を起こすのは目に見えている。 

 

 「二つ、『転型』としての性能を遺憾無く発揮し『艦娘』として生きる事」

 

 転型にとって一番多い選択肢だ。 私としても戦力、それも転型が我が艦隊に参戦してくれれば心強い。 ........『優しい世界』で暮らしていた彼女が戦えるのかという不安はあるがこれも悪くない選択肢かも知れない。

 

 「どちらを選ぼうが誰も君を責めたりはしない。 『転型』は既に絶対に戦場に送られなければならない存在ではなくなっている。 人類が優勢に立っている今だからだろうが君には選ぶ権利が渡されているんだ、後悔の無い選択をしてほしい」

 

 「........」

 

 彼女はきっと前者を選ぶ........心の中ではきっと決まっている筈だ、それなのに言い出せないのは私や提督に気を使っているからだろう。

 

 学生........そう、学生なのだ、学生だったのだ彼女は。

 優しい世界に生きていた人間が、それも学生が死ぬかも知れない戦場に立てと言われ出来る訳がない。

 

 私はそう考えていた、決めつけていたと言っても良い。

 

 彼女は小さな口を開き自らの答えを、選択をはっきりと口にした。

 

 「私は........戦います」

 

 「........理由を、聞いても?」

 

 「私がもし、人間と同じ様に生きるとすれば........中身も、中身以上に見た目が子どもな私です。 保護者が必要になりますよね?」

 

 「それは........そうなるな。 艦娘でないなら軍関係の仕事に就かせる訳にはいかない、ましてや君なら尚更だ」

 

 やっぱり........と呟いた彼女は何もないただの壁の方を向き、暫くの間佇む。

 

 ........そういえば彼女が向いている方角に提督室があったのだった。 

 

 「........一人知ってるんです、そうなったら間違いなく保護者に立候補しそうな奴。 多分、私が島風(わたし)じゃなくても心配してくれそうなお人好し。 友達だったんです、迷惑も沢山かけられましたけど根は良い友達思いな奴だったんですよ。 友達だった奴が保護者に変わって養われるなんて嫌なんです、それに――――」

 

 提督の行動を言い当てた彼女は振り返り私を見つめてこう言った。 頬を掻きながら言いにくそうに。

 

 「――――今更人間の女の子なんて私には無理です、まだ艦娘の方が性別とか意識しないで済むかなー........なんて」

 

 少しの間、彼女が何を言っているのか解らなくて固まってしまった。

 

 確かに、確かにそうだ。 あの特殊性癖を隠せない、隠そうともしない提督に女友達がいる訳が無かったのだ。

 

 「ふふ........」

 

 提督があの日あんなにも取り乱していた答えにたどり着き思わず笑いが出てしまった。

 

 「わ、笑わないで下さいよ........長門さんにとっては大した事じゃないかもしれませんが私にとっては大事な事なんですよ!」 

 

 彼女が、否、彼? ........やはり彼女だろう。 彼女は両頬を膨らませ恥ずかしさからか少し顔を赤くして抗議してきた。

 

 「いや、島風の事ではなくてだな........」

 

 弁解しようとするが提督のあの様子が頭を過り、また小さな笑いが出てしまう。 

 それでまた彼女がヘソを曲げてしまいこの日はこれ以上彼女と大した会話ができなかったが........一番大事な事は解ったので良しとしよう。

 

 

 「さて、やらなければならない事は沢山出来たが........先ずはどちらとして扱うか、だな」

 

 結果の解りきった事だが、少しは真面目に考えて見るべきかも知れない........本人にとってはよほど大事な事なのだろうから。

 

 

 

 

 「長門」

 

 「ん? どうした提督」

 

 「アイツは........どうしてる?」

 

 「........もう少し時間をやった方が良い、まだ自分の事で手一杯だ。 まともな話が出来る状態じゃない」

 

 「そうか........そうだよな。 まだ時間がいるよな」

 

 あれから一週間が経った。 一週間、まだ一週間だ。

 ⬛■が艦娘『島風』になって、たった一週間で心の整理なんてつく筈がないのだ。

 

 俺には時間があった、環境があった。 納得するだけの時間が、状況を理解出来る環境が。

 『人間』として『産まれ直した』俺でさえどうにかなりそうになるくらいだったのだ、アイツがどんな状況に陥っているか想像するのは難しく無かった。

 

 ましてやアイツは『艦娘』として『女の子』として『生まれ直した』のだ。 ........時間は幾らあっても足りないだろう。

 

 「........はぁ」 

 

 「........提督」

 

 「解ってる、コレは俺がどうにか出来る問題じゃ無いって事くらいは」

 

 「解っているなら良いが........今日は新しい艦娘がやって来るんだ、新入りから見た第一印象が腑抜けでは舐められてしまうぞ?」

 

 「ああ........? ちょっとまて、そんな予定無かった筈」

 

 急いでポケットから予定表を取り出してチェックしてみるがそんな予定は入っていなかった。

 長門に若干の非難の目を向けるが本人は全く気にした様子は無い。

 

 「私はちゃんと言ったぞ? 提督が聞き逃しただけだろう、最近何時も上の空だったからな」

 

 「........否定出来ない」

 

 確かに最近⬛■の事ばかり考えていて事務仕事すら身が入らなかったのは確かだ。 ........出撃だって最低限だった。

 

 しっかりしなくては、コレでは戦場で命を張ってくれている他の艦娘達に示しがつかない。

 

 では連れてくるぞ? そう言って長門は『新入り』を呼びに行った。

 

 頬を叩き気合いを入れ直す。 ⬛■の時も長門に言われた様な気がするが第一印象くらいしっかりしなくては。

 

 ........しかし誰が来るのだろうか? 実を言えば俺は提督としての地位は高い方では無かった。

 それ故に指揮している艦隊の規模は小さく、それに比例して支給される資材の量も少ないのだ。

 

 だからといって消費の少ない艦娘が配属されるかと言えばそうではない。

 

 艦娘が配属される基準は提督との相性らしい。

 そうは言っても身体の相性とかそう言った事ではない。 

 

 艦娘と提督の間には繋がりが出来る、肉体的ではなく概念的な、『魂』の繋がりが出来るのだ。

 『魂』の繋がりが強ければ艦娘は自身の性能以上の強さを引き出せるらしい、逆もまた叱りだ。 『魂』の相性が良ければ繋がりも強くなりやすく人間関係も良くなりやすいらしい。

 

 ........と言っても解っていない事の方が多いのだが。

 

 はっきり解っているのは艦娘と提督の距離、物理的、感情的な距離、それも信頼に大きく影響を受けているという所だ。

 それを利用したのが所謂『ケッコンカッコカリ』なのだが........それは今は関係の無い話か。

 

 とにかく、うちには既に一人大食い(長門)がいるのにこれ以上彼女クラスの大食いを抱え込むのは厳しいものがあるのだ。

 駆逐艦........若しくは潜水艦、最低でも軽巡が欲しい所である。

 

 こんなにも頭を悩ませるなら艦種くらいは訊いておくべきだったか、そう頭を悩ませていると扉をノックする音が聞こえた。

 

 「提督、長門だ」

 

 「ああ、入って来てくれても大丈夫だ」

 

 扉を開けた時見えたのは長門だけだった。

 ........いや、長門の影になってしまい見えなかったが誰かいる。 長門の影にすっぽりと収まってしまっている事から駆逐艦........若しくは潜水艦だと言う事が伺えた。

 思わず肩を撫で下ろし安堵する。 これでもし長門と肩を並べる程大きな背丈だったらまた暫くの間財政難に頭を悩ませる所だった。

 

 「後ろに隠れてばかりでは挨拶は出来ないだろう? こんなのでも一応上司になるんだ、挨拶くらいしておけよ?」

 

 「長門、一応って........ちゃんとした上司なんだけど俺........」

 

 舐められる云々の話をしていたのは誰だったか、長門に抗議しようとした時だった........長門の影から彼女が出てきたのは。

 

 

 「駆逐艦『島風』です! スピードなら誰にも負けません! 速き事! 島風の如し、です!」

 

 

 大きな声でそう言い切った彼女の顔は赤く染まっていた、可愛い。

 ........というか何をやっているのかコイツは。

 

 「⬛■........何やってんの?」

 

 「島風です! 提督、今日から宜しくお願いします!」

 

 「あー........■■さん?」

 

 「提督! 島風です、し・ま・か・ぜ!」

 

 顔を更に赤くしながらそう言う彼女........否、彼を見て可愛らしい事この上ないが同時になんだか居たたまれない気持ちにもなり彼女の肩に手を置いた。

 前世も合わせ産まれて初めて触る本物(?)の島風ボディに色々と反応しそうになるが隠しとおす。

 

 これ以上、可愛いくなった友に恥をかかせる前に止めるのも友の役割だろう。

 

 「⬛■、もう良いんだ。 きっと疲れてるんだよ。 もう今日はぐっすり寝て........」

 

 ■■が肩に置いた手を引っ張り不意に顔を近づけてきた。

 

 視界一杯に広がる『島風』の顔に思わずときめいてしまいそうになるが何とか表情に出さないように自制する。 だいたい外見は『島風』でも中身は『■■』なのだ、それに興奮しかけるなんて言語道断........。

 

 あ、駄目だわ島風ちゃんめっちゃ可愛い。

 

 

 「島風だっつッてんだろ、聞こえねェのか」

 

 

 可愛いらしい島風から放たれた氷点下の声に抱き締めようと伸ばしていた手を引っ込める。

 

 理性と本能が満場一致で『怒った島風ちゃん可愛いけど止めとけ』と言わしめる程の冷たい声にびびった訳では断じて無い、あくまで『友情』を取っただけなのだ。

 

 一体何に対してなのか大きな溜め息をついた島風(・・)は俺の後ろのテーブルに何か書類の様な物を置き口を開く。

 

 「........今日から要提督の指揮下に入る転型駆逐艦『島風』です、提督の言う通り今日は寝て過ごす事にします........以上」

 

 それだけ言うと島風は何処か疲れた様子で部屋から出て行った。 

 

 非難するようにジト目で此方を見てくる長門から逃げる様に書類に目を通す。

 

 其所には島風が『艦娘』として戦う事を決めたとの旨と必死に考えたのであろう『艦娘・島風』らしい志望動機が書いてあった。

 

 ――――悪い事したかな........コレは。

 

 彼の、否、彼女の『島風』としての出鼻を挫いてしまった事に反省しながら俺は書類に判をした。

 

   

 




 
 ヤツはもう、どこへも向かうことはない。
特にヤツが「真実」に到達することは、決して……
「完結」という真実にさえ、…理想のTSF作品が見つかるまで決して........『無限に』

終わりのないのが『終わり』
それが『アタマデハ・O(オワッテイタ)・レクイエム』

 
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