Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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 緊張感が漂うそのテーブルに二人の男だけが残った。

 その場に出ているコミュニティカードはハートの7、ダイヤの7、スペードの5、ダイヤの10、そしてクローバーの12。

 

「ヘッ、今日こそてめえを負かしてやるぜ【賭け狂い(Mr. Gambler)】さんよお」

「いいねいいねえ。そういうの大好きだぜ俺は。来いよ、いくら賭ける?」

 

 両者自分の勝利を疑わない賭け事の猛者だ。

 方や他のカジノで【カジノ潰し(Bankrupter)】の名で呼ばれ恐れられている男。そして方や神々から【賭け狂い】と呼ばれるほど賭け事を愛して止まない男。

 噂では【カジノ潰し】はイカサマを繰り返しカジノを破綻間際まで追い込む卑怯者だと聞いていた【賭け狂い】は、その噂が真実でないことを理解した。少なくとも、すべての勝負でイカサマをしてきた男がここまで自分に食いついてくるとは【賭け狂い】には考えられなかった。

 賭け事は勝つか負けるかの二択しか存在しない。それ故にシンプルで、それ故に相手が分かりやすい。

 

全額(All In)だ」

 

 【カジノ潰し】は自分の前にすべてのチップを押し出した。その総額1000万ヴァリス。その勝負の行く末を見守っていた観客がどよめきを起こす。

 二人のチップの総額はほぼ同額、若干【賭け狂い】の方が多い。ここに来るまでにもかなりの額を賭けている。頭のイカレタ奴らが揃いも揃ったそのテーブルでは、すでにポットには何百万ものチップが入っていた。

 

「ハッ、ゾクゾクするぜ、その目、自分を信じて止まない馬鹿野郎の目だ」

 

 そして、【賭け狂い】もその大胆過ぎる相手の行動に答える。本来であれば【カジノ潰し】と同額を賭ければいいだけなのだ。その場合【賭け狂い】は負けても僅かなチップを残して生き残れる。しかし、そんなことを【賭け狂い】がするわけがない。

 

「こっちも全額(All In)だ。さあ、一緒に地獄の底でも見に行こうじゃねえか、なあ【カジノ潰し】」

「てめえもぶっ潰してやるよ。仲間に泣きつく準備でもしておくんだな」

「てめえも自分の大切なチップ達とお別れは済ませたか? この二枚のカードを明かした時、そいつらは全部俺のだぜ?」

「ほざけ、勝つのは俺だ」

 

 両者、お互いの勝利を譲らない。しかし、それが勝負であるからにはどちらかが勝者でどちらかが敗者でなければいけない。勝てば最高のギャンブラー、負ければ滑稽な自意識過剰の負け犬だ。

 

「てめえの今までの手はほとんどがブラフだった。他の奴らはてめえにビビってフォールドし(降り)ちまったが、俺はそうはいかねえぜ」

「おいおい、そりゃ少し短絡的すぎやしないか【カジノ潰し】。今回の手は最強かもしれねえぜ?」

「それもブラフか? 弱い犬ほどよく吠えるとは正にお前のことだな」

「くっくくくく……! なら、決着(Show Down)と行こうじゃねえか。運命の女神が微笑むのは俺かお前か、まあ例えお前に微笑んでも俺の勝利は揺らがねえがな」

 

――なんたって俺には勝利の女神が付いてるんだぜ

 

 【賭け狂い】は軽く自分の頬を触れた。少し腫れた頬は触れるとまだ少し痛んだ。

 両者、自分の持つ二枚のカードを開いていく。まずは【カジノ潰し】からだ。

 

「10のダブル、つまりフルハウスだ」

 

 その役に観客の一部が湧いた。【カジノ潰し】の取り巻きの連中や、他のカジノでその男を見て興味を持っていたギャンブラー達だ。

 

「ほら、次はてめえだ。もう逃げられやしねえぜ? 負けを認めろ【賭け狂い】」

 

 顎でカードを開くように伝える【カジノ潰し】の顔には己の勝利に微塵の疑いもなかった。それもそうだろう、ワンペアとスリー・オブ・ア・カインドでできたフルハウスより強い役は三つしか存在しない。

 

「ハッ、残念なお知らせだぜ【カジノ潰し】」

 

 【賭け狂い】の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。それを見た瞬間【カジノ潰し】は身体の芯が凍りつくような寒気に襲われた。

 ゆっくりと見せられる【賭け狂い】の二枚のカードが、ゆっくりと【カジノ潰し】と客の目に晒される。

 

「今日の俺は超ツイてんだよ」

 

 開かれたそのカードは7のペア。つまりは――

 

7(Lucky Seven)のフォー・オブ・ア・カインドだ」

 

――四千分の一の幸運(ラッキー)

 

「てめえの負けだ」

 

 勝者が決したその瞬間、テーブルを囲んでいた観客達は怒涛の歓声を上げ勝者を祝し、自分の勝利を疑わなかった男は自分の敗北に沈んだ。

 そして勝者は一人、笑みを浮かべて対価を取っていく。

 

 勝者と敗者しか存在しえないその場所で、今日も一つの勝負が終わり、また一つの勝負が始まる。勝つも負けるも紙一重、だからこそ彼等は皆その運命を今夜も試すのだ。

 

 

♣♣♣

 

 

「今日も随分勝ったみたいねニッキー」

「あ? シャーネか」

「シャーネか、とは何よ……というか、あんたなんかほっぺた腫れてない?」

「これが今日の俺の幸運の印(ラッキーマーク)さ。勝利の女神に付けられた傷だ」

「ニッキーってばアイズちゃんにちょっかい出したの? 止しときなって、ニッキーとアイズちゃんじゃ全然釣り合ってないよ。月とスッポンくらい釣り合ってないよ」

 

 先程フロップポーカーで勝った俺は、その勝ち金でカジノにある酒場で酒を飲んでいた。そこに店員であり【フォルトゥナ・ファミリア】の団員でもあるシャーネ・キスメットが追加の料理を運んでやってきた。

 シャーネとは15年前からの付き合いがある。俺がまだ【フォルトゥナ・ファミリア】に所属していた時からの知り合いで、俺の過去をほぼ知っている数少ない人間でもある。別段隠すような過去でも、知ったら最後殺されるような過去でも何でもない。ただ誰もが興味を持たない、この世に有り触れたクソみたいな話ってだけだ。

 

「手は出してねえ、ちょっと羽目を外し過ぎただけだ」

「ニッキーってお酒入ると何時も以上に困った人になるからなあ」

「俺は普段から困った人なのかよ!?」

「自覚なしっと」

 

 カウンター席に座っている俺の横にシャーネも座る。緋色の髪は短く、後ろで小さなポニーテールができる程度だ。

 豊穣の女主人亭とはまた違った燕尾服をベースにした給仕服を着たシャーネは、本来はディーラーをするべき美人である。それをしていないのは彼女があまりギャンブルを好んでいないからだ。

 

「てめえはさぼってていいのかよ?」

「うちのお得意さんにサービスしてるから大丈夫大丈夫」

「そうかよ……ったく、てめえはギャンブルが嫌いな癖になんでこんな場所にいんだ? いい職場探してやろうか? この前行った酒場なんて良い感じだったぜ?」

「私はここがいいの。産まれた時からフォルトゥナ様のお世話になってるし、ここで生きてここで死んで、ここが家だって言い張るんだから。家出していったニッキーには分からないかもしれないけど」

 

 シャーネは俺が【ロキ・ファミリア】に改宗(コンバート)すると知って、俺を引き留めようとした唯一の人だ。主神であるフォルトゥナ様でさえ俺に行くなとは言わなかった。

 だが、ロキに心底惚れ込んでしまった俺はもう【フォルトゥナ・ファミリア】に未練などなくなっていた。

 

「それに、ここにいればニッキーは来てくれるでしょ?」

「そりゃあ、俺はここが好きだからなあ。俺と同じような馬鹿共がたくさん集まってどんちゃん騒ぎしてる時が最高の瞬間だ」

 

 椅子を回してカウンターを背にして座り直す。酒場の外、未だに賭け事に熱中している奴らを見て、俺の心は躍る。もう一勝負したくなったが、今日は終わりと決めたので抑えた。

 

「ねえ、ニッキー」

「んだよ」

「今度私になんか教えてよ、ポーカーでも何でもいいからさ」

「だめだ。俺はもうギャンブルの手解きはしねえって決めてんだよ、アイズ以外にはな。つーか、てめえはギャンブル嫌いだろうが……」

「ちょっとディーラーもしてみたいなって思っただけ! もう、いいよ、後でフォルトゥナ様に教えてもらうから!」

「おいおい、フォルトゥナ様に何かを教えてもらうにはまず何かの勝負で勝たないといけないだろ。できんのか?」

「うっ」

 

 カジノの経営をする女神フォルトゥナは彼女自身大の賭け事好きである。俺の二つ名【賭け狂い】を送ってくれたのは他でもない彼女だ。誇らしそうに、嬉しそうに、そして少し寂しそうにその名を送ったとロキが教えてくれた。

 

「そうだな……五番テーブルのあの女、なかなか良い腕をしてる」

「ミネラさんのこと?」

「名前は知らん。間の取りかた、腕の動かし方、声をかけるタイミング、どれを取っても一流だ。教わるならあいつにしろ。てめえは見た目は良いんだ、すぐに良いディーラーになれるさ」

「そ、そう?」

「ああ」

 

 料理と酒を終わらせ、俺は席を立った。大金の入った袋を手に持って、一度揺らしてその中身を楽しむ。

 

「ディーラーになったらそのテーブルで遊んでやるよ」

 

 それだけ言って俺はカジノを後にした。後ろから聞こえたシャーネの別れの挨拶に適当に手を振って返して、朝日の登り始めた街に出る。久しぶりのカジノだったからか、夜通し賭け事をしていたらしい。時間を忘れるほど、心躍る時間だったということだろう。

 

「ふぁああ……眩しいぜ」

 

 大きな欠伸をして、俺はホームへの帰路についた。

 

 

 

 

 

「よう、朝から仲の良いことだなお前らは」

「あ、ニコ!」

「おはよう」

「おう、おはようさん」

 

 ホームに帰った俺は一度シャワーを浴びて着替えてから食堂で朝食を取ることにした。普段に比べてやけに早くから朝食を取りに来た俺に朝食担当の団員たちが驚いていた。

 トレーを持って先を探しているとアイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの四人が長テーブルの端に固まっていた。

 

「アンタ、なんか臭うわよ? 酒とタバコ」

「そりゃあ、俺は朝帰りで遊びに行ってたからな。いやあ、久々にあんな気持よく勝ったぜ。つうか、お前鼻良すぎねえ?」

「……カジノ行ってたの?」

 

 私は? と言わんばかりにアイズはその疑問を口にした。長い遠征から帰ってきた最初にギャンブルには大抵連れて行ってもらえると思っていたのだろう。

 もしかしたら昨日俺を殴ったから連れて行ってもらえなかったとでも思っているのかもしれない。

 

「おいおい、今お前と賭けの真っ最中だろうが。先に賭金を受け取っちゃあ勝負も何もないぜ」

「……そうだった」

「あ、そうですニコライさん!!」

「朝からお前は元気だなレフィーヤ。元気でなによりだ!」

「次アイズさんとカジノに行くときは、私も連れて行ってください!!」

「あぁ? まあ、いいけどよ」

「約束ですからね!」

 

 何やら張り切っているレフィーヤに若干引きながら、俺は朝食に手をつけ始める。と言っても、酒と軽い料理を食べてきたばかりなのでスープとパンにバターを塗って食べる程度だ。【ロキ・ファミリア】には信じられんほどの大食いもいるので朝から肉も用意されている。最早夕飯と何が違うのか俺には分からん。

 

「あ、そうだ、アイズ」

「うん」

「この前頼んどいたドレス、もう仕上がってるだろうから受け取ってこい。いつも通り支払いはもう済んでっから」

「分かった」

「それだけだ」

 

 口に含んだパンを水で流し込む。温くしてくれと頼んだスープもすぐに飲み終わり俺はトレーを持って席を立つ。

 

「ニコは?」

「俺は頼んどいた装飾品取りにいく。……そうだ、ついでに羽根を伸ばしてこい、ほれ今日の分」

「???」

「これだこれ。これのおかげで勝ったんでな、お前の取り分だ」

 

 そう言って俺はアイズに少し腫れている頬を見せた。

 

「やっぱりアンタってドM?」

「お前は何でもかんでもそっち方面に捉えすぎだっつうの」

 

 トレーを返しに厨房の方に戻ろうとして一つ言い残したことがあって、俺は戻った。

 

「後、レフィーヤ。てめえも着るもの用意しとけよ。エルフのドレスでもなんでも構わんが、豪華な感じのやつだ。連れて行くにあたって、これは絶対だ」

「は、はい」

「アイズの受け取りに付いて行って、なんか買ってこい。半分くらいは払ってやる」

 

 カジノでの見栄を張ることに必要である自分の連れを着飾ることに俺はなんの抵抗もない。後ろに連れている女が美しければ美しい程、カジノは盛り上がる。

 じゃあな、と一言言って俺は今度こそ厨房へと向かった。

 




うーむ……ちゃんと書けてるか不安でしかたない。
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