Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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ひゃっはー連投だぜー! だが話は進まない!


013

――『貴人達の衣装棚(エヴィエニス)

 

 それがアイズがドレスを受け取りに来た店の名前だった。

 

「あら~ん、アイズちゃんじゃない。いらっしゃ~い」

「こん、にちは」

 

 ニコライからドレスをプレゼントされると知ったティオナは自分も何か贈りたいと言い出し、その日は朝から買い物に出掛けることとなった。ティオネとレフィーヤ、そしてアイズを引き連れたティオナは様々な服屋を回った。

 ティオナ達アマゾネスが利用する踊り子のような衣装を多く扱うアマゾネスの服屋や、清楚さを全面に出し肌の露出をできるだけ抑える服を取り扱うエルフの店など、多種多様な服を見て回った。途中でティオネが小人族(パルゥム)用の店を見に行こうとしたが妹に止められた。

 

「あ、アイズさん、あの人って……」

 

 服屋でアイズのプレゼントを買った後も、色々と散策して遊びつくした四人が最後に訪れたのがアイズのドレスを受け取りに来たこの店だ。

 『貴人達の衣装棚』という店名からも分かるように、主にパーティー用や儀礼用といった格式のある場で着る服を提供している店だ。果たしてカジノが格式張っているかと言うと、決してそうではないがニコライにとっては戦場であるとともに礼儀を持って赴くべき場所だ。

 

「気にしない方がいい」

「だねー。まあ、色んな人がいるもんね」

 

 そしてその店の店主であるロドリゲス・エトックは筋肉隆々とした男である。男であるが、着ているのはピチピチの女性用の服だ。溢れんばかりの胸筋で盛り上がる胸、美しいラインを描く上腕二頭筋、そして男気溢れる顔。

 そう、ロドリゲス・エトック、愛称ドリーちゃんはオカマであった。

 

「あら~、今日はニコちゃん来てないの~? ざんね~ん」

「ドレス、取りに来ました」

「おっけ~」

 

 店の奥へと入っていったドリーちゃんを見送ったレフィーヤは、この店が本当に大丈夫なのかと心配になってきた。そこに一人の女性がやってきた。

 

「あら、アイズちゃん久しぶりね」

「こんにちはキスメットさん」

「もうシャーネで良いっていつも言ってるでしょ?」

「うん」

 

 そこにいたのは【フォルトゥナ・ファミリア】の団員であるシャーネ・キスメットだった。緋色の髪を揺らしながら彼女はアイズの後ろにいる三人を見やった。

 

「お友達?」

家族(ファミリア)の仲間です」

「へえ……こんにちは、私はシャーネ・キスメット。【フォルトゥナ・ファミリア】の一員で、一応あなた達のとこのニッキーとは腐れ縁みたいな仲よ」

「ニッキー?」

「ニコライのこと」

 

 その自己紹介を聞いて、ティオナはアイズにアイコンタクトを送り本当にそうなのか確認をとった。アイズはカジノに行った時のニコライとシャーネのやりとり――勝った後酒場で嬉しそうに酒を注ぐシャーネや負けた後ニコライを宥めるシャーネ――を思い出し頷いた。

 

「今日はニッキーと一緒じゃないのね?」

「ドレスの受け取りに来ただけなので」

「ニッキーってばまたドレス買ったの? 本当に飽き性なのは昔から変わらないんだから……」

「シャーネちゃんもニコちゃんにプレゼントして欲しいのかしらん?」

 

 店の奥から一着のドレスを持ってきたドリーちゃんがウィンクをしながらそんなことを言った。その言葉を聞いて、ティオネ、ティオナとレフィーヤはシャーネとニコライの関係が大体どんなものなのか察した。

 

「べ、別にそんなことは言ってないじゃないですかドリーちゃん」

「でもシャーネちゃんがいつも見てるドレスってばニコちゃんの好みっぽいのが多いのよねえ……これって偶然?」

「う、うるさいなあもうっ」

「ニコちゃんも罪な男よね~。ま、だからあんなに良い男なんでしょうけど。私もニコちゃんのギャンブルしてる時の顔にはゾクゾクしちゃったわ~」

 

 そう言いながらドリーちゃんはドレスをアイズに手渡した。

 

「アイズちゃん、一回試しに着てみて頂戴」

「はい……ティオナ、手伝ってくれる?」

「私? いいよ!」

 

 アイズの申し出に喜んで答えたティオナを伴って、アイズは店の奥にある試着室に向かった。

 

「本当、ニッキーってばアイズちゃんにだけは優しいんだから」

「よね~」

「そうなんですか?」

 

 自分の知らないニコライを知っている二人の話に興味があったのか、レフィーヤは質問した。

 

「そうよー。だってニッキー私にはポーカー教えてくれないのにアイズちゃんには押し付けるように教えるのよ? 別にアイズちゃんが教えてって言ったわけでもないのにっ」

「言っちゃあなんだけど、うちのドレスってお安くないのよ? それを何着もプレゼントするっていうのはちょっと普通じゃないわよね~」

「ち、因みにいくらくらいするんですか?」

 

 この店でドレスを買ってこいと言われたレフィーヤはすぐに不安に駆られた。半分払ってくれると言われていたが、流石に高すぎるとその半分すら出せるか分からない。

 

「今回のアイズちゃんの奴はニコちゃんの注文に私がオーダーメイドで仕立てたから200万ヴァリスはいくわね」

「にひゃっ!」

「まあ、勝つ時のニッキーは本当に凄い勝つからねえ」

「い、一番安くていくらくらいですか!?」

「そうね、100万はするかしら」

「ひゃっ」

 

 服一着にそんな大金が掛かるとは思っていなかったレフィーヤは絶句した。エルフの服は天然素材を多く使っている関係から少し値が張るが、流石にここのドレス程ではなかった。

 

「レフィーヤ、あいつに全額払ってもらえば?」

「いえ、でもニコライさんに借りを作るのは……」

「そもそも着飾らないと連れてかないなんていうこと言い出したのはあいつ何だし……まあ、本当に足りないなら私が少し出してあげるわ。後で返してもらうけど」

「あら、貴方もドレスが必要なの? なら私に選ばせて! ニッキーの好みなら大体把握してるから任せなさい!」

 

 そう言ってシャーネはレフィーヤを連れて並べられたドレスを見に行った。

 

「あ、あの、私レフィーヤって言います。よろしくお願いしますキスメットさん」

「よろしくねーレフィーヤちゃん。うーん、レフィーヤちゃんの山吹色の髪には、緑かしらね」

 

 そう言いながらシャーネは様々なドレスを手に取ってきてはレフィーヤに宛てがい、取ってきてはレフィーヤに宛てがいを繰り返した。

 暇になったティオネはドリーちゃんと話をしていた。

 

「このモスグリーンのドレスなんて良いと思うわ。ハイ&ロードレスとかが似合うわね」

「は、はいあんどろー?」

「スカートの後ろと前で長さが違うドレスのことよ、こんなの」

 

 シャーネはレフィーヤに似合うだろうと言ったドレスを手渡した。

 

「ほら、前と後ろで長さが違うでしょ?」

「こ、これは足が出すぎですぅ」

「そっか、レフィーヤちゃんはエルフだもんね。うーん、じゃあこっちは?」

「こ、これくらいなら」

 

 差し出されたのは白いファーの肩掛けがセットのAラインドレスだった。色は薄緑色でサテン系の素材なのか光の当たり方で若干色が変わる。ホルターネックで胸元もそこまで大きく開いておらず、スカート部分はギャザースカートとなっていて足まで隠れている。アクセントに腰部分に朱色の花が飾ってある。

 

「ならこれにしましょう! えっと、お値段は150万ヴァリスね!」

「な、75万……」

「大丈夫よ、ニッキーならそれくらいすぐ稼いじゃうから……相手がいれば」

 

 レフィーヤがニコライと同じことができるとはまったくシャーネも思ってはいなかったが、可能か不可能かで言えば可能である。やってのける人物がいるのだから確かに可能だ。

 

「まあ、本当に頼めばニッキーなら全額出してくれるわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、だってニッキーがドレスを着させるのって専ら趣味みたいなものだし」

「趣味ですか? こんなにお金が掛かるのに?」

「ギャンブラーにお金がどうこう言っても意味はないわよー? あいつらは破綻するまで遊ぶから」

「に、ニコライさんは大丈夫なんですか?」

「ニッキーは……大丈夫じゃない? 大負けすることはあるけど、お金は貯めてるみたいだし」

 

 そうでなければこんなに何着もドレスを買うことはできないし、高い装飾品を使う魔法の連発もできないだろう。実は【ロキ・ファミリア】一の金持ちなのかもしれない。と、思ったが特に金を使わないリヴェリアもいるので、真実は分からない。

 

「いい、レフィーヤちゃん? 男ってのはね、隣に連れてる女には自分の好みでいて欲しいわけよ」

「は、はあ?」

「だからアイズちゃんにはニッキーが作らせた服を着させるし、ドリーちゃんはニッキーの好みを把握してるからレフィーヤちゃんをここに行かせたんだと思う」

「わ、私もですか?」

「そうよー、ギャンブラーって皆見栄っ張りだから。こう、何て言うの? 雰囲気から相手を圧倒していくのよ。美女が一緒にいると俄然強く見えたりするわけよ……賭け人(あいつら)にとっては」

 

 カジノで働くシャーネが言うことなのだが、本当にそうなのだろうと素直に受け取ったレフィーヤは、それはつまりニコライが自分のことを美人だと思っていることだということに気付いて顔を赤くした。見麗しいのはエルフの特徴ではあるが、むしろそうであるが故に褒められることは少ないのだ。エルフは美しくて当然、それが一般認識となっている。

 

「アイズ、綺麗!!」

「あら~、試着終わったかしら?」

「終わったよドリーちゃん! すごいすごい!」

 

 店の奥からティオナの明るい声が響く。一心にアイズの現状を知らせようとしているが、言っているのは凄いと可愛いと綺麗くらいなので何の説明にもなっていなかった。

 

「……あいつ、センスだけはいいみたいね」

「そうなのよ~、特にアイズちゃんに関してはね」

 

 それをひと目見たティオネは普段褒めたりしないニコライを褒めた。

 

「わあっ」

 

 そして、そのアイズを見たレフィーヤは立ち尽くした。あまりにも綺麗で、女神も裸足で逃げていく程に美しく、しかしどこか儚いアイズのその姿はニコライが作らせたドレスということを知っていても彼女を見惚れさせた。

 

「はあ……アイズちゃんには勝てないわあ」

 

 シャーネもその少女の美しさには溜息しか出なかった。

 

 空を思わせる青のスレンダードレスだ。首の根元から袖ぐりの下まで衣服を斜めに大きくカットしたノースリーブ型のスリーブラインは肩を大きく露出させている。ゆったりとした布が足元まで伸び、胸元一つコサージュがあしらわれている。

 

 普段から服には無頓着ながらも長いスカートを好まないアイズの珍しいロングスカート姿だ。珍しそうに見るティオネ、はしゃぎながら褒めるティオナ、少し悔しそうにするレフィーヤとその反応は上々だった。

 

「……動きにくい」

「そりゃ、しょうが無いってもんよ」

 

 しかし、やはりというべきか、その動きにくさが気になるアイズだった。

 姿見鏡に映る自分を見ながら、果たしてニコライがどのような反応を示すかアイズは考えた。文句を言うはずはない、何せニコライ自身が頼んだドレスだ。しかし、相手はあのニコライである。着こなせていないとアイズを叱る可能性も無きにしも非ず。

 

「大丈夫よアイズちゃん。凄くニッキー好みだから」

「そう、でしょうか」

「私が保証したげるわ。次カジノに来た時のあいつはかなり上機嫌ねこりゃ」

 

 その時は奢ってもらおー、と言いながらシャーネはアイズに抱き着いた。それに続いてティオナもずるいと言って抱き着く。じゃあ私もー、と言って抱き着こうとしたドリーちゃんをティオネが止めた。

 

「そっか」

 

 ニコライのことを昔から知っているシャーネが言うことだ。アイズは彼女の言を信じた。そしてその足を包む長いスカートを見た。

 

――似合ってんじゃねえか!

 

 きっと、そうやって褒められれば、長いスカートももう少し好きになれるだろう。アイズはもう一度鏡に映る自分を見るのだった。

 

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