Gambler In Sword Oratoria 作:コイントス
「いや、フィン今日はマジでツイてない感じだから止めた方がいいって!?」
「毎度ながら君のそのツイている日とツイていない日の区別の仕方が僕には分からないよ」
最早地下何
そこに滑稽な笑みを浮かべる
「今さっき飲んだ紅茶が美味かった。だから今日はツイてないんだ」
「まったく意味が分からない。根拠もないし、僕にはむしろツイているように思える」
「バッ、お前なあ、俺が淹れる紅茶が美味いとかあっちゃいけねえんだよ。分かる? 分からねえだろうな」
「……なら紅茶なんて淹れなければいいじゃないか」
「飲みたくなったんだから淹れるだろ」
そもそも何故茶葉を持っているのかと問い詰められながら、俺とフィンは野営をして各々休んでいる団員達を見て回っていた。
傷付いた身体を治療する団員、武器の手入れをする団員、アイテムの残数を確認する団員と様々だが、最も目立っていたのは意中の相手をこっそり見ている銀狼だったことをここに明言しておく。
「君が何と言おうと部隊を二つに別けるのは決定事項だ。51階層で【ディアンケヒト・ファミリア】から受けた
「だからって二つはやめようぜ? な? 一部隊にして二つ回ればいいじゃねえか」
「そこまで時間を掛けるわけにはいかない。僕達の目標はもっと下だ」
「俺は言ったからな! 絶対ぇニ部隊より一部隊の方がいいからな! マジで今日はツイてない……」
「……分かった、君の忠告は聞いておく。各員にいつも以上に警戒しておくように言っておく。これでいいかい?」
「お前の判断なら、誰も反対しやしないさ」
フィン・ディムナ、またの名を【
「君は反対なんだろう?」
「ああ、反対だね! 猛反対! このまま帰ってもいいくらい反対だ。ビリビリ来てるね、もうこりゃマジでツイてない感じだ」
「変な信号を受信してるのかな?」
「馬鹿にしたか? あぁ、フィンさんよお? もし本当にデンジャラスなことが起きたら今度奢ってもらおうかな?」
「そうだね、今度どこか飲みに行こうか。あ、でも賭け事はなしだ。リヴェリアにバレるとまずい」
「ハッ、あんな行き遅れのエルフが怖くてギャンブルなんてできっかよ!」
「……じゃ、ニコライ元気でね」
俺の後ろを見てからフィンはいそいそと何処かへ行ってしまった。俺も後ろを向いて、フィンと同じ気持になった。すごく逃げたいです、はい。
そこにいたのは鬼だった。間違えた悪魔だった。本当の事を言うと超絶美人のエルフでした。しかし二度も見間違えてしまう程禍々しいオーラを纏っているというオプション付きだ。チェンジで!
リヴェリア・リヨス・アールヴ、【ロキ・ファミリア】の最高幹部の一人であり冒険者界隈では【
「誰が行き遅れのエルフだって、ニコライ? もう一度言ってみろ」
「ははは、誰だよそんなこと言った馬鹿野郎は! リヴェリア様俺今からそいつ捕まえてくるんで!」
「別に行かなくてもいいだろう? ここにいるんだからな」
「ひぃぃぃっ!!」
走り去ろうとした俺の後襟を掴んでリヴェリアは俺を引きずっていく。どこにそんな力があるのかと問いたいが、冒険者となったら体型や年齢とその身体能力はまったくもって比例しない。
超絶デブでブスなヒキガエルのような女も、冒険者になればすごいスピーディーに動ける。ただその醜さはどうしても改善できないので諦めましょう。はい、自分を勘違いしているといつか痛い目を見ることになる。ここテストに出ます。
「あ、ちょ、杖はやめてください」
「口答えをするな」
「いたッ! ちょ、マジで、やめてくれリヴェリア!?」
「聞こえんな」
「嘘だろおい! その長いお耳をかっぽじって良くき、ひぃぃッ!」
「身体的特徴で人を貶すのは感心できないな」
「すんませんしたッ!」
その後野営地にあったテントの一つに連れて行かれ短時間で効果大の説教を食らうことになってしまった俺だったが、日常茶飯事となってしまったのか誰も助けてはくれなかった。仲間だと思ってたのに!!
まあ、俺も誰かが捕まってたら逃げるけどな!
「うぅ……酷い目に会ったぜ」
「あ、ニコ」
リヴェリアの説教が終わって解放された俺は野営地の端っこで武器の手入れをしていた。俺のメインウェポンは革製のガントレットである。今回の冒険者依頼の標的でもある『カドモス』というドラゴン型のモンスターの革をふんだんに使った一品で、岩をも砕く、鉄をも弾く、打撃斬撃魔撃もなんのその、百回攻撃されても大丈夫! が売りのガントレット『
そしてサブウェポンとして使うのがサーベルである。安くはないが龍の籠手に比べると見劣りしてしまう。しかし現実としてはこちらのサーベルのほうが利用頻度が高いのだから馬鹿にできない。何故かって? そりゃ、殴るためにはサーベルで切るより遥かに接近しなければいけなくなって危険が多いからだ。
「おお、アイズどした?」
「なんでもない」
そう言ってアイズ・ヴァレンシュタインは俺の隣に座った。その輝くような金髪の髪は幾重もの戦闘を経てもまったく濁ることがない。実はどこかで洗っているんじゃないかと疑ってしまうほどだが、事実は彼女が敵の攻撃を一切受けずにここまで来ているというどちらにしてもとんでもない理由だ。
アイズはじっと俺がサーベルの手入れをしている作業を眺めている。
「面白いか?」
「うん」
「そ、そうか」
まさか面白いと言われるとは思っていなかった俺は一瞬戸惑ってしまった。
アイズ・ヴァレンシュタイン、【ロキ・ファミリア】の誇るファミリアのアイドル(ロキが言ってた)である彼女はそれと同時にオラリオ最強の女剣士でもある(こっちの方が有名なのは言うまでもない)。【剣姫】という二つ名は彼女の美しさと強さを表す良い二つ名だ。
金色の髪は夜空に光る星を想起させ、金の瞳は夜を照らす月のように美しい。しかし、現実は暇さえあればダンジョンでモンスターをぶった斬りたいというちょっと危ない思想を持ったお茶目な十六歳の少女だ。
そして不思議ちゃんである。これは先程の受け答えからも分かるだろう。
「なんか困ったことでもあったんか?」
「……うん」
「言ってみ、お兄さんはどんな相談でも乗るぞ? ロキがウザいとか、ベートが何がしたいのか分からないとか、レフィーヤの視線が時々危ないとか、リヴェリアがママ過ぎてママだよーとか」
「うん」
「いや、うん、てお前。そこ笑うとこだから、な?」
「そうなの?」
「はい、良い首傾げ頂きました!」
俺の言ったことの意味が分かっていないのか首を傾げているアイズを見て俺は思わず言ってしまった。もしかしたら俺はこの動作を見るためにアイズと喋っているのかもしれない。いや、そうに違いない!
「私は……皆に迷惑をかけたから」
「から?」
「どうすれば、抑えられるかなって」
やはりこの娘には戦闘狂の兆しがある。49階層での『フォモール』との激戦の折、アイズはフィンの前線維持の命令に背いて敵に突っ込んだのだ。そのおかげで少ない被害で済んだものの、一歩間違えれば大惨事、アイズは死に、前線は押し返され多大な被害を被っていただろう。
それが分からないアイズではないのだ。しかし、それでも彼女は敵との戦いを求める。
「お前は昔っから悩みすぎなんだよ」
隣に座るアイズの頭を力任せに撫でる。身だしなみに無頓着なところのあるアイズは髪が少し乱れても気にはしないが、撫でるのに合わせて頭が前後左右に動かされ少し目を回していた。
「俺はいくら怒られたってギャンブルが止められないぜ? 止める気もないし、一生止めないだろうと思ってる。それでいいのさ。いいや、そうでなきゃニコライ・ティーケはニコライ・ティーケじゃない、ニセライ・ティーケだな。あ、今のちょっと上手いな」
「でも、皆に迷惑をかけるのは……嫌、なんだと思う」
「違う、違うぞアイズ」
アイズの目を真っ直ぐ見つめる。金色の瞳は最強の剣士とは思えないほど、何かに怯えていた。揺らぐ瞳には、俺にだからこそ見せるアイズ・ヴァレンシュタインがいた。
「お前は迷惑をかけることが嫌なんじゃない。皆に心配されるのが嫌なんだ」
「心配?」
「そう、誰もお前のことを迷惑だなんて思っちゃいない。なにせ、この【ロキ・ファミリア】のアイドルであるアイズがいなくなったら【ロキ・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】じゃなくなってしまう。お前はもうこのファミリアに欠かせない一人さ」
彼女が入団したての時を思い出す。小さな身体を死に物狂いで動かしモンスターに突貫していくその様はまさに鬼神もかくもと言った感じだった。幼く可愛い容姿だけに俺はその時少し恐ろしいとすら思った。しかし、それと同時に彼女の心配もした。したからこそ、今の俺と彼女の関係があるのだ。
「お前は強くなりたい。そう言ったな」
「うん」
「大丈夫さ、お前は強い」
「まだまだ、足りない」
「ま、いざとなれば俺達もいる」
立ち上がって手を差し出す。アイズが手を掴んだので引っ張って立ち上がらせる。野営をしている団員を見渡しながら、俺はいつか彼女が本当に分かってくれることを祈った。
「お前は本当は優しいやつだからな。自分が強くないと守れないとか、どっかで思ってるのかもしれない」
「……そんな、ことない」
「でもな、お前がいる限り俺達は、いいや、俺は負けない」
懐からコインを一枚取り出す。表には【ロキ・ファミリア】のエンブレムである
「裏」
「はずれだ。正解は表」
「まだ見てない」
「なら――見てみるといい」
そう言ってゆっくりと手をどかしてコインを見せる。そこに描かれていたのは笑みを浮かべる
「言っただろう? お前がいる限り、俺は負けない」
見てもいないのに言い当てたことに驚いて固まっているアイズにコインを手渡す。受け取ったコインをまじまじと観察してイカサマを疑っていることを隠そうともしないアイズを見て笑ってしまった。
「なんたってお前は俺の勝利の女神だからな」
「女神、じゃないよ?」
「例えだよ、例え! まあ、お前が女神って言われても俺は納得だけどな」
笑いながら俺は歩き出す。
「ほら、行くぞ。飯だ飯!」
「私、もう食べた」
「なら話し相手だ、行くぞアイズ!」
アイズを相手にする時は少し強引な方が良い。これはティオナが言っていたことだ。一緒に出掛けるにしても一番大切なのは段取りではなく勢いだと彼女は言った。
「うん」
だが、割りかし素直なアイズにそんな強引さが必要だとは俺には余り思えなかったとは、彼女には言っていない。