Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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※指摘があったので加筆修正しました。大まかな流れは変わっていません。
※スキル【全身全霊(All In)】の効果微修正。


018

「なんか(リヴィラ)の様子おかしくない?」

「んー、言われてみれば少し人が少ない気がするね」

 

 18階層、リヴィラに到着したアイズ達一行は一日街で休憩してから下層、そして深層まで足を伸ばすことにした。無理をして休まずに進んでも中途半端なところで休憩を取ることになってしまうからだ。

 その点リヴィラでなら高くはあるが安全な休息がとれる。

 

「というかこの前来た時より数字一個増えてたね」

「そうだな、334になっていた……また壊されたのか? にしては復興が早過ぎるというか」

「数字? 何なんですかその数字って?」

 

 あまりリヴィラに詳しくないレフィーヤの質問にティオネが答えた。

 

「ダンジョンの中にあるから、この街モンスターに襲われんのよ。それで街が壊された回数を書いてるってわけ。334ってことは334回壊されて建て直されたってこと」

「そ、そんなにですか!?」

「冒険者の街って感じだよねー……諦めが悪いところが」

 

 それから彼等は町の中央、広場へと足を運んで本当に人が少ないということを実感した。このリヴィラを拠点にして探索をする中級冒険者は数多くいる。しかし、現在彼等は街にいない。ある事件が起きたからだ。

 

「少し良いかい?」

「ん、【ロキ・ファミリア】?」

「今日は人が少ないように感じるんだが、何か知ってるかい?」

 

 客が少なく暇そうにしている店主を捕まえてフィンが情報を聞き出そうとする。欠伸をしながら店主はフィンの質問に気前良く答えた。商魂たくましいリヴィラの商人も、客がいなければ暇で仕方ないらしい、

 

()()だよ、リヴィラの中でな。あ、いや片方は()()()だったか?」

「どういうことだい?」

「いや、何でも昨日男が一人宿で殺されたらしくてな。こっちはボールスも聞きまわってるし確かな情報だ」

「半殺しというのは?」

 

 その何とも曖昧な言い方にフィンは追求せざるをえなかった。店主もわざとそんな曖昧な言い方をしたのではなかったのか、少し表情を曇らせた。

 

「入口の数字見たろ? 昨日リヴィラの端のほうの崖がぶっ壊されてな、何個か家も倒壊しちまった。その場に死に体で誰かが転がってたらしい。いやあ、まさか同業者に壊されて数字を増やす日が来るとは思わなかったぜ」

「誰か? その誰かについての情報はないのかい?」

「それがこっちに関してはいくらボールスに聞いても教えちゃくれなかった。なんだかすげえ真剣な(つら)してやがったぜ?」

「……そうか」

「ま、もっと知りたいならボールスに聞くこった。【ロキ・ファミリア】(おまえら)になら何か教えてくれるかもしれねえし。あいつは男が殺されたっつう『ヴィリーの宿』にいるぜ」

 

 アイズ達は顔を見合わせてから、その『ヴィリーの宿』へと行くことにした。多くの野次馬が押し寄せている宿の中に入ることは難しかったが、ティオネが凄むと人混みが綺麗に二つに別れ道ができた。

 『ヴィリーの宿』は岩にできた空洞を利用した宿だった。広いエントランスとそれなりの装飾が施されている店内からはリヴィラの中で上等な宿屋という印象を与えた。

 

「すまない、ボールスはいるかい?」

「ろ、【ロキ・ファミリア】!?」

「団長が聞いてんだから早く答えなさいよ」

「落ち着きなよ、ティオネってば」

 

 宿に入って調査をしているであろうボールスの部下にフィンが話しかけると大声を上げてその冒険者は驚いた。その理由が思い付かなかったフィンは僅かに嫌な予感を募らせた。

 

「あ? 【勇者(ブレイバー)】にその一行かよ」

 

 すると宿屋の奥から部下の声を聞き取ったボールスがやってきた。

 ボールス・エルダー、リヴィラの街の実質的(トップ)である上級冒険者だ。そんな彼が自ら調査をするということが事態の深刻さを物語っていた。

 

「何か事件があったらしいね?」

「言っとくがここは立ち入り禁止だぞ?」

「こちらも集中して探索に励みたいんでね、早期解決のために協力しただが、どうだろう?」

「……ちっ、仕方ねえ。来い、大雑把に説明してやる」

 

 素直に協力を受け入れたボールスにフィンとリヴェリアは驚いた。文句の一言でも漏らすと思っていたのだが、何やら事情があるように二人には思えた。

 

「殺されたのは、こいつだ」

 

 そう言ってボールスは宿の一室に転がっている死体を見せた。潰されたのか首から上が弾け飛んだようになくなっている男の死体だ。飛び散った血が部屋中にこびりつき、その無残さを物語っていた。

 

「もう一人は? 殺されかけた冒険者がいるんだろう?」

「ああ……そっちもそっちで問題でな」

「こっちの彼と比べてもかい?」

「ああ、()()()が意味してることは――ハンパなくやべえ」

 

 ボールスのその言い方にフィンは目を細めた。

 リヴィラの頭、つまりは最強の冒険者であるボールスにそこまで言わせるほどのことはなかなかないだろう。荒くれ者たちをまとめ上げる荒くれ者の中の荒くれ者と言っても過言ではないボールスは実力以上に厄介事に慣れている。

 そしてボールスは説明を始めた。

 

 事の始まり――始まりを知った時には終わっていたのだが――は街の外周地区で起こった轟音と地面を揺らす大打撃だった。それまでも何度か大きな音が鳴り響いていたが、ならず者達の街だ、喧嘩など日常茶飯事、冒険者同士の喧嘩ともなれば爆発も起きる。

 しかし、崖の崩壊を招くほどの喧嘩は既に喧嘩ではない。どんな馬鹿がそれをやったのか見に行ったボールス達が最初に見たのは崩れて湖沼へと瓦礫を雪崩れさせる崖だった場所だ。その中から突然鳴り響く録音結晶の音声によって死にかけの男を発見したボールスは取り敢えず死なないよう最低限の治療を施し目が覚めるのを待った。

 そして、そのすぐあとに『ヴィリーの宿屋』の店主であるヴィリーが客であった男が無残に死んだ部屋を見つけ、その男と一緒に宿に入っていった女がいなくなっていることに気付き殺しが発覚したということだ。

 

「犯人はその女で確定だ。だが誰も顔を見てねえ。いい身体してたから一目見りゃ分かると思うんだが……どこにもいねえ」

「……死にかけの男の方もその女性が?」

「……考えたかねえが、そうだろうな」

「なんでだい?」

 

 犯人が複数いるより一人の方が圧倒的に捜査はしやすいだろうに、何故かボールスは苦い顔をするばかりだった。

 周りを見渡して関係者しかいないことを確認したボールスはフィン、そしてリヴェリアに耳を近づけるように言った。

 

「殺されかけたのはてめえらんとこの【賭け狂い(Mr. Gambler)】だ」

「……それは、本当なのか?」

「ああ、本当だ信じたかねえがな」

 

 それを聞いた二人は今まで感じていた違和感の正体が分かった。何故店主が半殺しの方の正体をしらなかったのか、そして何故ボールスが素直にフィン達の協力を認めたのか。

 オラリオで最も強い冒険者は【フレイヤ・ファミリア】に所属するLv.7のオッタルだ。Lv.6というのはその次点になる。そしてその中でも【ロキ・ファミリア】という大手ファミリアの冒険者が殺されかけたということは、相手がそれほどまでの強敵ということを意味する。

 戦力はいくらあっても足りないくらいだ。

 

「あやつらには、言わないほうがいいかもしれんな」

「そうだね、事件が解決するまでは……特にアイズには」

 

 自分達の仲間であり、オラリオでも数少ないLv.6であるニコライが殺されかけたと知れば無用な動揺を招いてしまう。取り敢えず犯人である女性が相当の手練であることだけは伝え、フィン達はニコライのことを言わないことにした。

 特にニコライのことを大切に思っているアイズには悟られないよう注意した。アイズのことでニコライが矢鱈と鋭いように、アイズもニコライに関しては勘が鋭い節がある。だからこそ、ニコライのことを知れば他の三人とは比べられない程揺らぐだろうとフィンは予想した。

 

 

 その後、犯人の狙いは男――【ステイタス】を盗み見る裏技『解錠薬(ステイタス・シーフ)』で【ガネーシャ・ファミリア】に所属するLv.4冒険者ハシャーナだと分かった――の荷物だったという推論を立てた。そして、犯人はまだそれを奪取できていないという可能性も見出した。

 その場合犯人が未だ街の中に潜んでいるのではないかという可能性に行き着いたボールス達は急いでリヴィラの出入り口を封鎖、今滞在している冒険者すべてを広場に集めて身体検査をすることにした。

 

 犯人は女、つまり女性冒険者の身体検査をすることを理解した男性冒険者達は歓声を上げた。そんな彼等を女性陣はゴミを見るような目で見ていたが、彼等は気にしなかった。

 しかし、現在疑いの完全に晴れている女性冒険者はゼロだったため、男性冒険者に身体検査など死んでもされたくなかった女性冒険者と早く検査させろと煩い男性冒険者の間で険悪なムードになる。

 

「……?」

 

 そんなどさくさに紛れて一人の犬人(シアンスローブ)の少女がその場を真っ青な顔で離れていくのをアイズは目聡く発見した。挙動不審、そしてその場から逃げ出したという怪しさから、彼女はその犬人をレフィーヤを伴って追うことにした。

 

 

 

 

 

「ああ、面倒だ」

 

 フィン達の予想した通り、ハシャーナを殺した犯人レヴィスはまだリヴィラの中に潜んでいた。ハシャーナの顔であれば堂々と街の中を歩けたのだが、それを失ってしまった彼女は身を潜め影から状況を見るしかない。私生活でも仮面をして、その素顔があまり知られていなかったハシャーナの顔を自ら剥いてしまったことを後悔するレヴィスだった。

 

「それにしても、あいつは何だったんだ……?」

 

 レヴィスとしても何故ニコライと死闘を繰り広げることになったのかは不明であった。まさかハシャーナを殺し、その顔を被って数分でバレるとは思ってもいなかったが、それより予想外だったのがそれを見破った相手が逃げるではなく立ち向かってきたことだ。

 

「ん?」

 

 息を潜め、建物の影から街の広場を見ていた彼女はアイズとレフィーヤが犬人の少女を追いかける様子を見た。犬人の少女の必死な形相は、何かあると言っているようなものだ。それに今は広場でフィンを巡って争う女性冒険者達とティオネでごたついていて見ていなくても問題はなさそうだった。

 

「追ってみるか」

 

 彼女がその結論を出すのは当然とも言えた。

 足音を殺しつつ早足で彼女はアイズ達の後を追った。途中から建物の間を走るって追跡することが不可能となったため屋根を伝い、最後には街の外壁に登って追い、最後にリヴィラの倉庫の一角でアイズ達が立ち止まっている場面を盗み見た。

 

「見つけたぞ」

 

 そして少し経つと犬人の少女が荷物の中からレヴィスの求めていた物が取り出された。それは宝玉のような何かだ。中には胎児のように、()()が眠っている。

 

「では、仕事をするとしよう。今回は邪魔もいないことだしな」

 

 倒したものの、最後に放った魔法がその直前に放たれていた吹雪と同等の魔法であれば更なる苦戦を強いられていたとレヴィス自身が感じている程度にはニコライは彼女にとって強敵だった。あれ程の強敵に何度も邪魔されては堪ったものではない。

 この時彼女はニコライと同等の強さを持った冒険者が二人も街にいることを知らなかったが、知っていても彼女のしたことは変わらなかっただろう。

 

「――出ろ」

 

 彼女は懐から草笛を取り出し、そして音を奏でた。奏でた音は街の上空を渡り彼女の傀儡(モンスター)達を呼び起こす。レヴィスの指示で広場に食人花のモンスター――フィリア祭の時にアイズ達が苦戦したモンスター――が大きな揺れと共に襲いかかる。街の中心から冒険者達の叫び声が響く。

 何かが起こったことに気が付いたアイズ達は急いで広場に戻ろうとするが、当然レヴィスはそれを許さない。

 

「行かせるか」

 

 再び音を鳴らし食人花のモンスターを操作してアイズ達の足止めをする。予想通り一番強いアイズがモンスターを蹴散らし、その間に宝玉を持ったレフィーヤと犬人の少女を広場へと先行させようとした。

 しかし、それは間違いであった。

 

「奪わせてもらおう」

 

 レヴィスは広場へと先行するレフィーヤ達を先回りして通せんぼすることにした。レヴィスから見てアイズも戦いたい相手とは思えなかった故不用意に近付きたくなかった。

 

宝玉(それ)は渡さない」

 

 リヴィラ攻防戦は、地を揺らすモンスター達の叫び声で始まった。

 

 

 

 それが運良く――レヴィスにとっては運悪く――生き残ってしまった男を呼び覚ますとは露知らずレヴィスは外壁から飛び降りた。

 

 

♣♣♣

 

 

「――――ぁ」

 

 眠りから覚めるのは何時だって唐突だ。スイッチを切り替えるように、夢の世界から現実へと意識は切り替わる。

 

「――――ぃッ」

 

 俺の意識を覚醒させたのは極大の揺れだった。自分がどこで、何をしているのかも分からなかった俺にそれは襲いかかり、そして全身を貫く痛みを生み出した。

 

(ああ、そうだ。俺はあの女(レヴィス)と戦って……負けたのか)

 

 ゆっくりと起き上がる。身体には僅かな包帯、そして必要最低限の治療しかされなかったからだろう多くの傷が残っていた。生き残っただけでもありがたいことだ、治療などされていなくとも文句は言えない。そもそも文句を言う相手がこの部屋にはいなかった。

 

(どこだ、ここは?)

 

 寝かされていたベッドから立ち上がる。地面に経つだけで激痛が全身を走ったが、気合で押さえ込む。部屋にあった窓から外を見て俺は驚愕した。

 

 場所は予想通りリヴィラだったが、外は阿鼻叫喚の状況となっていた。

 数日前オラリオを襲った花だか蛇だか分からないモンスターで街は溢れかえっていたのだ。そして、俺はそんなことをするような奴に、一人だけ心当たりがあった。そもそもあんなことのあった直後だ、疑いなどではなく確信だ。

 

(負けた? いいや、まだ負けてねえ)

 

 そう、俺がした勝負はどちらかが死ぬという勝負だ。俺は生きているし、レヴィスも生きている。だからまだ勝負は付いていない。

 

「最終ラウンド? ふざけんじゃねえぞッ!? 俺はまだ負けちゃいねえぜえ」

 

 俺は部屋の中にあった戸棚からある薬品を取り出した。麻痺毒を備えたモンスターから抽出、濃縮したその薬品は、それでも耐異常を獲得した冒険者にはあまり効かない。しかし、あまり効かないだけで、まったく効果がないわけではない。

 その使い方は痛み止めだ。怪我をして回復魔法や回復薬(ポーション)などを切らした時にこれを使って無理矢理戦闘続行するという無茶をするのだ。

 

「ああーー……これ、ぜってー染みるッ!」

 

 俺はそれを怪我をした全身に被った。ビリビリと電撃に晒されたような痛みが全身を襲う。数秒間それに苦しむと途端嘘かのように痛みが止む。本当に痛みがなくなったのは嘘なのだが。

 

「ハッ、勝負続行だぜ」

 

 酔ってから面倒と言われる酔っぱらいな俺は、もう一つそんな感じの呼ばれ方がある。

 

――怪我を負ってからが強い

 

 それもそのはずだ。そういうスキルを備えているのだ。

 

全身全霊(All In)

・ 基本アビリティ超上方補正。

・ 致命傷を負えば負うほど効果上昇。

 

 【ステイタス】が燃えるように熱く背中を焼く。ベッドの横に置いてあった『龍の籠手(ドラゴン・ハンド)』を装着して俺は窓からその身を宙へと投げ出した。

 

「第三ラウンドと行こうじゃねえか――――ッ!!」

 

 モンスター達に負けないほどの大絶叫を上げながら、再び戦場へと足を踏み入れる。

 




※指摘があったので加筆修正しました。大まかな流れは変わっていません。
※スキル【全身全霊(All In)】の効果微修正。
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