Gambler In Sword Oratoria 作:コイントス
「ちょっと待て、本当に俺こういうのダメだから!?!?」
「大の男が何言ってんのよ、情けないわね!?」
「ひぃぃ!! あのうぞうぞもぞもぞしてるのが本当に無理なんです勘弁してください!?」
現在絶賛逃走中。
泡沫の期待をかけて肩越しに背後をちら見したが後悔した。背後からは俺達を追いかける巨大芋虫の大群が迫っていた。うぞうぞと短い足を必死に動かし、可愛くもない顔をこちらに向けて突進する様はまさに悪夢だ。夢に出てきたらどうすると文句を言って殺してやりたいが、なんとあいつら殺すと溶解液を噴出したり爆散させたりして無理心中を謀るのだ。するなら美女としたいね! いや、まずしたくないけども。
ラウルを担ぎながら全力疾走をしているニコライ・ティーケから中継でした!
「全員、右手の横道に飛び込め!」
「おうよ! って待てそっちは行き止まりぃぃ!!」
「知っている!」
ラウルの叫び声を聞いて駆けつけるともう一つの部隊、フィンをリーダーとして、ガレス、ベート、そしてラウルで構成されていたパーティーと合流した。そこから芋虫型のモンスターと戦うも攻撃する度に武器を失っていては埒が明かないということで逃げている最中だったのだ。
もちろん俺はサーベルで一体倒して武器を失くした。その後残ったガントレットではなんの役にも立てないのでラウルを担ぐ役を担っていたのだ。
「ちっくしょおおおお!!! だからツイてないって言ったんだよおおお!! フィンの馬鹿野郎!!」
「後で殴る」
「ちょっとティオネさん! ぼそりと怖いこと言わないでください、すみませんでしたああ!!」
「ニコライうるさいぞ」
「そう言いますがねガレスさんや、こうでもしてないとやってらんない訳ですよ!」
俺達が通路の奥、出入り口が一つしか無い正方形のルームに足を踏み入れた瞬間、嫌な予感が更に加速する。
ああ、本当に今日はツイていない。どうせ碌な事にはなりやしない。
「来るぞニコライ! 君に任せた!」
「ちょっと、本当にそういうのやめて! ねえ!?」
背にしている壁以外の三方向から岩盤の割れる轟音と共に先程のモンスターが湧いてくる。その様子は正に腹を食い破って産まれる正体不明の生物のようだ!
その光景を見て表情を変える面々。流石に全員倒す度に武器を壊さなければいけない戦いに前向きではないようだ。
「地上に戻ったらいくらでも奢ってやる! 賭け事も付き合ってやる!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁ!!! マジだかんな! すっげー飲むかんな!?」
「構わない!」
「くそ、くそ、くそおおお!!」
大絶叫を上げながら俺はポケットから一つの指輪を取り出す。黄金で出来た指輪には、血のように赤い宝石が取り付けられ、見事な装飾も施されている。言っては何だが、かなりの値打ちものだ。
「言っておくけど、これだけで何千万ヴァリスすんだかんな!?」
「背に腹は代えられない! 命あっての物種だろう!? それにそれくらいのものは何個か持っているだろう!」
「うるせええええ!?」
言っていることは最もなのだが、それで割り切れるかというとそういうものではない。そもそも俺はこの魔法を使うのが大嫌いなのだ。
何せ――
「【行動には責任を、労働には金銭を、信仰には加護を】」
この魔法は――
「【我が財を捧げよう、しかるべき対価を我は求める】」
俺の信念に最も反する形で――
「【財宝神の祭壇に財を焚べよ】」
俺の最も望んでいる
「【
手に握っていた指輪の感触が消える。その直後、身体が溢れんばかりの闘気と漲る力に満たされていく。その状態を見慣れていないレフィーヤは驚いた顔をしているが、俺が準備をしている間前線を維持していた面々はやっとかと呆れていた。
「行くぞお前等! どけええ!!」
踏み出す一歩がいつもの何倍の衝撃を地面に与えながら俺の身体は弾丸のように飛び出した。纏う闘気も相まって俺はさながら流星の如く敵に突っ込んでいく。
「【
そしてもう一つの魔法の詠唱を始める。その短い言葉を口ずさむと拳に運命の輪の紋章が浮かび上がる。
そもそも【財宝神の祭壇】は自己強化型の補助魔法である。確かに身体能力や五感も強化され、戦闘能力が飛躍的に上がる効果があるが、それはあくまで
この補助魔法の真価を発揮させるには、もう一つの魔法が必要不可欠なのだ。
芋虫型のモンスターの眼前に迫る。その醜い顔に悪寒を感じ、速攻で殺そうと思った。
「【
拳の紋章が一層光を放ちながら俺の運命を汲み取る。
口を大きく開いて溶解液を吐こうとするモンスターに向かって拳を振るう。溶解液に触れる直前に魔法は完成した。
「【
紋章は青い稲妻を発しながら爆散する。その見た目はかなりの
「死ねやおらああ!!」
紋章が爆散して消えるとともに振り抜かれる拳から雷撃が横一閃に走る。それは一瞬で視界を埋め尽くしながら、眼前にあるすべてを焼き殺す一撃へと昇華していく。
身体から
「あ゛あ゛あああ、しんどっ!!」
「お疲れ様」
「いつ見てもアンタの
「うるせえなあ!」
そう、俺の魔法【運試しの拳】は別に雷撃を放つ魔法ではない。それどころか攻撃魔法とすら言えない場合もある。その名の通り運試しのような魔法なのだ。魔法の威力も種類も、消費する精神力すら予測不能の欠陥魔法だ。
ある時は視界を埋め尽くす雷撃を、ある時は相手を癒やしてしまう回復を、ある時はなんの意味もない水鉄砲のような魔法を放つ。ブレブレでグダグダなその魔法を、しかし俺は愛して止まないのだ。
「ああ、納得いかねえッ!!」
「はあ……言っただろう命あっての物種だよ」
「そうだけどよ……はあ、お前には分からんだろうよ。この虚しさと言うべきか悔しさと言うべきか」
そう、しかしその不安定な魔法をある程度安定させる魔法こそが【財宝神の祭壇】である。別段同時に発現した訳ではないのでセットということは決して無い。
【財宝神の祭壇】の効果は運気の上昇だ。その副次効果として身体能力向上などが付いている。俺はこの状態を『スーパーニコライさん』と呼んでいる。
つまり、この魔法を使えばほぼ確実に【運試しの拳】で強力な魔法を放つことができるのだ。ちなみに【財宝神の祭壇】の効果の度合いはその捧げた物の価値に左右される。単にその物の値段での判断ではなく、その物に付随した物語まで査定にいれるのだから神々の考えることは分からない。
「【
こう言っても誰も分かってくれやしない。そもそも、運を他人から貰って何になるというのか。【
しかし、やはり生き抜くために最も必要な『運』を手に入れなければならない場面というものは存在し、そうしなければ生き残れないというのなら俺はどこまでも生き汚くなる。自分が嫌う行動でも何でもする。
やはり、俺はまだまだ賭け事がしたいのだ。
俺達はその後急いで拠点へと戻ることにした。今はそのすべてを倒したあの芋虫型のモンスターが出現した場所に問題があったのだ。あのモンスター達は拠点の方向からも発生していた。それは拠点も攻撃されている可能性を示している。
そして、それは当たってしまった。
「リヴェリア、みんな!?」
ティオナが叫ぶと同時に俺達は視界の中で芋虫型のモンスターの攻撃に晒されている拠点が広がる。崖のような急勾配の斜面の上にある拠点は防衛するのに向いているためか、まだ拠点は無事ではあったが、倒す度に武器を潰さなければいけない都合上時間をかけて倒すということはできない。
「面倒くせえ!!」
「アンタねえ、仲間の危機にそれはないでしょう!?」
「俺はもうさっきの魔法で疲れてんだよ!?」
「はい、これ飲んで回復しなさい!」
「そういう優しさは今発揮して欲しくなかったなあ!?」
「ガレス、君はラウルとレフィーヤを守ってくれ。レフィーヤ、君は魔法で攻撃、ラウルはレフィーヤの補助だ」
「うむ」
「了解っス!」
「はい!」
飛び出ていった戦闘狂共のことは諦めたのかフィンは残ったメンバーに指示を出していく。拠点を守る側とは別にこちらはこちらでモンスターを倒していく作戦のようだ。
「俺は?」
「君は……そうだな、あの崖に向かって一発大きいのを頼む。でも崩落させないようにね」
「なにその無茶な注文……まあ、まだ幸運は続いてるしなんとかなるだろ。ああ、人使いの荒い団長だあ」
「君ならできるさ」
「おいおい、俺はそういうのいらねえよ。ティオネに言ってやれよおっさん」
それだけ言って俺はアイズ達の後を追うように走りだす。地を這い拠点を目指すモンスターどもの間を縫うように崖へと接近して、最後の一歩に渾身の力を込めて突貫する。
「邪魔だ邪魔だあ!!」
そして空中で身体を捻って力を溜めてからその拳を張り付いているモンスターではなく、崖へと突き刺す。轟音と共に崖に莫大な衝撃と亀裂が走る。足場が崩れかけたことによって崖から剥がされていくモンスター達、衝撃によって崖から突き飛ばされるようにして宙へと飛んで行くモンスター達。
「ははははは! 芋虫が空を飛んでも蝶にはなれないぞ、馬鹿共がああ!!」
「馬鹿はニコでしょうがああ!!!」
下からティオナの大声が飛んでくる。それ以外にもベートやティオネ、珍しくアイズからも文句が飛んできたが俺はフィンに言われた通りのことをやったので文句の謂れはない。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
崖の上からリヴェリアの詠唱が終わる言葉が紡がれ、その直後色とりどり、様々な属性の魔法が地面へと落ちたモンスター達に降り注ぐ。表皮自体はそこまで硬くないのか、それとも魔法への抵抗が低いのか、【ロキ・ファミリア】の魔道士達が一斉に放った魔法の嵐はモンスター達を駆逐した。
「おっす、お疲れ様」
「ニコライ、助かったぞ」
「いやあ、照れるね」
「しかし、次からは他の団員のことも考えるようにしろ」
「あれ、褒められてない!?」
崖の上に登ってリヴェリアに一声かける。防衛の指揮を一人で担っていたエルフは少し疲れている様子だった。団員から精神回復薬を受け取って飲んでいる光景さえ絵になる。
「――ッ」
リヴェリアと状況の確認をしていると背中に氷柱でも突っ込まれたかのような寒気を感じて俺は直ぐ様振り向いた。
「おいおい、なんだありゃあ……」
「次から次へと……」
芋虫の死骸の向こう側からこちらに向かって進んでくるそいつを見て俺達は顔を顰めた。黄緑の身体は芋虫共より遥かに大きく、進む度に地響きを起こすその体重は計り知れない。しかし、そこに鈍くさい等の感想はなかった。
そいつには腕があった、頭もあったし、髪のようにして生えた管のような器官もあった。
「人型って、おい……」
芋虫の上に人が乗っているような形だ。ケンタウロスのように馬の身体に人間の上半身、それを芋虫にしただけだ。しかしそのありえない身体の色や芋虫を彷彿させる人間離れした腕や頭は気持ち悪いだけだ。
「しかも、
まるで子供を殺されて怒った母親のようだ。俺達を子供の仇と認識したのかその殺気は俺達へと突き刺さる。
「嗚呼、本当にツイてない」
ツイてない一日はまだまだ続くのだった。