Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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「おらおらおらあああ!! 邪魔だあああ!!」

 

 鞭のようにしならせながら振るわれる扇型の腕を拳で迎撃していく。Lv.6としての【ステイタス】と【財宝神の祭壇(Altar Of Kuber)】によって強化された身体能力は人外の域へと達しようとしていた。

 突き出される拳は、対象に触れなくともすべてを弾き飛ばす弾丸へと化していた。

 

「俺の拳は最高に冴えてるぜええええ!! 世界狙っちゃうぜえええ!」

 

 突き出される度に拳は空気を弾き飛ばし、()()の嵐を巻き起こす。そこには腕であろうと、溶解液であろうと、極彩色の光粒だろうと関係ない。俺の身に宿ったありえない幸運(ラッキー)によって、乱雑に放たれる拳圧はすべて対象を捉え弾き飛ばす。

 拳による点の攻撃をもってして、俺は自分の前面を防御する拳圧の盾を作り上げていく。

 

「ガードが!」

 

 立て続けに攻撃して疲れたのか人型の猛攻が一瞬止む。その僅かな時間を狙って距離を詰める。この人型確かに巨体の割に機敏な動きをする。振るわれる腕は前後左右死角がなく、攻めるも良し守るも良しの高性能モンスターだ。

 しかし、巨体であるが故に絶対に足元に対する反応は遅れてしまう。今相手の視界に俺は映っていないはずだ。

 そう思った瞬間。

 

――ギョロリ

 

 正にそんな音を発したかのように人型の芋虫のような土台部分から目玉が現れたのだ。

 

「キモいわ!!!!」

 

 思わずそう叫びながら全力の拳を突き刺した。幸い目玉の中から溶解液が出ないようになっていたのか、潰れた目から変な汁が出て腕が汚れるだけで済んだ。

 

「くそ! ガードがガラ空きだぜって決めたかったのによお!! お前のせいで台無しじゃねえかッ!!」

 

 即座にモンスターの懐から離脱する。飛び退きながらも相手の腕や吐き出される溶解液を避けていく。腕は俺の思った通りの軌跡を描き、地面にぶち当たって破片を撒き散らすも俺には欠片一つ当たりはしない。

 

――当たるわけがない

 

 一片の迷いもなく、愚かにも俺は自分の幸運を信じて動き続ける。幸運にも俺はこの道を進んでいるのではない。俺の歩く道にこそ幸運が落ちているのだ。未来は不確定で様々な可能性に満ちあふれている? 馬鹿を言うな!

 

「俺には最初(はな)っから一つの未来しか見えてねええええんだよッ!!!」

「ニコッ!!」

 

 後退する俺より更に後ろ、アイズから鋭い声が飛んでくる。後ろを振り返るまでもなく、アイズが相手をしていた人型モンスターが俺へとターゲットを移したであろうことが分かった。

 

「右か左と聞かれれば!?」

 

 目の前にいる人型が再度鞭のような腕で空気を切りながら俺を攻撃しようとするが、それを屈んで避ける。

 

「圧倒的に、左!!」

 

 そして、身体の左側でモンスターの腕を受け止められるような体勢を取る。その直後俺の身体に凄まじい衝撃が襲いかかり、危なく吹き飛ばされかけるところだったが踏ん張ってその衝撃に耐える。

 

「どんぴしゃあああ!!」

 

 もちろん俺が掴んだのは()()()()相手をしていたモンスターの腕だった。考えてみればアイズが焦って俺の名前を呼ぶほど緊急を要する攻撃は豪速で振るわれる腕くらいしかない。爆発する鱗粉は放たれてから爆発するまで数秒間のタイムラグがある。

 しかし、そんな思考は受け止めた後に俺の頭に浮かんだことだ。

 

「この賭けは俺の勝ちのようだなああ、化物おおおお!!!」

 

 大声を上げ身体の力を振り絞る。千切れるのではないかと思うほどモンスターの腕をキツく抱きしめながら身体を捻っていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉらあああああああああああ!!!!!!」

 

 徐々に引っ張られるようにその巨体を引きずられていくモンスターは、遂に地面からその足が浮いた。途端身体に掛かっていた負荷が軽くなり、更に勢いを付けて身体を回転させるように捻っていく。

 

「武器がねえ時はなああああ!!!」

 

 ありえない光景に声を失って立ち呆けているアイズを視界に収めながら、俺は人型モンスターをぶん投げた。

 

「その場にある物を使うに限るんですよおおおいこらっせえええ!!!」

 

 宙を舞う人型モンスターは、身動きを取れずにそのまま重力に引かれてもう一匹の土手っ腹に突っ込む形で激突した。

 

「あ?」

 

 それと同時に俺は気付く。

 

「鱗粉……だと!」

 

 俺が投げたことによって腕から撒き散らされていた光粒が俺の周りと漂っていた。

 

「ちょ、ま! これはまずいやつですってえええ!」

 

 叫び声を上げながら後ろに飛び退こうとした瞬間、モンスターの置き土産、いや、イタチのすかしっぺは炸裂した。

 

「ッッッッでぇぇぇぇぇ!!!」

 

 拳で顔面をガードしながら防御を固めた俺は爆発に巻き込まれながらも奇跡的に、幸運によって大した怪我をせずに済んだ。しかし、爆発によって粉塵が視界を覆いまったく何も見えない。

 

「――ッ!!」

 

 だから一瞬目の前から突き出された四つの腕を受け止めるのが遅くなってしまった。

 四つの腕の二つを受け止め、残る二つは俺のガードをこじ開けるために閉じられていた腕の間に入り込んできた。

 

「無理矢理は嫌われるぜぇ」

 

 一瞬遅れてしまったガードが崩されるのは時間の問題であり、ならばさっさと崩させてしまった方が良いかもしれないと思った一瞬の隙、その考えを読み取ったかのようにモンスターの腕もその力を解放した。

 

「負けるかよおおおお!!」

 

 そうするであろうことを予見していた俺は急いで腕一本、心臓を守るようにガントレットを胸の前に構えた。

 そして、モンスターの腕によって発生した風が粉塵が吹き飛ばし視界がクリアになる。するともう一匹のモンスターの腕が殺到するのが見えた。即死となる心臓以外ガラ空きの俺の身体に突き出された腕が激突し、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。

 

「行け、アイズ!!」

 

 視界に映るすべてがぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、上も下も右も左も分からない状態で俺は叫んだ。俺の相棒なら、吹き飛ばされている俺の発した言葉でも聞き取ってくれるはずと信じながら、叫ぶ。

 

「俺の幸運(ラッキー)はまだ切れちゃいねえええええ!!!」

 

 そして、俺は訳がわからないまま壁へと激突した。

 

 

♣♣♣

 

 

「行け、アイズ!!」

 

 その言葉を聞いたアイズは既に走りだしていた。その直前に相棒と認めるニコライが起こしたとんでもない攻撃方法に対する驚きが未だ抜け切らない中、しかし彼女の感覚は研ぎ澄まされていく。

 

――ニコが私を信じて行けって言ったから

 

 いつだってニコライはアイズの前を突っ走っていた。

 出会った日から今日に至るまで。嫌々しながら、嬉々としながら、酔っ払いながら、興奮しながら、ニコライ・ティーケの背中は何時もアイズの目の前にある。

 

 今もなお、後方に吹き飛ばされたニコライによって衝き動かされる。

 アイズも思うのだ、何時も何時も運運うるさいニコライは、その反面確かな実力を持っている。そもそも運だけでLv.6に到れるというのであれば誰もが女神フォルトゥナや他の運命や確率を司る神に擦り寄っている。

 

――ニコの運は逆境に立ってこそ光る

 

 何度その拳に助けられたことか。何度その言葉に励まされたことか。

 

――何度その背中に追いつこうと願ったことか

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 万感の想いを込めて、その魔法を紡ぐ。

 何人もの仲間達がアイズのことを仲間や家族として扱ってくれてきた。しかし、その誰一人としてアイズを特別視しない人間はいなかった。

 

 事実、アイズは()()である。その出自も、その成長過程も、その目指す先もすべてが常人とかけ離れている。だからこそ、彼女はニコライ・ティーケを望んだ。

 

『おい、アイズ! カジノ行くけど付いてくるか?』

『年頃の女なんだからもっと着飾れ! おい、店員の姉ちゃん! こいつに似合うドレスを見繕ってくれ。あ? 代金? そんなの俺が持つに決まってんだろ』

『いやあ、勝った勝った! アイズ、好きなだけジャガ丸くん食っていいからな? だがリヴェリアには言うなよ?』

『シャキッとしろアイズ! ヘコタレてんじゃねえぞおいこらあ!! もっと力を込めろ!』

『自分を信じろ! いいな! ぜってーに疑うな!』

『お前は、あれだ! もっと笑え! こう口の端を、くいっと上げる感じだ! ……ぶははははは! 今の顔めっちゃ面白かったぞ!』

 

 ニコライ・ティーケの前でだけ、アイズ・ヴァレンシュタインは【ロキ・ファミリア】の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインではなく、ただの少女アイズでいられる。特別でも何でもない、だが彼女にとってだけは特別なアイズでいられる。

 アイズのことを特別視しないニコライは、得てしてアイズの特別である。

 

「風よ」

 

 一歩踏み出すその足を、風が後ろから追い立てる。それは、アイズが自ら行使した魔法【エアリエル】の風だけではなかった。

 その遥か後方、壁にぶつかって倒れたと思っていたニコライから風が吹き荒れていた。

 

「今、行く」

 

 呼ばれている、そんな気がした。アイズはモンスター達の攻撃を避けるように宙を舞いながら宙返りを繰り返して目的の場所までたどり着く。

 足を壁に向け、壁に着地するような姿勢でニコライに突っ込む。

 

 そこには身体を地面に固定するようにどっしりと構えたニコライが拳を振りかぶって待っていた。その拳から、嵐が濃縮されたかの如く風が溢れている。その拳に宿った魔法が解放された瞬間、どれほどの破壊を生むのか想像するだけでもゾッとする。

 しかし、アイズに恐怖などなかった。

 

――いいかアイズ、一度賭けたらもう絶対に引くな

――うん、私は引かない

 

 初めてカジノに連れて行かれた時に言われたその言葉を、その時は嫌々聞いていたのに今では事ある毎に彼女は思い出す。憧れの背中に追いつくため、そしていつか追い越すため、その精神性すら越えていかなければならないのなら、見習うということは必要なことに思えた。リヴェリアやフィンには猛反対されたが。

 

「いい目だぜ!! お前ももう立派な賭け人(ギャンブラー)だなあああ、アイズ!」

 

 口汚いと言ってもいいほどに煩いその声をアイズは今心地よく感じていた。その荒々しい言葉と雰囲気、大雑把な性格に彼女はいつしか慣れてしまっていた。隣にいることが当たり前になっていた。

 

「受け取れ相棒(アイズ)! 今日最高の逆転の一撃(ラッキー・パンチ)だ!!」

 

 アイズのブーツの底がニコライのガントレットに触れる。アイズがバネのように見を縮め突進力を確保するための数秒、二人は繋がった。その考えが、想いが、力が増し増しになっていく。

 

「【さあ、運命は如何に(Show Down)!! 運試しの拳(Lottery Punch)!!】」

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 

 アイズとニコライの主神であるロキは団員全員に一度は教える嘘がある。彼女曰く、必殺技はその技名を叫ぶと威力が倍になる。

 ならば――

 

「「リル・ラファーガ!!!!!」」

 

 ならば、二人で叫べば四倍だ。そう言わんばかりに二人の声は重なった。

 

 風が爆発した。アイズとニコライの風が混ざり合い、更に大きく膨れ上がる。風が強風に、強風が暴風に、暴風が嵐に、嵐がすべてを吹き飛ばす神風に。昇華に昇華を重ね、そして吹き荒れる。

 その風を一身に纏ったアイズは、すべてを貫く剣尖となりモンスターを貫いた。その姿は正に風の精霊の如く、風を操り風に愛された子供のようだ。

 

 身体に大穴を開けられて絶命した二匹のモンスターはその身体を膨張させ、その身体の内に秘めていた破壊力を自爆という形で解放した。

 

 

♣♣♣

 

 

「おいおい、アイズ。情けねえな」

「ぅん」

 

 アイズが人型モンスターを二匹同時に仕留め自爆した後、俺は一向に返ってこないアイズを迎えに行くことにした。驚くことに彼女は階層の反対側まで突き進んでいた。

 

「ほぼ自爆じゃねえか」

「……ニコの魔法が強すぎ」

「ハッ、何を言うかと思えば」

 

 彼女は壁に寄りかかりながら、もう立てないことが分かっていたのか俺の迎えを待っていた。精神疲労(マインドダウン)、魔法の使いすぎで起こる精神のバテだ。

 

「俺はお前を信じてあんだけぶっとんだ魔法をぶっ放したんだぜ? それを何だお前は。強すぎるぅ? お前が弱えんだろうが」

「ううぅ」

「――まあ」

 

 表情の変化にとぼしいアイズが若干悔しそうな顔をしながら呻き声を上げている。座り込んでいるアイズと目線を合わせるために俺もしゃがむ。

 

「今回も最高に格好良かったぜアイズ」

 

 ボサボサになった金の髪は少し手で梳かしてやるだけでいつものように美しくなる。不思議に思いながら、つい楽しくなってずっとやってしまっていた。

 

「ニコも」

「あん?」

「格好良かった」

「ハッ! アホかお前は! 俺はいつだって最高に格好良いに決まってるだろ!」

「そういうのは格好悪い」

「お前にゃまだ分からん領域なのさ……ほれ」

 

 そう言って俺は背を彼女に向ける。アイズは俺の意図を理解し、ゆっくりと身体を動かして俺の背中へと寄りかかった。

 

「こうやってお前をおんぶしてやるのも慣れてきたなあ。お前は何時も無茶するから」

「大体ニコのせい」

「俺に付いてこれねえお前が悪い」

 

 アイズは俺の首に腕を回し身体を固定した。俺もアイズの腕を持ち上げるようにして立ち上がる。

 

「いつか」

 

 もう身体に力がまったく入らないのか、アイズは完全に身体を俺に任せていた。その軽い体重が俺にのしかかる。

 

「いつか追いついてみせる」

「――――ハッ、『いつか』じゃ遅えな。明日にでも追い抜いてみせろ」

「それは無理」

 

 そしてアイズを背負って俺達の帰りを待つ仲間の元へと俺は足を踏み出した。

 

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