Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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 ダンジョンに通じる穴があるバベルの塔から歩いて【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館にたどり着く。門の前には門番が常に通行人をチェックしていて、ファミリアのホームとしてはかなり徹底した警備である。

 帰還した俺達に向かって敬礼する門番達に俺も敬礼した。何せ、門番という仕事は暇だ。何度かペナルティとしてやらされたことがあったが、俺は数分で飽きて逃げ出した。その結果更に重い罰を受けたのは言うまでもない。どこで見てやがったんだリヴェリアの奴。

 

「おっかえりいいいいいいいいいいぃぃぃ!!!」

 

 門を通った矢先、ホームから猛スピードで近づいてきたそいつはアイズやティオネ、ティオナに抱きつこうとしたが呆気無く避けられ、最終的にレフィーヤが抱きつき弄りの餌食となった。

 苦笑しながらその横を通り過ぎる俺達としては既に日常茶飯事である。

 

「帰ったぞロキ」

「おう、よう戻ったなニコ」

 

 一応横を通り過ぎる時に挨拶をしておく。

 朱色の髪を短く後ろで一房に束ねたこいつは俺達の主神であるロキだ。神々の例に漏れず端麗な顔をしているが、俺はその瞳が何よりも気に入っている。いつもは細めがちだが、あいつの目はすべてを見透かす。見える所も、見えないところも、すべてを見通す。

 ロキだけが、俺を理解する。この愚かな俺を、この捻くれ者の俺を、この死にたがりの俺をロキだけが見てくれる。前の主神ですら分からなかった俺の本性を、ロキは一瞬で見抜いた。その瞬間からだ、俺が彼女に惚れ込んだのは。

 だから、彼女とした賭けを違えることは決してない。それは自分を裏切るということに他ならない。

 

「ニコライ、明日は暇かい?」

「暇じゃねえ。一日寝る予定で一杯だ」

「寝させると思っているのかい?」

「そういうことはティオネに言ってやれよ。その後どうなるかは責任持てないが」

「……僕も遠征で疲れてるんだ」

「なんか、すまん。お前も結構苦労してんだな」

 

 ホームに入った先にある広いエントランスホールでぼーっとしていた俺にフィンが話しかけてくる。心なしかフィンの目にも疲れが出ているように見えた。

 今回の遠征はいつも以上に異常事態(イレギュラー)が多かったことが原因だろう。団長という役職上、最も心配事をして心労をためるのはフィンに違いない。それをすべて受け止めてしまうからモテるのだ。俺も団長やってみようかと一瞬思ったが、更に一瞬でそれを否定した。

 他人の心配とか俺には無理だ。

 

「まあ、冗談だ。明日は宝石商回りだな」

「そうか……二つも使わせてしまったからね」

「おいおい、そんなこと言うなよ。今度破産させるほど飲ませてもらう予定なんだぜ?」

「そうだったね。楽しみにしてるよ」

「おう、久しぶりにガレスと三人で飲みに行こうぜ……リヴェリアは抜きだぞ」

「さて、それは君次第かな」

「ちょっと、待ちやがれこの野郎」

 

 言うやいなや歩き出すフィンに並んで文句を言う。リヴェリアのいる飲み会など楽しい飲み会にはならない。少なくとも俺にとってはならないのだ。最終的にぐでんぐでんに酔った俺は奴に介抱され後々小言を言われるはめになる。介抱の仕方が完璧過ぎて文句が言えないし、そもそも介抱してもらった俺が文句を言おうものならそこにつけ込み更に説教が始まるのだ。

 

 流石は【ロキ・ファミリア(我等)】のママである。

 

 

♣♣♣

 

「アイズの服ってさ、結構大胆だよね」

 

 今後の打ち合わせをするフィンとニコライとは違い、幹部扱いではあるものの専ら最前線を担う戦闘要員として重要視されるアイズやティオナ達はシャワーを浴びるために脱衣所に来ていた。

 ホームに帰ってきたアイズは鎧を脱ぎ、ティオナの言う『結構大胆』な服になっている。背中が大きく開いていて、乳房に伸びる脇の線までかけて肌が露出している。格好に無頓着なアイズにしては、確かに大胆と言える服だ。

 

「そう、かな」

「嫌じゃないの?」

「ロキが着てって言うし……ニコが買ってくれる服も、これくらい」

「なんですと!?!?!?」

 

 アイズから告げられた事実にその場にいた全員が驚いた。いつも少し恥ずかしげに服を脱ぐレフィーヤも驚いて勢い余って一気に服が脱げてしまう程だった。

 

「あ、あいつに服買ってもらうの? しかも、こんなの?」

 

 こんなの、と言いながらティオネは背中の大きく露出しているアイズを見た。

 驚いている面々を余所にアイズは脱衣所から風呂場へと移動する。風呂場と言ってもそれほど広くはない。湯船があるが小さく、後がつっかえている現在全員がシャワーで済ませる。

 

「うん。最近はないけど……」

「え、なんで? プレゼント? もしかしなくてもプレゼント?」

「着ろって、押し付けてくる」

「それで着るんですか!?」

 

 別段着てくれと頼まれてもいないのに着てしまうアイズの純真さに好感を持ちながらも、相手がニコライであることを考えると安心できないレフィーヤは詰問する。

 

「う、うん。着ないと、連れてってくれないから」

「連れてく? どこに? ダンジョン?」

 

 まず行く所の最初の候補にダンジョンが上がることに誰も違和感を感じなかったこと自体がおかしい【ロキ・ファミリア】である。しかし、それも仕方のないことだ。探索型ファミリアとしては最大手であり、その中でもアイズは飛び抜けてダンジョンにいる時間が多い。ニコライの参加率は七割くらいだが、それでも他の団員に比べてアイズに付いて行くニコライのダンジョン探索時間も相当なものとなっている。

 恐らくアイズの相棒をしていて一番きついのがこれだろうとはニコライの談。

 

「ううん、カジノ。どうせなら華やかな方が良いって」

 

 そう言う本人は大して着飾らないことに文句を言わない自分が少し不思議に思えたアイズだったが、すぐに答えに辿り着いた。一重にニコライ・ティーケは着飾らなくともカジノで輝いているからだ。

 

「なーんだ、カジノに行くための服かー。確かにキラキラしてるイメージある」

「いつも行くとこは、割と」

「いつもどこ行ってるの?」

「『グランドカジノ』」

「へえ、あいつの前いたファミリアね。昔からの知り合いとかいるの?」

 

 娯楽に困らないオラリオには数多くのカジノが点在しているが、その中でも一番大きく華やかなカジノが運命を司る女神フォルトゥナが経営する【フォルトゥナ・ファミリア】の『グランドカジノ』だ。毎夜毎夜一攫千金を狙う者、安定して稼ぐ者、そして大敗して消え行く者を生み出すギャンブラーの聖地だ。

 

「そんなに」

 

 そして【フォルトゥナ・ファミリア】はニコライが【ロキ・ファミリア】に改宗(コンバート)する前にいたファミリアでもある。しかし、驚くべきことにニコライが賭け事に積極的になったのは【ロキ・ファミリア】に改宗した時期からなのだ。

 幼い時から所属していた【フォルトゥナ・ファミリア】ではカジノの雑用係をしていたらしい、とアイズはロキから聞いている。

 

「あいつ友達少ないのね」

「ううう、なんでアイズさんはニコライさんとカジノなんて行くんですか? 楽しいんですか?」

「楽しい……かな?」

「すごくそう思ってるとは思えません!」

「楽しそうだよ、ニコは」

「それはニコライさんがギャンブルして楽しそうじゃなかったら世界終わっちゃいますよ!?」

「つまり、アイズは楽しそうにギャンブルしてるあいつを見るのが好きなんでしょ。熱いわねえ」

 

 ティオネの言ったことにショックを受けて項垂れるレフィーヤはぶつぶつと何事かを呟きながら身体を洗い始める。

 

「どこが良いんですか、あんな変人!」

 

 そして呟くだけでは我慢できなくなったのかそう言った。その真っ直ぐな言い方にティオネとティオナは吹き出した。

 

 そしてアイズは、どこが良いのか素直に考え始めた。

 

――何も恐れない姿勢が良い

――自分の勝利を疑わない目が良い

――どんな勝負も受けて立つ様が良い

 

 考えれば考える程、賭け事をしている時のニコライの良い所が思い浮かんでくる。

 

――戦場ではないのに戦場の匂いを引き出す気迫が良い

――どんな手札でも相手に食って掛かる獰猛な笑みが良い

 

 後ろからニコライの勝負を見てきたアイズは、幾度も負けそうな手札で相手を負かしてきたニコライを知っている。時にはブラフをはり、時には最弱の一手から逆転の一手を導き出す。

 万人が勝てないと思う相手の手札に対して、笑みを深めながら自分の手札を見せるその瞬間、勝負をしているのはアイズではないのに爽快感がある。そして、一気に盛り上がるその場において、ニコライ・ティーケは中心に立つのだ。

 

――そして、時々負けて悔しがる顔も、なかなかの見ものだ

 

 賭け事である故に、負ける時は負ける。さしもの【賭け狂い(Mr. Gambler)】も勝率十割はありえないのだ。

 大声を上げながら悔しがるニコライに一度アイズは聞いたのだ、そんなに悔しくて嫌なら賭け事なんてしなければいいと。

 それに対してニコライはがなり立てるように返答した。

 

『じゃあてめえは一度負けたからってもう二度と戦わねえのか!? ああ!? 違えだろうが!? 負けるも勝つも紙一重、勝つ時があれば負ける時もある、それが勝負ってもんだ!! そして勝って優越感に浸るのが勝者の義務なら、泣きながら悔しがるのが敗者の義務だ!! これは俺のギャンブルに対する礼儀みてえなもんだ!』

 

「割りと、全部かな」

「んなっ」

 

 あっけからんとそう答えたアイズにレフィーヤは絶句した。

 しかし、彼女らは誤解している。アイズは決して恋愛対象として見ているわけではない。それ以前に恋愛とは何か彼女は知らない。彼女は、そもそも愛され愛することに慣れていない、完全には理解できていない。理解できている者もいないだろうが、それでもアイズはかなり感情に不器用な方だ。

 

「ニコがねえ……ちょっと分かんないね」

「そうね……もうちょっと小さくて、誠実で、頭が良くて、冷静で、金髪で、小人族(パルゥム)で、槍使いとかだったらいいんだけどね」

「それは完全にフィンだね」

 

 姉の言っていることに思わずツッコミを入れてしまった妹は、溜息を吐きながら姉の恋愛に心配するばかりであった。

 

「こ、今度!」

「れ、レフィーヤ?」

「今度私も連れてってください! カジノ!」

「う、うん。ニコに、頼んでみる」

「約束ですよ!?」

「わ、分かった……でも、リヴェリアに怒られる、かも」

 

 レフィーヤは勢いに任せてそう言ってしまったが、アイズとしては少し嬉しかった。リヴェリアに言っても、フィンに言ってもニコライのああいった魅力は伝わらないのだ。フィンは賭けを見る側というより仕掛けられる側であるし、リヴェリアはそもそもカジノに行くような女性ではない。そして、ニコライもリヴェリアは誘わない。

 

「盛り上がっとるかああああ!!!」

「……ロキ」

 

 風呂場のドアを勢い良く開けながら乱入してきた主神によってニコライの話は終わった。いつも通り女人等の柔肌を堪能しようとするロキに対して、アイズ達もいつも通り避けてさっさと風呂場を出た。今回も犠牲になったのはレフィーヤであった。

 

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