ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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1話

○月△日

 

 冷凍睡眠から目覚めて早一ヶ月。文字を覚えたので日記を書く事にした。

 

 とりあえず今日はこの一ヶ月を振り返ろうと思う。

 

 

 この一ヶ月いろいろあった。

 まず、気がついたら雪山に突っ立ってた。

 

 何かの拍子に睡眠装置が切れて目が覚めたんだろうが、寝惚けて検査衣一枚で彷徨っていたようだ。

 そんな格好で雪山にいれば馬鹿でも分かると思うが凍死しかけた。

 だんだん意識が朦朧としてきたところを薬草を取りに来た麓の村の人間に助けられ九死に一生を得た。

 やっぱり外になんて出るもんじゃないな。空調の整った部屋に引き篭りたい。

 

 そんで村まで連れてきてもらって、ちゃんとした服を貰って鍋を食って人心地ついて、そこで自分が地上に出ている事に気がついた。

 

 

 人間は地上が環境汚染により人が住めない環境になってから長い間地下で生活を続けていた為、地上の環境に耐えられない肉体となってしまった。

 その人間であるところの自分がこうして無事(凍死しかけたが)だということは兄貴の実験が成功したということだろう。

 それはとても喜ばしいことなのだが、では自分以外の現在地上で生活している彼らは何者なのだろう?

 兄貴の研究成果で人類は地上を取り戻したのか?

 

 そんなことを思っているとふと違和感に気づいた。

 俺を助けてくれた村人、ムカルという髭面のオッサンなんだが、そのオッサンが付けている獣耳と尻尾のような装飾品が動いていたのだ。

 いい年したオッサンがきめぇとか思っていたが、本物っぽい動きをしているので聞いてみると天然物とのこと。

 むしろそれが普通なことで、そんな事を聞いてくる俺を訝しがっていた。

 まずいと思った俺はとっさに自分が記憶喪失ということにした。

 

 するとオッサンは納得したようだった。それどころか俺に同情して記憶が戻るまで此処に居てもいいとまで言ってくれた。

 正直オッサンと二人暮らしなんて御免被るが、右も左も分からない状態じゃどうにもならんのでその提案を受け入れることにした。

 

 そうしたら、

 

 

 「じゃあ名前を考えねぇとな!」

 

 

 とオッサンが言い出した。

 

 まぁ、記憶喪失ということにしているから、当然なのかもしれないが、変な名前をつけられても困る。

 ここは名前だけ覚えていることにしようと思い、それを口にしようとした矢先

 

 

 

 

 「よしっ!お前の名前はヒロシだ!」

 

 

 

 

 いやちょっと待て。なんでそうなる。

 

 別に変な名前ではないんだが、なんだか四角い顔のオッサンを連想しそうな上に、妙に既視感がある名前だ。

 なんでも「理想の父」という意味で由緒正しい名前らしい。

 ヒロシが由緒正しいとかワケわからんと思いながら、どうやって本名の事を切り出すか考えたが、腕を組んで満足そうに頷いているオッサンを見ると、今更本名を言うのも気が引けて、結局それを受け入れた。

 

 

 こうして俺は「ヒロシ」になった(爆)

 

 

 

 そんなこんなでこの村での生活が始まった。

 しかしそれは俺にとって地獄の始まりだった・・・。

 

 朝日と共に起こされ、水汲み、薪割り、朝飯の支度を手伝わされ、そのあと、日が暮れるまで畑仕事して、夕飯食って寝る。

 

 この村の人間にとっては当たり前のことなんだろうが、エリートニートの俺にはキツすぎた。

 水を汲むだけでヒーヒー言ってる俺にオッサンも呆れていたが、こればかりはどうしようもない。

 

 兄貴の実験の被検体になるまでは、エリートニート兼スーパーハッカーとして、情報を漁る生活していた俺にそもそも肉体労働は向かないし、今まで冷凍睡眠していたのだ。

 そんな俺にいきなり肉体労働をしろというのが無理な話なのである。

 

 働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!

 

 それでも働かないと飯を食わしてもらえないので、ヒーコラ言いながら働いていたのだが、ひょんなことから計算とか頭を使うことが得意だと知られて旅籠屋で働くことに。

 

 旅籠屋の女将は気立てが良く料理が上手な美女で旅人から人気があるらしい。

 しかも未だ未婚らしく、オッサンも含めて狙っている男が多いらしい。

 

 実際会ってみるとホント美人で結構好みのタイプだった。

 働きたくはないがこんな美人と一緒に働けるなら仕事も悪くないかも知れない。

 

 そんでオッサンに紹介されてから、仕事内容の確認をしたんだが、ここで文字が読めないという問題に直面した。

 

 計算できるのに文字がわからない俺に女将さんも困惑していたがそこは記憶喪失という魔法の言葉で事無きを得た。

 

 こういう時に文化水準が低いと助かるな。

 俺の知っている人間相手だったらこんなんで誤魔化せんぞ。

 

 で、肝心の仕事の方は、文字を覚えるまでの間は、掃除や接客といった一般従業員と同じ仕事をし、文字を覚えてから会計や管理をすることになった。

 

 掃除は兎も角、接客なんてニートの俺にできるのかと思ったが、意外なことに評判は良いようだ。

 というか、なんかやけに好意的に接せられるんだが何でだ?

 正直俺はあまり人に好かれんタイプの人間だと思うんだが。

 まぁ、嫌われるよりは良いので気にせんでおこう。

 

 そうして昼は適度にサボりつつ仕事をし、夜は文字の勉強をして今日に至る。

 

 仕事の方は面倒ではあったが、サボる時間を見つけれるので畑仕事に比べれば天国であったが、働きたくない俺としては、どちらにせよ苦痛であった。

 

 しかし、文字の勉強は楽しんで行うことができた。

 やはり新しい知識を身に付けるというのは楽しいものだ。

 それに思っていたより簡単だったこともあり、2週間ほどで覚えることができた。

 

 これで会計の仕事ができるようになり、肉体労働から解放される。

 明日から仕事が楽になる。これほど嬉しいことはない。

 

 だがやはり働きたくない。しかし生きるためには働かなくてはならない。

 そのためにも早く寝よう。

 寝不足で計算ミスでもしたら会計から外されかねん。

 また肉体労働に戻されたくないからな。

 

 はぁ、エリートニートだった頃が懐かしい・・・。 

 

 

 

 

 

 




・ムカル(オリキャラ)
 斧を意味するアイヌ語。見た目はヒゲ面の大男。
 イメージはシャーマンキングのホロホロのお父さん。
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