ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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今回ヒロシに追加される設定については賛否があると思いますのでそれについての説明をあとがきでします。
気なる方はそちらをご覧下さい。


15話

○月\日

 

 今日は飲み仲間に誘われて走犬場に行ってみた。

 この走犬場は國公設の賭博場であり、走犬は平坦な楕円状の競争路で競争犬(オルケ)を一周させ、どの犬が勝つかを当てる遊技だ。

 そして年に何度か行われる冠競走は配当も高く人気で、特に最大18頭もの競争犬(オルケ)が同時に疾走する帝杯での光景は、その配当の高さも相まって正に壮観らしい。

 ちなみに、ここでの収益金は國庫に入り、各種公共事業に使われるそうだ。

 

 俺はこういう賭博は初めてだったので適当な競争犬(オルケ)を選び、券を一枚購入してスタート位置のすぐ近くの席についた。

 

 おっ、俺が選んだ競争犬(オルケ)は一番近くに居るやつか。頑張ってくれよ~。

 

 と何となしに声をかけてみるとその藍色の飾りを着けた競争犬(オルケ)がこちらを向いて頷いたように見えた。

 

 あれ?気のせいか?と思っているとスタートを知らせるドラが鳴り、一斉に競争犬(オルケ)が走り出した。

 横一線の綺麗なスタートを切った競争犬(オルケ)達が颯爽と競争路を駆けていく。

 そして、俺が選んだ競争犬(オルケ)は一番外枠に居たにもかかわらず先頭に躍り出るとそのまま他の追随を許さず独走でゴールに駆け込んでいた。

 

 すると俺の横にいた飲み仲間が興奮した様子で俺の肩を叩いてきた。

 どうやら俺が買った券は最も倍率が高いものだったようで百センで買った券が十万セン程までになっていた。

 それに驚き呆然としている俺の前に走り終えたその競争犬(オルケ)がやって来て、誇らしげにワンとひと鳴きするとそのまま犬房まで帰っていた。

 

 まさか、俺が頑張れと言ったからなのか?と考えていると俺を祝福する周りのオヤジ共に揉みくちゃにされてしまった。

 

 その後、その金で飲み仲間と祝杯を挙げ、白楼閣に帰って今日あったことをウルゥル達に話してみると、俺は森の母(ヤーナマゥナ)なのではないかと言われた。

 

 森の母(ヤーナマゥナ)とは、様々な獣や鳥と心を通わせることのできた伝説の存在のことで、互いに考えや感情を伝え合うのみならず、会話すらできたそうだ。

 そして、転じて動物によく懐かれる人の事を指すそうで俺はこちらの意味での森の母(ヤーナマゥナ)らしい。

 

 てっきり俺がココポやウマ(ウォプタル)に懐かれたのは服従因子のせいかと思ったが違ったのか?

 そういえばガキの頃飼っていた猫にはものすごく懐かれていた気がするが、他の動物と接したことがないから分からん。

 まぁ、実際懐かれているんだから、俺はその後者の意味での森の母(ヤーナマゥナ)なんだろう。

 それによく考えれば、ウマ(ウォプタル)は兎も角本来鶏ほどの大きさしかないホロロン鳥に服従因子を組み込むのも変な話だしな。

 

 それにしても本当の意味での森の母(ヤーナマゥナ)はどんな感じなんだろうな?

 獣の声が聞こえるなら家畜なんかを前にしたらすごく複雑な気分になりそうだが・・・。

 もし本当にそういう存在がいるとしたら、色々話を聞いてみたいもんだ。

 

 

 

 

○月∥日

 

 マロロが殿試に落ちた。

 まぁ、合格者が数年に一人程度の難関なのでしょうがないのだが、余程ショックだったのか昼に俺の仕事部屋に来て、隅で体育座りしながらずっと泣いていた。

 ぶっちゃけウザイ上に邪魔だったんだが、傷心のマロロを追い出すのも気が引けたのでウルゥル達に防音の術をかけてもらって仕事をした。

 

 そして一日の仕事を終わらせた後、しまっておいたとっておきの酒で慰めてやることにした。

 その酒は30年物の熟成酒で、蜂蜜のような濃密な香りと、高級菓子のような甘味を持つ非常に高価な酒である。

 本当は一人でゆっくり楽しもうと買った酒だが、友人を元気づけるためにはしょうがない。

 

 ウルゥル達にオシュトル達を呼びに行ってもらい、俺とマロロは一足先にその酒を楽しむことにした。

 

 うん。やはり美味いな。

 

 甘く濃厚でとろみがあるが、すっきりとした味わいで飲んでいてなんだかホッとする酒だ。

 これならマロロの傷心も少しは癒えるだろう。

 

 そう思いマロロの方を向いてみると丁度一口飲んだところで、濃厚な酒の味に驚いていたがその美味さにほぅ、と息を漏らしていた。

 

 その後、オシュトルとミカヅチが酒を持って現れ、ウルゥル達にツマミを作ってもらって残念会を開催した。

 

 最初は気を沈ませていたマロロだったが酒が回ってくるとだんだん明るくなり、ついには扇を取り出し舞を舞い始めた。

 意外なことにこれがなかなかうまく、昔映像媒体で見た白拍子のようであった。

 そして舞が終わると全員で拍手喝采。マロロの舞を褒めちぎった。

 それにマロロも気分を良くしたようで、そうでおじゃるか?そうでおじゃるか?とヘラヘラ笑いながら言っていた。

 

 そんなマロロに俺が、殿学士目指すのやめて奉納舞台に就職した方がいいんじゃないか?とからかい混じりに言ったところ、それまでとは一転泣き崩れ、まろはでんがくしになるでおじゃる・・・。まろはでんがくしになるでおじゃる・・・。と譫言(うわごと)のように言いながらうずくまってしまった。

 

 何やってんだお前という目でオシュトルとミカヅチに睨まれる。

 

 しょうがないだろ!もう大丈夫だと思ったんだから!

 

 ええいこうなったら!と俺は酒瓶を掴むとマロロを無理やり起こしてその口に酒瓶を突っ込み、瓶の底を掴んでぐるぐる回した。

 すると瓶の中の酒が渦を巻き、どんどんマロロの口に流れ込んでいく。

 突然のことにマロロは目を白黒させながらも、貧乏性ゆえに酒を零すことを良しとせず、気合で酒を飲み込んでいく。

 そうして一升瓶を丸々一本飲み干したマロロは白粉の上からでもハッキリ分かるくらい顔を赤くして倒れ込んだ。

 

 よしっ!これでもう大丈夫だ!明日には全て忘れて元気になるさっ!

 

 とサムズアップしながらオシュトル達の方に振り向くと二つの拳が迫ってくるのが見えた。

 

 それがその日最後に見た光景だった。

 

 

 

 

○月⊥日

 

 今日はアンジュに会う日だったのでいつもの場所に行ってみるとアンジュがテーブルに本を広げながら項垂れていた。

 どうやら昨日苦手な勉強の宿題を大量に出されたらしく、それを俺が来る前に頑張って終わらせようとしたが、問題の難しさと量の前に挫折してしまったらしい。

 

 これじゃあ叔父上と遊べないとブーたれているアンジュを諌めつつ膝に乗せ宿題の内容を覗いてみる。

 どうやら宿題の内容は算術のようだ。これなら俺でも力になれるなと思った俺はアンジュに手伝ってやるから頑張れと励ました。

 するとアンジュは跳ね起き、さぁ、早く終わらせるぞ叔父上!と先程までが嘘の様に元気になり、早く早くと俺を急かしてきた。

 しかし、俺がやり方を教えるだけで答えは教えないぞ?と言うとまたブーたれ始めたので俺はご褒美で釣ってやる気を出させることにした。

 

 よしアンジュ。今日中にこれを終わらせることができたら、兄貴に掛け合って帝都を散策できるようにしてやろう!

 

 その一言に今まで帝都に出たことがないアンジュは俄然やる気を出して宿題をやり始めた。

 

 うんうん。やはりご褒美作戦は覿面(てきめん)だな。

 

 そう思っていると早速アンジュがうんうんとうなり出したので俺は宿題を覗き込み、その問題の解き方の説明をしてやるのだった。

 

 そして、日が暮れる頃にようやく宿題を終わらせることができた。

 アンジュは苦手意識があるだけで飲み込みは早かった。

 これなら教え方次第で勉強を好きにさせる事もできるな。

 

 その後、執務を終えて既にやって来ていた兄貴達とウルゥル、サラァナも混じえてお茶をすることになった。

 

 兄貴は宿題を頑張ったアンジュを頭を撫でながら褒め、俺と一緒という条件で帝都に出る許可を出した。

 アンジュはそれにとても喜び、何を見たらいいかとウルゥル達に相談し始めた。

 ウルゥル達の話をふんふんと興味深そうに聞いているアンジュの尻尾はピンと立っており、帝都に出られることを本当に嬉しく思っていることが伺えた。

 そして、ウルゥル達もそれが分かっているようで優しい笑みを浮かべながら白楼閣や商店の話をしていた。

 

 そんな微笑ましい姪っ子達の姿を兄貴と共に眺めながら、俺はこの優しい時間が少しでも長く続くことを願った。

 

 

 

 

 

 




ヒロシの森の母(ヤーナマゥナ)設定については賛否があると思うので説明しておきます。

まず改めて言いますがヒロシの森の母(ヤーナマゥナ)は「動物によく懐かれる人」という意味のもので、アルルゥの様に動物と会話したり使役したりできるものではありませんし、今後させるつもりもありません。

そして、ヒロシの「動物に好かれる」という設定についてですが、これは原作の「出会った直後のココポに懐かれた」という点と「ヒロシが世話をした際にウマ(ウォプタル)達がやけにハッスルしていた」という描写からハク(ヒロシ)は動物に好かれやすいと思われるからです。
もちろんこれらの動物に服従因子が組み込まれている可能性もありますが、作中でも書いたように本来鶏程度の大きさしかないホロロン鳥に服従因子を組み込む理由がありませんし、そもそも人間がウォプタルやホロロン鳥を創る必要性がないため、実際は自然発生した生物だと思われます。

このことから、ここでのヒロシは「動物によく懐かれる人」という意味で森の母(ヤーナマゥナ)となります。
ただし、ヒロシに懐く動物は人に飼いならされた人馴れした動物のみで野生のオルケなどに懐かれることはありません。
つまり、ナウシカよろしく「怖くない怖くない」何てやろうものなら指を喰いちぎられます。
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