ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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17話

△月¥日

 

 昨日アンジュを送り届けた際に兄貴にそろそろ宮廷に移る準備をするように言われた。

 そして、来月末に行われるアンジュの誕生日を祝う祭典「聖誕祭」に合わせて俺の存在を公表するそうだ。

 

 思わず俺が、帝都に出たりダチに会うのが難しくなるな、とボヤくと兄貴は安心しろと言って一枚の仮面を渡してきた。

 その仮面はアイスマンの仮面から角を取り鋭角的にしたような仮面であった。

 おいおい、脳みそに繊維を縫い付けるなんてゴメンだぞ、と思ったがどうやらただ被るだけでいいようだ。

 兄貴曰く身体能力と精神力を高める事ができる仮面(アクルカ)の試作品で兄貴も昔使っていたそうだ。

 とはいえ、それほど強力なモノではなく、身体能力が上がるといっても成人した亞人(デコイ)程度でメインは精神力の向上のようだ。

 そして、皇弟として公の場に出る際はこの仮面を被り、「オキクルミ」と名乗れと言われた。

 なんでも「オキクルミ」はかつて日本の北海道に住んでいたアイヌ民族に伝わる神の名で、兄貴が名乗っていた「サマイクル」という名の神の弟であったらしい。

 なんか周りから凡人凡人言われそうな名前で正直微妙だと思ったが、神の名前だと言われるとかっこ良く思えてきた。

 

 仮面で素顔を隠した皇弟オキクルミか。

 うん、なんだかミステリアスでカッコイイかもしれん。

 

 結局俺は兄貴の案を受け入れ、公人としてはオキクルミ。私人としてはヒロシとして生きることになった。

 

 これで宮廷に入っても大手を振って帝都を歩けるな。

 ヒロシの名も立場も気に入っているから棄てることなく済んで良かったぜ。

 

 

 そんな話をした翌日である今日、女将に兄の仕事の手伝いをするので旅籠屋を辞めさせてもらうことを伝えた。

 女将は、そういう事ならばしょうがないですわねと認めてくれたが、トウカが泣きながら引き止めてきた。

 

 トウカ・・・そこまで俺の事を・・・

 

 「ヒロシ殿が居なくなったら某無職になってしまうでござる!だから辞めないでほしいでござるよ~(泣)」

 

 

 

 どうせそんなこったろうと思ったよ!!

 

 

 

 俺は引っ付いてくるトウカに目潰しを食らわせ引き剥がすと卍固めに始まり、腕ひしぎ十字固め→キャメルクラッチ→ロメロスペシャルと流れるように技をかけ、最後にジャーマンスープレックスで畳の上に沈めてやった。

 

 イチバーン!!

 

 俺はジャーマンスープレックスを食らって着物がまくれ上がり、あられもない姿を晒しながら気絶しているトウカを放置して、女将と酒盛りを始めるのだった。

 

 

 

 

△日〓日

 

 さて、仕事を辞めるまでまだ時間はあるが、今のうちに部屋にある物を整理しておこう。

 とりあえず要る物と要らない物に分けるか。

 

 まず溜まった瓦版を捨てよう。いや、これはかまどを起こす時に使えるから女子衆(おなごし)さんに渡すか。

 

 次は服。村にいた頃から着ているやつが大分よれてきたからまとめて捨てよう。

 

 あっ、こいつは無くしたと思っていた胃薬。こんなところに落ちてたのか。

 どれどれ中身は・・・ダメだカビてやがる。捨てだな。

 

 これはオッサンや女将さん逹からの手紙か。こいつはとっておこう。

 

 そうだ。もう読まない本も処分するか。だが捨てるのは勿体ないから古本屋にでも売るとしよう。

 えーっと、この歴史小説はもう読まないな。学術参考書はまだ使うから取っておく。これは兄貴が若気の至りで書いた「水戸黄門漫遊記」・・・高く売れそうだから売りだな!こっちの絵本はアンジュにやるか。あとは・・・なんだこの本は?「好き好きおじさん!姪っ子ぱらだいす(18禁)」?

 ・・・オイ、ウルゥル、サラァナそこに座れ。

 

 パコォーン! パコォーン!!

 

 これお前らだな?なんつー本を俺の本棚に入れてやがる!誰かに見られたら完全にアウトだろっ!あとでちゃんと処分しとけよ?え?騙されたと思って一度読んでみろ?きっと新しい世界が拓かれる?

 

 ガスッ! ガスッ!

 

 拓いてたまるか!いいから捨ててこい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとしたトラブルもあったがなんとか要らない物を分別できた。

 あとは引越しまで余計な物を買って荷物を増やさないように気を付けよう。

 

 ところでウルゥル、サラァナ。その風呂敷に包んだ俺の服をどうするつもりだ?そいつは捨てるように言ったよな?

 

 「この服を捨てるくらいなら私達が貰います。」

 「叔父様の匂いがたくさん」

 

 なっ!?お前ら俺の服で何するつもりだ!?

 

 「何ってナニ?///」

 「私達にそんな恥ずかしいことを言わせようだなんて、叔父様は鬼畜です///」

 

 や・め・ろ!確かにそうなんじゃないかと思ったが、その俺が特殊なプレイをしているような言い方はヤメロ!

 そしてそれをこっちに寄こせ!! 

 

 「断固拒否」

 「それだけは例え聖上のご命令であっても聞けません」

 

 なん・だと!? 高が俺の服のために兄貴の命令にまで背くっていうのか!?

 

 

 「これも全部叔父様のせいです。」

 「私達を抱いてくれれば万事解決」

 

 バカな事を言うんじゃねぇ!抱きしめるなら兎も角そんな事可愛い姪っ子にできるかよ!!

 

 「だったらそれで」

 「これから毎日30分ずつ私達を抱きしめることを希望します。」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

 

 

 

 こうして俺は服を取り戻した。しかし、代わりに精神を磨り減らす毎日を送ることになった。

 成長著しい双子を毎日合わせて一時間抱きしめるって・・・流石の俺でも不味い気がする。

 

 完全に墓穴を掘っちまったなこりゃ。

 だが俺は鋼の叔父さんスピリッツでこの試練を乗り越えてみせるっ!!

 ・・・乗り越えたら乗り越えたで枯れを通り越してミイラ化しちまいそうで嫌だな。 

 

 

 

 

 

△月∉日

 

 帝都に来てからおよそ半年。俺はこの白楼閣で働いてきたがそれも今日で最後だ。

 数日前から仕事の引き継ぎをやっていたので問題なく最終日を迎えることができた。

 そして、最後の仕事を終えた後、女将が俺の送別会を開いてくれた。

 

 送別会には俺の友人達と女将、トウカ、仕事の空いた女子衆(おなごし)さん達が参加してくれた。

 宴が始まると女子衆(おなごし)さん達が順番に挨拶と酌をしに来てくれた。

 彼女達には何かと世話になったので、注がれた酒を飲み干した後、杯を布で拭ってこちらも礼を言いながら返杯して、思い出話に花を咲かせた。

 この時例の腐った女子衆(おなごし)達が居なくて良かった。どうやら女将が気をまわして仕事を振ってくれたようだ。

 俺の周りにはオシュトル達が座っているから奴らが居たら腐った目で見てきて精神が疲弊していたに違いない。

 

 その後一通り挨拶が終わると今度は女子衆(おなごし)さん達がいろいろな余興を催してくれた。

 彼女たちは楽器の演奏や歌、舞などを披露してくれ、宴は大いに盛り上がった。

 これに俺達男性陣も何かやらねばと思ったが、流石に参加者の殆どが女性のこの宴で裸踊りをするのは気が引けたので、マロロの提案で女子衆(おなごし)の格好をして歌うことになった。

 マロロは兎も角最近ガッチリしてきた俺と軍人でガチムチなオシュトルとミカヅチが女子衆(おなごし)の格好をするとパッツンパッツンで息苦しい。特にガタイがいいミカヅチが着ると今にも服が破けて筋肉が弾け出そうなほどで、更にそれにケバい化粧が加わり最早モンスターだった。

 俺達のこの格好には女性陣も爆笑で中には蹲って痙攣している奴もいた。

 というかアレはトウカか。・・・よし!あいつにはいろいろ世話になったからその礼をしないとな!

 

 俺はミカヅチを引き連れトウカのところまで行くと捕えられた宇宙人よろしくトウカを舞台に連行し、マロロの化粧道具を使ってバカ殿にしてやった。

 鏡を見たトウカは絶叫したがすかさず口に酒瓶を突っ込むとあっという間に酔っ払いフラフラとし始めた。

 そんなトウカに剣舞を頼むとバカ殿の顔のまままるで酔拳のように剣舞を舞始めた。

 その姿に宴会場にいたほとんどの人間が腹筋崩壊。あの女将すら口に含んだ酒を吹き出し、口に手を当てて笑いを堪えていた。

 

 そんな楽しかった宴会もとうとう終わりを迎え、最後に俺が挨拶することになった。

 

 俺は白楼閣での思い出を語りながら良くしてくれた女子衆(おなごし)さん達や訓練を付けてくれたトウカ、そして雇ってくれた女将に感謝の言葉を伝えた。

 

 思えば怠惰な俺がこんなに真面目に働くことになるとは思わなかったな。

 まぁ、村の旅籠屋に比べて仕事量が多くてサボる時間があんまりなかったってのもあるんだが、目覚めてから自分でやらなくちゃならない事が多くて、昔に比べて大分能動的になったってのもある。

 これじゃあ最早エリートニートは名乗れんな。

 だが、今じゃそれも悪くないと思っている。

 こうして自分から動くことが多くなった結果、俺には多くの友人ができた。

 これは引き篭っていた頃では考えられないことだ。

 これからはこの友人達と接する機会が減ってしまうが、今後もこの繋がりを大切にしていこう。

 

 そうして俺の挨拶が終わると宴会場から拍手が巻き起こり激励の言葉が聞こえてきた。

 そして女将が俺の隣に立つと俺の今後の健勝と活躍を祈念して一本締めを行い宴の幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 さて明日からは宮廷の地下でアンジュの聖誕祭まで過ごさなければならない。

 何やら兄貴が俺にやって欲しいことがあるようだが、どんな無理難題を言われることか。

 ただまぁ、人間の技術を使ってもいいと言っていたからなんとかなるだろ。

 そんなことを考えながら最後となる部屋からの帝都の姿を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

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