「空虚を冠する」=「虚ろなる者」って意味だと思ってるんですがどう思います?
□月▼日
皇弟という立場になるからにはそれなりに作法を知っていなければならない。
しかし、今まで庶民として生きてきた俺にそんなものが分かるわけもないのでウルゥルとサラァナを教師役として一日数時間作法の勉強をしている。
今日は茶の席での作法ということでひとつひとつ手順を確認しながら稽古を行った。
俺は茶席というと抹茶のイメージがあったのだが、どうやら煎茶の場合もあるようで、それぞれ作法にも違いがあり、これがなかなか面白い。
ちなみに今回は煎茶の方をやった。
ウルゥルが入れたシオズ産の玉露を作法に則りゆっくりと飲む。
まろやかな口当たりとほのかな苦み、豊潤な香り、鮮やかな茶の色を順に楽しむ。
うん、美味い。
ヤマトで茶といえばウーロン茶や紅茶が主流で緑茶は珍しい物だが日本人の血を引く俺としてはやはりこちらの方がいい。
そして茶を飲み干した後、今度は水菓子が乗った皿を手に取り、楊枝で一口大に切り分け食べる。
あぁ、美味い。茶の後の甘味は格別だな。
そうして茶と菓子を楽しみながら一通りの稽古を終えた後、作法を気にせずにまったり茶を楽しんでいるとサラァナからホノカさんがアンジュを連れて部屋にやって来たと知らされた。
そういえば、引越ししてからもいつもの場所で会うばかりでアンジュがこの部屋に来たことはなかったな。だから態々ホノカさんが連れてきたのか。
そう思いながら二人を迎え入れるとアンジュが元気よく入ってきて俺に飛びつこうとしたがすんでのところでピタリとフリーズしてしまった。
俺がどうしたんだと思っているとホノカさんの後ろまで一瞬で移動したかと思ったら尻尾を膨らませ、こちらを威嚇しながら
「何者じゃおぬし!?何故叔父上の部屋におるのじゃ!?叔父上をどこにやった!?」
と言ってきた。
一体何を言っているんだと思ったがふと自分が仮面を着けている事を思い出した。
俺はここ最近仮面に慣れる為に部屋にいる時はずっと仮面を着けていたのだ。
恐らくそのせいでアンジュは俺と分からずこんなに警戒しているんだろう。
俺は急いで仮面を外してアンジュの方を見やる。
するとアンジュは驚いた顔をした後、俺に突撃してきた。
ぐへぇ!? 鳩尾にタックルは勘弁してくれ・・・。
アンジュはそのまま仰向けに倒れた俺の上に寝転びながら、
「なんじゃ叔父上じゃったのか!ビックリしたのじゃ!」
と言ってきたので両耳を掴んで引っ張ってやった。
仮面一つで俺と分からんとは、お前はダメな姪っ子だな!
それにアンジュは、うにゃ~!?ゴメンナサイなのじゃ~!?と叫びながら耳を掴む俺の手を外そうとジタバタしてきたがそのまま耳の裏をコリコリしてやるとトローンとして表情になってゴロゴロと甘えだした。
そして胡座の上に乗せるように抱っこして、今度は喉を撫でてやるとだんだん目が閉じてきて終いには眠ってしまった。
おー。なんか昔飼ってた猫みたいだな。
と思っているとクスクスと笑う声が聞こえてきて、そこでようやくホノカさんの事を思い出し、慌ててお騒がせしてすみませんと謝っておく。
ホノカさんは、気にしないでくださいと微笑みながら言ってくれたので俺はホッとし、アンジュをベットに寝かせるとそのままお茶に誘ってみた。
このホノカさんは神秘的というか高貴というか、なんかそんな雰囲気がして話しかけづらかったんだが、この機会にいろいろ話してみよう。
幸い娘のウルゥルとサラァナも居ることだし話には困らんだろう。
そんな風に思っていたんだが、まさかホノカさんからも孫はまだかと言われるとは・・・。
なんだかジワジワと外堀を埋められている気がする・・・。
□月〒日
この間ホノカさんが来た際に兄貴からの強化素体のデータと戦闘用動作のデータを貰ったので早速強化素体の作製を開始することにした。
ちなみに強化素体を使うのは俺の専用機だけだ。本当なら量産機にも使いたかったんだが、費用がかなり掛かりそうなので諦めた。
兄貴は気にするなと言っていたが民からの税金が使われていると思うと気が引けてできなかった。
やっぱ俺は根っからの庶民だな。兄貴は元々「真人計画」の主任として散々研究費を使ってきた上に帝を数百年やってるから金銭感覚が大分狂ってそうだ。
とはいえ、俺も我が身が可愛いので兄貴がついでに渡してきたデータを元に専用機に「耐呪術コーティング」を施すことにした。
ここヤマトにおいて呪術は学問として広く普及している。
そしてこの呪術により雷を落としたり爆発を起こしたりするができ、アベル・カムルといえどそんなものを喰らえばダメージは免れない。
だが、この「耐呪術コーティング」さえあれば、鎖の
まぁ、これのせいで専用機の作製に当初の二倍の費用が掛かりそうだが、全ての量産機を強化素体で造るよりかなり安上がりなので気にしないでおこう。
何度も言うが俺も我が身が可愛いのだ。
そして製造プラントにデータを送った俺は体を伸ばしてから端末から離れ、隣の部屋に移動した。
さて、そろそろおやつの時間だ。今日はウルゥル達がタモ焼きを作ってくれるそうなので楽しみだ。
そう思いながら畳部屋に入るとソファーに何やら動くものが見えた。
よく見るとそれはアンジュでソファーに寝転がりながら絵本を読んでおり、足をパタパタ動かし、尻尾も大きくゆっくり振って、とても機嫌が良さそうだ。
だがアンジュは今、勉強の時間の筈だ。さてはサボって抜け出してきたな?
俺はそう当たりを付けるとまだ気づいていないアンジュに見つからないようにゆっくり近づき脇を思いっきりくすぐってやった。
「うにゃ!?!?なっ、なんじゃ!?おっ、叔父上!?何す…、くはっ…、やめ…、きゃははははははは!!」
ほれほれまだまだこんなもんじゃないぞ?勉強をサボる悪い子にはお仕置きだ。
「ちっ、ちがっ…、サボりじゃ…、ないの…、きゃははははははは!!」
うん?何か言ったか?まぁいいか。今度は脇腹だ。これから貴様に生き地獄を味わわせてやろう!
「ひゃっは…、ひゃははははははははははははははははははははははははははははは!!」
なんだ。今日は午後から先生が用事でいないから休みだったのか。そういう事は早く言え。
「はぁはぁ…。予は何度もそう言おうとしたのじゃ!でも叔父上がくすぐってきたから言えなかったのじゃ!!」
分かった分かった。俺が悪かったよ。ほらお詫びにウルゥル達が作ったタモ焼きだ。
「おー!!なんじゃそれは!?コロコロしていて美味そうなのじゃ!」
そうだろうそうだろう。丁度これからおやつにするところだったんだ。こいつを食べたら一緒に遊ぼうな?
「分かったのじゃ!おやつの後は折り紙をするのじゃ!この前作ってくれたジバニャンとコマさんの作り方をまた教えて欲しいのじゃ!」
いいぞ。それと今日は新作のふなっしーとくまモンも作ってやろう。
「おお!この前話してくれた
なんて会話をしながらチョロすぎるアンジュが本当に心配になってきた。
なんか菓子や玩具で簡単に誘拐できそうだ。
いや、流石にそれはないか?この前仮面を着けた俺を警戒していたし。
しかし、警戒心が普通より低いってのは確かだろうな。ここじゃアンジュを害しようなんて奴もいないだろうし。
やっぱり相手を疑うことを教えたほうがいいな。それとちゃんとした護身術。この前俺が教えたなんちゃって護身術ではなく正規のモノを。できれば武術なんかも身に付けた方がいいんだろうが、流石にそれは求め過ぎかね?
だが、アンジュは将来兄貴の後を継いで帝になるのだ。そうなれば当然危険も増えるだろうし人を見る目も必要になってくる。
だから今のうちにいろいろ身に付けさせておいた方がいいだろう。
よし、そうと決まれば兄貴に相談しないとな。兄貴のことだから既に同じことを考えている可能性は大きいが話しておいて損はないだろう。それにボケてそこら辺を見落としているなんてこともあるかもしれないからな。
アンジュの為にも兄貴としっかり話し合うとしよう。
□月≠日
聖誕祭まで残るところ数日。宮廷内も帝都も慌ただしくなってきたようだ。
特に祝儀の為に諸國から
残念なのはそれを見ることができない事だ。聖誕祭でお披露目されるまでいろいろ忙しくヒロシとして外に出ることもできない。
というか、こっちに移ってからまだ一度も帝都に出てないな。聖誕祭が終わったらアンジュを連れて帝都に繰り出すか。
それはそうと、今日は皇弟として着る礼服の試着をした。
俺の着る礼服は青と白を基調としたもので裾や袖の部分には独特の文様が施されており、首には八角の星の刻印が彫られ中央に柘榴石を取り付けた円と逆三角形を合わせ形の金の首飾りを着けることなっている。
いつも着ている服より装飾が多くて分厚いので少々息苦しいし動きづらいがなんだか気が引き締まる思いがするな。
その後普段着に戻った俺は今回のお披露目の際に鎖の
二人共公の場に出るとあってかホノカさんのように巫女服を着て顔も布で隠すようだが、何故か服の腕の部分が分離していて腋が露出しており、まるでゲームやアニメのキャラを見ている気分になる。
とはいえ服と袖の間から見える腋にはドキリとした。
なんかこう、ただ露出しただけの腋を見るより、服と袖の間からチラリと見える絶対領域的な腋がなんだか眩しい。
しかも二人共布で顔を隠しているので別人のような気がして姪っ子をそういう目で見るという罪悪感が薄れ、思わずまじまじと見てしまった。
おっと危ない危ない。二人をこんな目で見ている事がバレたら一体どんな行動を起こすことか。
そう思い二人から目を逸らしたが時すでに遅し。二人は俺の視線に気づき、俺の左右を包囲すると腕に抱きつきながら腋を強調してきた。
やっ、やめい二人共!せっかくの服が乱れるぞ!?
「これくらい平気。」
「むしろ私達を乱れさせてください。」
くっ!俺は屈さんぞ!俺の鋼の精神力を舐めるな!
「我慢はいけません。」
「叔父様の趣向は飲み仲間達から調査済み。チラリズム。これが攻略の鍵。」
あっ、アイツ等余計なことを!!今度会ったら覚えておけ!!
「さぁ、私達に全てを委ねてください。」
「大丈夫。恥ずかしいのは最初だけ。」
まっ、不味い、このままではっ・・・
バンッ!!
「叔父上はここか!さぁ、予と遊ぶのじゃ!!」
そんな俺の危機に颯爽と現れたのは我が大天使アンジュ様である。
アンジュー!!よく来た!さあさあ遊ぶぞ!今日はお前の気が済むまで好きなだけ遊んでやる!!というか遊ばせてくださいお願いします。
「む?どうしたのじゃ叔父上?うん?そこの二人は誰じゃ?もしかしてサラァナ達なのか?」
そうだそうだ。今は俺達がお披露目の時に着る服を試着してたんだ。そして今丁度終わったところだ。
さあ部屋に戻って一緒に遊ぼう。今日はポテチもあるぞ。
「あのパリパリしたやつじゃな?予はあれが大好きじゃ!早く行って食べるのじゃ!」
おうおう好きなだけ食べろ。今日は特別だ。俺特製のプルンも付けよう!
「やったのじゃ!叔父上のプルンは格別じゃからの!」
そうしてそそくさと試着部屋を後にする俺の後ろでウルゥル達が何やら相談しているようだったが今は一刻も早くここを離れて心を落ち着けねば。
まさか俺の趣向をピンポイントで狙ってくるとは・・・。
これからはより一層注意が必要だな。
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梨の品種「幸水」が訛ったもの