○月×日
やはり楽だ。
今日から会計の仕事を始めたのだが、暗算のできる俺に死角はなかった。
この國―ヤマトでは、計算を行う際、計算棒という計算器が使われている。
これは大小の升目を書き入れた台板に印が刻まれた棒と丸石を並べて、取引に応じて移動させることで合計や値引きを明示するものなのだが、如何せん時間がかかる。
しかし、3桁10口30字を一瞬で解ける俺にかかれば常人の数倍のスピードで計算できる。
このおかげで帳簿も在庫管理も取引もあっという間に終わらせることができ、サボる時間を多くとることができる。
暗算様様である。
だが、やはり筆で文字を書くのはなかなか難しい。
地下にいたときは筆なんて触ったこともなかったからな。
まあ、要練習ということだろう。
それはそうと、最近思い出したんだが、今現在地上で生活している彼らは
氷の中から発見された旧人類-アイスマンのDNAを元に製造された彼らは俺たち人間より優れた肉体と免疫性を持つ。
しかも創造主である人間への服従因子なんてものまで組み込まれているため、逆らえずモルモットにされていたはずだ。
村の連中がやけにフレンドリーなのは、この服従因子のせいなのかね?
しかし、そんな彼らが現在地上で繁栄しているということは、人間から解放されたということだろうか?
それとも実験の一貫として地上に住まわせているのか。
後者は兎も角前者の場合、人間がどうなってしまったか気になる。
俺が眠っていた施設に行ければいいんだが、誰もそれらしいものは知らないらしいし、あの雪山中を探し回るのは御免被る。
しょうがないので出来る範囲で情報収集をしていこう。
・・・別に面倒なワケじゃないぞ。
○月θ日
今日は女将さんが作ってくれたクニュイという菓子を食った。
クニュイは溶き卵の甘い生地に、煮詰めた果物や香草を入れ、何層かに丸めて焼き上げた菓子だ。
見た目は完璧に伊達巻きだが魚肉のすり身が入っていないため、ふんわりとしており、カステラのような感じだ。
これと一緒に暑い茶を一杯。
うむ。最高である。
菓子の話をしたついでにヤマトの食文化について書いておくか。
ヤマトではアマムという粟に似た外観の穀物の実を臼でひき、薄くのばして焼いたものや、蒸しパンのように蒸したものを主食にしている。
俺がいるシシリ州では前者に肉、野菜、魚などをくるみ、好みタレを付けて食べるアマムニィがよく食べられている。
まぁ、生春巻きとトルティーヤの中間みたいな食べ物だな。
これがなかなかに美味くてクワサと一緒に食うのがたまらん。
ちなみにクワサっていうのはヤマトを代表する地酒のことだ。
発泡酒で柑橘系を思わせる爽やかな酸味が特徴の酒で、アルコール度数が低いため、喉の乾きを癒すためにも飲まれている。
あと、アマム酒も結構イケるな。
アマム酒はアマムの実を蒸留して作られる酒でアルコール度数が高く、独特の風味とクセがある酒だ。
周りの若い連中は苦手だというが、俺にとってはその独特の風味とクセがたまらん。
・・・別に俺が年寄りってわけじゃないからな!
まだピチピチの20代だ!
○月ε日
今日も自分の仕事をさっさと終わらせてサボっていたら、人手が足りないとかで風呂掃除に駆り出された。
どうやら今日は辺境を巡視する兵が団体で来るらしい。
ここシシリ州はヤマトの西方に位置する小國クジュウリのさらに西に位置する辺境の地だ。
そんな場所だから兵が常駐するなんてこともなく、定期的に兵が見回る程度らしい。
ちなみにクジュウリは元々広大な荒地だったのを
その功により
んで八柱将っていうのがヤマトの要締となる八人の大将軍の総称で、
特に
逆にデコポンポとかいう七光りの
なんでも八柱将になったのも世襲によるもので実力がまったく伴っていないらしい。
まぁ、親が優秀だからって子が優秀だとは限らないって事の典型だなこりゃ。
つーか、
なんか弱みでも握られていたのかね。
○月γ日
・・・頭が痛い
昨日は飲み過ぎた。
昨日は巡視の兵が来て旅籠屋に泊まって宴を催したんだが、いつの間にか俺も参加していて一緒に酒盛りをしていた。
巡視に来た兵たちは気のいい連中で飲み比べをしたり、一緒に裸踊りをしたりして盛り上がった。
そんなかで特に仲良くなったのがオシュトルってやつだ。
皆どんちゃん騒ぎしている中で一人だけ静かに酒を飲んでいたので強引に飲み比べに誘ってグデングデンになるまで飲ましてやった。
そっからは一緒になって馬鹿騒ぎだ。
特にイケメンのオシュトルが腹踊りする姿はシュール過ぎて他の兵も大爆笑。
ホントに楽しい宴だったぜ。
そのあと一緒に蒸し風呂に入って汗を流しながらお互いのことを話した。
オシュトルはエンナカムイという辺境の國出身の下級貴族で、かつてヤマトに仕えて民を守っていた父に憧れ、帝都に上京して仕官したらしい。
いやホント真面目な奴だな。こういう奴が上に行けば民も安心して暮らせるんだろう。
是非オシュトルには頑張って出世して欲しいもんだ。
そんで俺の方は記憶喪失だが最近兄貴とその家族を思い出した的な事を話したんだがオシュトルの奴は心底同情してくれて、都の方でも家族のことを探してくれると言ってくれた。
正直俺が睡眠装置に入ってからどれだけの時間が経っているかも分からず、そもそも俺の知る人間がいるのかも分からないのが現状だ。
最悪兄貴達が死んでることも覚悟しなくちゃいけないが、オシュトルのその気持ちが素直に嬉しかった。
○月∑日
今日巡視に来ていた兵が帰っていった。
オシュトルともいずれ再会を約束して別れた。
彼らが村に居たのは3日ほどであったがその間に山のオルケやギギリの駆除なんかをしてくれた。
オルケっていうのは、群れで行動する犬やオオカミに似た動物で、ギギリは牙と尾に毒があるデカイムカデのような蟲だ。
兵の連中が殺した死体を見たんだが、ヤバイなあれは。
村の外にはあんなのがウジャウジャいるのかと思うと怖くて外に出られん。
一生村に引き篭っていたい。
だが、兄貴たちや人間のことも気になる。
この辺境の村でそれらの情報を集めるのは極めて困難だろう。
いずれは帝都に行くことも検討しなくちゃいかんな。
まぁ、それも大分先のことになるだろうし、行く時は巡視の兵なんかと一緒に行けばいいだろうから、そこまで危険はないだろう。
だが、護身用になんか武器を持っていたほうがいいか?
その辺はあとでオッサンに相談しておこう。