¥月○日
今日は執務室にオシュトルとミカヅチを呼び出した。
二人は現在、兵士の中でもエリートが入る近衛隊に所属しており、その中でもメキメキと頭角を現し、両近衛大将から可愛がられているらしい。
そして、今回そんな二人を呼び出したのは、今度発足させる新組織で俺の手足として働いてもらうためだ。
今の俺の周りには信頼の置ける者が居ない状態だ。
部下なら皇弟の立場を使っていくらでも集められるが、信頼の置ける者となると難しい。
そこでヒロシとして交友を結び、能力、人格共に信頼できる二人を部下にする事にしたのだ。
まぁ、二人を可愛がっている両近衛大将には悪い気がしたが、他に信頼できる奴が居ないからしょうがない。
とはいえ、当然呼び出された二人には青天の霹靂だろう。まさか自分達が渦中の皇弟に呼び出されるなんて想像もしてなかっただろうからな。
執務机に座った俺の前で跪き畏まっている二人は、内心何を言われるのかとハラハラしている事だろう。
ヒロシの前では考えられないような二人の姿がとても可笑しく感じる。仮面が無かったら爆笑していたかもしれん。
このまま仮面を外して二人の反応を見たくもなったが、流石にまだバラすわけにはいかないのでグッと堪えて、自分が新たに新設される重大事件を専門に扱い、高位高官をも摘発する権限を持った組織「
それに二人は驚きながらも興奮した様子を見せた。
当然だな。以前あった麻薬事件では黒幕が高位の者だったせいで大元まで調べることができなかった。しかし、高位高官をも摘発する権限を持った
まさに汚職役人殺しの組織と言える。
しかし二人共、他にも優秀な者がいる近衛隊の中で何故自分達が?という気持ちがあったようで、その事についてオシュトルに質問された。
まさか、俺がヒロシだからだよ!とは言えないので、民に紛れていた時から帝都で活躍する二人の事を知っており、國と民を愛し、悪を許さない品行方正な兵士の鑑のような者達だと聞いていたからと言っておいた。
俺からのその言葉に二人は恐れ多いといった感じだったがどうやら納得してくれたようだ。
まっ、皇弟の俺がそうだと言ったら納得せざるを得ないんだけどな!
そして二人が納得したところで正式な辞令を出し、二人を
これで二人は皇弟の名の下に証拠さえあれば汚職役人を問答無用で捕まえることができる権限を手に入れたわけだ。
これからの二人の活躍に期待しよう。
しかし、決定している
そこでオシュトル達に信用できると思う者達をピックアップしてもらい、人格や交友関係を精査した上で
下手な奴を採用すると情報が流出する恐れがあるからな。ここら辺はしっかり調べる必要がある。
幸いなのはこの組織が発足する事を知っているのが俺と兄貴、そして大老のウォシスと二人の上司である近衛大将達のみであることから外部に漏れる心配が先ず無く、後ろめたい事がある連中の息が掛かった者が潜入してくる可能性が極めて低い事だ。
とはいえ、「壁に耳あり障子に目あり」という言葉があるようにどこかの隠密が話を聞いている可能性もある。なので人員の選出には本当に注意が必要だし、発足後もそれらから情報が漏れないようにしなくてはならない。
その為にもこちらも隠密が欲しいところだが、どこかに腕の良い隠密が落ちていないかね?
別に兄貴から借りてもいいが、やはり俺自身に忠誠を誓ってくれる隠密が居た方が何かと都合が良い。
まぁ、そんな都合の良い話なんてそうそうあるわけないので、素直に兄貴に頼むとしよう。
それが一番確実で信用できるからな。
¥月△日
オシュトル達に辞令を出した翌日、二人は早速人員候補者リストを作って持ってきた。
まさかこんなに早く持ってくるとは思わなかったが、それだけやる気があるということだから頼もしい限りだ。
そして提出されたリストを眺めているとオシュトルからリストの者以外で是非俺に推挙したい者達がいると言われた。
あのオシュトルが是非にと推薦する奴らがどんな連中か興味を持った俺は続きを促した。
なんでも、その連中の頭は、かつてヤマトの諜報部門の一端を担っていた家の者で、ヤマトへの忠義も人一倍厚かったが同じく諜報部門に属していた他家に陥れられ没落してしまったらしい。
現在は部下と共に野に下り、義賊として活動してはいるが未だにヤマトへの強い忠義を持っており、叶うならばヤマトに仕え、國の為に働きたいそうだ。
まさかこんな都合の良い話があるとは。
つい昨日隠密が欲しいと思っていたところにこれである。
これはまさに天啓!神は言っている!この者達を取り立てるのだと!
俺はオシュトルによく教えてくれたと謝意を示すとすぐにその者達を呼び出すように指示した。
するとオシュトルは既にその者達に話を付けていたようで、執務室を退出すると二人の男女を連れて戻ってきた。
その二人は赤い髪と鳥の羽根のような耳が特徴で、男の方はオウギといい、理知的な顔だちで切れ者の雰囲気を出している。そして女の方はノスリといい、愛嬌のある顔だちで胸がデカかった。そう、胸がデカい。今まで見てきたどの胸よりデカい。そしてデカいだけでなく形も素晴らしい。
もし仮面が無ければ、
(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
とやっていただろうと思うほど見事なおっぱい様である。
おっと危ない。皇弟が女性の胸をガン見するような奴だと思われたら仕えるのを拒否されるかもしれん。
ここは二人をもう一度観察して気持ちを落ち着けよう。
まず、オウギと名乗った男の方は目を伏せてノスリの背後に控えるように立っており、自然体ながら常に周りを警戒しているように感じられる。この事から彼はノスリを立てるべき存在、或いは守るべき者だと認識していると考えられる。つまり彼らの中ではノスリの方が上位に位置しているのだろう。
そして、ノスリと名乗った女の方は皇弟の俺を前にして緊張しているのかそわそわと落ち着かない様子で視線をあちこちに動かしている。・・・なんだろう。彼女を見ていると物凄くからかいたくなってくる。そう、まるでトウカを前にしているような・・・ああ、そうか。この二人、誰かに似ていると思ったらトウカと体の特徴が同じなんだな。
確かトウカはエヴァン・・・エヴァンゲリオン?いや違ったエヴェンクルガ族だ。で、そのエヴェンクルガ族は武の資質に優れる大義忠義を重んずる一族で、その清廉な精神から他部族から「義はエヴェンクルガ族にあり」と賞賛されるほどらしい。
まぁ、トウカの姿を見ているととても信じられないが、もしこの二人がそのエヴァンクルガ族だとしたら是非とも部下に欲しい。
忠義を重んじる一族ならばまず裏切る事はないだろうし、武の資質に優れているので護衛としても申し分ない。
よし、とりあえず二人がエヴェンクルガ族かどうか聞いてみるか。
なんて考えているとノスリがだらだらと汗を流しながら今にも倒れそうになっていた。
しまった。考え事をしていたせいで彼女達が名乗ってから数分経っている。
その間、自身が忠義を向ける國の皇弟に無言で見つめられていたノスリには物凄いプレッシャーが掛かっていた事だろう。ある意味圧迫面接していた様なもんだからな。
俺は表面上冷静に内心慌てて二人に椅子に座るように言うとウルゥルに冷たい飲み物を出すように指示した。
それにノスリはトンデモない!といった様子で拒否してきたが、今の状態じゃとてもじゃないが話ができないので命令して無理やり座らせた。
そして出された冷茶を一気に飲み干すと少しだが落ち着いたようだった。
ちなみにオウギの方は、僕にはお構いなくと言って、座ったノスリの背後に控えている。
まぁ、別にいいんだが、何か癖のありそうな奴だなこいつ。一応コチラに敬意を持っているような感じではあるが、ノスリほど強いものではなさそうだ。
オウギの事は気になったがとりあえず置いておいて、ノスリにいろいろ聞いてみる。
するとやはりエヴェンクルガ族のようで、5代前の先祖が隣の島国からヤマトに流れてきて以来先代までヤマトに仕えてきたが、ライバル関係にあった家に陥れられ没落し、盗賊に身をやつしたが、これまで殺しや悪に加担した事は無く、民から搾取する悪徳商人や役人を狙って盗みを働き、その金を民に還元していたそうだ。
うん。オウギは兎も角このノスリという娘は実直で正義感の強い性質のようだ。
しかし、その方法は余り賢いものとは言えない。いくら悪徳商人等から金を奪って民に還しても元を断たねば同じ事を繰り返すだけだ。彼女はそのへんが分かっていない。
だが、正しい方法を示してやれば彼女は頼もしい味方となるだろう。
となると問題はオウギの方だな。こいつはさっきから一言も喋らずにノスリの背後に控えたままだ。
はっきり言って、何を考えているか分からないような奴を配下に加えたくはない。
とはいえ、こんなチャンスを逃すわけにはいかないので、とりあえずオウギの人となりを知る為に話を振ってみる事にした。ヤマトに蔓延る悪についてどう思うかと。
するとオウギは、
「姉上が望むのなら、排除すべき忌むべき存在かと。」
と俺の目を真っ直ぐ見ながら言ってきた。
その俺の目を見つめるオウギの目には一点の曇りもなく、心からそう思っている事が伺えた。
つまり、こいつの中では姉であるノスリが最上位の存在で、行動の基準にもなっており、姉がそう望むならやるし、望まないならやらない。即ちオウギにとっての正義とはノスリの事であり、ノスリが國に忠誠を誓うならば自分も誓うといった感じなんだろう。
となると、ノスリの忠誠をこちらに向かせ続ける事ができれば、こいつについては大丈夫か?
まぁ、俺が勝手にそう思っているだけで、実際は腹に一物抱えている可能性もあるが、ノスリに対する思いは本物だろう。
・・・ここはリスクを承知で信じてみるか。
恐らくここが分水嶺。ここでオウギを信じる事ができなければ、俺はきっと近しい者以外信じる事ができなくなるだろう。そうなれば待っているのは破滅だ。自分に近しい者以外誰も信じず遠ざけていれば、周囲の者達に不信や不満が溜まるだろう。そしてそれが爆発する事で自分だけでなく親しい者達までを巻き込んで滅びの道を歩む事になる。それだけは絶対に避けなければならない。
やはりこいつらとの出会いは天啓だな。おかげで大事な事に気付く事ができた。
そうして心を固めた俺は、ヤマトから悪を駆逐する為に是非ノスリ達の力を借りたいと頭を下げた。
本来皇弟である俺が軽々しく頭を下げるなんて良くない事なんだろう。だが、俺に大切な事を気付かせてくれた二人にせめてもの感謝の意を示したかったのだ。
そして、俺のその姿を目にしたノスリは驚き、お辞めください!と叫ぶと俺の前に跪き深々と頭を下げた。
「私はノスリ!
此より我が肉体、髪の毛一本から血の一滴に至るまで、そしてこの魂の全ては貴方様のモノ。
この身は御身に寄り添い、この魂は御心に付き従う。それこそが我が最上の喜びであり、永久の契り!
殿下!不肖なるこの身ではありますが、如何様にもお使いください!全ては御身とヤマトの為に!」
「姉上が望むのならば、僕も全身全霊を懸けて皇弟殿下にお仕えしましょう。」
突然語られた忠誠を誓う口上に戸惑ってしまったが、ノスリの強い思いが伝わってきた。
なんか全て俺のモノとか重そうな事も聞こえてきたが、今は純粋にその忠義の心を嬉しく思う。
俺は跪いているノスリの手を取り立ち上がらせると、改めて感謝の意を示した。
ありがとう。そしてこれからよろしく頼む。共にヤマトに巣食う悪を滅ぼそう。
それにノスリは興奮しているのか顔を赤くしながら、ハイっ!と返事をしてくれた。
そしてオウギの方はそんなノスリの姿を見ながら微笑んでいる。恐らく姉のヤマトに仕えるという願いが叶った事を祝福しているのだろう。
まだオウギに対する不安が払拭されたわけではないが、今は彼女達が配下に加わった事を喜ぶとしよう。
今後彼女達の手により、俺の下には多くの情報が集まる事になるだろう。それが良いものであれ悪いものであれ、その情報は俺の重要な武器となる。
その情報をもたらしてくれるであろう彼女達に愛想を尽かされない様にしっかり働かないとな。
・・・自分から働こうだなんて。俺もとうとう変態か。
・
平安時代にあったとされる警察組織の名前で天皇に左大臣以下の罪を直接伝える事ができた。
ちなみに
・右(左)衛門佐
この作品では
・オンヴィタイカヤンの契約(ノスリの誓い)
元はウィツァルネミテアの契約を模した最上位の忠誠の儀式で現在のトゥスクルから移住してきた先祖から伝わったもの。
しかし、ヤマトではオンヴィタイカヤンを信仰していた為、ウィツァルネミテアではなくオンヴィタイカヤンの名において誓うものへと形を変えた。